2023年の人事トレンドを解説!企業が重視すべき新たな戦略とは?

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最終更新日 2024年2月15日

2023年の人事トレンドを解説!企業が重視すべき新たな戦略とは?

ここ数年、日本企業は従来の日本的雇用や人事制度から変わろうとしています。トレンドとなっているジョブ型人事制度や人的資本経営は、その一つの手段、指針として注目されました。

そして2023年は、日本企業の変革を後押しする政府の支援、さらに従業員の育児、介護を取り巻く問題に注目が集まると予想されます。

本記事では、2020年~2022年までの日本企業全体を取り巻く人事トレンドをおさえつつ、2023年に新たにトレンドとなるテーマについて予測、解説します。

目次

2020~2021年の人事領域における潮流
2022年の人事領域における潮流
2023年の人事領域における潮流予測

2020~2021年の人事領域における潮流

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ジョブ型

2019年末、当時の経団連会長であった中西氏から「これまでの日本型雇用システムだけというわけにはいかず、ジョブ型雇用等を組み合わせていくことになる」との発言がありました。

この発言をきっかけに、これまでの日本企業の人事制度と運用、雇用習慣に対して批判の声が高まります。そして、ジョブ型という言葉が注目されはじめ、日本の大手企業が様々な形でジョブ型人事制度導入を実施しました。

これらのジョブ型人事制度ではジョブ(ポスト)が定義され、従業員が主体的にキャリア形成を行うキャリア自律が求められます。2023年の現在でも、ジョブとキャリア自律を中心とした人事諸制度への転換を志向した人事制度改革が多く行われています。

 

人的資本経営

2020年9月には「人材版伊藤レポート」が発表され、人的資本経営が大きな話題となりました。人材版伊藤レポートでは、下記の人事領域におけるテーマが「人的資本経営」の元で再整理され、改めて注目されました。

  • ・ジョブ型
  • ・リスキリング
  • ・エンゲージメント
  • ・ダイバーシティ

人的資本経営への関心の高まりと並行して、「人的資本の情報開示」に向けた動きも進んでいきました。2018年12月にはISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)が発表され、2020年8月には米国証券取引委員会(SEC)が「人的資本の情報開示」を義務化しています。

そして日本でも、2021年6月のコーポレート・ガバナンスコードの改訂を通じ、上場企業において「人的資本の情報開示」が義務付けられました。これをきっかけに、人的資本の情報開示が一大トピックとなりました。

 

シニア世代の人材活用

2021年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行されました。これにより、企業が70歳までの就業機会を確保する努力義務が課されたため「シニアの活用」も大きなテーマになりました。
 

 

2022年の人事領域における潮流

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人的資本経営、人への投資

2021年までの流れを受けて、人的資本経営や人的資本の情報開示がメインテーマとなり、2021年10月に発足した岸田内閣でも「人への投資」が重点事項に掲げられました。

2022年6月に発表された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では人的資本への投資を強化するため、3年間で4,000億円の施策パッケージを設けることが明言されました。また、同年10月の国会所信表明演説で、5年間で1兆円のパッケージに拡充されることも発表されています。

このように人的資本経営、人への投資が重視される中で、実際に日本企業の間で特に強く意識されていた内容は下記の4点です。

  • ①従業員のキャリア自律の促進
  • ②従業員のリスキリングのための支援
  • ③シニアの活用
  • ④人的資本の情報開示への対応
     
  • 男性育休

  • 2021年6月に改正された育児・介護休業法が2022年4月に施行されました。これにより、「男性育休への対応や推進」についても企業の関心が集まりました。

 

2023年の人事領域における潮流予測

2022年までの流れを踏襲しつつ、2023年は下記のテーマにも注目が集まると予測されます。

1.労働移動の円滑化を推進

労働移動の円滑化に関する国の施策

2022年10月28日に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」(以下、総合経済対策)に含まれる「労働移動の円滑化」が注目されると考えられます。これにより、企業同士で人材を受け入れ合う動きが活性化していくでしょう。

総合経済対策では4本の柱を掲げています。なかでも第3の柱である「新しい資本主義の加速」における手段のひとつとして「人への投資の強化と労働移動の円滑化」が掲げられています。ポイントは下記の3つです。

  • ① 従業員のキャリア形成支援を実施する企業や、より高い賃金で従業員を雇い入れる企業、副業を受け入れる企業への支援
  • ② キャリアアップを求める在職者へのリスキリング、転職の一気通貫支援
  • ③ 企業間・産業間の労働移動を円滑化するための基盤構築、日本に合った職務給への移行支援

  •  
  • ①の実施例

  • たとえば、中途採用等支援助成金(中途採用拡大コース)の見直しが挙げられます。この見直しでは45歳以上の中途採用率を拡大、かつ前職から5%以上の賃上げを行う等の要件を満たした企業へ、100万円の助成金が支給されることとなりました。

    前職からの賃上げ要件は今回の見直しで導入されたものです。

    ②の実施例

  • 人材開発支援助成金における事業展開等リスキリング支援コースの創設があげられます。企業において、新たな分野で必要となる専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練(リスキリング)を行った場合、最大で1年度1億円が支給されるしくみです。


  • ③の実施例(未定)

  • 現段階ではまだ詳細が発表されていませんが、2023年の6月までに政府で指針を取りまとめる予定です。

    職務給への移行は大手企業を中心に見られたジョブ型人事制度導入の流れに沿っているともいえますが、職務給への移行は人事制度を大きく変えることになります。「日本にあった職務給とは何か」「企業内の人事制度移行を国がどのように支援できるのか」といった議論もあり、6月までに発表される指針には大きな注目が集まるでしょう。

労働移動の円滑化に関する企業の対応

上記の取り組みから、人への投資によって、リスキリング、キャリアアップを支援し、それによって促される労働移動を円滑化するための基盤を整える政府の意思が伺えます。

さて、労働移動が活発化すると、日本企業は優秀な人をとりやすくなる半面、優秀な人が外に出やすくなります。ここで考えられる企業の対策は社外副業です。

転職は従業員にとって、キャリアアップにもなる半面、働く環境や人間関係が大きく変わるためリスクも伴いますが、社外副業であれば大きなリスクをとらずに、他社で経験を積むことができます。

企業にとっても、優秀な従業員の退職を防止となるため、自社で働きながら他社でも働く機会を認める社外副業は従業員、企業の双方にとってWinWinの制度といえるでしょう。

社外副業、あるいは兼業によって従業員の新たなスキル習得(リスキリング)を目指す動きは、すでに企業でも行われています。2022年8月25日に一橋大学の伊藤邦雄氏や複数の大手企業が発起人となって設立された「人的資本経営コンソーシアム」では、参加企業間で相互に副業、兼業人材の受け入れを行うことを検討しています。

2.企業による従業員への両立支援

従業員が「育児」や「介護」をしながら仕事を続けるために企業が行う施策を両立支援と呼びます。少子高齢化によって労働者人口が減少する中、高齢者を支える現役世代の負担も増しつつあります。

企業には育児、介護の両面で従業員が継続して働ける体制の整備が求められており、両立支援は2023年の注目キーワードとなるでしょう。
 

育児の支援

2022年、男性育休をより柔軟に取得できるように産後パパ育休の創設と育休の分割取得が施行されました。

2023年4月からは、男性育休取得率の公表が義務化されます。自社HPまたは厚生労働省の両立支援のひろばに、一般の方が閲覧できる形で掲載する必要があり、義務化されると企業間の比較が可能となります。そのため、企業ではESG投資先や就職先・転職先として選ばれるために、男性育休の取得促進に繋がる環境整備や制度運用がより求められるでしょう。

介護の支援

介護に関しては、企業や団体に対して従業員が働きながら介護も行うための両立支援が求められるでしょう

現在、人口ボリュームゾーンである団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる『2025年問題』が迫っており、要介護者の急速な増加が懸念されています。厚生労働省によると2025年には介護職員が約32万人不足するとの予測があり、要介護者本人の在宅介護を望む声も相まって、企業や団体の従業員も介護に関わらざるを得ない時代がやってくると考えられます。

現状、近年の晩婚化や医療の発展により出産年齢が上がっていることから、育児と介護が同時期に起こる「ダブルケア」に該当する家族は多いです。また若い世代においても、仕事と介護で手一杯な両親の代わりに介護の補助を行う「ヤングケアラー」がおり、10代〜30代の従業員であっても介護と無縁ではありません。

上記を踏まえ、企業は今のうちから介護に関連する両立支援体制を整えておく必要があるでしょう。以下では、両立支援のポイントを3点ご紹介します。


①国の介護休業制度の要件を理解する

介護休業は2週間以上にわたって常時介護を必要とする「要介護状態」であれば取得可能な制度です。「要介護認定の取得や介護体制の準備の期間」から利用できるため医師の診断書や「要介護認定」は必要ありません。

要介護認定がなくても利用できることを企業が理解し、従業員から要望や申請があった場合はスムーズに認められる体制が整っていることが重要です。
 

②仕事と介護を両立できるように従業員と調整する

介護離職は企業にとっては自社の従業員を失うこと、従業員にとっては自身の生計維持が困難になることから、双方にとって可能な限り避けるべきものです。そのため、従業員と話し合って業務量を調節しながら働き続けられるようにすることが重要です。

業務が一人に集中しすぎないよう、普段から複数担当制のようなしくみや業務の標準化・効率化を進めておくことも必要でしょう。
 

③介護に関する知識や自社のサポート体制を伝える研修を行う

介護はケガや病気によって突然始まることが多いです。また最初はそこまで負担にならなくても、だんだんと手を尽くすようになっていき、負担が増していくことも特徴です。

従業員が介護に直面した際に利用できる自社の福利厚生はもちろん、国の介護休業制度の説明、公的介護サービスの利用や在宅介護の生活設計等の相談先について、あらかじめ上司部下の両方が知識を得て心構えできる研修が必要です。また、メンタル面のサポートができるような産業医面談のような体制についても従業員への認知を広げましょう。

2023年は従業員のキャリア支援と環境の整備を

2023年は「労働移動の円滑化」、育児・介護との「両立支援」が大きなトレンドになると予測されます。企業にとっては、よりいっそう従業員のキャリアを支援することや育児、介護をしやすい環境を整えることが求められるでしょう。

もちろん、各企業で向き合うべき課題は様々であり、自社の実情に沿った施策も重要です。

これらのトレンドを踏まえつつ、自社でどのような施策を行っていくべきか、本記事が少しでも参考になれば幸いです。

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