副業制度とは、労働者が勤務時間外において本業以外の企業等の業務に従事できる制度です。
「副業元年」と言われた2018年以降、国や政府は副業制度を促進する施策を進めており、副業・兼業自体が特殊なものではなく、すでに働き方の選択肢の一つとして社会的にも認められつつあるといえるでしょう。
今回、統合人事システムCOMPANYのユーザー65法人を対象に、WHI調査レポートとして副業の実態に関するアンケート調査を実施しました。副業の導入状況や得られた効果と課題、今後の拡大予定等を伺いました。
【WHI調査レポートとは?~HR領域における大手法人の実態を調査~】
当社の製品・サービスは約1,200の日本の大手法人グループにご利用いただいており、そのほとんどが当社のユーザー会「ユーザーコミッティ」へ加入しています。オンライン会員サイトをはじめとしたユーザーコミッティのネットワークを通じて、当社では適宜、社会・経済情勢に合わせた諸課題について調査を実施。その結果を製品・サービスに反映するとともに、ユーザー法人様・行政機関・学術機関への還元を行っています。(ユーザーコミッティについてはこちら)
目次
・アンケート調査概要
・副業の実態に関する調査結果
・調査監修者による考察
アンケート調査概要
統合人事システム「COMPANY」のユーザー65法人を対象に「副業の実態」に関するアンケート調査を実施しました。
<調査概要>
1.調査期間
2022年5月12日(水)~6月3日(金)
2.調査対象
COMPANYユーザーである国内大手法人・団体
3.有効回答数
65社68名
4.調査方法
インターネットを利用したアンケート調査
※1法人につき複数名の回答がある場合、法人の対応状況を問う設問については1回答のみが集計対象
副業の実態に関する調査結果
副業制度の導入状況(n=65)
全体としては約半数が副業を「認めている・準備中」と回答しました。特に、「小売・サービス業」においては、全体傾向に比べて、副業を容認する傾向が高くなっています。
副業を認める・検討する目的(n=50)
副業を認める・検討することになった目的で多かった回答は、従業員の成長・キャリア自律の支援、経済的な支援でした。
デジタル化による産業構造の変化や労働力人口の高年齢化・減少に伴い、個々人のキャリアや収入源に対する意識・実態も多様化が進みつつある昨今、企業が制度を導入する際の目的にも反映された結果といえるのではないでしょうか。
〈詳細コメント〉※回答一部抜粋
- ・厚生労働省が副業を認める前提となったから
- ・現に副業している従業員がいるため、副業を認める条件を整理して所属へ案内した
- ・労働組合からの要望があった
- ・人事としてはキャリア開発を目的としたいが、そもそもの潜在ニーズは経済的な部分が大きいと感じる
副業制度導入によって得られた効果(n=28)
副業制度の導入によって得られた効果については「特にない」が多い結果となりました。
「その他詳細」に記載された内容からは、まだ副業制度を導入したばかりで効果検証がなされておらず、副業制度導入の目的に対する効果を明確に実感できている方は少ないことが伺えます。
〈詳細コメント〉※回答一部抜粋
- ・まだ試行段階であることと、開始されたばかりで検証が行われていない
- ・今回の試行では、副業による健康や働き方への影響に焦点を置いている
- ・パートアルバイト採用時にダブルワークの確認をするようになった
副業を認めない・過去に認めていたが今は認めていない理由(n=15)
労務管理の煩雑さを懸念する理由が最も多く、ついで「本業への懸念」や「過重労働」等、従業員のパフォーマンスに関わる部分が懸念されています。
また、「社内情報や人材の流出」を懸念する回答も一定数ありました。
副業を認める際の条件(n=28)
副業を認める際の条件については、「条件はない」が最も多いものの、勤務形態において「正社員以外を対象」とする回答や、その他において「本業への支障がないこと」を挙げる回答が目立ちます。
〈勤務形態の具体的内容〉
- ・パートタイマー
- ・フルタイム勤務以外(パート社員等)のみ認める、正社員は認めない
- ・副業先ではパートタイマーかフリーランスのみ
- ・一般または嘱託
- ・業務委託型のみ
- ・専任
- ・当社と合わせた就業時間の制限
〈その他の具体的内容〉※回答一部抜粋
・上長、人事が認めたもの
・全従業員を対象とし、申請を上げてもらい承認を行う
・業務に支障を与えないこと、利益相反でないこと
・副業の趣旨(地域貢献、知見拡大、本業への還元等)に合致するか
・本業のキャリアに役立つもの
・競合での副業によって本業の利益を害することがないこと
<選択いただいた条件の具体的な内容>
勤続年数 | 3年以上 | |
原則勤続1年以上 |
職種 | 営業事務 | |
教授、准教授、助教授、専任講師、特任教員 (それ以外の職種は現状不可能のため認めていない) |
勤務形態 | パートタイマー | |
フルタイム勤務以外(パート社員など)のみ認める、正社員は認めない | ||
副業先ではパートタイマーかフリーランスのみ | ||
業務委託型のみ | ||
専任 | ||
正社員、契約社員 | ||
一般又は嘱託 |
勤務地 | 大学・短大・専門学校 | |
展示場 |
その他 | 上長、人事が認めたもの | |
全従業員を対象とし、申請を上げてもらい承認を行う | ||
業務に支障を与えないこと、利益相反ではないこと等が条件 | ||
副業の趣旨(地域貢献、知見拡大、本業への還元等)に合致するか | ||
本業のキャリアに役立つもの:本稿の教職員の立場に背反しないこと等 | ||
副業によって本業の利益を害することがないこと |
※「年齢」「役職の有無」「直近の評価」については回答なし
副業制度を利用している従業員※過去1年以内(n=22)
実際に副業制度を利用している従業員について伺ったところ、「10%以下」という方が回答の95%を占めました。
副業対象者を拡大する予定(n=27)
副業対象者を拡大する予定については、「ない」と回答したユーザー様が全体の90%以上を占めています。副業制度としては整備しつつも、積極的な展開意向はあまりないことが伺えます。
副業制度を運用する上での課題や懸念
適切な勤務時間管理や従業員の健康面から、労働時間の管理に課題感があるという回答が大半を占めています。
〈詳細コメント〉※回答一部抜粋
- ・労務管理が難しくなること、副業先で残業代が支払われているかが不明
- ・業務時間外のみを認めており、短日・短時間勤務との併用を検討中
- ・副業先での勤務時間は本人申告としているが、その時間が正しいのか確認をとる方法がなく、長時間労働になっていないか心配
- ・時間管理は本人に任せるしかないのだが、トータル何時間働いているのかを当社と副業先で共用できるしくみがない
-
副業先の勤務実態の把握(n=20)
副業先の勤務実態を上長や人事が把握する方法については、現状、副業先の勤務実態を把握していないという回答が4割を占めています。
〈書面・メール等での確認〉
- ・月次で労務担当者に副業先の印鑑付きの報告書を提出
- ・毎月、Excel勤怠管理表を所属長・人事へ提出
- ・毎月1回メール報告
-
〈ヒアリングでの確認〉
- ・月次でヒアリング
- ・年に1回ヒアリング
- ・上司が不定期でヒアリングするように依頼(実施しているかは不明)
-
〈その他〉
- ・年1回副業申請を出しなおしてもらって勤務実態を報告
- ・6か月に1回、本人による申請を実施
副業者の受け入れ状況(n=65)
副業者の受け入れは6割以上が行っておらず、検討の予定もないとの回答でした。また、受け入れを行っている回答は全体の1割程度に留まっており、小売業が多い傾向にあることがわかりました。
副業受け入れを認める・検討することになったきっかけ(n=21)
副業の受け入れを認める・検討したきっかけは、「既存事業の要員不足」を上回り「多様性の確保」が最も選択されています。副業者の受け入れは、近年の人材不足を補う手段ではなく、多様性確保の観点が重視されているようです。
〈詳細コメント〉※回答一部抜粋
- ・パートの方の収入確保を目的とした副業先になっている
- ・現在副業希望がないので、今後希望が挙がれば検討する
副業受け入れを行わない・過去に行っていたがやめた理由(n=38)
副業受け入れを行わない・過去に行っていたがやめた理由は、「人事面の業務手続工数の増大、リスク」との回答が6割以上になりました。「メリットが思い浮かばない」という回答も3割ほどあります。
会社として副業制度を導入・拡大していくべきか(n=62)
人事部で副業制度に携わる方の個人の考えとしては、副業制度を導入・拡大していくべきかわからないとの回答が6割程度と最も多くを占めました。
副業が進んでいる傾向にある「小売・サービス業」においては、他の業種と比べると「拡大すべき」「拡大すべきでない」ともに回答割合が大きくなっています。
〈拡大すべきとした理由〉※回答一部抜粋
- ・収入の増加が期待できないので、経済的支援を行える(小売業)
- ・多様な働き方が可能になる(小売業)
- ・シニア層の自立を支援することが可能。新たな知見を吸収することで、自社での業務に活用できる(サービス業)
- ・会社として必要な時に人材確保を行える(精密機器)
- ・「他社はできるのに…」という想いを抱かせることが従業員のエンゲージメント低下にも繋がる(保険業)
- ・副業禁止としておくこと自体が、困難(食料品)
- ・健康上の配慮に基づくルールの中で、キャリアを主体的に考えていく契機になる(食料品)
〈拡大すべきでないとした理由〉※回答一部抜粋
- ・ダブルワークでなく、当社専任で貢献して欲しい(小売業)
- ・現場が中心の製造業では難しい(鉄鋼)
- ・単なるバイトを副業とするケースが多いと思われる(卸売業)
- ・健康面の心配(卸売業)
〈わからないとした理由〉※回答一部抜粋
- ・法定上、全面的に副業を解禁するには管理運用面で難しい点が多い。法定上の制限が変わってくれば組織としても導入しやすくなるので、今後の状況次第と考える(小売業)
- ・課題やメリットの確認がまだできていない(繊維製品)
- ・社外を知ることのメリットは期待したいが、現在の人材不足・リソース不足という課題を解決させる手立てなく、導入は難しい(サービス業)
調査監修者による考察
総括(解説:WHI総研 シニアマネージャー 伊藤 裕之)
2018年に作成(2020年改定)された、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の公表以来、各企業における副業制度の整備は進みつつあります。
一方で制度を利用している方はそれほど増えておらず、また企業側も受け入れを許容している実例は少なく、まだ制度を活用できていないのが実態といえるでしょう。
調査結果からは、比較的小売・サービス業で副業容認・受け入れが進んでいることがわかります。副業容認については経済的な支援を理由としている割合、副業受け入れについては既存事業の要員不足を理由としている割合が、それぞれ他業種よりも高いことが特徴です。
一方、多くの企業が目的として掲げるキャリア形成やスキルアップ、あるいは国や政府が目論む労働力の有効活用を目的とした副業は、決して活用が進んでいるとはいいがたい状態です。
また、副業を許可する企業が増えている一方、受け入れを認めている企業は決して多くありません。そのため、副業を希望する従業員も適切な副業先を見つけるハードルが高いことが想定され、現状では、従業員、企業側双方にとって、積極的な拡大に向けた課題はまだまだ多いと考えます。
このような状況の中、まずは自社の実態把握と効果測定を定量的、かつ定期的に行っておく必要があるでしょう。具体的な方法や促進するための取り組みは下記のコラムで解説していますのでご一読ください。
本記事が皆様のご検討の一助となれば幸いです。
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本調査の引用・転載にあたりましては、「Works Human Intelligence調べ」という表記をお使いいただきますようお願い申し上げます。