現在、人口ボリュームゾーンである団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる『2025年問題』が迫っています。2025年問題とは、「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者に突入し、超高齢化社会となることで発生する問題を指し、現在、要介護者の急速な増加が懸念されています。
厚生労働省によると2025年には介護職員が約32万人不足するとの予測があり、要介護者本人の在宅介護を望む声も相まって、企業や団体の従業員も介護にかかわらざるを得ない時代=「仕事」と「介護」の両立支援が必要な時代がやってくるでしょう。
本連載では介護に関する両立支援について、前編~後編にわけて解説します。
- ・前編:日本の介護人材不足の状況と、企業が両立支援を行うメリット
- ・中編:国の定める介護休業制度と、企業による介護に利用可能な休暇制度
- ・後編:企業が取り組める「休む」以外の両立支援
目次
ー2025年問題による日本の介護への影響
・2025年問題とは?
・日本における介護人材不足の現状
ー2025年問題によって起こる従業員・企業への影響
ー企業が仕事と介護の両立支援を実施すべき理由
2025年問題による日本の介護への影響
2025年問題とは?
2025年問題とは、「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者に突入し、超高齢化社会となることで発生する問題のことを指します。2025年以降には、2023年現在約1,500万人の後期高齢者人口が、約2,200万人に膨れ上がる見込みです。
また、団塊の世代の子ども世代である「団塊ジュニア世代」が後期高齢者となる2060年には、後期高齢者人口が約2,300万人となる予測です※1。2025年時点と比べてあまり増加していませんが、20歳~64歳の人口は2,400万人減少し、4,100万人になると予測されています。
このように少子高齢化社会が進む日本では、生産年齢人口が年々減少※2しています。一方で、2013年のアベノミクス以降の就業者数は増加を続けており、ほとんどの人がなんらかの就業形態で働いている状態です。
裏返せば、家族内で介護を行う人の不足に繋がるといえるでしょう。
※1 厚生労働省:平成29年6月21日 平成29年度第3回入院医療等の調査・評価分科会
※2 厚生労働省:労働力人口・就業者数の推移
日本における介護人材不足の現状
2025年問題が発生する予測のなか、介護職に従事する人材不足も問題となっています。
介護が必要な高齢者に対して、2019年度の介護職員数は211万人でしたが、今後の高齢者数の増加に伴って必要とされる介護職員数は2025年には243万人、2040年には280万人と推計されています。※3
これは仮に入職/離職の人数が同程度で介護職員数が2019年度から変わらない場合、2025年には約32万人、2040年には約69万人が不足する計算です。
このように、日本国内における介護人材の不足は今後も継続していくでしょう。
※3 厚生労働省:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
2025年問題によって起こる従業員・企業への影響
2025年問題による後期高齢者人口の増加や介護人材不足によって、企業で働く従業員や学生への介護参加が求められること、進学/就職のほかスキルアップの希望を断念せざるをえない状況が発生すると考えられます。
これらによって、企業に対しても以下の影響が懸念されています。
- ・懸念点1:人的資源の不足
- ・懸念点2:人的資本の成長率鈍化
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懸念点1:人的資源の不足
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国としても総合的な介護人材確保対策に取り組んでいますが、予算には限りがあります。介護職を増やすことやその魅力付けのための処遇改善を行うことは、社会保障費の急激な増大に繋がるでしょう。
また介護にかかわる資格取得のための学習期間や、介護職従事者として必要なスキルを身に着ける期間も必要です。このため、急速な介護人材の増加は難しく、介護参加により従業員の労働可能時間の減少や介護離職の増加が懸念されます。
一時期注目された外国人人材の確保・受け入れに関しても、可能性が低くなっています。日本語が世界の言語の中で特に難解である(かつ方言の種類が多い)ことや、近年の世界的な経済成長のなか、賃金上昇率が低い日本での就労を希望する外国人が減少していることが理由です。
このように、就業時間の減少や就業者数の減少という意味で、人的資源が不足する可能性が高いです。
※4 厚生労働省:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
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懸念点2:人的資本の成長率鈍化
近年の晩婚化や医療の発展により出産年齢が上がっていることから、育児と介護が同時期に起こる「ダブルケア」に該当する家庭が増えています。また、10代〜20代の若い世代においても、仕事と介護で手一杯な親と一緒に住みながら介護の補助や家事を担う「ヤングケアラー」も存在しています。
このように、従業員自身やその家族が介護・家事で手一杯になる状況では、仕事を集中して行うこと、あるいはキャリアのためにスキルアップするのが難しくなり、成長の機会を逸してしまうでしょう。
「ヤングケアラー」に関しては、家庭の介護事情が原因で進学や就職の希望を断念する影響が懸念されています。教育機関で学習をすることによるスキルアップができなくなることや、一時的な無職期間や非正規雇用期間があることによりキャリア成長の機会を逃してしまうでしょう。
これらはごく一部の話ではなく社会的な現象であるため、企業全体で見ると影響は大きく、人的資本の成長率が鈍化すると言えます。
企業が仕事と介護の両立支援を実施すべき理由
上記の懸念から、2025年問題による介護人材不足を補うためには、現在所属している従業員が介護と仕事を両立することと、企業側がそれを社会的な必然と捉えて支援することが必要とされます。そこで、企業が従業員の両立支援を実施すべき理由を3点記載します。
1.スキルを持つ人材のパフォーマンス低下を防止する
介護の問題を抱えるのは40代~50代の従業員が中心となりますが、この年代は管理職もしくは高度なスキルを持った人材が多く存在します。
介護による疲労やストレスによって業務に支障がでると影響が大きい反面、両立支援によってパフォーマンス低下を防止する効果も大きいです。
2. 離職を防止する
介護は肉体的にも精神的にも疲労が大きいものです。そのため、従業員自身が睡眠不足等の理由で体調を崩したり、仕事との両立が上手くいかないことに罪悪感を持ったりすることで、自ら職場を離れてしまうことがあります。
冒頭で述べたように、日本国内全体で人手が不足する状況下では、自社に合ったスキルを持つ人材を失うことによる損失は大きいでしょう。離職を防ぐため、本人や周囲に働きかける両立支援策を実施する意義は大いにあると考えます。
3.従業員のエンゲージメント向上に繋がる
企業が両立支援にかかわる制度・風土を整え、それを各従業員が知っていることはエンゲージメント向上に寄与するでしょう。
介護は、上司や同僚を含めて知識が少なく、長期間にわたるケースや数年後の状況予測も立てにくい領域です。そのため、1対1でアドバイスを受けるよりも、企業内にコミュニティや国の制度・サービス利用方法の研修があること、また従業員自身の心身をケアするための産業医・カウンセラー等がいることが従業員の支えになります。
2025年問題を理解し、企業の取り組みに繋げるために
2025年問題によって引き起こされる介護人材不足や、従業員が介護人材として求められる背景、そして企業が両立支援を行うメリットについて説明しました。
つづく中編では、日本で代表的な両立支援である介護休業制度と、介護に利用可能な企業での休暇制度について解説します。