リスキルとは?ビジネス環境の変化に対応するための人事施策を考える

リスキルとは?ビジネス環境の変化に対応するための人事施策を考える

公開日 2021年7月28日
更新日 2021年9月14日
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昨今、「リスキル」(学び直し)という言葉を目にする機会が増えてきました。
たとえば、日経新聞でも『「学び直し」世界が競う、出遅れる日本 所得格差が壁』という記事がアップされています。

従業員に対する学びの場の提供や、教育効果を高めるための施策の導入は、すべての企業にとって必要なことです。また、人事部門や教育担当部門にとっては重要なミッションであると同時に、従業員の意欲の向上、効果の測定、魅力あるコンテンツ作りなど、課題が多いポイントでもあるでしょう。

本記事では、そういった前提の中で、改めてビジネスシーンにおいてリスキル(学び直し)というキーワードが注目されている背景と、実際の運用に落とし込んでいく中で検討したいポイントについて整理しました。
リスキルに関する制度・運用を設計、実施するうえでの一助となれば幸いです。

 

目次

リスキルとは
リスキルに注目が集まる背景
 ①DX(デジタルトランスフォーメーション)に象徴される、サービスや業務のデジタル化
 ②リスキルに対する企業の取り組みに対する、市場・投資家からの目
 ③大企業を中心にコア年齢層となる、40代・50代社員の活性化の必要性
リスキル・学び直しの推進を支えるフレームワーク
リスキルの具体的な実施施策
リスキル実施にあたり企業は各種制度・施策との連動を

 

リスキルとは

まず、リスキル(リスキリング、学び直し)とは何でしょうか。

リスキルとは、「企業が従業員に対して新しいスキル、技術を身に付けさせることで、新たな価値、サービスの創出や生産性の向上、ひいては従業員の市場価値の向上につなげること」と一般的に定義づけられています。

リスキルという言葉が世界的に認知、流行したきっかけは、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)で、『リスキリング革命(Reskilling Revolution)』が提唱されたことにあります。

『リスキリング革命』とは、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までに世界の10億人によりよい教育、スキル、仕事を提供するという戦略です。

この実現に向けて、ブラジル、フランス、インド、パキスタン、ロシア連邦、アラブ首長国連邦、米国といった各国政府が人材育成に関する政策を実施しています。賛同したグローバル企業はパートナーとして参画し、資金や教育プログラムを提供します。

日本においては、経済産業省が「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」を立ちあげました。

これは、IT・データを中心とした将来の成長が強く見込まれ、雇用創出に貢献する分野において、社会人が高度な専門性を身に付けてキャリアアップを図る、専門的・実践的な教育訓練講座という位置づけになります。

また、厚生労働省の「教育訓練給付制度(専門実践教育訓練)」と連携し、従業員に専門実践教育訓練を受講、または受講を支援する場合に、人材開発支援助成金により、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部について助成※を受けることが可能です。

※人材開発支援助成金特定訓練コースとして、中小企業は経費助成が45%、賃金助成は760円/1人1時間あたりの支援が受けられます(中小企業以外はそれぞれ、経費助成30%、賃金助成380円/1人1時間あたりの支援)

 

リスキルに注目が集まる背景

さて、このような形でリスキルがクローズアップされている背景には大きく分けて以下の3つの理由があります。それぞれ見ていきましょう。

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①DX(デジタルトランスフォーメーション)に象徴される、サービスや業務のデジタル化

ここ数年、日本の各企業において、デジタル化への対応が必須となっています。

ビジネスでの新しい製品/サービスの開発、販売において、より競争力のある製品を開発したり、より広く製品を販売したりするためには、新しいテクノロジーやITサービスの活用が必要不可欠です。

また、普段の業務においても、これまで紙や対面で当然のように行われていた手続きが、新しいクラウドサービスやRPA、AIの導入によって自動化・オンライン化され、生産性が向上することは、ビジネス上だけでなく社会的にも認知されています。

人事領域においても、人事データを活用して、育成、要員配置、エンゲージメント等に活かそうとしている企業も多いのではないでしょうか。

その象徴となるキーワードがDXであり、推進役として「DX人材」といわれる役割が必要となり、採用や育成が急務とされています。

ただし、企業が求める「DX人材」といわれる人間をすぐに外部から確保してくることは容易ではありません。そのため、既存の従業員に対して、デジタル化、あるいは新しいテクノロジー、スキル、トレンドに対する教育を行い、組織的な底上げをした方が速く、効率的である(というよりも他に選択肢がない)と考える企業の方が多いのではないでしょうか。

 

②リスキルに対する企業の取り組みに対する、市場・投資家からの目

以前の記事「人的資本の情報開示が求められる背景と日本企業に必要な対策とは」において言及した、「人材版伊藤レポート」でも、リスキルは重要な視点の1つとして取り上げられています。

 

出典:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~ より

 

従業員を人的資源(現在の労働力、コスト)としてとらえるのではなく、投資し価値を高める対象である人的資本として考えてみましょう。そうすると、従業員が新しいスキルや技術を身に付けるため(リスキル)に投資することは、生産性や価値創造、ひいては、企業としての資産、リターンにつながるという重要な視点になります。

また、そういった環境で働くという経験は、従業員のビジネス市場価値や処遇を高め、結果的に企業へのエンゲージメントを高める効果もある、と結論づけられています。

このような提言が発信される背景として、日本の従業員には十分な教育投資がされていないから、という点が挙げられます。

 

出典:持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~ より

 

日本の場合、メンバーシップ型の利点を活かして、新入社員から30代前半くらいまでは、OJTとして先輩・上司から現業の中で教育を受けることになっています。そのため、ジョブ型ベースの諸外国とは一概には比較しづらい側面があります。

ただし、先輩・上司からの教育の多くは、あくまでこれまでの経験則に基づいたものであり、デジタル化に代表される新しいテクノロジーやトレンドへのキャッチアップには別のアプローチが必要です。

 

人的資本の情報開示について詳しく知りたい方はこちら

 

③大企業を中心にコア年齢層となる、40代・50代社員の活性化の必要性

上記②で見たように、元々日本企業において教育やスキルアップはOJTと個人の自己研鑽が中心であり、企業として明確な資本投資が行われているとは(少なくとも諸外国と比較して)いえない状況です。

また、OJTの対象外となる中堅層以降では完全に自主的な学びの量にゆだねられているのが現実です。さらに意欲があったとしても、公私とも最も繁忙である時期に、自発的に十分な時間や費用をかけることは現実的には難しい状況にあるといえるでしょう。

 

出典:人材育成の現状と課題 第3節より

 

十分な学びを得ることなく現業に追われることは、40代後半や50代になるころ、あるいは管理職を外れたときにパフォーマンスを上げられなくなっている中高年社員を生み出す原因になりかねません。

各企業においては、従業員の平均年齢が40歳を超えつつあり、40代、50代が企業の労働力の中心です。

このコア世代が、デジタル化・グローバル化・コロナ禍等による市場環境の変化に対応し、事業の変化や新しいサービスや業務へのキャッチアップ、関連するスキルや知識の習得に努めて、パフォーマンスや生産性が維持・向上しなければ、企業の業績や価値の低減につながる可能性があります。

出典:総務省統計局 労働力調査より

 

逆に、今後経験と学びが融合されれば、より大きな成果が生まれる余地が大きい、とも考えられます。

リスキル自体はDXの文脈の中で語られることが多いですが、DXを抜きにしても、特に中高年社員を中心に学びなおしを行うことは企業の業績、生産性、価値創造に必須であるでしょう。

 

高年齢社員の戦略的な活用について気になる方はこちら

 

リスキル・学び直しの推進を支えるフレームワーク

ここでは、DXという観点だけではなく、業務や成果に必要な学び直しを推進するにあたり、企業や組織が共通認識として持っておくべきフレームワークを提示します。

単純に学び直しを支援する、あるいは自己研鑽を積むことを奨励する、だけでは効果が薄く、定着にはつながらないと考えられます。そのため、制度と業務の連動によって浸透を図り、学びを組織文化として定着させる必要があるでしょう。

そのフレームワークは大きく分けて以下の3つです。

①企業として、学びの重要性を明確に発信する
②管理職のパラダイムシフト
③学びを後押しする、制度と施策の実施

それぞれ見ていきましょう。

 

①企業として、学びの重要性を明確に発信する

まず大前提として、学びの重要性、学び直しへの投資や支援についての方向性を、企業として社内外に明確に打ち出すことが必要です。

社外向けには、企業のコーポレートサイトやサスティナビリティレポートで、階層別の研修内容や1年間の平均研修時間について開示されることが多くなっています。

そこから、企業の重要課題や中期計画で提示されている、戦略や方針の実現を担う人材の育成にどのような形で寄与することを想定しているのか、という具体的な人材のスキルやマインド例を示します。そして、何年後に何人を新規事業に配置する、といった目標および完了後のエビデンスを示したうえで、組織としての学びの文化を形成する過程を示す、ストーリー立てが必要になるでしょう。

また、社外だけでなく社内向けにも同様に発信する必要があります。そうしなければ(そうであっても)、個々の現場においては、中長期的なスキルアップや研鑽よりも、短期的な業務への工数投下が優先されてしまいがちだからです。

・学びたい、スキルアップが必要となる、と判断したシーンで、自信を持ってその時間を費やすことを企業として制度面、運用面で支援していること
・企業の目標値として必要なKPIが公開されていること
・従業員が学びの重要性を認識していること

が、各施策を実施するにあたっての大前提となります。

 

②管理職のパラダイムシフト

どんな施策も現場の部門長、管理職の協力と理解がなければ、実現も定着も難しいと思われますが、人材育成はまさにその代表例でしょう。

まず、管理職は組織のリーダーであり、部下の育成にコミットする必要があります。そのうえで、企業が人的資本である彼らに対する投資を行い、組織や企業の成長をリードする存在に導くための主担当であることを再度定義し、お互いの共通認識としなければなりません。

さらに管理職には、

・部門で必要なビジネススキルや経験を言語化して定義し、メンバーの特性に合わせて必要な育成計画やキャリアをデザインする
・自組織に限らず、社内外にアンテナを立てて、トレンドや最新情報をインプットし、メンバーの学びに対する好奇心を喚起する
・今後増えるであろう「年上のチームメンバー」「自分よりもスキルのあるスペシャリスト」等にも、学び直しやスキルアップの必要性を理解(納得)してもらう

等、学びの組織文化を構築していくことが求められます。

そのためには、管理職を選出、配置する際にこれまでのような「プレイヤーとして優秀」という要素だけでなく、チームとして成果を出すことができるか、部下や後輩の成長を共に喜ぶようなメンタリティを持っているか等、重要となるコンピテンシーの見直しが求められる可能性が高くなります。

管理職自身も管理職となる前に適切なマインドセットが必要です。そのタイミングで必要となるコンピテンシーや職務に違和感があれば、管理職ではなくスペシャリストやエキスパートを選択することを尊重し、処遇することも必要となるのではないでしょうか(下記「リスキルの具体的な実施施策」の4.も参照)

 

③学びを後押しする、制度と施策の実施

そのうえで、人事制度や施策の中で、現場の学びの促進を後押しし、管理職をサポートしなければなりません。

たとえば、②で掲げた学びの組織文化を構築するプロセスは、現場管理職や部門長1人が行うことは極めて困難です。人事メンバーが間に入りながら部門横断的に実施して至った方が効率的であり、多くの賛同を得られるでしょう。

 

リスキルの具体的な実施施策

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ここでは、上記のフレームワークをもとにして、6つの実施案についてまとめます。

1.スキルアップを実感する、社内外へ発信できる場の提供
2.学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す
3.ベテラン社員の定期的な仕事に対する変化の創出
4.「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する
5.「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す
6.すべては管理職の評価へ還元する

それぞれ具体的に見ていきましょう。

 

1.スキルアップを実感する、社内外へ発信できる場の提供

まず、学び、成長する文化を定着させていくためには、従業員がその効果を実感し、周囲から認められ、褒められ、評価される機会が必要となるでしょう。

若手であっても、自らの知見や専門性、さらにはそこから導き出される事業や製品のあり方等を整理し、社内の自部門・他部門に対して定期的に発信を行うことは、本人にとって成長を実感するよい機会です。同時に組織としてはナレッジの蓄積であり、結果的に新たな製品・サービス等を生み出すうえでのヒントとなります。

また、専門性のあるベテランの価値ある発信は、若手社員にとっての学びであり、さらにはロールモデルやお手本として、今後のキャリアを考えるうえでのモチベーションにもなるでしょう。

発信する側のベテランにとっても、定期的な発信を行うためには否応なく学び直しが必要です。その一方でアウトプットに対する周囲の評価や感謝は大きなモチベーションにもつながるのではないでしょうか。

特に、若手の成長に寄与すること、頼られる存在として認知されることは、モチベーションの基礎となる承認欲求を満たし、自らの存在価値を再び実感することになるでしょう。

また、社外への発信であれば、本人の市場価値への向上につながり、さらには会社としてのブランディングに貢献できる可能性もあります。

近年のITテクノロジーの進化、およびテレワーク化の促進によって、社内のポータルサイトやWeb会議・ウェビナーシステム、社内SNS等の活用が進んだことで、これまで以上に自らの考えを発信し、双方向に評価、ディスカッションできる環境は作りやすくなっています。

人事部門や教育部門がその後押しを行うことで、全社的な発信を行うための環境を用意し、従業員同士が学び合い、承認し合う環境を作ることが何よりも重要であるでしょう。

 

2.学びに対する取り組みや成果を評価やインセンティブにして表す

職務や職責に対して、活かしてほしい具体的な資格やビジネススキル、知識等を定義しておき、学びの方向性をある程度組織的にデザインすることが、効果的な学習と上長のサポートにつながると考えます。

そのうえで、単に資格を取る、スキルを取得することに対してではなく、それを活かした具体的な業務の成果や目標達成に対して、インセンティブを支給する制度も、学びを定着することへの一案となるのではないでしょうか。

特に、管理職と比較して、職務ごとの比較が難しい非管理職社員の処遇は、全般的に管理職よりも低い水準に留まるケースも多いでしょう。そのため、結果的に処遇への不満やキャリアへの不安、ひいてはモチベーション低下による、スキルアップや変化へのチャレンジへの意欲減退、といった負のプロセスへ追いやられるリスクがあります。

そこで、学びから得られた成果に対して、賞与やインセンティブ等でメリハリをつけて報いることは、そのリスクを軽減することになるのではないでしょうか。

また、目標管理を実施するのであれば、上記と連動して進捗を上長がサポートし、成果を出した本人だけではなく、それをサポートした上長も評価される評価制度設計にすることで、チームとして、学びへの意識を高めることもできるのではないかと考えます。

 

3.ベテラン社員の定期的な仕事に対する変化の創出

若手時代と比較すると、中高年になるにつれてローテーションや未知なる職務への異動は少なくなることが一般的です。

本来、専門性が高まる中で、新しい職務を経験することが必ずしもプラスになるとは限りません。しかし、同一の職務に留まることで、学びへの姿勢が失われ、仕事もルーチン化して、新しい価値を生み出しづらくなるとも考えられます。

それを防ぐためには、一定期間で新しい職務や事業に向き合う時間を提供することも必要となるでしょう。

企業によっては、10年単位で2回、あるいは50歳までは5年周期で、部レベルで異動というようなローテーションプランを取っているところも多いでしょう。ですが、実現できていない、機能していなくても人事が介入できていない、というケースが少なからずあります。

部門としては、ルーチン業務であっても一定の成果が上がっているため、外部に出しづらい/出したくないと思っている社員の場合、社員本人にとっては学びの場を奪われていたり、可能性の芽を摘まれていたりするかもしれません。

こういった観点でも、経営が学びや成長にコミットすることや、管理職が個人の育成やキャリアに関わる前提が成立していなければ、制度や運用は機能しません。

この場合、

・人事部門が一定期間以上、同一職務や部門で滞留している従業員をピックアップし、本人および上長や部門長とキャリアについて対話を行い、今後の配置計画を共に考える
・異動やローテーションに至らずとも、社内的なプロジェクトや新規事業等に積極的に関与させる
社内公募を「一定の成果を生み出した社員の長年の功績に報いる権利」として、短期的な成果や現在の業務を度外視して、本人がキャリアを自律的に選択するために実施する

というようなしくみも考えられます。

 

4.「上り」「現状維持」のコースを明確にして、自分のコースを自分で選択する

ただし、「学び続ける」ことがすべての従業員に可能かと問われれば、決してそうではないと思われます。

通常の制度に当てはめた場合、学び続けることが難しい社員はひたすら評価されず、処遇が下がり続ける可能性が高いでしょう。そうすると当然、モチベーションも低下し、周囲の社員への悪影響も懸念されます。

一方で、そういった従業員も一定のパフォーマンスが発揮できているのであれば、安易に低評価をつけることでモチベーションを下げるのではなく、適切な処遇でパフォーマンスを出してもらうような制度を検討する必要があるのではないか、と考えます。

具体的には下記のようなコース設計を提案します。
※管理職一歩手前(30代半ば~40代前半)で下記を選択するイメージ

 

<マネジメントライン>
高いマネジメントスキルを要する管理職ライン。高処遇だが、職責や成果に合わせて処遇やポストは変動する。

<スペシャリストライン>
高い社内外への発信力や巻き込み力、自他ともに高い専門性を持ったスペシャリストライン。マネジメントよりも高処遇だが、職責や成果に合わせて処遇やポストは変動する。

<エキスパートライン>
高処遇ではないが、一定のパフォーマンスを生み出すことを前提に安定した処遇と、ストレスなく自分の仕事に打ち込むことを保障したスペシャリスト用のライン

 

ここで重要なのは、

「自らコース選択すること」
「一度選んだコースは数年後に再選択できること」

ということです。

評価結果や上長判断で自動的にコースが決定される制度が多いですが、本人が選択しなければ、覚悟付けや納得感は得られません。

また、高いパフォーマンスを出すことができる自負があればマネジメントやスペシャリストを選択することもあると考えます。ですが、「もうちょっと無理」となったときに、辞める、処遇ミスマッチで居座る以外の選択肢を準備しておく必要があるのではないでしょうか。

従業員が自らのライフプランの中で、様々な選択肢を持てることは、キャリアについて自律的に考え、必要な学びを得ることにつながるのではないかと考えます。

 

5.「下り」を認めることで結果的にスキルアップを促す

あわせて、上記のエキスパートラインや、所定の年齢以上の社員は、一定の時間(たとえば週1日)を自らの時間として使うことを許可するのも一考ではないでしょうか。

その時間は自己研鑽に使うもよし、副業に使うもよし、はたまた転職活動を行うもよしとする、というものです。

副業や転職活動については、ネガティブにとらえられる可能性もありますが、

・ビジネスにおける自分の市場価値を知る
・スキルアップの必要性や不足している経験について知る
・活動の結果として自社のよさに気付く
・無理やりな退職への誘導はエンゲージメントの低下や現場への負担につながるが、
 スムーズかつ計画的な退職は自然な世代交代につながる

等が、結果的に従業員の質を高め、学びやパフォーマンス向上につながる可能性もあります。

こういった自己裁量の幅を持たせることは、社員のエンゲージメントにつながるでしょう。

生まれた工数的な余白については、逆に外部からの副業やスキルシェア等、多様性をもって埋めることができれば、組織に変化が生まれる可能性があります。

 

6.すべては管理職の評価へ還元する

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このような施策は、現場の管理職の協力や理解なしでは実現できません。

そのために、人材育成や学びの組織文化形成に努めた管理職は評価や処遇によって還元される制度にすることが必要です。

考えられる案としては、前項までの施策に対する協力状況、人材輩出状況、1on1の実施状況やパルスサーベイ、部下からの評価等から、組織的な学びと成長に寄与しているかどうかを昇格時の要素に含むこと、等が挙げられます。

 

リスキル実施にあたり企業は各種制度・施策との連動を

リスキルは、従業員個人の資質や意思にかかわらず、企業全体、組織全体で推進することによって、個人のスキルアップや努力・研鑽を、組織としての成長やエンゲージメント、最終的には企業価値の向上にまで連動させるものです。変化の大きい時代においては欠かすことができないファクターといえるでしょう。

そのためには、リスキルや学び直しは単なる教育施策ではなく、「戦略人事と経路依存性から考える、企業経営で成功する人事施策とは」でも触れられているように、経路依存性を意識しながら、等級制度、評価、処遇、配置といった様々な制度や運用の中で組み込まなければ、具体的な成果にはつながらないと考えます。

DXを推進するのであれば、一部の「DX人材」を高く処遇し採用したり、適性のある一部の社員を選抜して教育したりするだけでは不十分です。すべての従業員、部門がデジタル化や変革のあり方について学び直し、そのメリットや必要性、何より自分の成果や業務に役立ち、処遇や評価につながるという体感がなければ、その効果は限定的なものとなるでしょう。

また、特に学び直しが必要とされる中高年社員に対しては、様々なライフスタイルや価値観がある中で、学び直しができない、成長ができない層も一定する存在することを理解・尊重する必要があるでしょう。そのうえで、従業員自らがキャリアを選択すること、さらにはいつでも選び直しを可能とするしくみが必要になると考えられます。

自分たちの先輩がどのようにキャリアを積み、どのように処遇されるか、若手社員は必ず見ています。「自分はああはなりたくない」と思わせた瞬間に、会社に対するエンゲージメントは一気に低下します。

特に企業、組織、上司としての論理を個人のキャリアや成長よりも優先したタイミングで、本人以上に周囲が敏感に反応します。

そのためには、人事部門だけではなく企業として、個人のキャリアを尊重することこそが、最終的には企業の持続的な成長につながるということを、まずは明確に社内外に発信してほしいと願っています。

 

リスキルの実施にあたって気を付けておきたい経路依存性の考え方についてはこちら

この記事を書いた人

ライター写真

伊藤 裕之(Ito Hiroyuki)

2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している。

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