「男性育休×義務化」法改正案の概要と企業が準備すべきシステム上の取り組み

「男性育休×義務化」法改正案の概要と企業が準備すべきシステム上の取り組み

公開日 2021年3月29日
更新日 2021年4月15日

 

育児休業について、ニュースで「男性育休の取得推進」や「義務化」というキーワードを見聞きすることが多くなったのではないでしょうか。

厚生労働省が発表した令和元年度雇用均等基本調査では、令和元年(2020年)度の育児休業取得率は女性が83.0%であった一方で、男性は7.48%の取得率です。国として労働力の確保・維持を図ることは非常に重要な課題。

そのための手段の1つとして、育児がしやすい社会環境を整備し、働き続ける女性を増やすこと、同時にパートナーの育休取得の促進が必要とされていることは皆様もご存知かと思います。現政権発足以降、急ピッチに男性育休取得推進の検討が進んでいます。

そのような背景で昨今話題になっている「男性育休取得推進 ✕ 義務化」について、いよいよ次期法改正案が具体化されました。2021年の現国会が終了する6月までに法案が成立すると見られ、来年4月以降、順次施行されるものと見られています。

本記事では法案成立に先んじて、誤解が生じやすい男性育休取得推進とその義務化の正しい関連性を紐解きつつ、今回の法改正案の概要を解説します。また終盤では、法改正に向けたシステム対応案についても触れていきます。

※なお本記事はその内容の性質上、性別記述箇所が複数回登場しますが、いずれも戸籍上の性別に基づく法律上の男女/夫婦を意味しています。


目次

誤解が生じやすい?男性育休取得推進と義務化の概要とは
実は充実している日本の育休制度
義務化に踏み切った背景
育休制度の法改正に向けて企業ができるシステム対応案
男性育休に関する法改正に向けて企業は早めの準備を

 

誤解が生じやすい?男性育休取得推進と義務化の概要とは

「男性育休取得推進 ✕ 義務化」と聞くと「男性に育児休業を取得する義務が生じる」と捉えてしまうかもしれません。しかし、今回の法改正の内容はそうではありません。

政府は、2021年2月26日に、労働政策審議会雇用環境・均等分科会から提出された法改正案を正式に閣議決定しました。そこに記載されている法改正案は大きく以下の内容に分類されます。

1.男性が取得可能な「出生時育児休業」制度の新設
2.企業側から従業員への通知と取得促進の義務化
3.その他、通常育休に関する各種改正


つまり、「男性育休取得推進」にまつわる法改正(上記1)と「義務化」にまつわる法改正(上記2)は、内容的には別のものです。

これまで上記2つのキーワードだけがややひとり歩きしていた感がありましたが、決して男性労働者に育休の取得を義務付ける訳ではなく、取得促進が義務化されるということを意味しています。

では実際にはどのような内容なのか、それぞれの概要を見てみましょう。
 

1.男性が取得可能な「出生時育児休業」制度の新設

新しくなった男性育休である「出生時育児休業」の概要は以下の通りです。
 

<休業可能な対象者>
法律婚における、出産女性の配偶者
※法律婚上という制約から、必然的に男性が対象となる。

<休業取得の期間>
子の出生から8週の間に合計4週間分(2回まで分割可能)

<申請の期限>
休業開始予定日の2週間前まで(通常の育休は1ヶ月前まで)

<施行開始予定時期>
早くて2022年10月~
 

一般的に産後6週間~8週間は、母体の回復に全力で努める必要があるとされています。「出生時育児休業」は、配偶者の協力が必要不可欠な期間に取得できる休業制度ということです。

実は、同期間中に取得できる「パパ休暇」という制度がこれまでも存在していました。しかしその置き換えとなる今回の「出生時育休」は、期間を2回まで分割することが可能です。そのため、一層取得のしやすさが考慮されているものと考えます。

また、通常の育休と同様に雇用保険からの給付金も支給されます。

 

2.企業側から従業員への通知と促進の義務化

続いて、義務化となる法改正の内容は以下の通りです。
 

<義務化の対象>
使用者側である企業

<義務化の内容>
労働者側である従業員へ、個別に育休取得制度の通知と意思確認を行うこと

<施行開始予定時期>
2022年4月~
 

具体的には、従業員に子供が生まれるにあたり、

・男女問わず該当従業員へ育児休業が取得できる旨、およびその内容の通知・説明
・取得を促すための意思確認


の2点が企業に義務付けられます。


これまで、多くの企業で女性従業員に対しては産育休の取得を促す取り組みをしてきていたかと思います。中にはパートナーが出産を迎える従業員に対しても、積極的に産育休取得の推進を図ってきた企業もあるでしょう。

しかし、その温度感は企業によりまちまちでした。このような企業ごと・性別ごとの温度差をなくし、等しく育児休業の取得促進を「努力範囲」ではなく「義務化」とすることが、本改正案の趣旨であるといえます。

 

3.その他、取得推進のための通常育休に関する各種改正

上記以外にも、より一層育休を取得しやすくするため、通常の育休に対してもいくつかの改正が盛り込まれています。

・原則1回だった取得回数について、2回の分割が可能に(早くて2022年10月~)
夫婦交代での取得を可能にすることが主な目的で、出生時育休と併せると男性側は最大4回に分割した育休が可能です。

・有期雇用者についても、育休の取得が可能に(2022年4月~)
これまでは認められてこなかった有期雇用者の育休取得も、労働契約が満了することが明らかではない限り、申し出が可能となります。
 

育児休業に関する法改正の変更は以下のようにまとめられます。
 

  現在 2022年4月~ 2022年10月以降~
企業から従業員への
育休制度の説明
努力範囲 義務 義務
企業から従業員への
育休取得の促進
努力範囲 義務 義務
男性用の育休制度 パパ休暇 パパ休暇 出生時育児休業
通常育休の分割 不可 不可 2回
有期雇用者の通常育休取得 不可 可能 可能

 


厚生労働省は、これらの法整備を通じ、2025年までに男性の育休取得率を30%まで引き上げたい考えのようです。

 

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実は充実している日本の育休制度

前述の通り、政府は育休取得推進のため、法制度をますます充実したものにしようと手段を講じています。しかしながら、実はすでに日本の育休制度は、特に男性に対しての措置という面では諸外国と比べてかなり恵まれています。

日本では男女ともに同等の掛け率で育児休業給付金が雇用保険から支給されます。ユニセフによる2019年公表の調査では、2016年時点において、男性が給付金を受給可能な育児休業期間につき、給与満額支給相当の換算期間が最長なのは日本であるとの結果が出ています。
 

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※出典元「Are the world’s richest countries family friendly?」(Unicef, 2019)より筆者が翻訳・作成


ちなみにこの育児休業給付金は、限度額はあるものの、育児休業開始から180日間は給与額面の67%が支給され、手取金額のおおよそ9割程度が保障されます。そういった意味でも、日本の育休制度の手厚さがわかるでしょう。

 

<育児休業給付金額の詳細>

  開始~180日 181日~
支給月額 給与額面※の67% 給与額面※の50%
※の上限額

454,200円
(2019年8月1日付変更後の現在)

支給上限額 304,314円 227,100円

 

※給与額面の計算式 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数(通常30日)

「雇用保険被保険者休業開始時賃金証明書」に記載の、
開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額

 

<育児・介護休業法における育児関連の法改正変遷>

また金銭面以外でも、以下のようにこれまでも順次法整備が行われてきており、うまく活用できれば有用であることがわかります。

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※1 パパ休暇:
子供が生まれてから8週間以内に育児休業を取得し、そして終えている場合に、育児休業の再取得が可能であることが夫に認められている特例措置。(前述の通り、新設の「出生時育休」に置き換わる予定。)

※2 パパ・ママ育休プラス:
原則子供が満1歳までである育児休業期間を、両親ともに育児休業を取得する場合に限り1歳2ヶ月になるまで延長することができる制度。(ただし親1人あたりの育児休業を取ることができる日数は最大1年間という点には変更なし)

 

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義務化に踏み切った背景

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これだけの法的な手厚さがあってもなお育休取得が進まない要因には、別の大きな何かが存在していると考えるのが自然でしょう。

そこで政府が着目したのは、職場の雰囲気でした。
「自分が休むと仕事に穴が開く」「周りは休まずに働いているのに」という古くからの日本社会における勤勉な考えと商習慣は、有休取得率の低さにも現れている部分です。

それらが何となく(男性においては特に)育休を取得しづらく、意向はあるが結果的に育休取得を遠慮してしまう原因になっていると政府は考えました。

現にこれは様々な企業・団体が調査した結果にも出ています。先ほどご紹介したユニセフによる2019年の調査においても、取得しなかった理由の上位3つが

 1位:人手が不足するから
 2位:会社に制度がないから
 3位:取得しづらい雰囲気があるから

という結果です。
別の企業による2021年の最新調査でも、「職場の仕事が回らなくなるから」「職場に取得しづらい雰囲気があるから」が上位の中に入っており、ここ数年での変化はあまり見られないといえるでしょう。

また、前途の通り、ユニセフ調査において2位に「会社に制度がないから」という理由が挙がっています。法的な制度が定まっている(ために本来であれば会社での制度有無は関係ない)にもかかわらずこのような意見が多く出てくるということは、やはり法整備以前に職場内での雰囲気改善や周知徹底が必要であると理解できます。

これが、政府が今回「企業側への周知・促進の義務化」に踏み切った背景だと考えます。

 

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育休制度の法改正に向けて企業ができるシステム対応案

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ではこれを踏まえ、システム上の対応として準備しておくべきことを考えていきます。
制度の施行が本格化するにつれ、詳細な部分はさらに検討が必要かもしれませんが、現状考えうる対応案は以下です。
 

1.システム内に、配偶者の妊娠にまつわる申告/届出を用意する

既存の「配偶者の出産による育児休業予定届」では、すでに本人が育休取得の意思がある状態での申請になりますので、事前の周知・促進の対応にはならないと考えます。

そのため、十分なゆとりをもって従業員から、配偶者の妊娠事実の申し出を受け入れられる状況を作ることが大切だと考えます。本人の育児休業の取得予定に関わらず、たとえば配偶者が安定期に入ったタイミングですみやかに申告してもらえることが理想ですので、システム内に受け口を設けておきましょう

また周知・促進という点では、女性従業員が妊娠した場合においても同様です。産前産後休暇だけを取るのか、その後育児休業も取るかの選択を従業員自身に委ねるのではなく、出産予定がわかった際にすみやかに申告してもらい、育児休業の取得をすすめることができるしくみを整えるべきでしょう。

さらに、周知の方法自体は、「従業員の都合で複数の選択肢から選べるようにすべき」という趣旨になっています。そのため、届出の画面内においては、書面での情報提供や面談での説明等、任意選択ができるようにしておくといった取り組みも必要になりそうです。
 

2.該当の申告/届出が提出された際のシステム通知文言を工夫する

後続の周知・促進の対応も、もちろん漏れなく行われるようにしなければなりません。そのため、従業員からの電子申請が提出された際にメールやメッセージ等で人事に届く承認依頼の本文中に、

・育休の制度説明および育休取得促進を行う必要がある旨を記載する
・そのためのマニュアルへのリンクを貼る

といった工夫をするとよいと考えられます。
また、面談希望の場合には、承認画面内に「面談日の設定をしたか」のチェック項目を実装することもよい取り組みといえるでしょう。

上記例も含めて漏れなく対応ができる状況を整える工夫・取り組みが必要になると考えられますので、システムでの実装を少しずつ準備し始めることをおすすめします。

 

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男性育休に関する法改正に向けて企業は早めの準備を

いかがでしょうか。今回の法改正は、新たな義務が企業側に発生することもあり、これまで以上に入念な準備・取り組みが必要です。施行までにはまだ1年以上猶予がありますが、少しずつ検討と準備、運用整備を進めていくとよいでしょう。

また、これまで以上に育休分割の柔軟性が高まったため、育休取得の選択肢が増えることにもなります。従業員への案内に迷わぬように改めて取得のパターンを整理することもご検討ください。


 

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