「男性育休×義務化」法改正の概要と取得率向上による企業へのメリット

「男性育休×義務化」法改正の概要と取得率向上による企業へのメリット

公開日 2021年3月29日
更新日 2022年8月3日
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国として労働力の確保・維持を図る手段の1つとして、働き続ける女性を増やすことと同時に、男性育休の取得促進が必要とされています。

厚生労働省によると、令和元年(2020年)度の育児休業取得率は女性が83.0%であった一方で、男性は7.48%と低い取得率でした。この状況に対して男性育休の取得推進の検討が進み、2021年6月3日、「改正育児・介護休業法」が賛成多数で可決・成立、2022年に改正が実施されました。

本記事では、誤解が生じやすい男性育休取得推進とその義務化の正しい関連性を今回の法改正の概要とともに解説します。また後半では、男性育休を含めた育休の取得促進に向けたシステム対応案にも触れていきます。

※厚生労働省:令和元年度雇用均等基本調査より
※なお本記事はその内容の性質上、性別記述箇所が複数回登場しますが、いずれも戸籍上の性別に基づく法律上の男女/夫婦を意味しています。


目次

男性育休取得推進と義務化の法改正内容は?いつからスタートする?
男性育休の取得が従業員にもたらすメリット
男性育休の取得促進を義務化した背景
企業が男性育休を促進するメリット
育休制度の法改正に向けて企業ができる準備とは
男性育休の取得率向上のために、企業は早めの取り組みを

 

男性育休取得推進と義務化の法改正内容は?いつからスタートする?

「男性育休取得推進 ✕ 義務化」と聞くと「男性育休男性に育児休業を取得する義務が生じる」と捉えてしまうかもしれませんがそうではありません。

2022年の法改正内容は、大きく以下の3つのポイントに分類されます。
 

1.男性が取得可能な「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度の新設
   
※男性版産休ともいわれます
2.男性育休を含む育児休業制度の企業側から従業員への通知・取得促進の義務化
3.その他、通常育休に関する各種改正


「男性育休取得推進」と「義務化」という2つの上記2つのキーワードが目立ちますが、「男性育休取得推進」のための法改正(上記1)と「(男性育休含む取得促進の)義務化」にまつわる法改正(上記2)は、内容的には別のものです。

つまり、男性労働者に育休の取得を義務付ける訳ではなく、企業側から従業員への取得促進が義務化されることを意味しています。

改正内容は下図のようにまとめられます。
 

  ~2022年3月 2022年4月~ 2022年10月以降~
企業から従業員への
育休制度の説明
努力範囲 義務 義務
企業から従業員への
育休取得の促進
努力範囲 義務 義務
男性用の育休制度 パパ休暇 パパ休暇

出生時育児休業
(男性版産休)

通常育休の分割 不可 不可 2回
有期雇用者の通常育休取得 不可 可能 可能

 

ではそれぞれの法改正がいつから施行され、かつ休業はいつからいつまで取得できるのでしょうか。
法改正における3つのポイントごとに内容を確認していきましょう。
 

1.男性が取得可能な「出生時育児休業(産後パパ育休)」制度の新設

「出生時育児休業(産後パパ育休)」の概要

法改正により新設された男性育休制度である「出生時育児休業(産後パパ育休)」はいつから取得可能なのでしょうか。対象期間や申請期限、施行日は以下の通りです。

<いつからいつまで取得できるか>
子の出生から8週間の間に合計4週間分(2回まで分割可能)

<申請の期限>
休業開始予定日の2週間前まで(通常の育休は1ヶ月前まで)

<いつから施行されるか>
2022年10月1日
 
一般的に産後6週間~8週間は、母体の回復に全力で努める必要があるとされています。つまり男性育休は、配偶者の協力が不可欠な期間に取得可能な休業制度ということです。

これまでは、同期間中に取得できる「パパ休暇」という制度が存在しました。しかしその改正にあたる「出生時育休(産後パパ育休)」は、期間を2回まで分割することが可能です。そのため、一層取得のしやすさが考慮されている制度といえます。


育休取得による社会保険料免除と改正される適用条件

また、経済的なメリットとして通常の育休と同様に雇用保険からの給付金も支給されることに加え、社会保険料免除の制度が存在します。
育児休業期間中は労使ともに社会保険料免除の対象ですが、現行制度における条件には以下の課題があります。

 ・たとえ月末1日だけの育児休業取得であっても保険料が免除される
 ・賞与にかかる社会保険料も免除の対象であるため、賞与支給月の月末1日だけに取得が集中しがち
 ・月の途中に短期間の育児休業を取得した場合には保険料が免除されない

上記の原因は、現行制度における社会保険料免除の対象期間が「育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間」とされているためです。
つまり、たとえ月末の1日だけでも育児休業すると当月の保険料が免除されるしくみなのです。
また、賞与にかかる社会保険料も同様に免除されます。

「月末であれば1日だけの休業でも社会保険料免除の対象」になる、現状制度の課題を受けて2022年10月の法改正以降は以下の条件が加わることになりました。

 ・賞与支給月については、連続して1ヶ月を超える育児休業を取得した場合に限り社会保険料免除
 ・月の途中に同一月内で育児休業を取得(開始、終了)し、その日数が14日以上である場合は社会保険料免除の対象

   ※出生時育児休業の期間中に労使合意の上で行った就業の日数は、上記「14日以上」には含まれない

賞与支給月を除いて、「月末1日だけ」の育児休業が社会保険料免除の対象になる点は法改正後も変わりありません。しかしながら、その他の課題については2022年10月からの改正によって、より適切な期間の休業取得へ向かうことが期待されます。
 

2.男性育休を含む育児休業制度の通知・取得促進の義務化

育児休業制度の通知・取得促進の義務化の概要

続いて、企業への義務化となる法改正はいつから施行されるのでしょうか。対象と内容、開始日は以下の通りです。
 
<義務化の対象>
使用者側である企業

<義務化の内容>
労働者側である従業員へ、個別に育休取得制度の通知と意思確認を行うこと

<いつから施行されるか>
2022年4月1日

企業は従業員に子どもが生まれるにあたり、
・男性育休を含め育児休業が取得できる旨、およびその内容の通知・説明
・取得を促すための意思確認

の2点へ対応する義務が生じます。
 

義務化する理由は?

これまで、多くの企業で女性従業員に対しては産育休の取得促進をしてきたかと思います。中にはパートナーが出産を迎える従業員に対しても、積極的に産育休取得の推進を図ってきた企業もあるでしょう。

しかし、その温度感は企業によって様々でした。このような企業ごと・性別ごとの温度差をなくし、男性育休を含めた育児休業の取得促進を「義務化」とすることが、今回の法改正の趣旨であるといえます。
 

3.その他、取得推進のための通常育休に関する各種改正


上記以外にも、よりいっそう育休を取得しやすくするため、通常の育休に対してもいくつかの改正が盛り込まれています。それぞれの開始日と制度の内容をご紹介します。

・原則1回だった取得回数について、2回の分割が可能に(2022年10月~)
夫婦交代での取得を可能にすることが主な目的で、出生時育休(産後パパ育休)と併せると男性側は最大4回に分割した育休取得が可能です。

・有期雇用者についても、育休の取得が可能に(2022年4月~)
これまでは認められてこなかった有期雇用者の育休取得も、労働契約が満了することが明らかではない限り、申し出が可能です。

今回の法改正における、男性育休の制度新設や義務化は子どもを持つ従業員にとってメリットのある内容といえるでしょう。
 

その他多様な働き方を支援する休暇ついてはこちら

男性育休の取得が従業員にもたらすメリット

前述の通り、政府は男性育休について新しい制度を盛り込み、育休取得促進を図ろうと法改正を成立させました。制度があることは従業員にとってメリットが大きく、現状低迷している取得率の向上が期待できます。

しかしながら、もともと日本は給付金による育児休業の支援策が充実しています。男女ともに同等の掛け率で育児休業給付金が雇用保険から支給されるため、特に男性にとってのメリットは諸外国と比べて大きいといえます。

ユニセフによる2019年公表の調査では、男性が給付金を受給可能な育児休業期間につき、給与満額支給相当の換算期間が最長なのは日本であるとの結果が出ています。(2016年時点)
 

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※出典元「Are the world’s richest countries family friendly?」(Unicef, 2019)より筆者が翻訳・作成


また、この育児休業給付金は、限度額はあるものの、育児休業開始から180日間は給与額面の67%が支給され、手取金額のおおよそ9割程度が保障されます。そういった意味でも、日本の育休制度の手厚さがわかるでしょう。
 

▼育児休業給付金額の詳細

  開始~180日 181日~
支給月額 給与額面※の67% 給与額面※の50%
※の上限額

454,200円
(2019年8月1日付変更後現在)

支給上限額 304,314円 227,100円

 

※給与額面の計算式 = 休業開始時賃金日額 × 支給日数(通常30日)

「雇用保険被保険者休業開始時賃金証明書」に記載の、開始前6ヶ月間の賃金を180で割った金額

 

給付金制度の手厚さもさることながら、改正前に「パパ休暇」(2010年~)が存在したように、政府は少なくとも十数年前から男性育休の取得促進に努めてきたことがわかります。

それでも、男性育休の取得率が振るわないのが現状です。

比較的充実した制度がありながら男性有休取得率が低い理由には、別の大きな何かが存在すると考えるのも自然なのではないでしょうか

 

男性育休の取得促進を義務化した背景

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男性育休取得率が低い理由ーー。政府が着目したのは、職場の雰囲気でした。

「自分が休むと仕事に穴が開く」「周りは休まずに働いているのに」という古くからの日本社会における勤勉な考えと商習慣は、有休取得率の低さにも現れている部分です。それらが何となく(男性においては特に)意向はあるが育休を取得しづらく、結果的に男性育休取得率の低い要因になっていると政府は考えました。

現にこれは様々な企業・団体が調査した結果にも出ています。先ほどご紹介したユニセフによる2019年の調査においても、取得しなかった理由の上位3つが

 1位:人手が不足するから
 2位:会社に制度がないから
 3位:取得しづらい雰囲気があるから

という結果でした。

また、別の企業による2021年の最新調査でも、「職場の仕事が回らなくなるから」「職場に取得しづらい雰囲気があるから」が上位に入っており、ここ数年での変化はあまり見られないといえるでしょう。

法的な制度が定められているにもかかわらず、このような意見が多く出てくるということは、やはり法改正・整備以前に職場内での雰囲気改善や制度理解の周知徹底が必要であると理解できます。

このことが、政府が今回企業側から従業員への「企業側への育休制度の周知・促進の義務化」に踏み切った背景だと考えられます。

 

企業が男性育休を促進するメリット

企業にとっては、男性育休を促進することで従業員の働き方やキャリア人材の獲得等へよい効果をもたらすメリットがあると考えられます。政府は、企業側へ男性育休の取得を義務づけるとともに、助成金を用意しています。具体的には、「両立支援等助成金」という仕事と家庭の両立を支援する制度のなかに、「出生時時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」(※1)という男性育休を対象としたコースがあります。

以下を条件に、職場風土作りのうえで男性育休の取得が生じた事業主を対象として28.5万円(中小企業は57万円)以上の助成金を支給する制度です。

 ・男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りのために取り組みを行うこと。
 ・男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する連続14日(中小企業は連続5日)以上の育児休業を
  取得すること

なお、この助成金制度は例年内容に変更が加えられることから、2022年度も改正される見込みです。短いスパンで改正されていることからも、政府が従業員と企業双方にメリットのある制度設計を通じて男性育休の取得促進、ひいては取得率向上への取り組みを強化していることがわかります。

また、法改正や助成金のような制度が注目される中、実際に男性育休の取得率向上に取り組む企業も顕在化しています。たとえば、民間企業が2019年に設立した「男性育休100%宣言」(※2)への賛同企業は2021年3月時点で100社以上にのぼります。

この注目度の高さからも、男性育休の取得促進は法令遵守にとどまらず、社員のモチベーション向上、離職防止、ひいてはキャリア人材獲得等への波及効果が認識されていることがうかがえます。

同時に、「男性育休100%宣言」へ名を連ねることで、男性育休における先進企業としての優位性を示しうることもメリットといえそうです。
 

※1  2021年度 両立支援等助成金のご案内 - 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000811565.pdf
※2  男性育休100%宣言- 株式会社ワーク・ライフバランス https://work-life-b.co.jp/mens_ikukyu_100
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育休制度の法改正に向けて企業ができる準備とは

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ここまで企業には育休制度の周知・取得促進が義務化されただけではなく、実際に男性育休を取得させるメリットについても紹介しました。

このことを踏まえ、企業が準備しておくべきことをシステムの観点から考えていきます。制度の施行に伴い、詳細はさらに検討が必要かもしれませんが、現状考えうる対応案を2点紹介します。
 

1.人事システム内に、配偶者の妊娠にまつわる申告/届出を用意する

既存の「配偶者の出産による育児休業予定届」は、すでに本人が育休取得の意思がある状態での申請であることから、義務化された育休制度の周知・取得促進にはあたらないと考えます。そのため、十分なゆとりをもって従業員から、配偶者の妊娠事実の申し出ができるしくみが大切だと考えます。

一例として、男性育休の取得予定に関わらず、配偶者が安定期に入ったタイミングですみやかに申告してもらえるような受け口をシステム内に設けておくことを提案します。そうすることで、ゆとりをもって制度の周知・取得促進ができるのではないでしょうか。

また周知・取得促進という点では、女性従業員が妊娠した場合においても同様です。産前産後休暇だけを取るのか、その後育児休業も取るかの選択を従業員自身に委ねるのではなく、出産予定がわかった時点ですみやかに申告してもらい、企業側から育児休業の取得をすすめるしくみを整えるべきでしょう。

さらに、育休制度の周知を受ける方法については、「従業員の都合で複数の選択肢から選べるようにすべき」という趣旨になっています。そのため、届出時に、書面での情報提供か面談での説明を希望するか等、画面上に選択肢を設けておくことも必要になりそうです。
 

2.該当の申告/届出が提出された際のシステム通知文言を工夫する

出産予定の申告後は、育休制度の周知・促進の対応も漏れなく行われるようにしなければなりません。
そのため、従業員からの電子申請が提出された際にメールやメッセージ等で人事に届く承認依頼の本文中に下記の工夫を取り入れるとよいと考えます。

 ・男性育休も含め育休制度の説明と取得促進を行う必要がある旨を記載する
 ・そのためのマニュアルへのリンクを貼る


また、面談希望の場合には、承認画面内に「面談日の設定をしたか」のチェック項目を実装することもよい取り組みといえるでしょう。

上記も含めて対応ができる状況を整える工夫・取り組みが必要になると考えられますので、システムでの実装を少しずつ準備し始めることをおすすめします。
 

法改正に柔軟に対応できるシステムを検討するならこちらの動画をチェック

男性育休の取得率向上のために、企業は早めの取り組みを

今回の法改正は、育休制度の周知・取得促進という新たな義務が企業側に課されることもあり、これまで以上に入念な準備・取り組みが必要です。

いつから準備をすればよいのかという声も聞かれますが、早期に従業員と企業双方のメリットへ繋げていくために検討と準備、運用整備を進めていくとよいでしょう。

また、これまで以上に制度の柔軟性が高まったため、育休取得方法の選択肢が増えることにもなります。
従業員への案内に迷わぬように、改めて取得のパターンの整理もご検討ください。
 

その他押さえておきたい法改正についてはこちら

この記事を書いた人

阿弥 毅(Ami Tsuyoshi)

2011年にワークスアプリケーションズ入社後、勤怠領域を中心に大手企業の人事システム導入・保守のコンサルタントを務める。その後、海外法人への導入プロジェクトや首都圏の導入担当責任者などを経験。現在は業務コンサルタントチームのマネジメントの傍ら、人事業務課題解決の経験と事例を活かした業務分析・ノウハウ提供に従事している。

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