賃上げ2024年最新動向!背景や政府による促進税制をわかりやすく解説

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賃上げ2024年最新動向!背景や政府による促進税制をわかりやすく解説

2023年に引き続き、2024年も賃上げの動きが活発化しました。自社で賃上げを実施した企業も多いのではないでしょうか。

本記事では、賃上げが進む背景や2023年の賃上げ動向を振り返りつつ、2024年における大企業の賃上げ動向と賃上げに対する政府の促進税制等について解説します。また、それらの動きを踏まえて、今後の賃上げ動向を予測します。
 

賃上げとは

賃上げとは、企業が従業員に支払う賃金を引き上げることを意味し、代表的な方法として、定期昇給とベースアップという2つの考え方があります。

定期昇給(定昇)とは
企業が定めた基準に沿って定期的に行われる昇給。主に従業員の勤続年数や年齢、評価結果等に基づいて昇給額が決定される。

ベースアップ(ベア)とは
全従業員に対して一律で行われるベース(基本給)の底上げ。

最近ではこれら以外にも、株式報酬の導入、手当の増額等も賃上げとして取り上げられており、賃上げの方法も多様化してきているといえます。

日本企業で賃上げが相次ぐ背景

2022年末以降、大手企業を含む多くの企業が賃上げを発表し、話題になっています。本章では、これまでの日本企業における賃上げ事情や、近年賃上げが相次いでいる理由を解説します。

かつての日本企業はベースアップに消極的

年功序列の考え方が一般的だったこれまでの日本企業で、定期昇給は広く実施されてきた賃上げ方法です。しかし、基本給を底上げするベースアップに関しては消極的でした。

その理由は、基本給を一度上げると簡単には下げられないためです。基本給(賃金)の減額は労働条件の不利益変更にあたり、労働契約法の定めによって労働者の同意なく行うことはできません。

一度上げた賃金を下げるためには、労働組合等と交渉しながら労働者の同意を得る必要がありますが、労働者側の納得を得ることは難しく、話し合いの難航が想定されます。

そのため、ベースアップが業績悪化時に企業財政を圧迫するのではないか、と懸念した企業は少なくありませんでした。そのリスクを回避するため、長らく日本企業は賞与の増額や特別賞与の形で従業員に利益を還元し、ベースアップを極力避けてきたのです。

賃上げの理由は?

近年、企業が続々と賃上げを決定している理由は、人材獲得競争で優位に立つためです。

1980年代までは物価上昇とバブル経済を背景とした人材獲得競争激化により、企業は賃上げにも積極的でしたが、バブル経済崩壊後、賃上げ率は減少傾向で推移してきました。

2023年から円安による物価高が顕著になっているとともに、近年の採用市場は、少子高齢化の進行で人手不足感が強まっていること、高度なスキルを持った人材が奪い合いになっていることが課題とされています。その中で、いち早く賃上げを表明・実施することで企業力をアピールし、優秀な人材や専門人材を惹きつけたいという各社の思惑があります。

2023年賃上げ動向の振り返り

2023年は大企業を中心に賃上げが相次ぎました。きっかけは2022年12月に「連合(日本労働組合総連合会)」が春闘で5%程度の賃上げ要求を決定したことです。これを機に2023年に入ると、大企業が続々と賃上げを表明しました。

厚生労働省の「令和5年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、2023年の妥結額の平均賃上げ率は3.6%であり、これは2022年の2.2%を大きく上回る数値となりました。

出典:厚生労働省ホームページ. 第1表 令和5年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況
https://www.mhlw.go.jp/content/12604000/001131821.pdf

政府による支援「賃上げ促進税制」

賃上げに対する政府の支援として「賃上げ促進税制」があります。

岸田首相は、2024年1月30日の所信表明演説にて、「政労使の意見交換において、昨年を上回る賃上げを強く呼びかけ、春季労使交渉ではそれに呼応する動きが広がっています。政府としてもこのモメンタムを保っていくべく全力を挙げます。」と述べました。政府としても賃上げを積極的に支援していく方針です。

出典:首相官邸ホームページ. 第213回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説
(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202401/30shiseihoushin.html)


その一環として、2023年12月に「令和6年度税制改正の大綱」の中で、「賃上げ促進税制」の改正を明記し、従来よりさらに拡大強化しています。

大企業向けの改正内容としては、給与等支給額が前年と比較して、5%、7%増加した時に税額控除率が20%、25%となる制度が新設されました。

さらに、教育訓練費が前年と比較して10%増加しており、プラチナくるみんまたはプラチナえるぼしの認定を得ている場合は、それぞれ5%ずつ税額控除率がアップするしくみも追加されました。

また、今回の改正により、最大で35%の税額控除が受けられるようになりました。

賃上げ促進税制.jpg

出典:経済産業省ホームページ. 令和6年度税制改正「賃上げ促進税制」パンフレット
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/r6_chinagesokushinzeisei_pamphlet.pdf

 

政府としては、2023年以降の賃上げが一過性のもので終わることがないよう、三位一体の労働市場改革を通じて、構造的な賃上げを目指しています。三位一体の労働市場改革は以下の3つを柱としています。

1.リ・スキリングによる能力向上支援
2.個々の企業の実態に応じた職務給の導入
3.成長分野への労働移動の円滑化

出典:内閣官房ホームページ. 三位一体の労働市場改革の指針
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/roudousijou.pdf


リスキリングによって新たなスキルを身に付けた労働者が、成長分野に転職することを促すことで日本全体の賃金水準を底上げするものです。企業に対しても、職務給の導入を促し、スキルに見合った賃金を得られるような仕組みづくりを目指しています。

政府支援としては助成金や教育訓練給付の拡充、職務給導入事例の紹介等が行われており、構造的な賃上げを後押ししています。

2024年最新賃上げ動向

2024年も、人手不足と物価高を背景に企業の賃上げ表明が相次いでいます。

厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、2023年12月の実質賃金は前年から1.9%減少しており、2021年4月以来、21か月連続のマイナスでした。現金給与総額は前年から1.0%増加していますが、物価高に賃上げが追いついていない状況です。

※実質賃金・・・従業員に支払われる給与(名目賃金)に物価変動を加味した賃金額

出典:厚生労働省ホームページ. 毎月勤労統計調査 令和5年12月分結果速報(2024年2月発表)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r05/2312p/2312p.html


連合は、2024年の春闘方針を下記のように定めました。

前年を上回る賃上げをめざす。賃上げ分3%以上、定昇相当分(賃金カーブ維持相当分)を含め 5%以上の賃上げを目安とする。

出典:日本労働組合総連合会ホームページ. 2024 春季生活闘争方針
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2024/houshin/data/houshin20231201.pdf?9513


これらを背景に、2024年も前年を上回る勢いで賃上げの表明が相次いでいます。

▼国内の賃上げ率

業界 企業名 平均賃上げ率(定期昇給+ベースアップ)        うちベースアップ 実施時期 備考 URL
建設 株式会社竹中工務店         7%超   2.5万円    2024年4月 社員 https://takenaka.co.jp/news/2024/03/07/
食品 三菱食品株式会社 8.6% 2024年4月 https://www.mitsubishi-shokuhin.com/news/news_file/file/240315ReleaseHP.pdf
通信 KDDI株式会社 6% ※一時金含む 1.4万円 種別ごとに異なる     ※1 正社員、契約社員の組合員    https://newsroom.kddi.com/news/detail/kddi_pr-1150.html

※1 定期昇給:2024 年10月、ベースアップ:2024年4月、一時金:2024年6月

また、2024年の賃上げの特徴は、新卒初任給を大幅に賃上げする企業が多くみられたことです。新卒採用は大企業にとって、主要な人材確保の方法であり、初任給の額が採用競争力に直結することから、特に大幅な賃上げが行われました。

しかし初任給だけを大幅に上げた場合、特に若手人材では、既存の従業員より新卒で入社した人材の方が給与が高いという逆転現象が起きてしまいます。

初任給を賃上げした場合は、給与の逆転減少が起こらないように、初任給だけではなく特に若手層の賃金も合わせて上げることが必要です。

賃上げ方法別メリット・デメリット

賃上げというとベースアップのイメージが強いですが、一律で全従業員の基本給を底上げすることにはメリットとデメリットがあります。また、ベースアップをし続けることにも限界があり、ベースアップ以外の方法で賃上げを検討する企業も出てきています。

本章では、ベースアップも含めた賃上げ方法別のメリット・デメリットを解説します。

1.ベースアップ

ベースアップのメリットは、基本的に全員の基本給が上昇するため、従業員のモチベーションアップに繋がりやすいことです。また一律で給与が上がることは、求職者に対してもわかりやすく、自社の魅力として訴求しやすいという側面もあります。

一方、デメリットとしては、人件費が必ず増えてしまうため、原資の確保が必要です。売上向上もしくは利益率の改善がなければ、人件費が利益を圧迫する要因となる恐れがあります。

また、万が一基本給を下げる場合は、労使交渉が必要になる場合もあるため、業績が悪化したからといって簡単に下げることはできません。ベースアップをした場合の財務面のシミュレーションを十分に行いつつ、売上向上や生産性の改善施策も同時に行う必要があります。

賃上げ方法 ベースアップ
メリット ・全従業員のモチベーション向上
・採用競争力の向上
デメリット ・原資の確保が必要
・成果や年齢にかかわらず一律アップ
・万が一基本給を下げる場合には労使交渉等が必要となり、金額を下げるハードルが高い

2.株式報酬導入

株式報酬を新規に導入することで、賃上げを行う方法もあります。株式報酬の場合は、報酬にかかる費用が株価に連動するため、株価が上昇している場合は費用が高くなりますが、業績悪化等により株価が下がった場合には、費用も下がるというメリットがあります。

また従業員も、保有する株式資産の価値を上昇させるために、長期的な企業価値向上を意識するようになります。さらに譲渡制限付き株式のように、一定期間以上の継続勤務を条件に譲渡されるような場合は、従業員のリテンションに繋がります。

デメリットは株価が下がった場合、インセンティブとしての機能が弱くなり、保有している株式資産の価値も下落することです。​​​​​​​

賃上げ方法 株式報酬導入
メリット ・従業員のリテンションに繋がる
・業績に応じて費用が上下する
デメリット ・株価が大きく下がった場合、インセンティブにならない
・資産としての価値が下がるリスクがある

3.新たな手当の支給もしくは増額

基本給ではなく、手当を支給・増額することで賃上げとする方法もあります。手当の種類は様々ですので、どのような手当を支給するかは各企業の判断となりますが、たとえば、全国転勤がある金融機関では転勤手当を増額する動きがあります。

背景にはテレワークの普及により、転勤に抵抗がある従業員が増えたことが考えられるでしょう。このように業務に関連する負荷に応じた手当であれば、従業員の納得感も得やすいメリットがあります。

転勤手当のように、必ずしも手当の支給や増額の対象となる従業員が全員ではない場合、一律のベースアップに比べると費用負担がおさえられます。

仮に物価上昇手当のように全員に支給するものだとしても、ベースアップのように支払い続けるものではなく、一時的な支給とすることで、将来にわたる費用負担をおさえることが可能です。
 

賃上げ方法 手当支給 または 増額
メリット ・業務負荷に応じたものであれば、納得感がある
・ベースアップと比較すると人件費負担がおさえられる
デメリット ・必ずしも全員が支給、増額対象になるわけではないため、対象者以外のモチベーションアップに繋がらない

4.成果給の増額

賞与や営業給のような成果給を、好業績者だけ増額するように制度変更を行うことも賃上げの一つといえます。

好業績者に対して賃上げを実施することになり、リテンションに繋がります。特に営業に力を入れており、好業績者を繋ぎとめておきたい企業にとっては、有効といえるでしょう。

ベースアップのように、成果に関係なく賃上げをすることに抵抗がある場合は、成果給のみ増額する方法が有効です。
 

賃上げ方法 成果給の増額
メリット ・優秀層のリテンションに繋がる
・ベースアップと比較し、人件費負担がおさえられる
デメリット ・賃上げの対象が一部に限られる

賃上げ検討のポイント3つ

賃上げ実施は必須ではありません。2025年に向けて、そもそも賃上げを行うか、また実施する場合はどの程度賃上げをするか、検討にあたって確認しておきたいポイントは以下の3つです。

1.これまでの賃上げの効果を確認する

過去に賃上げを実施した場合は、賃上げの結果、採用競争力が上がったのか、離職率が下がったのか、従業員のエンゲージメントが上がったのか等、賃上げによって自社が想定した効果が得られたか確認しましょう。

効果が得られていた場合は、さらに賃上げをする余地もありますが、効果が得られていない場合は、賃上げをするべきか再検討する必要があります。

採用競争力、離職率、エンゲージメントにおいて、賃金は一要素にしか過ぎません。賃金以外に改善する要素があれば、それらにコストをかけることも必要です。

賃金以外の改善要素も議論したうえで、改めて賃上げをするのか、また賃上げの方法を検討しましょう。

2.原資が確保できるか確認する

賃上げを行った場合、通常は総人件費が上昇します。特にベースアップの場合は、一時的な増加ではなく、将来にわたって人件費が上昇するため、原資を確保できるか見通しを立てることも重要です。

原資を確保する方法は大きく3つ、売上の増加、生産性の向上(コストカット)、賃金カーブの調整が挙げられます。

自社の売上や費用の見込みをシミュレーションしながら、人件費が将来の利益を圧迫しないか確認しましょう。また賃金カーブの調整とは、たとえば若手の給与を上げた場合、シニア層の給与の上昇幅を抑えるというものであり、逆も考えられます。

2023年、2024年と賃上げした場合、すでに総人件費は上昇している会社も多いと考えられます。どのようにして賃上げ後の人件費負担をカバーしていくか、2025年はより慎重に議論する必要があるでしょう。

3.自社の労働分配率をモニタリングする

賃上げを検討する際にモニタリングしておきたいのが、労働分配率です。労働分配率は企業が生み出した付加価値を、どれだけ従業員の人件費に割り当てているかを示す指標であり、以下の計算式で算出されます。

労働分配率 = 給与総額 ÷ 付加価値額(※) × 100
(※)付加価値額=営業利益、減価償却費、給与総額、福利厚生費、動産・不動産賃借料、租税公課の計

出典:政府統計の総合窓口(e-Stat).2023 年経済産業省企業活動基本調査速報(2022 年度実績)
調査結果の概要 図表1-1(注2)、図表5-1(注1)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00550100&kikan=00550&tstat=000001010832&cycle=7&tclass1=000001023508&tclass2=000001213820&tclass3val=0


労働分配率は、必ずしも正解となる数値があるとは限りませんが、賃上げにおいては人件費の上昇をどこまで許容するかがポイントとなります。その目安として労働分配率を活用し、自社として目指す労働分配率を決めておきましょう。

経済産業省の2023 年企業活動基本調査によると、2022年度は製造業で46.6%、卸売業で43.8%、小売業で49.1%という結果でした。

  労働分配率(%)
2021年度 2022年度 前年度差(%ポイント)
合計 48.0 47.7 ▲0.3
製造業 46.0 46.6 0.6
卸売業 46.6 43.8 ▲2.8
小売業 49.2 49.1 ▲0.1


出典:政府統計の総合窓口(e-Stat).2023 年経済産業省企業活動基本調査速報(2022 年度実績)
調査結果の概要 図表5-1より抜粋
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00550100&kikan=00550&tstat=000001010832&cycle=7&tclass1=000001023508&tclass2=000001213820&tclass3val=0

今後の賃上げ動向予測

公益社団法人日本経済研究センターの調査によれば、消費者物価上昇率は2024年度で2.18%、2025年度で1.66%になると予想されています。

2025年も物価上昇が見込まれること、少子高齢化により労働力人口が不足する状態も変わらないことから、賃上げの傾向は引き続き続くと予想されます。

ただし、2025年度は物価の上昇幅が2%を切り、やや落ち着く見通しであり、2023年、2024年と連続でベースアップに踏み切った企業も多いことから、2025年は賃上げの動きもやや落ち着くと考えられます。

出典:公益社団法人日本経済研究センター『ESPフォーキャスト調査』2024年2月調査
https://www.jcer.or.jp/jcer_download_log.php?f=eyJwb3N0X2lkIjoxMTIyNTEsImZpbGVfcG9zdF9pZCI6IjExMjI0MiJ9&post_id=112251&file_post_id=112242


また、一律でベースアップをするという考え方よりも、手当てや成果給によって賃上げを目指す企業が増えてくると予想されます。物価高への対応という面が薄れてくるに従い、企業ごとになんらかの目的を持った賃上げを実施する傾向が強まると考えられるためです。

優秀層の離職を防止したいのか、若手のモチベーションを上げたいのか、そのためにはどのような方法が最善かを踏まえて賃上げ方法を決定することが求められます。

賃上げラッシュに焦らず自社にあった方法の検討を

本記事で紹介した通り、賃上げにはベースアップだけでなく様々な方法があり、それぞれメリット・デメリットが考えられます。

2024年も2023年を上回る勢いで賃上げの機運が高まりました。自社の採用競争力を高めるためにも賃上げを行う企業が増えています。

政府支援も拡充される中、2025年も賃上げをするか、またどのような方法で賃上げを行うか検討するうえで、本記事が参考になれば幸いです。

この記事を書いた人

ライター写真

井上 翔平(Inoue Shohei)

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年、調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年、Works Human Intelligence入社。様々な企業、業界を見てきた経験を活かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動を行っている。

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