ダイバーシティ&インクルージョンとは?企業の取り組みで組織力を高める方法

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ダイバーシティ&インクルージョンとは?企業の取り組みで組織力を高める方法

 

日本語で「多様性」を意味するダイバーシティ、企業においては、多種多様な人材が組織に属していることを意味します。昨今では、その多様性を受け入れて個々の特性を活かす「インクルージョン」と共に、注目度が高まっています。

しかし一言でダイバーシティ&インクルージョンといっても、取り組み方法や得られるメリットは様々です。

本記事では、ダイバーシティが必要とされる背景から具体的な施策を推進するときのポイントまで、事例も交えながらご紹介します。

目次

ー ダイバーシティとインクルージョン
 ・ダイバーシティとは
 ・インクルージョンとは
ー 企業でダイバーシティ推進が必要とされる背景
ー ダイバーシティの取り組みを推進するメリット
ー ダイバーシティ&インクルージョンを推進する5つの方法と事例


ダイバーシティとインクルージョン

ダイバーシティとは


ダイバーシティとは日本語で多様性を意味し、様々な観点の属性を持つ多種多様な人材が組織の中に所属していることを指します。

また、ダイバーシティの属性は表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティの2つに分類されます。

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表層的ダイバーシティは、自分の意志で変えられない生来のもの、または変えることが困難なものです。たとえば、人種/年齢/性別/ジェンダー/性的指向/障がい/民族的な伝統/心理的・肉体的能力等が挙げられます。

深層的ダイバーシティは、内面的には大きな違いがあり、そのことがかえって問題を複雑にする側面を持ったものを指します。たとえば、宗教・思想/価値観/コミュニケーションの取り方/働き方/趣味/職歴やスキル等です。

特に日本では民族の数が少なく、多くの人が特定の宗教を信仰していないという特性があります。そのため、労働人口の減少を解消するための女性の活躍推進や障碍者雇用、育児介護への両立支援の文脈で語られる機会が多いです。

インクルージョンとは

インクルージョンは「包括」や「受容」と訳されることが多く、「多様な人材の個々の特性が活かされている状態」を指します。

働くうえでは、報酬のみではなく居場所があること、存在意義が感じられることも重要です。それぞれの従業員にとって自らのスキルを活かせて自分の居場所がある職場であることが、インクルージョンが満たされている組織と言えるでしょう。

したがって企業は、組織内に多様な人材が存在するダイバーシティと、存在する人材が活躍し存在意義が達成されるためのインクルージョンの両方を不断に目指していくことが重要です。

企業でダイバーシティ推進が必要とされる背景

では、なぜ今企業においてダイバーシティ推進に向けた取り組みが重要視されているのでしょうか。ここでは、3つの理由をご紹介します。

1.市場のグローバル化と加速度的な変化

市場のグローバル化や国外市場の発展が進んでおり、近年では変化のスピードが速くなっています。こうした時代背景から変化に柔軟に対応し、製品・サービスを投入するためには多様な人材による発想が必要です。

2.顧客ニーズの多様化

過去、日本では経済の発展・成熟に伴って生活スタイルや価値観が多様化し、それに伴って少品種大量生産から多品種少量生産へと切り替わりました。

今ではネットショッピングの普及やデジタル広告技術の発展により、潜在的なニーズを発掘できる時代になっています。

このような時代には一定の層に深く刺さる商品が求められます。そのためには企業側が多様な属性、多様な感性や能力、価値観、経験を持った人材を確保し、変わりゆく時代のニーズを迅速にすくい取ることが必要です。

3.労働人口の減少とワークスタイルの変化

日本では少子高齢化により年々労働人口が少なくなっており、すでに従来の男性中心・フルタイム勤務前提の労働条件では人材の確保が困難になっています。

また、近年では男性の労働時間の削減が少子化対策として注目されるほか、労務管理に対する行政や世間の目も厳しくなり、よりよい労働環境を求める若年層の人材確保が性別に関係なく重要です。

2030年には、日本人以外の外国人労働者が63万人不足すると考えられています。また「高度人材を誘致・維持する魅力度ランキング」では25位であり、必要な人材を確保することが難しくなるでしょう(*)。

そのほか、コロナ禍によるリモートワークの急速な普及により在宅勤務や自宅付近のワークスペースでの勤務がホワイトカラーで進み、労働者の希望するワークスタイルも変化しています。
*未来人材ビジョン(経済産業省.2022)

ダイバーシティの取り組みを推進するメリット

企業でダイバーシティを推進することによるメリットは大きく分けて4つあります。
※参考:経済産業省『ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ』

1.採用上の優位性や人材の確保

ダイバーシティが推進されている企業では多種多様な人材が柔軟に働くことができ、職場の人間関係も良好に保たれやすい傾向があります。そのため、採用の優位性や離職率の低下が見込めるでしょう。

女性活躍推進の観点からは出産後に復帰しやすい環境の方が離職率は低く、またそのような将来を見越した求職者の応募も多くなります。

キャリアの観点からは女性管理職率が高いこと、グローバル企業であれば本社とは異なる国の出身であっても役員に昇格したこと等の実績があると優秀な人材の獲得につながります。

2.取締役会の監督機能の向上

金融庁の『投資家と企業の対話ガイドライン』では、取締役会全体のバランスとして「ジェンダーや国際性、職例、年齢の面を含む多様性を十分確保していること、特に女性取締役がいること」が求められています。

これは、均質的なグループシンキング(構成員に対する無言の圧力から、集団にとって不合理な意思決定が容認され得ること)が指摘されているためです。

また、取締役の言動は企業文化に与える影響が強く、取締役以下の管理職・従業員の倫理観にも関係するため、取締役会全体における高いコンプライアンス意識が必要です。

たとえば、下記のような事例が挙げられます。

・明らかなハラスメントに該当する内容が株主総会や役員会、大学の講義の場で発言されてしまう
・失敗する可能性が高いプロジェクトを中断できず、最終的に中断するよりも過大な損失を負ってしまう
・法的には育休制度やパート社員に付与された有給休暇制度があるが、その存在を知らせない・取得させない(*)

*男性育休を含む育児休業制度に関しては2022年4月1日より、企業側から従業員への育休制度の説明が義務化されています。

3.株価への好影響

統計的に、女性取締役のいる企業の方が、いない企業に比べ、リーマンショック後の株式パフォーマンスの回復がよい傾向です(*)。この理由は大きく2点挙げられます。

1点目は上記1に記載した『採用の優位性や離職率の低下が見込める』ことから優秀な人材を獲得でき、人材が習得したスキルが社内に蓄積され続けるためと考えられます。

また2点目としては、上記2に記載した『均質的なグループシンキング』に陥りにくいことで、世の中に良質な製品・サービスを提供できることやコンプライアンスリスクが回避されることがあります。
*H29女性リーダー調査研究報告書1-1(厚生労働省.2019)

4.新商品の開発等イノベーション創出の促進

ダイバーシティを考慮したチームビルディングを行い、自由に意見を交換できる環境を整えることで、既存の製品やサービスの新しい使い方が発見されたり、新規の製品やサービスの開発につながります。

たとえば自動運転車の場合、緊急時だとしても手動で運転することになっていますが、「両腕を失ったり半身不随になっても自由に移動したい」という要望から、自動運転技術の進化も生まれています。

これはスティーブ・ジョブズの「ドットをつなげる(Connecting the dots)」の集団版という捉え方ができます。

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スティーブ・ジョブズは退学後にも大学の授業をいくつか無断聴講しており、その中には「カリグラフィー」という文字を描く技術の授業がありました。

この授業で得た知識をきっかけとしてMac Computerで様々な書体が使用できるようになったことが他社との差別化要因となり、PC黎明期には学校現場へ普及していきました。

するとこれが後に学生達が自らPCを購入する際に「学校で利用したことがあり慣れている物」としてMac Computerを選ぶ理由となり、結果としてApple社の成長を大きく牽引したそうです。

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このように、過去の何気ない体験が突然仕事に活用できるケースは個人単位で存在します。多種多様な人材が集まってオープンなコミュニケーションを取ることで組織内でも発生するでしょう。


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また、「ワークライフ・ハーモニー」と表現することができます。ワークライフ・ハーモニーとは、個人が家庭や趣味等の社外における生活からアイデアを得て仕事に還元されることを指しています。

企業においても、多様な人材が組織内に存在し、かつ発言や行動の場があると多層的・重層的な「化学反応」が発生することで、新しい発想が生まれると考えられるでしょう。

 

ダイバーシティ&インクルージョンを推進する5つの方法と事例

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを推進する際は、多様な人材が組織内で存在意義を持ちながらパフォーマンスを発揮できる環境、いわゆる「共在」を意識しましょう。

すべての人に対し「仕事の機会を与える」という視点ではなく、あくまで「この仕事なら活躍できそうだ」と、ひとりの人間として認識することが重要です。

ここでは、5つのポイントから取り組みのポイントと事例をご紹介します。

1.アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)に気づく機会を作る

アンコンシャスバイアスが発生しやすいものとしては、性別・年齢・学歴が挙げられます。

「無意識」と付く通り自主的に自覚することは難しいため、研修や社内意識調査のフィードバック等の機会が必要です。

たとえば、LGBTQに対するアンコンシャス・バイアスの場合、e-Learningの研修や社内へアンケートを取って集計結果や当事者の声を紹介することが役立ちます。

結婚や恋愛観に関係する話が職場でされることはハラスメントになりかねません。法律上の性別以外の性自認をシステムにデータ管理されること自体が人事部門やシステム部門に対するカミングアウトになるため避けたい方もいます。

そのため、従業員の多様な声が社内にあることを共有できるとよいでしょう。

 

2.働きやすさを実感できる制度や風土を作る

人事制度の観点から、働きやすさを支援することもダイバーシティ施策へ有効です。

たとえば、フレックス制度といった労働時間の裁量化のほか、事業所だけでなく在宅勤務の環境を支援するサービスを福利厚生として支援することが挙げられます。

また、組織風土の観点では、従業員同士のコミュニティを活発化する仕掛けがあるとよいです。

出産前や育児中の従業員同士が情報交換や日常会話を行えるようなコミュニティや、育休制度の説明会に実際に取得した従業員が出席する等、多様な働き方をしている例を実感できる場づくりを支援することも並行して行うとよいでしょう。


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例:当社利用Slackにおける、プレを含むパパママが自由参加するチャンネル

 

ダイバーシティ&インクルージョンの文脈としてはあまり着目されていませんが、中途入社の従業員が組織に馴染みやすくすることも必要な施策です。

中途入社では「社内用語がわからない」「社風(どんな人が多いか)がわからない」「ほかの人がどんな仕事をしているのかわからない」の『中途入社者3大わからないの壁』があります。

そのため、中途入社者が「受け入れられている」と感じられる機会を積極的に作れるとよいでしょう。

1つの例として当社のコンサルタントや開発の各組織では、Web会議の特性を生かして「中途入社後数か月の従業員に経歴や入社後の感想をインタビューをするラジオ」や「十数人の先輩が入室していて、いつ話しかけてもいいWebミーティング」といったイベントが各部署で行われています。

3.従業員同士が働きやすい人材配置を行う

先に述べたイノベーション創出の観点や通常業務が止まらないようにするためにも、人材配置には多様性が必要です。

たとえば、小さなチームでは「公立小学校の授業参観日が一緒なので部署に誰もいない日ができてしまった」といったこともあります。業務の共有化はもちろんですが、カバーできる人員を確保しておくことも必要です。

一方で、人材配置を考える時には、組織内のメンバーを閉じられた複数のグループに分断してしまう「フォルトライン(分断線)」を考慮する必要があります。

フォルトラインは多様性が中程度で2つ、3つに凝集しやすい属性があると強くなると言われており、同質性の組織から多様性を持つ組織に変えようとした結果、逆にフォルトラインが現れて組織を分断してしまう恐れがあります。

フォルトラインは、十数人程度のチームでは避けることが難しいです。数名単位での多様性を持たせたり、趣味のようなつながりからでもよいので、他部署との交流の機会を会社がサポートしたネットワーク型組織を構築できると分断による軋轢を緩和できるでしょう。

4.一人ひとりの特性が異なることを前提としてコミュニケーションをする

人によって限られた時間内にどれだけアウトプットを出せるのか、その日どれくらい成長のために働きたいのかは異なります。

そのため「育休復帰後の時短社員には軽めの仕事をお願いする」「若者は飲み会には誘わず残業もさせるくらいなら管理職自身がやる」等、配慮をしすぎてしまう点には注意が必要です。

管理職は一人ひとりの特性と意欲を観察し続けることが必要です。マネジメントの方法や意識改革へのサポート、人事施策推進に協力的な仲間を社内に持つことが重要となるでしょう。

また、ダイバーシティ&インクルージョンを推進していくと、従業員主催でコミュニティができることもあります。コミュニティ自体は文化形成に有用なため人事部として推進することに問題はありませんが、同時に「コミュニティに入らない権利」も認める必要があるでしょう。

たとえば「LGBT+Qとその支援をするAlly(アライ)に関するコミュニティ」がある場合、参加していない人がLGBT+Qに不寛容なわけではありません。

従業員一人ひとり、持てるエネルギーや時間、情熱は異なります。組織の一員として文化に共感しているのであれば、「参加しないことも多様性の一つとして認めること」も政策に含めましょう。
 

5.メッセージを根気強く発信し続ける

ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みを企業全体に浸透させていく過程においては、経営陣や人事部からのメッセージが正しく伝わっているか、現場の管理職からのフィードバックを受けることが重要です。

たとえば女性活躍推進の取り組みでは、「人間の約半数は女性なのだから、管理職の半数は女性に」と目標を掲げられるケースがあります。

しかし女性従業員のキャリア希望や管理職にふさわしい実力になるまでの育成戦略、管理職の労働負荷が男女ともに過負荷でない環境が備わってなければ、会社の方針と従業員の意向が合致しないでしょう。

様々な人事施策の中でも「文化形成」は特に時間がかかります。根気強く全体にメッセージを発信し続けることや、現場の従業員の意見を拾い上げる対話の場等を継続的に持てるとよいでしょう。
 

自社にあったダイバーシティ&インクルージョン施策を

ダイバーシティの拡大は、人材活躍の場の作り方と関連しています。また、ダイバーシティ&インクルージョンは、キャリア支援と密接に関係しています。

ダイバーシティの方がインクルージョンよりも先に広まった概念ですが、ただダイバーシティを広げていくだけでは、ジョブという「椅子」に対して実力や意欲がマッチングしない人材が座ることになってしまいます。

エンゲージメントサーベイや研修のアンケート、評価フィードバック面談等により従業員の声を拾うことも有効です。

得られた従業員の声は経営陣や現場の管理職と情報共有を行いながら、組織全体でダイバーシティの拡大とインクルージョン施策へ取り組み、文化と制度を漸進的に変化させていくとよいでしょう。

この記事を書いた人

ライター写真

眞柴 亮(Mashiba Ryo)

2006年、ワークスアプリケーションズに入社後、通勤手当や寮社宅等福利厚生を専門に、大手法人の制度コンサルおよびシステム導入を担当。2019年、2020年と子会社の人事給与BPOベンダーであるワークスビジネスサービスに出向し、受託業務の効率化や品質改善に携わるほか、複数顧客に対し人事関連業務のBPRを実施。出向復帰後は顧客教育部門であるWorks Business Collegeを経て現職。

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