突然ですが、今この記事を読んでいらっしゃる人事の皆様は従業員の人事評価に関する実態をご存じでしょうか。
従業員にとって、給与や賞与に関わってくる、そしてひとりひとりの成長に繋がる役目を持つ重要な人事評価。人事の皆様も期末に各部門から集まってくる人事評価に対して調整・通知を実施する必要があり、何かと骨の折れる作業かと思います。
ですが、一部の調査では、実は6割以上が人事評価結果に不満を持っているという結果が出ており、納得して受け入れている人は4割にも満たないことが明らかになりました。
人事評価の納得感を高め、従業員にモチベーション高く、そして長く働いてもらうためにはどうすればよいのでしょうか。本記事では、人事評価の基準や項目等の基本的な内容から述べつつ、企業が実際に取り組んでいる事例を交えながら人事評価に納得感を出すための3つのポイントをご紹介していきます。
目次
ー 人事評価とは?3つの評価基準と評価項目
ー 従業員が人事評価に不満を持っている理由
ー 人事評価における人事部の悩み
ー 人事評価に納得感を出すための3つの方法
ー 人事評価を理解して従業員満足度を向上させるために
人事評価とは?3つの評価基準と評価項目
人事評価とは
人事評価とは従業員の仕事ぶりや成果のフィードバックを行うことです。
評価の目的は、大きく3つあります。
①処遇:給与、賞与、昇進・昇格の決定
②配置:個々人の能力と適性を把握し、適材適所を実現
③育成:必要な人材の明確化や、フィードバックを通じた人材の育成(能力開発)
人事評価の基準
人事評価は、大きく3つの基準を用いて実施し、安定的な能力の見極めを行います。
①業績評価
業績評価とは、日々の業務を通じて一定期間の内に創出された業績・成果の評価です。
処遇への反映の観点では、主として賞与に反映されます。
②能力評価
能力評価とは、個人が保有、または発揮する能力を評価するしくみです。
③情意評価
情意評価とは、仕事に対する意欲や行動、勤務態度を評価するしくみです。
人事評価の項目
また、それぞれの評価においては、下記の項目が設けられています。
①業績評価
業績・成果にかかわる評価項目を主としますが、所定の指標について評価するタイプのものもあります。
例:「売上高」「目標達成率」
品質や生産性に個人差が生じづらい業務の従業員が一定数いる場合は、就業実績や勤務態度を評価項目として代用することがあります。また、個人業績・成果が特定しづらい業務については、チームとしての成果とこれに対する個人の貢献度を評価し、これをもって個人業績・成果とするケースもあります。
②能力評価
仕事をする過程で発揮した知識・技能・技術が主な評価項目です。汎用性の高い要素を等級ごと、もしくは等級 × 異動の境界線が明確な職種ごとに 評価項目とします。
例:「理解力」、「判断力」、「企画力」、「折衝力」、「統率力」
③情意評価
情意評価では、仕事に対する積極性や会社の規定に対する態度を評価項目とします。
例:「責任性」「チームワーク」「セルフモチベート」
定性的な評価項目となるため、具体的な評価基準を提示することが必要です。
人事評価の方法
人事評価を実施する際は、上記の人事評価基準・項目を利用して主に3つの方法が用いられます。
目標管理評価
目標管理(MBO)とは、個々の担当者に自らの業務目標を設定・申告させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する評価方法です。 ピーター・ドラッカーの著書、『現代の経営』の中でマネジメント手法として提唱されました。
多面評価(360度評価)
多面評価(360度評価)とは、上司、同僚、部下等、立場や対象者との関係性が異なる複数の評価者によって、対象者の人物像(実態)を多面的に浮き彫りにする評価手法です。
コンピテンシー評価
コンピテンシーとは、高い業績・成果につながる行動特性(またはこれをモデル化したもの)のことを指します。この「成果につながる行動の特性」をモデル化し、これについて、従業員を評価する方法がコンピテンシー評価です。
従業員が人事評価に対して不満を持っている理由
前項のように、企業で決められた人事評価制度の下、評価基準・評価項目に則って評価を実施したつもりでも、6割以上の従業員が結果に不満を持っています。
その理由には、下記のケースが挙げられます。
・人事評価の基準が不明瞭である
・評価者の価値観によってばらつきが出る
・フィードバック、説明が不十分である
評価されないので昇格・昇給しない、実際に評価結果が出ても納得しない、ゆえに不満が溜まっていく、そうした結果辞めていってしまう人も少なくありません。特に営業のような、結果が数字でわかりやすい部署であれば比較的納得感が得られやすいですが、成果を数値で図りにくい部署では、人事評価の基準が不明瞭であるという不満が多くあります。
また、数値目標に対しての達成度合いはわかりやすいものの、定性的な評価項目、行動基準に則った評価項目は、評価者の価値観により少なからず差が出てしまうこともあるでしょう。そのため、より評価に納得ができないという不満の元になっているケースが見受けられます。
さらに評価結果が開示された後の、フィードバック面談の有無でも評価への納得度が分かれます。上司がいかに人事評価の背景を理解して説明ができるかが大きなカギとなりますが、評価調整の背景を知らない上司が実施することであいまいなフィードバックとなってしまう、といったお悩みを抱える企業も少なくありません。
人事評価における人事部の悩み
現場で納得感を得られていない状況をキャッチできたとしても、実際どのようにして納得感を出すのかについてすぐに答えを見つけることは難しいかと思います。
実際に人事評価に対する従業員の満足度が低い企業では、下記の課題を抱えているとの声をお伺いしました。
・評価を付ける人とフィードバックを伝える人が異なるため、伝え方を誤るとトラブルになってしまう
・人事評価に納得感を持たせるためにフィードバックを実施してもらうようにしているが、実際うまく機能しているのか、そもそも実施されているのかすら把握しきれていない
・業績評価の目標設定数やレベルが異なるため、人事評価にばらつきが出る
・行動評価項目が抽象的な表現であるため、評価基準が人それぞれになってしまっている
・業績評価と行動評価を総合的に見て判断する際に、議論がかみ合わない
今この記事を読んでくださっている人事部の皆様の中にもきっと、どうすれば従業員により納得感を持って評価結果を受け止めてもらえるのか、頭を悩ませているかたがいらっしゃることと思います。
人事評価に納得感を出すための3つの方法
では、人事評価に対する課題を抱えている企業が多い中で、実際に納得感を持たせるためにはどうすればよいのでしょうか。
大きく分けて3つのポイントが挙げられます。
①評価基準を明確にすること
②評価の透明性を高めること
③評価以外でも日常的にコミュニケーションを取ること
それでは1つずつ見ていきましょう。
①評価基準を明確にする
まずは評価基準を明確にする、つまり評価項目やその定義、評価方法を明確にすることが1つ目のポイントです。そうすることで、誰から見ても理解しやすい人事評価となるため、よくも悪くも納得感のある結果が出るようになります。
一部の調査では、評価結果を不満に思う従業員の6割程度は「評価基準が不明瞭」であることを主な理由として挙げられています。
そのため、まずは評価基準を明らかにすることが納得感を高めるための1つの方法であるでしょう。また、明確にされた評価基準を評価者にきちんと伝えるための方法として、評価者研修を実施する企業も増えてきています。
そもそもの定義や評価方法が明確になっていない場合は、評価項目の見直しをすることも効果的な方法の1つです。特に行動評価項目においては、「項目数が多い」「表現が曖昧で人によって評価の基準がばらばら」という課題が多く見受けられます。
この場合は、たとえば必要な人材像を整理し、評価項目を絞ってより明確なものに設定しなおすことで、評価者の判断を容易にすることが可能です。
②評価の透明性を高める
次に、どうしてこの評価結果に至ったのか、経緯を明らかにすることが2つ目のポイントになります。
一般的に、人事評価は段階を追うごとに相対評価が入ってくることが多く、どこでどのような評価調整が入ったのか、理由や背景を伝えることが大切です。実際に、上司からのフィードバックの場を用意して本人にしっかりと伝え、納得感を高めるという取り組みをしている企業が増えてきています。
また、面談での口頭のフィードバック徹底をするだけでなく下記の取り組みを実施する企業もあります。
・異議申し立てができる
・評価面談後にアンケートや結果報告書を提出させる
・評定だけではなく内訳の点数や、最終結果に至るまでの調整の過程を本人に開示する
同じB評価であっても、Aに近いBなのか、Cに近いBなのか、口頭で何となく伝えるのではなく、自らの目を通じ数字ではっきりと見ることができるようになることで本人の意識も変わります。
また、評価の透明性を上げ、どこを伸ばせば評価が挙げられるのかが明確になることは、モチベーションの向上にも繋がるでしょう。
③評価以外でも日常的にコミュニケーションを取る
3つ目のポイントは、評価以外でも日常的にコミュニケーションを取ることです。
以前、「1on1の効果と課題」記事でもご紹介した通り、部下は上司に対して業務の話だけではなく、キャリアの話や雑談等もできる関係にあることが大切です。これにより、本人の警戒心が薄れ、本音を話せるようになる傾向があります。
評価面談の時にだけ1対1で話すとなると、お互いどのように話せばいいのかわからなかったり、上司は部下に最適なフィードバックをすることが難しくなったりします。
しかし、日頃から密なコミュニケーションをとり、部下の業務内容も把握できていれば、これまでと違う一面が見え、お互いの考え方も理解できるため、フィードバックを受けた際の不満が出づらくなるでしょう。
また、人事評価と評価の理由だけを本人に伝えるのではなく、今後の期待のような育成に繋がる対話を実施する企業も増えています。振り返りをするだけでなく、将来的な話もすることで部下のモチベーションを上げることに繋がります。
ただし、今後の期待や育成の話は日常的なコミュニケーションがないと汲み取りにくい部分であるでしょう。人事評価にプラスαの話をするためにも、そしてよいチーム作りのためにも、日常的なコミュニケーションは欠かせないものであると言えます。
人事評価を理解して従業員満足度を向上させるために
このように、人事の皆様は悩まれつつも、様々な取り組みを実施されています。
会社全体として評価の過程をどこまで開示するのか、評価項目や定義、評価方法をどのように変えていくのか、企業に合った形を見つけて決めていく必要があるでしょう。
今一度、自社の人事評価制度について振り返ってみてはいかがでしょうか。