社会保険とは?2022年法改正概要や5種類の保険を活用するメリット

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最終更新日 2023年6月6日

社会保険とは?2022年法改正概要や5種類の保険を活用するメリット

目次

社会保険とは?
【企業側・従業員側】社会保険5種類の活用メリット
社会保険の加入要件とは?
【法改正】社会保険適用範囲拡大に伴う加入条件の変更
法改正を踏まえた社会保険のポイント3つ

社会保険とは?

社会保険は、公的制度として提供される社会保障制度4分野の1つです。様々なリスクから、国民の生活を守るために設けられています。

4分野の概要は、下記の通りです。

・社会保険:生活の安定を図るため、条件を満たせば加入しなければならない、強制加入の健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険等があり、怪我や病気・障がい・死亡等の際に様々な給付が受けられる制度。
・社会福祉:障がい者や子ども・高齢者・ひとり親家庭等、生活を送るうえで立場の弱い人が、公的支援を受けられる制度。
・公的扶助:憲法に基づき、生活に困窮している人が最低限度の保障を受けられる制度。
・保健医療・公衆衛生:人々が健康で安全な生活を送るための、様々な予防や衛生に関わる制度。

社会保険の支払い不備は罰則に繋がる

社会保険は支払いに不備があったり、滞納を続けたりすると、健康保険法に基づき重い罰則を受けることがあります。社会保険を滞納した場合、管轄の省庁や事務所から督促状が届き、指定期限までの支払いを求められます。

もし期日までに支払いができなければ、期日の翌日から延滞金が発生してしまいます。延滞金は、納付期日の翌日から納付の前日までの日数に、保険料額に定められた割合を乗じて算出された金額です。

【画像】ビジネスコラム_社会保険_202209①.jpg

出典:日本年金機構「延滞金について

【企業側・従業員側】社会保険5種類の活用メリット

社会保険は、従業員だけでなく企業にとってもメリットがあります。前述したように、社会保険の種類は下記の5つです。

・健康保険
・厚生年金保険
・介護保険
・雇用保険
・労災保険

各社会保険の内容と、企業側・従業員側のメリットを紹介します。

①健康保険|怪我や病気の医療費を会社が負担する

健康保険とは、従業員の怪我や病気・出産等の際に企業が医療費を負担する保険です。従業員の生命や健康を守るために使用されます。

企業側・従業員側のメリットは以下の通りです。

企業側のメリット
企業側にとって最大のメリットは、「社会保険に加入できる」ことがアピールできる点です。求職者にとって社会保険は会社選びの重要な要素であるため、応募率向上が期待できます。また法人の場合は、社長や役員も被保険者として健康保険に加入できます。

従業員側のメリット
従業員にとって最大のメリットは病気や怪我によって医療機関で受診する際、医療費負担が軽減できる点です。条件を満たしていれば同居家族が被扶養者となり、同様の保険制度を受けられます。

保険料はどうなる?

保険料は、企業が加入している健康保険の種類で異なります。

社会保険には、全国健康保険協会が運営する「協会けんぽ」と、独自に設立した健保組合が運営する「組合健保」の2種類が存在します。

協会けんぽは都道府県ごとに異なる保険料率が設定されており、令和4年度で9.51%〜10.65%の範囲です。組合健保は保険料率を組合ごとに設定でき、令和4年度の全国平均保険料率は9.26%です。

協会けんぽより組合健保の方が、保険料率を若干少なく設定していることがわかります。
出典:全国健康保険協会「令和4年度都道府県単位保険料率
出典:健康保険組合連合会「令和4年度 健康保険組合 予算編成状況について -予算早期集計結果の概要-

②厚生年金保険|国民年金と合わせて老後に備える

厚生年金保険とは、公務員や会社員が加入する公的な年金制度です。厚生年金保険に加入していれば、高齢者になった際にもらえる年金が増えるため、国民年金と合わせて老後に備えられます。

企業側・従業員側のメリットは以下の通りです。

企業側のメリット
運用益を上乗せして給付するため、退職金の資金に利用できます。経費として認められるため、税制面の負担も軽減されるでしょう。何より、企業としての社会的信頼度が得られます。

従業員側のメリット
国民年金保険に加えて厚生年金保険を納めるため、65歳から国民年金に上乗せして厚生年金を受け取れます。保険料は企業と折半であるため、国民年金保険よりも経済的負担を減らせることがメリットです。

③介護保険|介護サービスを受けられる

介護保険とは、介護を必要とする高齢者に費用を給付し、介護サービスが受けられる保険制度です。介護保険(第2号被保険者)は、40歳になると介護保険料の加入義務が生じ、40歳から64歳までの被保険者は、加入している健康保険と合わせて徴収されます。

介護保険(第2号被保険者)の保険料は、健康保険とともに企業・従業員で折半して支払います。

企業側・従業員側のメリットは以下の通りです。

企業側のメリット
優秀な従業員が親の介護により退職、休職するケースを避けられる可能性があります。高齢化社会により65歳以上の人口が増えている昨今、人材流出のリスクを減らしておきたい企業は多いでしょう。

従業員側のメリット
介護認定を受けると、訪問介護やデイサービス、ショートステイ等、様々な介護サービスを利用できます。この際、自己負担が1〜3割で済むため、経済的負担が抑えられます。

④雇用保険|従業員の雇用に関するサポートを行う

雇用保険とは、労働者が失業して再就職を目指す際に、必要な給付や支援が受けられる制度です。31日以上継続して雇用が見込まれており、週の所定労働時間が20時間以上であれば雇用保険の被保険者に該当します。

企業側・従業員側のメリットは以下の通りです。

企業側のメリット
企業側は様々な給付金を受給できることがメリットです。雇用調整助成金や労働移動支援助成金、トライアル雇用助成金等が受けられます。

従業員側のメリット
待機期間や受け取れる日数は定められていますが、失業して求職活動を行っているあいだは失業給付を受け取れます。

条件を満たせば、公共職業訓練受講中は待機期間なしで失業給付を得ながら、転職に必要な知識やスキルを学ぶことが可能です。
 

⑤労災保険|業務に関わる事故の被害を補償する

労災保険とは、就業中もしくは通勤中の怪我や病気・障がい・死亡に対し、従業員本人や遺族に必要な補償を給付する制度です。被保険者が社会復帰する際にも、労災保険が適用されます。

企業側・従業員側のメリットは以下の通りです。

企業側のメリット
従業員が前述の災害に見舞われた際に、労災保険に加入していれば災害に対しての補償を労災保険で対応できます。加入していない場合、労働基準法に基づき、企業は療養補償を含むすべての補償を行なわなければなりません。

従業員側のメリット
労災保険で手厚い補償が受けられます。医療費の負担や賃金相当額の休業補償、障がいが残った際、就業中や通勤中に交通事故を起こした際の補償等が適用の対象です。
 

社会保険の加入要件とは?

社会保険に加入するには、特定の加入要件を満たす必要があります。

事業所には、社会保険に加入必須の「強制適用事業所」と、強制ではないが加入できる「任意適用事業所」の2種類が存在します。

強制適用事業所は、特定の業種以外で5人以上が常時雇用される事業所、もしくは事業主のみの場合を含む法人事業所です。任意適用事業所は、強制適用事業所に該当しなくても、従業員の過半数が同意し、厚生労働大臣の認可を受ければ社会保険に加入できます。

以下の条件を満たす人は強制加入対象者に該当します。

・法人の代表者及び役員
・正社員
・使用期間中の従業員
・外国人従業員

他にも、パート及びアルバイトは、後述の条件を満たせば、社会保険に加入できます。

社会保険の加入要件①|パート・アルバイトの方

パート及びアルバイト雇用でも、週の労働時間及び労働日数が通常労働者の4分の3以上ある場合、社会保険に加入する義務があります。

もし労働日数が条件に満たなくても、次の5つの要件をすべて満たしていれば、加入対象です。

・週の労働時間が20時間以上
・1年以上の雇用が見込まれる
・月の賃金が88,000円以上
・学生でない
・特定適用事業所もしくは任意特定適用事業所に勤務している

日雇いや短期間の勤務、所在地がない事業所に勤務する従業員等は、加入対象外です。
 

社会保険の加入要件②|被保険者に扶養されている方

被保険者との続柄及び収入の条件を満たしていれば、被保険者の扶養に入れます。配偶者の場合、年収に応じて、扶養に入れるかどうか決まります。

扶養に入るには、年収が130万円未満で、被保険者に主として生計を維持される人でなければなりません。60歳以上及び障がい者は、年収180万円未満が基準です。

主として生計を維持しているかの基準は、以下の通りです。

・被保険者と同居している場合:収入が被保険者の2分の1未満
・被保険者と同居していない場合:収入が仕送り額を下回っている
 

【法改正】社会保険適用範囲拡大に伴う加入条件の変更

年金制度改正法の成立による社会保険適用範囲拡大に伴い、社会保険の加入条件が変更されます。今後予定される加入条件の変更について、以下に説明します。

①2度の適用範囲拡大が予定されている

法改正によって、令和4年10月及び令和6年10月に2段階で社会保険の適用範囲が拡大されます。加入条件の対象は、事業所及びパート・アルバイト等の短時間労働者です。

令和4年10月に変更されるものは、以下の要件です。
・特定適用事業所の要件
 変更前:短時間労働者を除く被保険者数が、常時500人超
 変更後:短時間労働者を除く被保険者数が、常時100人超
・短時間労働者の適用要件
 変更前:雇用期間の見込みが1年以上
 変更後:雇用期間の見込みが2ヶ月超

令和6年10月に変更されるものは、以下の要件です。
・特定適用事業所の要件
 変更前:短時間労働者を除く被保険者数が、常時100人超
 変更後:短時間労働者を除く被保険者数が、常時50人超

②新しく加入対象となる従業員との事前調整や通達等が重要

令和4年10月及び令和6年10月の社会保険の適用範囲拡大によって、より多くの労働者に社会保険の加入が義務付けられます。

メリットの多い制度ですが、以下のような不安や疑問に対処するため、事前の調整や通達を行いましょう。

・保険料が引かれることによって、手取りの収入が減るのではないか
・扶養の範囲内で働いているが、扶養から外れることになるのではないか

こういった不安や疑問を放置すると、従業員とのトラブルに繋がりかねないため、早めの対応を心がけましょう。
出典:日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大

法改正を踏まえた社会保険のポイント3つ

社会保険は年金制度改正法が成立した影響を受けて、令和4年10月及び令和6年10月に、段階的な適用範囲の拡大が決まっています。法改正を含めた社会保険の制度運用におけるポイントを、以下に紹介します。

①社会保険の適用範囲が徐々に拡大していく

社会保険の適用範囲が拡大されるにあたって、企業側は自社の対象者及び対応を把握しておく必要があります。従業員が法改正によって適用基準に入る場合は、加入対象者への説明をしなければなりません。

説明を怠ってしまうと、新たに社会保険が適用された従業員に対して、給与から社会保険料が引かれることに納得してもらえず、トラブルに繋がる可能性があります。余裕のあるスケジュールを立てて、両者で認識のすり合わせを行いましょう。

②社会保険の支払いが猶予される制度を確認しておく

社会保険には、一定の条件を満たす場合に、事業主負担分の納付を猶予する制度が存在します。

現在であれば、新型コロナウイルス感染症の影響で事業収入に相当の減少があった場合は、無担保・延滞金なしで、1年間納付を猶予される納付猶予特例制度が実施されています。(2022年8月25日現在)

猶予期間中は、各月に分割で納付することが可能となり、延滞金が年8.7%から0.9%に軽減されます。また、財産の差し押さえや換価が猶予されます。

猶予制度を利用する際は、年金事務所へ申請する必要があるため、最寄りの年金事務所に問い合わせてみましょう。
出典:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響により厚生年金保険料 等の納付が困難な事業主の皆様へ

③手続きの負担を減らす行政サポートを活用する

社会保険の手続きは、電子申請が便利です。電子申請には、以下のようなメリットがあります。

・年金事務所やハローワークへ足を運ぶ時間や交通費が節約できる
・データで申請できるためペーパーレス化に繋がり、郵送にかかる費用が抑えられる
・保険証が紙での申請より3〜4日早く届く
・24時間365日いつでも申請可能で、紙での申請より処理が迅速に行われる

不明点がある場合は相談チャットや問い合わせフォーム等、行政サポートを活用しましょう。
出典:日本年金機構「電子申請・電子媒体申請(事業主・社会保険事務担当の方)
出典:厚生労働省「電子申請(申請・届出等の手続案内)

従業員や会社のため、社会保険の正しい理解を

社会保険は従業員を守る大切なしくみで、正しく理解しておかないと罰則を受けることがあります。

従業員はもちろん会社を守るためにも、常に法改正等の最新情報を確認し、対応に備えておく必要があります。業務の運用を負担なく行えるよう、行政サービス等の活用も視野に入れるとよいでしょう。
 

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