2024年の人事トレンド4選!企業が取り組むべき対策とは?

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2024年の人事トレンド4選!企業が取り組むべき対策とは?

人的資本経営という概念が提唱されて以来、経営において人材の価値に注目が集まるとともに、企業は働き方、人材育成、多様性とこれまで以上に様々な課題に向き合ってきました。その傾向は2023年から変わらず、2024年も継続すると考えられます。

本記事では、2023年を振り返りつつ、2024年にトレンドとなるキーワードについて解説します。

2023年の人事トレンド振り返り

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2023年、人事トレンドとして弊社が注目したのは「労働移動の円滑化」と、育児・介護との「両立支援」でした。

労働移動の円滑化については、転職、社外副業といった企業間で人材を受け入れ合う動きが活性化すると予測しました。これについては、引き続き政府が支援していく姿勢ですが、まだ基盤を整えている段階であり、企業間でも副業人材を受け入れ合う動きは一部に留まっています。

育児・介護との両立支援について、特に育児との両立支援は人的資本開示で男性育休取得率の開示が義務化されたこともあり、注目が集まりました。


この人的資本開示も、2023年に大きく注目されたトレンドの一つでした。2023年3月期決算より、上場企業の有価証券報告書において人的資本開示が義務化され、多くの企業が試行錯誤の中、初めての人的資本開示に取り組みました。

開示に取り組む中で、そもそもの人材戦略の練り直しや、指標を算出する際のデータ整備といった課題に直面した企業もいらっしゃるのではないでしょうか。

また2023年6月には、内閣府から「経済財政運営と改革の基本方針」(以下、骨太の方針)が発表されました。

2022年の骨太の方針では「人への投資」の重点支援が掲げられており、2023年もその方針に変わりはないですが、より具体的に「三位一体の労働市場改革」として、以下3点への支援が掲げられています。

「リ・スキリングによる能力向上支援」
「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」
「成長分野への労働移動の円滑化」

出典:内閣府ホームページ.経済財政運営と改革の基本方針2023
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/2023_basicpolicies_ja.pdf


上記3点のうち、特に「リ・スキリングによる能力向上支援」については、「5年で1兆円の『人への投資』施策パッケージのフォローアップと施策の見直し等を行う」とされ、その動向に注目が集まります。

2024年に予想される4つの人事トレンド

2024年の潮流は、AIに代表される技術の進歩と人手不足です。生成AIの分野で画期的なサービスが登場したことにより、いよいよAIがビジネスを大きく変える可能性があり、生成AIを活用できない企業が活用している企業に対し、後れを取る未来さえ見えてきました。

また人手不足の問題も深刻さを増しています。出生数が減少の一途を辿っている現状を踏まえると、企業の多様性を高めることで人手不足に対応することが求められます。

女性が管理職として活躍できる環境作りや介護離職を防ぐ施策を実施しなければ、現在の収益を維持できない可能性もあるでしょう。

これらの潮流も踏まえながら、2023年から続く動きも考慮し、2024年に注目が集まると予想される人事トレンドは以下4つです。

 

1.リスキリング
2.多様性(女性活躍推進、介護との両立支援)
3.建設業、運送業、医師の労働時間上限規制
4.ChatGPTに代表される生成AIの活用

 

これら4つのテーマについて、それぞれ注目される背景や企業が取るべき対応を詳細に解説します。

1.リスキリング

1つ目のテーマはリスキリングです。前述した通り、2023年の骨太の方針で掲げられた「三位一体の労働市場改革」の一つとして、政府の重点支援が予想されます。また政府支援があるだけではなく、データ分析やAI活用といった観点からも企業にとって重要視されています。
 

リスキリングが注目される背景

リスキリングが注目される背景として、以下の2つが考えられます。

1.従業員のデータリテラシー向上
人手不足を背景に、業務効率化やさらなる生産性向上が求められています。これらに取り組むためには、ITの活用が必要不可欠であり、従業員一人ひとりのITスキルの底上げも必要です。

また、IoTやシステムの活用が進めば、様々なデータの蓄積が可能になります。蓄積されたデータを分析し、戦略策定や意思決定に使うためには、データ分析のスキルを持った人材が求められます。

2.AIの発展
AIの技術が進歩していく中で、単純作業はAIに取って代わられるでしょう。AIに仕事が奪われた場合、新たな職種や業務に対応するためにもリスキリングが必要です。

一方で、生成AIはビジネスの変革をもたらす可能性もあります。生成AIを活用したビジネスモデルの変化に対応できるよう、AIそのものを使いこなすためのリスキリングも求められます。
 

リスキリングにおける企業の対応

リスキリングを浸透させるには大きく3つのステップがあります。まずは自社がリスキリングにおいて、次の1〜3のどのステップにいるのかを把握しましょう。

ステップ1. 従業員の学ぶ意欲を喚起する
ステップ2. 学ぶ環境を用意する
ステップ3. 学んだことを活かす場を用意する

多額の投資をして学習システムを導入したとしても、従業員に学ぶ意欲がなければ活用されません。

ステップ1として、まずは従業員の学ぶ意欲を喚起し、継続させることが重要です。従業員間で学習のコミュニティを作ることは、モチベーションを喚起する一つの手段です。お互いに学習内容や状況を共有し合うことで、モチベーションの向上・維持が見込めます。

ステップ2として、自社に学ぶ環境が不足している場合は、新たな研修の企画やeラーニングシステムの導入等、従業員が学べる環境や機会を増やしてみましょう。

ステップ3では、学んだ環境を活かすために、公募制、FA制度のような手挙げ式の制度や、社内インターンシップのような他の職種を体験する制度を取り入れることも有効です。

自社がどの段階にいて、どの施策を打つべきかを把握することが重要といえるでしょう。

2.多様性

2つ目のテーマは多様性、特に女性活躍推進、介護との両立支援に注目が集まるでしょう。

人的資本開示において、女性管理職比率が開示義務項目となったことに加え、政府は女性役員比率に関して目標値を定めました。また、団塊の世代が75歳となる2025年問題が目前に迫っており、企業は従業員の介護との両立支援への対応が急務となるでしょう。

2-1. 女性活躍推進

女性活躍推進が注目される背景

女性活躍推進が注目される背景として、人的資本開示において「女性管理職比率」の開示が義務項目になったことが挙げられます。

投資家、求職者、従業員といった社内外のステークホルダーから他社と比較されるため、各企業の意識も高まっていると考えられます。さらに2023年、政府は「2030年までに女性役員比率を30%」とすることを努力目標として定めました(東証プライム市場上場企業のみ)。
出典:内閣府ホームページ. 女性版骨太の方針2023(https://www.gender.go.jp/kaigi/danjo_kaigi/siryo/pdf/ka70-s-1.pdf

そのため、女性活躍推進においては特に「女性管理職比率の向上」が重要になることが想定されます。
 

「女性管理職比率の向上」における企業の対応

「女性管理職比率の向上」に向けて、企業が取り組むべきことは組織サーベイや人事データの分析を通じて、女性の管理職昇格に対する阻害要因を特定することです。

女性の採用数が少ないのか、育児との両立が難しいのか等、女性の管理職昇格を阻害する要因は企業によって様々です。自社の阻害要因を特定し、その要因をなくすための教育研修、サポートの施策を考えるとよいでしょう。

女性管理職比率を向上させるうえで重要なのは、管理職への登用、さらには役員就任といったパイプラインの構築であり、いかにこのパイプラインを途切れないようにするかが企業に問われます。

2-2. 介護との両立支援

介護との両立支援が注目される背景

人口ボリュームゾーンである団塊世代が、75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」がすぐそこに迫っています。

厚生労働省によると、2025年度には介護職員の必要数が約243万人とされ、これを満たすには、2019年度の介護職員数に対し、約32万人が不足している状況です。
出典:厚生労働省ホームページ.第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について 別紙1(https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/000804129.pdf

このように介護職員が不足する中、今後は家族介護の必要性も高まると考えられます。働きながら介護を行うビジネスケアラーも増加していくことが予想されます。

人手不足の企業にとっては、せっかく育成した人材や優秀な人材が介護によって離職してしまうのは避けるべき事態でしょう。組織としても、介護を抱える従業員への両立支援を行うことは必須になると考えられます。
 

両立支援(介護)における企業の対応

両立支援(介護)において企業が取るべき対応は、定期的に全社研修を行い、両立に関して抱えている課題を当事者だけでなく、上司や同僚も含めて理解を深めてもらうことです。

また、業務が属人化して休暇を取れない状況をなくすために、業務の標準化や職場での情報共有を研修を通じて促すことも重要です。

このような研修は、実際に介護を抱えている従業員やその予備群に対し「組織として介護との両立支援を行っていく」というメッセージを伝える場にもなります。

3.建設業・物流業・医師の労働時間上限規制

3つ目のテーマは建設業、運送業、医師の労働時間上限規制の終了です。2024年4月にこれら3業界に対して認められていた猶予期間が終了することに伴い、業界が抱える人手不足の問題がよりいっそう深刻になることが予想されます。
 

建設業・物流業・医師の労働時間上限規制が注目される背景

2019年以降、段階的に導入された働き方改革関連法では、建設業や物流業、医師といった一部の業種には、労働時間の上限規制に2024年3月31日までの猶予期間が設定されています。

この猶予期間終了後には、様々な問題が発生する可能性が指摘されており、各業界ごとになぜ労働時間の上限規制が問題となり得るのかを解説します。

<建設業>
建設業は、他の産業に比べて人手不足が深刻な状況にあります。建設業就業者は、1997年の685万人をピークに右肩下がりの傾向が続いており、2021年には482万人まで減少しました。

この減少の背後には、労働環境の過酷さや業界のイメージの悪さ等が挙げられます。加えて、高齢化も進行しており、高齢を理由とした離職が増加することで人手不足がいっそう深刻化する恐れがあります。
出典:国土交通省ウェブサイト.最近の建設業を巡る状況について(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001493958.pdf

<物流業>
物流業では、労働時間の上限規制により労働時間の短縮が進むことで、輸送能力の不足が懸念されています。上限規制の導入前に比べて運搬量の減少が予想され、それに伴い、売上の減少を防ぐために配送運賃の引き上げが必要となる可能性があります。

同時に、ドライバーの労働時間の短縮により残業代も減少するため、給与水準が低下する問題もあります。

<医師>
医療業界の人手不足も懸念される問題の一つです。少子高齢化や出産、育児による離職により、医師や看護師が不足しており、これが慢性的な問題となっています。医師の労働時間上限規制の猶予期間終了により、さらに深刻化するでしょう。

早急な人材確保が必要であり、労務管理も含めた労働環境整備も不十分です。

また、このような状況が女性医療従事者にとっても、出産・育児との両立が難しい状況を作っています。
 

建設業・物流業・医師の労働時間上限規制に対する企業の対応

建設業・物流業・医師のいずれにおいても、働き手が限られる中で従業員数の増加が難しく、人手不足の長期化が見込まれます。この状況に対処するためには、建設業・物流業・医師のいずれにおいても、労働環境の改善が不可欠です。

時間外労働の削減により収入が減少するリスクが高まり、特に建設、物流業界にとっては、生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、フレックスタイム制の導入や給与体系の見直し等、労働条件の改善が必要です。

労働環境を整備し、働きやすい環境を構築すれば、新たな人材の確保に繋がるだけでなく、離職を防ぎ定着率の向上を期待できます。

従業員の意見や不満を取り入れ、希望する制度を導入することで満足度を高めることも重要です。早急にこのような対策を講じ、労働時間の制限下でも、効率的に業務を遂行できる環境を整備することが大切と考えられます。

4.ChatGPTに代表される生成AIの活用

4つ目のテーマは生成AIの活用です。2023年3月に登場したChatGPTのインパクトは凄まじく、2024年、生成AIにどのように向き合うか、どう活用するかが企業に問われる年となります。
 

生成AIの活用が注目される背景

OpenAIが2022年11月に対話型AIチャットサービス「ChatGPT」をリリースしてから、1年以上が経過しました。世界中でマーケティングデータの分析や営業資料の作成等、様々な業務に生成AIが活用されています。

日本政府も「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」で、「生成AIの普及を見据え、AIの基礎知識等、AIリテラシー教育も充実させる。」と述べています。

出典:内閣官房ホームページ.新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/ap2023.pdf

生成AIは大量のデータを学習し、要約や分析、提案等の業務において高い能力を発揮します。生成AIを活用することで、業務改善を図るだけでなく、組織全体のビジネスプロセスや組織の変革に繋がる可能性があります。

人事業務においては、たとえば求人票や雇用契約書のような文書の自動作成、研修コンテンツの企画、従業員のスキルセットに基づくキャリアパスの提案等、採用や教育といった様々な分野での活用が考えられます。
 

生成AIの活用における企業の対応

生成AIの導入を人事部で検討する際、前例がないからといったネガティブな理由だけでなく、テクノロジーの活用によって業務効率化される可能性も同時に検討すべきでしょう。

他社の成功事例を参考にし、柔軟にテクノロジーを取り入れていくことが望まれます。

2024年は技術の進歩や人手不足に備え、自社に適した対応を

2024年の潮流であるAIに代表される技術の進歩や人手不足を背景に、4つの人事トレンドを紹介しました。生成AIの活用やリスキリング、多様性は多くの企業が向き合わなければならないテーマと考えられます。

現在抱える課題を見つめ直し、自社に適した対応策を検討することが重要です。

2024年、自社でこれらのトレンドにどのように対応するか、本記事が少しでも参考になれば幸いです。

 

この記事を書いた人

ライター写真

井上 翔平(Inoue Shohei)

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年、調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年、Works Human Intelligence入社。様々な企業、業界を見てきた経験を活かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動を行っている。

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