生成AIをどう活かす?人事業務にもたらす効果と活用例

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生成AIをどう活かす?人事業務にもたらす効果と活用例

近年、AIに関する新技術や活用事例が頻繁に報道され、そのニュースを見ない日はほとんどありません。

企業の経営陣や人事業務を担当する方の中には、これらの情報を受けて、自社での応用の可能性を模索している方もいらっしゃるでしょう。

一方で、ChatGPT等の生成AIツールに対しては、登場から間もないこともあり、現時点では人事業務での活用アイデアが浮かばない、またはその導入効果を具体的に想像しにくいこともあるのではないでしょうか。

本コラムでは生成AIの特徴を改めて見直し、生成AIの活用例やもたらす効果、また人事業務において生成AIを活用する際の注意点を解説します。

 

生成AIとは

生成AIとは、文章、画像、動画等の様々なデジタル作品を生み出すことが可能な人工知能(ジェネレーティブAI)を指します。

従来のAIが業務の自動化を目的としていることに対し、生成AIはデータのパターンや相互の関係を学習し、新たなコンテンツを生成することが主な目的です。

従来のAIとの違い

従来のAIは、主に整理されたデータを使って物事を分類したり、未来を予測したりすることに使われています。はっきりとした形式に従って整理された情報、つまり「構造化データ」を扱うことが得意です。

しかし、生成AIは違います。生成AIは、整理されていない情報、つまり「構造化されていないデータ」から学び、それをもとに新しい文章や画像等のコンテンツを創り出すことができます。

たとえば、ChatGPTをはじめとする生成AIのアプリケーションは、ある条件にもとづいて文章を生成するだけでなく、新しいデータを学習してその知識を蓄積し、生成する文章の品質を向上させることができます。

これにより、生成AIは柔軟に学習し、様々なコンテンツを生み出す能力を有することができます。

生成AIの種類

データのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生み出す生成AIですが、大きく下記4種類に分類されます。

文章生成

プロンプトと呼ばれる文章(指示文)をもとに、自動的に文章を生成するAIです。

代表的なサービスはChatGPTやGemini等があり、長文の要約やキャッチコピーのアイデア生成、プログラミングコードの生成等、幅広い用途で利用されています。

画像生成

テキストで指示を与えるだけで、指示にもとづいた画像を瞬時に生成します。

「Stable Diffusion」や「Midjourney」等がその例であり、アートやデザインのクリエイティブな表現が必要な場面で利用されています。

動画生成

テキストにもとづいてイメージに近い動画を生成します。

2024年2月にOpenAI社が公開した動画生成AIモデル「sora」は、文章で指示すると、最長1分の高い品質の動画が生成可能で、将来的には長尺の動画生成も期待されます。マーケティングコンテンツの作成や研修で利用する動画の作成等に応用されています。

音声生成

音声やテキスト入力によって新たな音声を生成します。

個人の声質を学習させ、その人の声で様々な文章を話すことができます。ナレーションやアバターへの音声付加等に活用が期待されています。

人事業務での生成AI活用例

これまで、生成AIの概要についてご紹介しましたが、多岐にわたる人事業務にも生成AIが活用されはじめています。

採用業務において、応募者の履歴書や職務経歴書から最適な候補者をピックアップする製品や、従業員のスキルや興味に合わせてカスタマイズされた研修コンテンツを生成する製品等、様々な製品が発表されています。

本章では、人事業務における代表的な生成AI活用例をご紹介します。

採用業務における文章生成

従業員や内定者等、対象者に合わせて雇用契約書、採用通知書、社内通知等の標準文書を自動で生成します。

また、応募者を惹きつける求人票の生成にもAIを活用することが可能です。

具体的には、過去の採用傾向を分析して、求めるスキルや経験を正確に反映した求人票を作成したり、潜在的な候補者へパーソナライズされたメッセージを送る等ができ、採用関連業務での効率化が期待できます。

人材育成の研修コンテンツの発案

働き方や働き方に対する価値観の多様化により、企業は従業員の志向やニーズに沿った人材育成に取り組む必要性が高まっています。

そのため、一人ひとりの従業員に最適化された研修資料やシナリオの作成にAIを活用し、合理的な学習機会の提供に役立てることもできるでしょう。

キャリアパスの提案

終身雇用が当たり前だった時代から、キャリアアップや自身が望む働き方の実現のために転職することが一般的となった今、従業員のキャリアが多様化していることで将来のキャリア像が描きにくくなっています。

そのため、従業員が将来の目標に向けて意欲的に仕事に取り組むことができるよう、企業はキャリアアップのために必要となる社内基準や条件を明確化したキャリアパスを提示することが求められています。

キャリアパスの構築においては、生成AIによるデータ分析を活用することで、従業員の過去の業績やスキルをもとに、将来の成長や昇進の機会を示唆するキャリアパスを効率的に提案することが可能になります。

ダイバーシティ&インクルージョンのための分析

多様性の推進は、アイデアやイノベーション創出を促す一方、偏見やコミュニケーションの障壁になる可能性もあります。

多様な従業員の相互理解を促進し、企業の成長に繋げるためには、従業員一人ひとりの声を正確に理解して反映することが重要です。

生成AIは、様々な背景を持つ従業員からのフィードバックやアンケート結果、人事データを収集し、従業員のエンゲージメントや帰属意識等の分析を通じて、より開かれた職場文化の構築に貢献します。

FAQの作成

給与や勤怠等、人事部は従業員からの問い合わせ対応業務をすることがありますが、業務に関する質問をまとめてデータベース化したFAQの作成に生成AIを活用することが可能です。

弊社でも、Azure OpenAI Serviceを利用し、自社で開発した生成AIが勤怠に関するFAQを作成することができるか、実証実験を行いました。

有用なFAQの作成においては課題があるものの、資料の読解、QA箇所の検討、文面の作成スピードの面で効果を実感できました。

生成AI活用が人事業務にもらたす効果

では、実際に人事部門で生成AIを活用した場合、どのような効果があるのでしょうか。本章では3つの期待効果について紹介します。

組織活性化

組織活性化を図ることも人事の重要な役割の一つです。

生成AIを通じて社内の情報共有が促進され、部門間の壁を低くすることで組織全体のイノベーションが加速され、新しいアイデアの創出を促します。

組織の活性化に繋がり、結果として組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが期待できるでしょう。

データドリブンな戦略設計

生成AIを活用して従業員や組織に関するデータを一元的に収集・整理し、分析することで、データドリブンな意思決定に繋がります。勘や経験に頼る状況を減らし、事実にもとづいた戦略を立てられるでしょう。

たとえば、採用面接時のメモや評価データ等の情報を集約し、採用傾向の分析に生成AIを活用することで、次年度以降の人事戦略の設計や採用プロセスを見直す際の情報の一つとなると考えられます。

AIに代替できない業務への注力

チャットボットの生成AIツールによる問い合わせ対応や日常の文書作成等の業務を自動化することで、人事担当者は単純な対応業務から解放されます。

一方で、人事戦略の立案や他部門との折衝といった業務は生成AIで代替するのは難しいと考えられます。単純作業から解放されることにより、人事担当者はこれらの業務に注力できるでしょう。

また、日々の問い合わせを通じて生成AIによって収集されたデータは、従業員の関心事やニーズをより深く理解することに繋がり、改善点の特定に役立ちます。

人事業務での生成AI活用ステップ

実際の業務で生成AIを使った運用をはじめるまでのステップを、人事業務における例を交えながら紹介します。

ステップ1 業務の洗い出し

日々の業務や作業の中で、複雑度の低い単発業務や定期業務を挙げてみましょう。

たとえば、定期的に行う人事研修やセミナーの購買稟議の作成や、従業員から人事部への日々の問い合わせ対応等、人間が主体となり、生成AIがサポートするような業務は多くの企業が最初に取り組みやすい領域です。

ステップ2 業務フローの確認

作業を行う際の手順を、簡単なステップに分けて書き出してみましょう。たとえば、チャットボットによる問い合わせ対応を考える場合、以下のような手順が考えられます。

1.問い合わせを受領する
2.回答を調べる
3.回答内容を作成する
4.回答する
5.ステータスを完了済みにする

ユーザーストーリーマッピング*の手法を用いて、利用者の行動をもとにしたステップを設定します。それぞれのステップでAIが活用できるか、また活用する場合には、草案をAIに考えてもらい、最終判断は人間が行う等、AIを活用する部分と人間が行う部分を判断しながら業務フローを細分化することが重要です。

*ユーザーストーリーマッピングとは、ユーザーの視点からタスクを整理し、チーム全体で優先すべきことを共有するための手法です。実現すべき価値を時系列や優先順位順に視覚的にわかりやすく可視化します。可視化により漏れに気づいたり、優先順位を並び替えたりすることが容易になります。

ステップ3 必要なデータのリストアップ

ステップ2で挙げた業務フローの中で、必要な情報やデータをリストアップしてみましょう。これは、生成AIへ指示をする際に必要な情報を考える手がかりとなります。

たとえば、セミナーの購買稟議の作成であれば過去のセミナー開催による予算や規模、人事部への問い合わせ対応であれば就業規則やFAQ等が該当します。

また、プライバシーリスクを考慮して、はじめのうちは個人情報に該当するデータは扱わないようにすることも検討しましょう。

ステップ4 業務手順の具体化

人事部へ新しく配属された従業員にその業務を教えると仮定した場合、どのような説明をするかを考えてみましょう。

生成AIも新しく配属された従業員と同じように、具体的な指示が必要なため、この工程は重要です。

ステップ5 検証

最後に、ステップ3と4で考えた内容を生成AIのプロンプトに入力して、費用対効果を検証してみましょう。

ハルシネーションリスクを考慮して、生成された内容のチェックを行い、生成AIの精度をもとに、どの業務で今後も継続的に生成AIを活用できそうか検討することも必要です。

成功事例・失敗事例を人事部内で共有することにより、新しい活用手法が見つかる場合もあります。

まずは業務自体が複雑ではないものからはじめ、一定の費用対効果が見込まれた後に、実現難易度が比較的高い業務で大きな効果を出すことによって、社内での生成AIの活用や業務への無理のない浸透が期待できるでしょう。

人事業務における生成AI活用の注意点

生成AIを活用するうえで注意するポイントと解決策の一例を紹介します。

セキュリティリスク

生成AIサービスに入力した情報が、意図しない形で学習等に使用されたり、サービス事業者が攻撃を受けたりする可能性があるため、情報漏洩のリスクがあることを認識しましょう。

特に人事業務では、従業員の個人情報を大量に扱うため、不正アクセスや情報漏洩が起きてしまうことで、個人情報が流出してしまう可能性があります。

セキュリティ対策として、信頼性の高い生成AIサービスを選び、従業員情報の暗号化やアクセス管理を徹底し、定期的なセキュリティチェックを行うことで、情報漏洩のリスクを低減できます。

プライバシーリスク

プライバシーリスクとは、特定の誰かのプライバシーや個人情報が不適切に扱われるリスクです。

個人情報保護法において、「個人情報」と「個人データ」は明確に区別されています。一般的に、「個人情報」は個人を特定できる情報を指し、「個人データ」はデータベース化され、検索可能な状態になっている情報を指します。

また、個人データには個人情報よりも厳格な取り扱いの規制が適用されています。第三者に個人データを提供する場合は、本人の同意が必要であり、生成AIを使用する際にも同様に慎重な取り扱いが必要です。

プライバシーを守るには従業員の同意を得たうえで情報を厳密に管理し、生成AIによるデータ処理がプライバシー保護の法律に適合していることを確認する必要があります。

特に従業員の個人データは、人事業務の利用のために同意しているケースは多いですが、その他のデータ活用について同意を得ていないケースが多々あります。生成AIで個人データを使用することについて本人同意を取る必要があるため注意が必要です。

※参考:個人情報保護委員会.「個人情報」と「個人データ」の違いは何か
https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq2-q2-3/

信頼性リスク(ハルシネーションリスク)

信頼性リスクとは、生成AIが生み出した生成物によって、現実には存在しない、つまり「幻覚」に相当するような情報やデータを生成してしまうリスクを指します。

生成AIが実際にはない情報を「事実」として提示してしまうことで、誤解を招いたり、不正確な情報を広めたりすることが懸念されます。

生成AIは基本的に、膨大な学習データから関連性のある単語を予測し、その過程を繰り返して答えを生成します。そのため、誤った回答が発生するのは避けられません。生成AIで作成された回答を鵜呑みにしてしまうと、誤情報を従業員に伝えてしまうことにも繋がります。

信頼できる情報を得るためには、生成AIが提供する情報を盲信せず、人間が最終チェックを行い、誤情報を防ぐための社内ルールを設けることが重要です。

生成AIの活用をはじめよう

生成AIを活用し、社内の生産性と効率性を高めるためには、生成AIを取り入れた活用例を集め、そのプロセスを通じて恩恵を得られるという経験が重要です。

活用例を社内で共有し、組織全体に利点や意義を広めることで、ビジネスイノベーションが生まれるきっかけとなります。また、新しいテクノロジーを導入することで、特に最新技術への興味が強い従業員のモチベーションにも繋がるでしょう。

本コラムで解説の通り、人事業務は生成AI活用による効果が期待される活用例が比較的多く考えられます。

まずは現在の業務を見直し、人事業務から率先して生成AI活用をはじめてみてはいかがでしょうか。
 

この記事を書いた人

ライター写真

袋瀬 淳( Fukurose Jun)

2008年、大手不動産会社へ入社。企業の寮・社宅運用のソリューション 営業、コンサルタントとしてキャリアをスタート。 導入コンサルティング、および、導入後のカスタマーサクセス支援を通じ、 企業の業務改革に従事。2020年、Works Human Intelligence入社。保守コンサルタントを歴て、多くの企業を見てきた経験を活かし、人事全体の事例・トピックスの研究・発信活動を行っている。

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