選択的週休3日制とは、従業員が希望すれば週に3日間休める働き方です。労働人口が減少する中、育児や介護との両立を実現するための働き方を政府も推進しています。本記事では選択的週休3日制を導入するメリットや定める際のポイント、注意点を解説します。
目次
選択的週休3日制とは
選択的週休3日制とは、週休3日制とは異なり、希望に応じて週3日休める働き方です。
一方、企業全体で一律に完全週休2日制から週の所定休日を1日増やす場合は「選択的」を除いた「週休3日制」と呼ばれます。
選択的週休3日制の制度を利用する際に、育児や介護、または会社に認められている副業等の事情を条件にする企業もあります。
時短勤務制度との比較
従業員が自らの状況に応じて選択する制度として、選択的週休3日制とよく比較されるのが時短勤務制度です。
時短勤務制度は、週5日勤務を前提に1日の労働時間を短縮することです。
たとえ週労働時間を5分の4にしたとしても休日が増えるわけではないため、日中は業務に従事する必要があり、週休3日制に比べて昼の活動がしづらい面があります。
一方、終業時間が早まり夕方からの時間が空くため、平日は学校に通う子どもとの時間を過ごしやすいことや、異業種交流会や夜間大学等に通いやすいという面もあります。
従業員の就業時間外の活動によってどちらが向いているかは異なるため、多様な働き方ができることを目指すのであれば、選択的週休3日制とともに従業員が制度を選択できる状態にあることが望ましいです。
選択的週休3日制を推進する政府のねらい
政府の動きとして、2021年4月、自民党内の一億総活躍推進本部が月内にまとめる中間提言を踏まえ、加藤勝信官房長官(当時)から以下のような発言がありました。
「育児や介護、闘病等の生活と仕事の両立を図る観点から多様な働き方の推進は重要だ。政府としてどういうことができるのか検討していきたい」
その後、2023年6月には岸田総理大臣から異次元の少子化対策の一環として「普及に取り組む」という発言がありました。具体的な法整備に関する議論はこれからですが、多様な働き方が推進される方針が政府から示されています。
また、海外の先進的な取り組みとして、イギリスでは2022年6月から半年間にかけて、60社以上の企業の従業員が試験的に「週4日勤務」を行う調査※が実施されました。調査後も90%超の企業が試験的な実施を継続し、メリット・デメリットを含め多くの知見が得られています。
※「週4日勤務」の世界的な試みが導き出した結果(世界経済フォーラム)
少子化対策としての選択的週休3日制
少子化対策は大きく分けて
- これから妊娠・出産に向かう人たちに対する支援
- 育児をしている人たちへの支援
の2種類があり、政府は2の一環として選択的週休3日制の普及に取り組んでいます。
月曜日から金曜日までのうち1日でも育児に集中できる日を増やすことによって、子どもと接する時間が増えるほか、家事スキルの向上や子どもに関する手続き等を行えるようになります。
多様な働き方推進としての選択的週休3日制
週休3日制を選択することで休日が増える分、その時間を副業に充てることも可能になります。
全体的な傾向としては、現状の人手不足とこれから加速する労働人口の減少が問題視されており、「人手が足りないのだから副業をしている場合ではないだろう」という見方もあります。
一方で、「大企業の一部ではシニア人材の活用に悩んでいる」「業界や職種別では有効求人倍率に大きな差がある」といった状況もあり、政府としてはリスキリングや税制改正等から成長産業への人材の移動を促そうとしています。国民の持つ能力が日本全体で発揮されている社会になるよう働きかけられているのです。
選択的週休3日制のメリット
選択的週休3日制による企業側と従業員側のメリットをそれぞれ解説します。
企業側のメリット
企業にとっては人材の確保/獲得やブランドイメージの向上、従業員のスキルアップといったメリットがあります。
人材の確保/獲得
育児や介護を理由に、週5日働くことが困難になった従業員に対して選択肢があることで、従業員の離職防止に繋がります。
また、従業員のみならず求職者に対しても、ワークライフバランスの充実や多様な働き方への理解があるといったアピールとなり、「働きやすい」「個人のプライベートに寛容」といった企業のブランディングに繋がります。就業意欲はあるものの、育児や介護等を理由に働く日数を制限したい人材の獲得が期待できるでしょう。
生産性の向上
新しい「働き方の多様性」に慣れるまでの時間や混乱の解消が必要となりますが、組織や個人の仕事の仕方を見直すことが求められ、生産性の向上が見込まれます。
新たなITツールの導入のほかにも、リモートワークの拡大やノートパソコンの貸与、申請承認フローやフォーマットの見直し等、様々なBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を進められるでしょう。
従業員のスキルアップやリフレッシュ
休日が増えることによって、従業員が新たな資格取得への勉強や業務上必要なスキルを身に着ける時間が増加します。また、副業を認める場合には、従業員が休日を副業に充てることでスキルアップすることも可能です。
その他にも、週休2日では不足していた休息を取ることやストレス解消によって、より従業員が集中して業務を行うことが期待されます。
従業員側のメリット
従業員にとっては「就業の継続」「育児・介護に充てる時間の増加」「スキルアップ・リスキリング・副業を行う時間の創出」といったメリットがあります。
就業の継続
育児や介護を抱える従業員への両立支援の1つとして選択的週休3日制が設けられることで、就業が継続しやすくなるメリットがあります。
多くの人が、育児や介護といったライフイベントを迎えるのは就職後です。家族の事情により現在の職場で週5日働くことが困難になり離職してしまうと、それまでに所属する組織で培ったスキルや人間関係がリセットされてしまいます。
その後、同様の収入が得られる仕事や同種のスキルが活かせる仕事に就くことが制限されるケースが多くあります。
選択的週休3日制により現在の組織で就業が継続できることは、生活面でも精神面でも安心感に繋がるでしょう。
育児・介護に充てる時間の増加
現在、共働き率は約6割※1に達しています。子育てを優先したい、またはそうせざるを得ない人材の産休育休後の離職や、離職した人材の再就職が低賃金ワークからスタートするケースが多いことが問題視されています。女性の場合、女性版骨太の方針※2に記載されている「L字カーブ」です。
※1 図12 専業主婦世帯と共働き世帯 1980年~2022年(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
※2 女性版骨太の方針2023(内閣府 男女共同参画局HP)
このような家庭では週1日でも子どもと過ごせる時間が増えることで、親子間の関係性の改善や、ベビーシッター、民間放課後ケア等の支出削減に繋がります。
介護に関しても同様に、これからの介護人材不足に応じて家族間の介護がますます必要になっています。
週休2日制では手が回らなかった介護や要介護者の周囲の住環境整備、長時間かかるような病院への付き添いも可能となるでしょう。また、利用するサービス内容の見直しにより介護費用の負担額を軽減できる可能性も高まります。
また、介護保険制度は要介護度に応じて支給限度額が設けられています。平日の介護に対してこれまでに利用していたサービスから別のサービスを利用できるようになると、介護保険サービスの利用の幅が広がることで要介護者のQOLの向上に繋がります。
スキルアップ・リスキリング・副業等の時間の創出
週休2日制から1日増えた休日を利用して、業務に必要なスキルや将来のキャリアに必要な資格の勉強をすることも可能です。
近年、副業を許可している企業が増えています。副業することで収入を得られるほか、所属している組織とは別の組織で働くことで、新しいスキルや人脈、経営者的視点等を得ることもできるでしょう。
選択的週休3日制を定める際の2つのポイント
選択的週休3日制を導入する際のポイントは「給料と労働時間の関係性を決めること」と「休日は曜日固定か個人選択にするか」です。これらのポイントは、後に従業員が実際に週休3日制を選択するかに大きく影響するため、より広く従業員の意見を集めることが必要となります。
給料と労働時間のバランス
完全週休2日制から週休3日制にするうえで、特に話題となるのが報酬面です。
基本給以外にも通勤手当をはじめとする様々な手当や社会保険料等が関係しますが、主に基本給をベースとした大まかな月給で考えると以下の3つに分類されます。
1.週労働時間も給料も据え置きにする
休日に労働する予定の時間は残りの労働日に分配し、給料も据え置きとします。1日の労働時間が8時間を超えると法定の割増賃金が発生するため、同時にフレックスタイム制または変形労働制を導入し、人件費の増加を抑制します。
2.週労働時間を5分の4とし、比例して給料も減額する
ノーワークノーペイの原則に従って、労働時間が減少した分の給料を削減します。週5日40時間労働の従業員が、1日休暇が増えて週4日32時間労働になると、約2割の減収になります。
3.週労働時間を5分の4とし、給料は据え置きにする
週労働時間を減らすものの、給料は据え置きにします。
利益率の維持や生産性向上のために、以下のような取り組みが大切です。
- ・業務フローの見直し
- ・不要な作業の削減や自動化
- ・会議の開催頻度や時間、参加人数の削減
休日は曜日固定か個人選択にするか
週休3日制を選択できるようにしたうえで、休む曜日を固定にするか、選択した従業員の状況に配慮して曜日も選択可能にするかという点もポイントとなります。
曜日を固定にする場合、たとえば現在土日休みである業種や職種の場合は「水・土・日」「金・土・日」のいずれかにすることが多いようです。
「水・土・日」は休日にリフレッシュした翌日に働き、翌々日は明日の休日を楽しみにしながら働けるため気力が上がるという声があり、「金・土・日」は集中して休みを取った方が私生活を充実させやすいといった声があります。
選択的週休3日制の注意点3つ
選択的週休3日制を導入する際の注意点は、「コミュニケーションコストの抑制」や「不公平感よりも安心感」といった良好な企業文化の構築と、従業員に関する「人事労務の運用コスト」です。
コミュニケーションコストの抑制
同じ組織内で、選択的週休3日制を選んでいる従業員と週休2日制を選んでいる従業員がいる場合、情報を組織内で共有して情報格差を埋めるための方法が必要になります。スケジュールのほかにもプロジェクト管理やタスク管理、ファイル共有できるテクノロジーも近年増えています。
不公平感よりも安心感
選択的週休3日制を選択した従業員のフォローの大変さから不公平感が生まれることを避け、組織として働き方に柔軟性があることの良さを共有しましょう。
そのためには、育児や介護等の事情があるから選択可能ではなく、どんな目的であっても、個人の意思で選択できるという認識を従業員に持ってもらうことが重要です。
選択的週休3日制を行う人が、やむを得ず業務を他の人に依頼する必要がある時は、周囲がサポートする雰囲気づくりも意識するとよいでしょう。
サポートの負荷を軽減するため、情報共有を容易にするシステムを導入したり、フォローへの感謝を伝えるための、サンクスポイントを同僚に送るシステムを導入することも雰囲気づくりに有効です。
人事労務の運用コスト
週休2日制と選択的週休3日制の従業員が混在することで、労務管理が複雑になり、確認の時間や処理のミスが起きるリスクが増加します。従業員の週休日数を個別管理できるといった柔軟な対応ができるシステムの導入が望ましいです。
また、頻繁に週休2日制と選択的週休3日制を変更されると、勤怠管理を行う上長や人事等の管理者に労務コストがかかってしまいます。3ヶ月や半年といった期間を定めて、状況に応じて都度更新するような制度がよいでしょう。
働き方の柔軟性を確保することの重要さ
最も人口ボリュームの大きい団塊の世代はすでに70歳を超え、これからは労働人口が急速に減っていく時代です。
このような状況下で大切なのは、従業員の内部的なスキルアップだけではありません。外部で体験を積むことによる自己能力の再認識・強化である「副業」「越境学習」や、外部人材の能力、発想を取り入れることが必要になってくるでしょう。
家庭で育児や介護を中心に支えているため、週5フルタイムでは働けないといった事情を抱える方はまだまだ女性が中心であり、多様な働き方を認めることは「L字カーブの解消」に繋がります。
注意点に挙げたようなコミュニケーションコストや人間関係は、最近のテクノロジーの進化で解消できる部分も増えてきています。同じ職場の仲間として支え合いながら、調和された働き方ができる社会になることを願います。