労災保険とは?加入条件や計算方法をわかりやすく解説

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最終更新日 2023年10月4日

労災保険とは?加入条件や計算方法をわかりやすく解説

労災保険とは、業務中や通勤中のケガや病気に対して必要な給付を行う制度です。労災保険の基本的な知識や加入条件、計算方法等を正しく知っておくことは雇用する側として必須であり、法令に則した企業経営に繋がります。

本記事では、労災保険の基本的な知識や種類、加入条件、具体的な計算方法をわかりやすく解説します。
 

労災保険とは?

労災保険制度とは、労働者が業務中や通勤中に発生した事故や労働災害による負傷や病気に対して補償する社会保険制度です。この制度には、あわせて被災労働者の社会復帰促進等の事業も含まれています。


原則として、1人でも労働者を使用する事業は、業種や規模を問わずすべてに適用されます。また、労災保険料は全額事業主負担となり、納められた保険料によって保険給付の額が決まります。
参考:労災補償 |厚生労働省

労災の種類

本章では、3つの労災について紹介します。

業務災害

業務災害とは、労働者が業務および施設や設備に起因して傷病等を被ることで、対象となるには下記の2つの要件を満たす必要があります。

業務遂行性:社内または社外にて業務中、または業務中でなくても事業主の管理下にあるかどうか
業務起因性:病気やケガ等発生した災害と業務との間に因果関係があるかどうか

【具体例】
・過重労働によるうつ病の発症
・作業中の資材崩落事故
・社内の椅子が壊れたことによる骨折

複数業務要因災害

複数業務要因災害とは、複数事業労働者の2つ以上の事業で遂行された業務を要因とする傷病のことです。対象となるのは、脳・心臓疾患や精神障害等です。

【具体例】
2つの会社で、1日にそれぞれ7時間と5時間、週5日働いたことによる心筋梗塞の発症

通勤災害

通勤災害とは、通勤・帰宅途中において被った傷病を対象とする災害です。ただし、相応と思われる通勤経路でない場合や、中断がある場合は対象外となります。通勤経路上の店で飲み物を購入したり、お手洗いに寄ったりする行為は、逸脱や中断には当たりません。

【具体例】
・通勤途中の駅の階段で転倒して骨折した
・業務上必要なものを自宅に忘れたことに気づき、取りに帰ったところ事故にあった​​​​​​

労災保険給付金の種類

労災保険給付金には様々な種類があります。本章では、労災保険給付金の種類を8つ紹介します。

1.療養(補償)等給付

療養(補償)等給付とは、労災によるケガや病気の治療が必要になった際に受けられる給付です。「療養の給付」と「療養の費用の支給」の2種類がありますが、原則として「療養の給付」が提供されます。

  • ・療養の給付:労災保険指定医療機関を受診する場合は無料で治療を受けることができる
  • ・療養の費用の支給:近くに指定医療機関等がないといった理由で、指定医療機関等以外の 医療機関や薬局等で療養を受けた場合に支給される


業務中にプレス機の事故で指を切断し、長期入院が必要なケースを例に挙げると、労災保険指定医療機関等で受診した場合には「療養の給付」が支給されます。労災保険指定医療機関以外で療養を受けた場合には「療養の費用の支給」が提供されます。  

2.休業(補償)等給付

休業(補償)等給付とは、業務中や通勤中のケガや、業務が原因となる病気で休業せざるを得なくなった場合の給付金であり、休業4日目から給付を受けられます。ただし、業務災害の場合、休業3日目までは事業主が労働基準法に基づいて休業補償を行わなければなりません。


たとえば、長時間の残業等が原因でうつ病を発症し、医師から休業が指示された場合に、給付金が支給されます。

3.障害(補償)等給付

障害(補償)等給付とは、業務中や通勤中のケガや業務が原因となる病気の治療後に障害が残った場合に受けられる給付金です。たとえば、旋盤作業により難聴を発症し、障害等級が認定された場合、障害補償給付が提供されます。


障害等級第1級~第7級の場合は、給付基礎日額の313日~131日分の障害(補償)等年金が、第8級~第14級の場合は給付基礎日額の503日~56日分の障害(補償)等一時金が支給されます。

4.遺族(補償)等給付

遺族(補償)等給付とは、業務中や通勤中のケガや業務が原因となる病気での死亡時に、遺族に支給される給付金です。遺族(補償)等年金と遺族(補償)等一時金の2種類があります。

  • ・遺族(補償)等年金:労働者の死亡当時、その収入によって生計を維持していた一定の範囲の遺族に対し支給される
  • ・遺族(補償)等一時金:労働者の死亡当時、上記の遺族(補償)等年金を受ける遺族がいない場合、または受給権者のすべてが失権した場合、一定の範囲の遺族に対して支給される

5.葬祭料等(葬祭給付)

葬祭料等(葬祭給付)とは、葬祭費用に対する給付金です。葬祭を行った者に対し、315,000円+給付基礎日額の30日分、または給付基礎日額の60日分のいずれか高い方が支給されます。 


たとえば、従業員が業務中や通勤途中の事故によって亡くなり、葬儀を行った場合に支給されます。

6.傷病(補償)等年金

傷病(補償)等年金とは、療養補償給付(療養給付)を受ける労働者が、治療開始から1年6か月以上経過しても回復しない場合に支給される給付金です。


たとえば、建築現場で解体作業中に粉塵をあびたことで視力が低下し、1年6か月以上治療を続けても回復せず失明に至った場合、傷病年金が提供されます。

7.介護(補償)等給付

介護(補償)等給付は、障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金 の受給者のうち、障害等級・傷病等級が1級と第2級「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有していると認定され  、現に介護を受けている場合に支給されます。

8.二次健康診断等給付

二次健康診断等給付とは、職場の定期健康診断等で異常が見つかった場合、二次健康診断および特定保健指導を年に1回無料で受けられます。


すでに脳・心臓疾患の症状を有している者および特別加入者を除き、下記条件を満たす必要があります。

・腹位またはBMI(肥満度)、血圧、血糖、血中脂質の4項目すべてに異常の所見が認められる
・上記4つの検査のうち、1つ以上の項目で異常なしの所見があるが、それらの検査項目について、就業環境等を総合的に考慮すると異常が認められると産業医等から診断される


参考:労災給付の種類|厚生労働省 鳥取労働局

労災保険の加入条件と対象者

本章では、労災保険の加入条件や適用範囲、対象者について説明します。

労災保険の加入条件

労災保険の加入条件は、原則としてパート・アルバイトを含め、労働者を1日でも雇っている場合、業種の規模を問わず加入の義務があります。また、労働者を1人でも雇用する事業所はすべて「強制適用事業所」となり、労災保険に加入しなければなりません。

労災保険の対象者

労災保険の対象者となるのは、以下の通りです。


・労働者(パートタイマー・アルバイト含む)    
・日雇労働者も適用
・派遣労働者は派遣元事業場で適用

対象者は被雇用者となる従業員のみで、雇用する側の事業主や自営業者は原則加入できません。ただし、特定の条件を満たす事業主や自営業者には、特別加入制度が認められる場合があります。

特別加入の対象は順次拡大されており、令和3年4月1日からは、以下の従事者が新たに特別加入制度の対象となりました。


・芸能関係作業従事者
・アニメーション制作作業従事者
・柔道整復師
・創業支援等措置に基づき事業を行う方


出典:労災補償 |厚生労働省

労災保険料率と計算方法

労災保険料率は、事業内容によって労働災害の危険性が異なるため、業種で細かく分類されています。

労災保険料率

業種ごとの労災保険料率は下記の通りです。
 

(単位:1/1,000) 

事業の分類 事業の種類 労災保険料率
林業 林業 60
漁業 海面漁業(定置網漁業または海面魚類養殖業を除く。) 18
定置網漁業または海面魚類養殖業 38
鉱業 金属鉱業,非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業 88
石灰石鉱業又はドロマイト鉱業 16
原油又は天然ガス鉱業 2.5
採石業 49
その他の鉱業 26
建設事業 水力発電施設,ずい道等新設事業 62
道路新設事業 11
舗装工事業 9
鉄道又は軌道新設事業 9
建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) 9.5
既設建築物設備工事業 12
機械装置の組立て又は据付けの事業 6.5
その他の建設事業 15
製造業 食料品製造業 6
繊維工業又は繊維製品製造業 4
木材又は木製品製造業 14
パルプ又は紙製造業 6.5
印刷又は製本業 3.5
化学工業 4.5
ガラス又はセメント製造業 6
コンクリート製造業 13
陶磁器製品製造業 18
その他の窯業又は土石製品製造業 26
金属精錬業(非鉄金属精錬業を除く。) 6.5
非鉄金属精錬業 7
金属材料品製造業(鋳物業を除く。) 5.5
鋳物業 16
金属製品製造業又は金属加工業(洋食器,刃物,手工具又は一般金物製造業及びめつき業を除く。) 10
洋食器,刃物,手工具又は一般金物製造業(めつき業を除く。) 6.5
めつき業 7
機械器具製造業(電気機械器具製造業,輸送用機械器具製造業,船舶製造又は修理業及び計量器,光学機械,時計等製造業を除く。) 5
電気機械器具製造業 2.5
輸送用機械器具製造業(船舶製造又は修理業を除く。) 4
船舶製造又は修理業 23
計量器,光学機械,時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。) 2.5
貴金属製品,装身具,皮革製品等製造業 3.5
その他の製造業 6.5
運輸業 交通運輸事業 4
貨物取扱事業(港湾貨物取扱事業及び港湾荷役業を除く。) 9
港湾貨物取扱事業(港湾荷役業を除く。) 9
港湾荷役業 13
電気・ガス・水道又は熱供給の事業 電気,ガス,水道又は熱供給の事業 3
その他の事業 農業又は海面漁業以外の漁業 13
清掃,火葬又はと畜の事業 13
ビルメンテナンス業 5.5
倉庫業、警備業、消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 6.5
通信業、放送業、新聞業又は出版業 2.5
卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 3
金融業、保険業又は不動産業 2.5
その他の各種事業 3
船舶所有者の事業 船舶所有者の事業 47

出典:労災保険率表|厚生労働省(PDF)

労災保険料の計算例

上記の労災保険料率を参考に、計算例を紹介します。

【労災保険料の計算式】
労災保険料 = 賃金総額 × 労災保険料率

例:
従業員10名、平均給与450万円、ビルメンテナンス事業(労災保険率5.5)を行っている場合の計算例は次のとおりです。

450万円×10名×(5.5×1/1,000)=247,500円

※ここでは雇用保険については考慮していません。

参考:労働保険料の計算例 | 大阪労働局

すべての従業員が安心して働ける環境づくりを

労災はすべての業務において起こる可能性があります。たとえば、事務系の仕事であっても、施設内で転倒してケガをした場合は労災の対象となるケースもみられます。

どのような事業であっても、事故や突発的なアクシデントは避けられません。また、現代社会において、事業者には従業員の心身への配慮も重要です。

労災保険は、万が一の場合に備え、従業員が安心して働くための制度です。事業者は制度を正しく理解し、すべての従業員にとって安心して勤務できる環境づくりに努めましょう。

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