「ジョブ型」トレンド時代に考えるべき人事制度と、人事・現場管理職のあり方

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最終更新日 2024年3月13日

「ジョブ型」トレンド時代に考えるべき人事制度と、人事・現場管理職のあり方

昨年寄稿しました、ジョブ型雇用とは?誤解されやすいポイントと日本企業が導入する際に考えるべきことにも記載した通り、昨年はジョブ型雇用を活用した人事制度がトレンドであり、多くの導入・検討事例がメディア上で取り上げられました。

また、多くの企業で、ジョブ型雇用についての情報収集や人事制度変更の必要性について検討が行われたのではないでしょうか。

本記事では、改めて現在のジョブ型に関する状況を整理しつつ、各企業が導入の目的を達成するためには何が必要か、考察を行います。
 

目次

本来の意味とは異なる「日本版ジョブ型」
日本版ジョブ型」を導入する目的
各社のジョブ型実施状況とは
ジョブ型人事制度の導入で浮かび上がる管理職サポートの重要性
ジョブ型人事制度の定着に必要な3つのポイント
ジョブ型人事制度の導入よりも企業の在りたい姿の浸透を


本来の意味とは異なる「日本版ジョブ型」

ジョブ型雇用とは、各企業が会社における各職務の内容(ジョブ)を職務記述書(ジョブディスクリプション)にて明記し、その内容に基づいて必要な人材を採用・契約する制度です。「仕事に人をつける」という言葉がありますが、それを具体的に実践する制度といえるかもしれません。

ですが、現在日本の多くの企業で検討され、トレンドとなっているジョブ型雇用は、本来のジョブ型雇用とは異なるものです。

一言で言うと、新卒採用や(特に非管理職の)ジョブローテーション・定期昇給/昇格といったメンバーシップ型雇用の要素はある程度そのままにしたうえで、ジョブ型雇用の「職務定義および評価、報酬の明確化」「職務に対する最適な人材の自律的な育成と配置」を可能とする人事制度、運用設計です。

これを「日本版ジョブ型」という位置付けとします。

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具体的には、下記のような制度設計が一般的です。

・企業の経営戦略、ミッションなどから必要職務を洗い出し、その職務内容と必要スキル/着任要件等を定義する (職務記述書の作成)
・職務やポストを難易度や職責に応じてランク/グレード化する  (職務等級・役割等級制度の利用)
・各ランク/グレードごとに報酬額を決定する
・各ランク/グレードごとに目標や評価水準を定め、各期末に評価する→職務ランク/グレードの昇格や降格を行う(自動的に報酬額も上下する)
・職務に空きや変動が発生する際は、職務記述書の定義をもとに社内公募を行い、不足があれば外部から採用を行う

「日本版ジョブ型」を実施する際には、段階的に適用範囲を広げていくことが一般的なため、現在は下記のいずれかのパターンで推移しているケースが多くあります。

ダブルラダー型:報酬を職務等級/役割等級だけで決定せず、職能給要素と折半する
管理職先行実施型:管理職のみ先行実施し、非管理職は既存制度を継続する
ポジション定義型:研究職や高度な技術職など、特定の職種/職務にのみ適用する

現在議論されているジョブ型の人事制度は、既存のメンバーシップ型雇用制度を否定するものではありません。むしろ、既存の人事制度を前提としたうえで、これまでの人事施策をより徹底、定着させていく運用設計の一形式、と定義されます。

それでは、各企業はなぜジョブ型の人事制度を導入しようとしているのでしょうか。その目的について見ていきましょう。

 

「日本版ジョブ型」を導入する目的

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大きく分けて下記のようなテーマを実現することが目的とされています。
 

①企業目的、組織目標に対するパフォーマンスの最大化

・適材適所の人事配置を可能とするために、職務やポストの内容を定義する
・職務やポストの内容を詳細に定義/分類し、企業戦略に沿って重要な職務を明確にすることで、配置すべき人材の把握や発掘、後継者育成を容易にする
・職務に必要なスキルや経験、コンピテンシーを明確にすることで人材育成を促進し、外部からの採用機会を増加させる
 

②従業員の成長促進、モチベーション向上

・職務と処遇を明確に定義することによって、人事の透明性や健全性を保つ
・職務と報酬、評価を連動させることによって、報酬や評価に対する従業員の納得性を高める
・職務に必要なスキルや要件を明確にすることによって、自律的な成長やキャリア形成を促す
 

③グローバル対応が可能な人事制度設計

・国内の従業員と海外従業員を同一ランクで評価、処遇する

すなわち、職務内容を明確に定義することで、最適配置と従業員の成長やキャリア形成を促し、結果的に企業戦略に寄与する、というフレームワークがあり、その処方箋として登場しているのが「ジョブ型」ということです。

 

各社のジョブ型実施状況とは

実際に、各社ではどのような形でジョブ型が実施されているのでしょうか。

当社では、2020年末から2021年にかけて実施した人事考課分科会にご参加いただいた企業担当者に対して、ジョブ型実施状況についてヒアリングを行いました。

各企業の「日本版ジョブ型」の実施、ないしは実施予定状況は下記の通りです。半数以上の企業で、何らかの実施や実施を前提とした準備が行われている状況であることがわかります。
 

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具体的な内容について、いくつかの事例をご紹介します。

・管理職/エキスパートはジョブディスクリプションが存在し、職務に応じた等級がある
・中堅層あたりから総合職と専門職の2つに分かれるようになっている
・管理職や一部の人間が日本版ジョブ型になっており、一部「スペシャリスト」と呼ぶエキスパート人材がいる
・管理職を降りたシニアへのジョブ型導入を検討している
・これまでは資格に紐づいて年俸を設定していたが、今後は管理職にのみ職責という概念を取り入れようとしている


「日本版ジョブ型」人事制度の導入にあたっては、以前から存在している役割等級/職務等級制度やキャリアの複線化を活用するため、ジョブ型の議論を意識することなく、これまでの人事制度変更の延長線の中で実施・検討されているケースも多いようです。

ジョブ型人事制度の導入に際しては、下記のような課題認識の解消のため実施するという意見もありました。

・メンバーシップ型雇用のあり方だと(特に管理職について)職務が曖昧になっている
・職種間で求められるスキルが違う中、評価や待遇に差がないことに対しては、社員からも不満が出てくると想定している
・人件費のことを考えると、同一労働同一賃金は裏返せば異なる労働は異なる賃金になるので、いつか実施しなければいけないのではと思っている


一方で、下記のような課題も上がっています。

・組織改正があるたびに管理職の役割定義のようなものを聞き直しているが、かなり手間がかかっている
・ダブルラダーも検討したが、職務ランクがうまく定義できず断念した
・誰にどんなスキルがあるか測りにくいことが大きいことや、ジョブ型に移行したことで、ジョブ型の考え方に追いつけない人もいるのではないかという懸念がある
・製造業のため、現場の従業員もいれば開発もいるので、ひとりひとりのジョブで賃金を決めるのは限界があると思っている


全体として、ジョブ型的な要素を取り込むことによるメリットは理解できるものの、運用面でリスクや課題も多く、徐々に改善を加えながら適用範囲を広げつつあるのが現状、ということがわかります。

 

ジョブ型人事制度の導入で浮かび上がる
管理職サポートの重要性

「日本版ジョブ型」の肝は、職務やポストの明確化・言語化です。これは、仮にジョブ型という形をとらなくても、重視されていくことになるでしょう。職務やポストの内容を定義する過程においては、現場組織からの協力が不可欠ですが、たとえば下記のような問題が発生することが考えられます。

・職務やポストの内容を言語化するメリットが現場組織側に見えにくいことから現業が優先され、協力が得られない
・職務定義を記載するフォーマットを渡しても、部署や記載者によってアウトプットに差がある
・組織や職務内容の変動に合わせた職務定義の更新が行われず、記載が陳腐化する


人事が考える理想の形が、現場にとっては負担でしかないこともあるでしょう。一方で、強制的な実施は現場側の不満やモチベーション低下につながるリスクがあります。そのため、ジョブ型人事制度を実現するためには、現場管理職に対する制度や施策の理解と浸透、協力が必要です。


また、そもそもジョブ型人事制度自体が現場の管理職層に対して、下記のようなアクションを求めるものです。

・職務やポストの定義作成および更新、最適化
・企業戦略や人事戦略の意義を自分の言葉でメンバーへ浸透させ、適切な組織目標設定と実行責任を持つ
・チームメンバーの成長やスキルアップ、キャリア形成を促すためのキャリアマネジメント
・総じて、チームのモチベーション、エンゲージメントを維持して、個人・組織の自律性を高める役割


特にメンバーの教育や成長について、人事が集中的な研修やカリキュラムを実施するだけではなく、現場の管理職が日頃の業務やコミュニケーションの中でフォローアップしていくことが求められます。また、その情報を経営や人事にフィードバックし、職務の定義が最新化されていくことも必要です。

結果として、これまでの個人的な経験やパーソナリティをベースとした優れたタレントの対価としての「管理職等級」ではなく、より組織や人材をマネジメントするための「管理職職務」としてのスキルやミッションが求められます。

管理職に着任するまでの過程において、身に着けていないスキルが必要となったり、経験していない制度への理解が必要となったりすることもあるでしょう。

したがって、「日本版ジョブ型」がクローズアップされていく時代においては、実際にジョブ型を導入するかどうかはさておき、管理職の役割がこれまで以上に重要となるでしょう。そして、彼らをいかにサポートし、キャッチアップに貢献できるかが、今後の人事施策の実施と継続においてポイントであると考えます。
 

ジョブ型人事制度の定着に必要な3つのポイント

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本記事では、これまでの考察を踏まえて、どのような対応が必要となるかをまとめます。

①管理職の評価軸の見直し

まず、管理職の評価制度について、現業の業績や目標に対する成果だけではなく、それ以上に組織課題への協力度合いと、メンバー育成への貢献を高く評価する必要があると考えます。たとえば以下のような評価基準を入れてみるとよいでしょう。

・前提として、企業目的や人事戦略のメンバーへの浸透、モチベーション維持やエンゲージメントへの貢献を管理職としての必須要件とする
・評価基準に必ず組織課題への協力度合いとメンバー育成への貢献を含める
 ※点としての個人成果よりも、メンバーの成長を集約した形でのチームとしての成果および企業への貢献を高く評価する。また、他の部署や部門でも再現性/汎用性があり、展開可能なチャレンジや施策を高く評価する
・メンバーの上位職への昇格や社内公募合格人数など、具体的なキャリア形成への貢献数を評価の対象とする
・最新の職務状況や定義内容との乖離、適切な人材情報のフィードバックの質や量を評価する

管理職は人事戦略を理解し、協力していくのが当然の責務である、とせず、人事戦略への協力や寄与に貢献した管理職は、優れた成果を出していると明確に評価する人事制度設計が必要でしょう。これが、ジョブ型人事制度を形骸化させず、社内全体で運用を継続していく近道になりうると考えます。

また、評価制度の見直しによって、管理職自らマネジメントスキル向上への自己研鑽、研修への積極的参加等、意識の変化を促すことができるのではないでしょうか。
 

②目標管理とその結果の分析/フィードバック

職務やポストを明確に定義し、職務等級や役割等級を定めたとしても、適切な目標が策定されなかったり、目標に対して適切なアクションが行われなかったりすれば、おそらく組織としてのパフォーマンスを発揮することができず、定義した職務内容や要件が適切であったかも評価できません。
結果として、定義した内容が形骸化していくでしょう。よって、目標管理の正しい運用が必要不可欠となります。

各職務の目標管理やそのアクションプランの策定と実施結果、そして現れた成果といった実績を蓄積し、どんなメンバーが優秀な結果を出すことができたか、どんなアクションが組織としてのパフォーマンスにつながったのか、分析していくことが非常に重要です。

また、目標設定時や期末の振り返り、あるいは日々の業務における、管理職とメンバーの1on1、フィードバック等の記録は、分析にあたって貴重なエビデンスやノウハウとなるのではないでしょうか。

こういった観点で、目標管理における個々の目標や、アクションプランの策定方法自体も見直す余地があるかもしれません。

・目標やアクションプランの策定方法、手順を統一化する
・目標水準や達成レベルをより言語化し、標準化する
・アクションプランはなるべく定量化、時系列化するとともに、もしうまくいかなかったらどうするか、という観点を含める


このように、今後の活用を意識した改善を行いながら、情報を蓄積し、分析しやすい形で現場に提供していくことで、管理職による職務やポストの定義の最新化へのサポートや、チームメンバーの成長サポートにつながるのではないかと考えます。

 

③「現場視点」という意味におけるHRBP的な存在

ここまでの内容を人事部門がすべて実施するのは不可能でしょう。特に、対管理職を中心にフォローする役割が必要だと考えます。その役割を担うことができる存在のひとつが「HRBP」と呼ばれる存在であると考えます。

HRBPは1997年に、デイビッド・ウルリッチが「企業経営や事業に対して価値貢献する、HR領域のビジネスパートナー」として定義した概念ですが、その中で、これからの人事部門が果たすべき役割として下記の4つが定義されています。
 


1:HRBP(HR Business Partner)
企業戦略・事業戦略に基づき、人事戦略を構築する、経営・事業のパートナー

2:管理エキスパート(Administration Expert)
人事施策の管理、実行、運営などを行う

3:従業員チャンピオン(Employee Champion)
メンタルのケア、キャリア開発など、従業員に対する支援を行う

4:チェンジエージェント(Change Agent)
人事戦略を効果的に実行するために、必要な人材を育成し、組織の変革を促す

出典:デイビッド・ウルリッチ著「MBAの人材戦略」


HRBPは様々な要素が含まれている概念ですが、今回のテーマにおいては、その中でも特に「従業員チャンピオン=現場視点」がHRBPとして最も重要な観点だと考えます。

具体的には、上記①②のポイントの観点で成果を出した管理職に対してHRBPの役割を与え、現場の管理職・メンバーのサポートをフォローするしくみを検討することが考えられるでしょう。

ジョブ型がクローズアップされる以前にも、様々な人事制度や施策がトレンドとなってきました。しかし、必ずしも定着しなかった背景には、人事主導で制度面だけトレースしていたという面もあるからではないでしょうか

現場で企業目的や人事戦略の意図を理解し、自らの言葉でメンバーへ浸透させていく管理職、そしてその言葉に共感する従業員が増えなければ、制度の目的を達成することはできません。達成するためには、現場を理解し、実際に成果を出してきたメンバーが人事と協力して社内展開していくことが最も確実な方法であると考えます。

ともすれば、現場で成果を出している管理職を人事部門に異動させることは、どうしても現場部門の反発を生みかねないものですが、「日本のジョブ型」人事制度においては、現時点の成功よりも、今後のメンバー・組織の自律的な成長が最も重要となります。そのため、ジョブ型を実行できるための体制づくりについて、社内の協力が不可欠です。

その領域への寄与が可能な人材を正しく評価し、現場の管理職のパートナーとして位置付けることが、ジョブ型人事制度浸透へのキーポイントになると考えます。
 

 

ジョブ型人事制度の導入よりも企業の在りたい姿の浸透を

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以上、ジョブ型についての様々な考察や実施案について記載しました。

元々、ジョブ型導入の目的となるようなテーマは、各企業の人事部門で長年解決すべき課題として検討され、徐々に施策を実施していたケースも多いでしょう。

しかし、施策の実施以前に、企業や組織の文化や風土の変化、人事以外の各部門長の協力や教育、社内への浸透など、前提条件として解決すべきテーマも多く存在します。そのため、それ以外の施策が優先されたり、解決に時間がかかったりという問題に悩まされていた企業も多いのではないでしょうか。

現在、昨年のコロナ禍による在宅勤務/テレワークの浸透、社会情勢の激変は、それに対応するための経営戦略、人事戦略の準備と、即時的な解決策が求められています。そのひとつとして、ジョブ型がクローズアップされている側面は否定できないでしょう。
様々な理由で人事面の課題解消が進まなかった企業にとっては、追い風として利用できるかもしれません。

ジョブ型に関する情報や議論は、どのような等級制度を導入するのか、報酬や評価はどうなるのか、あるいはどういったシステムで管理すれば、期待した効果をあげることができるのか、という点についてクローズアップされることが多いです。

しかしながら、ジョブ型を先行で導入している企業の事例からは、企業のありたい姿やミッションを逆算し、5年~10年かけて様々な人事制度と合わせて、働き方や社内の文化、風土を少しずつ変化していくための仕上げとして導入しているケースが多いと感じます。

最も必要なことは、まずは企業や人事がありたい姿を明確に示したうえで、現場管理職をサポートしつつその理解と協力を得ながら、従業員全体への浸透を深めていく過程にある、ということを結論として結びに代えさせていただきます。

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