人的資本経営とは?人材価値を最大化し、企業成長へ繋げるためのポイント

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最終更新日 2023年7月26日

人的資本経営とは?人材価値を最大化し、企業成長へ繋げるためのポイント

「人的資源」といった言葉があるように、これまで企業経営における人材は、組織にとって有用な「資源」という位置づけでとらえられてきました。一方、人的資本経営とは、その名称どおり、人材を「資本」とする考え方です。

資源は使い、消費するものですが、資本はそれを有効的に活用しながら、より大きく育てる意味をもちます。

今回は人的資本経営について、求められる背景から取り組み方まで詳しく解説します。
 

人的資本経営とは

人的資本経営とは、人材を企業における重要な資本の一つとみなし、企業が成長し続けるための価値を創造する主体としてとらえる考え方です。

経済産業省では以下のように定義しています。

「人的資本経営とは、人材を『資本』としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」
出典:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~|経済産業省

「人材=資源」という従来の考え方の場合、すでにあるものを「使う・消費」するという方向性となり、人材をどう使うか、いかに管理するかという点に着目されがちです。また、「資源」に対しての教育や育成にかかる費用は、「コスト」とみなされます。
 

一方、「人材=資本」と考える場合では、人材の知識や能力、意欲を高めることが、組織力の向上に繋がる必要不可欠なものです。人材に対して積極的に企業が成長を促すことで、技術革新や付加価値が生まれると考えます。

そのため人的資本経営では、教育・育成・管理に必要な資金は、経営戦略における「投資」なのです。

人的資本経営が注目される背景

人的資本経営が注目されるようになった背景として、企業内外の環境変化が挙げられます。

労働市場の変化

日本の労働市場は、人手不足、働き方の多様化により急速に変化しています。毎年一定数の新卒者が入社し、多くの人材が定年まで勤め上げた時代は過去のものとなり、外国人従業員や非正規雇用の増加等を含め、働き方が多様化しました。

同時に、労働スキルの要求にも多様化、細分化が見られます。情報技術の進歩により、プログラミングやデータ分析といったスキルが重視され、グローバル化にともなう新しい産業の誕生や、既存産業の多様化も発生しています。

こうした社会事情の中で、企業側では従来の画一的な人材管理に限界が生じており、従業員一人ひとりの、人材としての価値をより高めていくためのマネジメントが必要になりました。人材の適切な配置や育成、従業員のモチベーション向上に向けた施策が求められます。

社会環境の変化

企業のあり方と、企業をとりまく社会環境も大きく変わっています。

先にも触れたように、日本の企業では年功序列や終身雇用による人材の「囲い込み」が長年、人材管理の基本となっていました。

しかし近年は、すべての業界にDX(デジタルトランスフォーメーション)の促進が求められ、2020年以降には新型コロナウイルスまん延による影響等もありました。こうした要因から、経営手法やビジネスモデルは大きな変化を余儀なくされています。

既存の人材関連の施策では変化に対応しにくくなり、収益の伸びや事業の発展を妨げる原因となるケースも少なくありません。

変化に対応するための経営戦略として、人材戦略を経営の中軸にすえ、新たな視点の経営方針へ転換する必要があると考えられます。

ESG投資の広がり

人的資本経営は、資金を獲得する要素としても注目されています。最近では、投資家の間で企業の成長性を判断する要素として、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視する「ESG投資」の考え方が浸透してきました。

ESGのS(社会)の項目には、人的資本の状況も含まれています。たとえばESG投資では、多様性に配慮した雇用、またそれに関する教育、労働慣行、健康・安全への配慮等が、投資判断にかかわる情報とされています。つまり、人材に対する企業の考え方や実践されている取り組み内容が、資金調達に大きな影響を与える可能性があるのです。

特にここ数年は、人的資本に関する情報の開示を求める動きが活発化しています。次章では、国内外の人的資本経営を巡る動きについて解説します。

国内外における人的資本経営

海外における人的資本経営と、日本における人的資本経営について紹介します。

海外における人的資本経営

先に解説したESG投資の広がりに見られるように、近年は投資家による企業の人的資本に関する情報開示を求める声が高まっています。2017年には、複数の機関投資家が加盟しているHCM連合が、米国証券取引委員会(SEC)に対し、上場企業の人的資本に関する、より詳細な情報開示を求める開示基準の策定を申し立てました。

同じく2017年には、企業に対し従業員管理の情報開示を要求するイニシアチブ「Workforce Disclosure Initiative(WDI)」が発足しました。

さらに2020年には、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対し人的資本の情報開示を義務化し、企業の人材に関する情報公開の動きが活発化しています。
このように、国際的人的資本の情報開示フレームワークが、2016年から2020年にかけて相次いで公開されています。

日本における人的資本経営

日本では、2020年に経済産業省が「人材版伊藤レポート」を、2022年にはこれを深掘りした「人材版伊藤レポート2.0」を公表しました。「人材版伊藤レポート」とは、経済産業省の持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会の報告書で、人的資本情報の重要性が認識されるきっかけとなりました。

また、2021年には、金融庁・東京証券取引所が主体となってまとめた、ガバナンスのガイドラインである「コーポレート・ガバナンスコード」に、「人的資本に関する開示・提示」の項目が追加されました。

さらに、2023年施行予定の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案では、従業員の状況や人材育成方針等の情報開示を求めています。

人的資本経営への取り組み方

人的資本経営への取り組みを進めるステップを紹介します。

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1. 現状把握

自社における現状の人的資本を評価し、組織における人材の強みや課題を分析する段階です。人材のスキルや能力、経験、ポテンシャル等を客観的に評価し、組織全体の人的資本の状況を把握します。

2. 人材戦略の策定

現状把握で得られたデータを参考に、経営戦略を人材戦略にどのような形で反映させるかを検討します。ここでは経営層と人事部門の認識をすり合わせることが重要となり、企業全体として目指すゴールに向けた人事戦略を策定します。

これまでの人事施策を振り返り、企業が理想とする姿との差異を確認し、今後のための改善策を考えることが大切です。

その後、組織のビジョンや目標に合わせて、人材の選定基準や育成プログラム、報酬制度、働き方の改善等を明確にします。

3. KPIの設定と施策の立案

ここまでの段階で見えてきたゴールとのギャップを埋めるためのKPIを設定し、目標を定めます。続けて、KPIを達成するための具体的な施策と実施計画を立案しましょう。

内容としては、人材の採用や配置、育成プログラムの実施方法やスケジュール、報酬や評価制度の設計等の明確化といったものが考えられます。教育のための投資や、待遇の改善、採用活動、テレワークを取り入れる等の具体策に落とし込み、着手しやすい形式にすることがポイントです。

4. 施策の実行

策定した実施計画を実行に移し、進捗のモニタリングを行いましょう。定期的な評価やフィードバックを行いながら、人的資本経営の取り組みの効果を評価し、必要に応じて改善を行います。

施策の実施にあたっては、従業員との適切なコミュニケーションを図り、エンゲージメントを高めることを意識します。人的資本経営の取り組みをより効果的に推進するには、組織のビジョンや目標を共有し、従業員の意識や参加意欲を引き出すことが重要です。

5. 効果検証と改善

KPIごとに効果検証を行い、施策に課題があれば改善します。数値で表れる定量的な検証としてエンゲージメントサーベイの実施や、定性的な情報としてステークホルダーへのヒアリング等を行い、人的資本経営の施策による効果を測ります。

永続的な企業成長に繋がる人的資本経営

人的資本経営では、ビジョンや目標に合った人材戦略により、経営成果を最大化しながら継続的な企業成長を目指します。優秀な人材の確保・育成・活用を通じ、従業員のモチベーションやエンゲージメントの向上、組織の効果的な運営、持続的な競争力の確保等が期待できます。

人的資本経営の取り組みでは、持続的な改善を行いながら、進化させていくことが重要です。事業の成長と従業員の幸福という両面を考慮した経営を行うことで、企業力の強化を実現しましょう。

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