ワクチン休暇は必要ない?職域接種実施済み企業から学ぶ今後の対応とは

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ワクチン休暇は必要ない?職域接種実施済み企業から学ぶ今後の対応とは

新型コロナウイルスのワクチン接種方法のひとつとして、2021年6月21日より開始された職域接種。
開始前に主要な日本企業100社以上へ毎日新聞社が実施したアンケートでは、全体の約8割が「実施」「実施予定」と答えていたようです。

2回目までのワクチン接種は広く浸透し、3回目となる「ブースター接種」も厚生労働省により案内されています。2022年3月からは3回目の職域接種も開始されており、人事担当者の中にはその対応に追われている方もいるのではないでしょうか。

今回は、ワクチン休暇をはじめとした勤怠措置の対応についてまとめつつ、今後の展望についても触れていきます。
 

目次

ワクチン休暇をはじめとする企業の勤怠措置の状況
ワクチン休暇を取り入れる際に検討すべきポイント
ワクチン休暇から学ぶ、トレンドに流されない働き方の重要性

 

ワクチン休暇をはじめとする企業の勤怠措置の状況

2021年の夏ごろから職域接種が登場したことにより、平日に従業員が安心してワクチンを接種できるようになりました。また、副反応発症時にも、ワクチン休暇を活用して気兼ねなく療養できるよう就業規則を整える企業が増えており、厚生労働省も企業向けの案内を実施しています。
※厚生労働省:新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html

当社でもユーザー企業様向けに、ワクチン接種にまつわる勤怠措置についてアンケートを実施しました。結果は下図の通りです。
 

< ワクチン接種に関して、通常の有給休暇とは別に措置を設けましたか? >
職域接種_グラフ.png

 

通常の年次有給休暇とは別に、「ワクチン休暇をはじめとする勤怠上何らかの特別措置を設けた」または「設ける予定である」と回答した企業は、全体の約7割となりました。

ワクチン接種にまつわる勤怠措置はおおむね、移動時間も含めた当日の接種に要する時間を勤務時間とみなすか、該当日を有給休暇扱いにするかに分かれます。

「措置を設けた」または「設ける予定である」企業のうち25社、つまり全体の約4割の企業がワクチン接種に要する時間を勤務扱いとみなす就業規則を整えていました。

ただし、勤務扱いの対応が取られているのは何日にわたってではなく、基本的に本人の接種当日に対してのみです。

一方で、ワクチン接種について休暇扱いとする、いわゆるワクチン休暇の適用範囲については以下2つの観点で検討がなされているようです。

・取得タイミング(接種当日、副反応発症時)
・接種対象者(本人、家族)

前述のアンケートについて、上記の観点で「ワクチン休暇適用企業」の全体に占める割合を算出してみると以下の通りになります。
 

  接種当日 副反応発症時
本人 34.4% 36.1%
家族 11.5%

 

「本人」のワクチン休暇における適用割合は、接種当日よりも副反応発症時の方が多いです。しかし、これは前述の通り、当日については勤務扱いとするケースがあるからであると想定されます。いずれにせよ、本人に対して接種当日や副反応発症時のどちらか、または両方の場合に就業規則でワクチン休暇のような有給休暇取得を認めている企業は、全体の半数以上にのぼりました。

また、家族についても、接種当日、特に帰りの安全を考慮した付き添いに対応できるように休暇の取得を認める企業が1割強ありました。一方で、家族の副反応発症時については今回のアンケートでは情報を取得できていませんが、おそらくさらに少なくなる傾向が予想されます。

ちなみにワクチン休暇のような専用の有給休暇取得制度がない企業においては、必要に応じて年次有給休暇を取得するように指示されているところがほとんどであるように見受けられました。

 

ワクチン休暇を取り入れる際に検討すべきポイント

アンケート結果からも読み取れるように、2021年夏の1回目・2回目職域接種の際は取り組み自体が初めてであったため、ワクチン休暇のような比較的手厚い対応・措置を講じている企業が多い印象です。

また、当初の情報の通り、接種後の副反応が何日にもわたり、業務に影響の出るレベルで症状が出た人が多かったように思います。このことから、ワクチン接種に関する休暇、もしくは勤務扱いの措置は当面継続される流れにあるでしょう。

ただし、1回目・2回目職域接種の対応状況を振り返り、3回目に向けてよりよい形を検討すべき点もあるのではないでしょうか。主だったところを2点、以下に記します。
 

接種日の分散方法

管理職や顧客対応従事者等が一斉にワクチン休暇をはじめとする有給休暇を取ってしまうと、ビジネス全体への影響が即時に出る可能性があります。

1回目・2回目の職域接種においては急ピッチな対応であったため、ある程度は仕方がないことでしたが、従業員の接種日をいかに分散するかは、各企業で工夫が必要だと言えるかもしれません。

特に職域接種で利用されている現行のモデルナ製ワクチンは、2回目接種後の副反応でおよそ8割近くに37.5℃以上の発熱が、うち6割は38℃を超える高熱が出ているという厚生労働省の調査結果も出ています。3回目接種における副反応の強さは現時点で定かではないため、業務継続が困難な副反応に備えて休暇を視野にいれておくべきでしょう。

また、企業としての生産性や顧客対応に大きな影響が出ないように、人事と各事業部長とで相談しながら、接種日を何日かにうまく分散させたり、可能であれば接種を休日の前日にしたりする等、接種日やワクチン休暇の取得日をコントロールすることが望ましいと考えます。

たとえば社員番号で分類して接種日を割り振ったとします。すると、管理職のワクチン接種が特定日に固まった結果、多くの管理職者が同じ日に副反応でダウンして組織コントロールが多方面で機能しなくなる、ということも起こりかねません。そういった事態を想定し、回避できるように調整できると理想的です。
 

ワクチン休暇の導入継続可否

1回目・2回目の職域接種の際は未知への対応であったため、ワクチン休暇を別途用意したり、その用途を柔軟に設定したりした企業も多かったと思います。

ですが、3回目の接種以降については、継続可否や用途を再度整理をしてもよいのではないでしょうか。言い換えると、わざわざワクチン休暇という専用の休暇を設けずとも十分に措置を講じる選択肢もあり得るということです。

具体的な一例としては以下の通りです。ここでは積立休暇の活用を選択肢に挙げています。
 

  接種当日 副反応発症時
本人 勤務扱いとして対応 傷病事由で
積立休暇利用を認可
家族 看護事由で
積立休暇利用を認可
看護事由で
積立休暇利用を認可

 

以前の記事にて、積立休暇を活用して子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得を認める法改正について考察しましたが、そもそも日本では年次有給休暇の取得率が低いという実態があります。

それゆえ、積立休暇制度を導入している企業(平成28年段階の人事院の調査では、500名以上規模の企業において54.6%)においては、その残日数を持て余しがちだと考えています。

ただでさえ溜まりやすい積立休暇ですが、取得事由が非常に制限されているがゆえに消化も難しいことが多いのが現状ではないでしょうか。しかし、ワクチン接種の副反応も傷病と捉えることができますし、ワクチン接種にかかわる家族の付き添いや看病も看護と捉えることができます。

積立休暇自体は法律の縛りがない休暇ですので、取得事由の制限緩和も企業の判断に委ねられています。ワクチン休暇のような新しい種類の休暇を設けることと、既存休暇の取得事由を緩和すること、どちらの方が導入負荷が低いでしょうか。

場合によっては、「年次有給休暇も積立休暇も残日数が何日もない従業員が一定数存在する」「元から取得率が高い」という企業もあるはずです。そのため、メリット・デメリットを整理のうえで、各企業の状況に合った選択肢を取ることが最善策と言えるでしょう。

いずれにせよ、ワクチン休暇といった専用の休暇にこだわることなく、上記のように柔軟な選択肢も視野に入れつつ就業規則の整理をするとよいと考えます。

 

ワクチン休暇から学ぶ、トレンドに流されない働き方の重要性

1回目・2回目の職域接種に伴う対応は、企業人事としての柔軟性やスピード感が多少なりとも問われるものであったことは否めません。しかしながらより重要なことは、不確実な世の中の変化を追い続け、その時々で必要な形に自社の在り方や制度を見直し、場合によってはしっかり変容させていくことではないでしょうか。

新型コロナウイルス対応に限った話としては、2022年より3回目のワクチン接種も厚生労働省により推し進められ、本格化しています。変異株が次々と出てきている中ではありますが、国産ワクチンの開発や現行ワクチンの改良も日々進んでいます。

遠くない将来、新型コロナウイルスのワクチン接種も現在のインフルエンザ予防接種のように当たり前の出来事に変わっていく可能性も唱えられ始めています。そうなると、ワクチン休暇のような特殊な勤怠措置を就業規則に反映する必要なくなるかもしれません。

状況の変化をつぶさに捉えつつも、トレンドやマジョリティに流されることなく、各企業の休暇や働き方に関する制度に向き合い最適化させていけるよう、定期的に見直しを行える体制の構築を強くおすすめします。

今回の考察が、柔軟かつしなやかな企業人事への変革の一助になれば幸いです。
 

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この記事を書いた人

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阿弥 毅(Ami Tsuyoshi)

2011年にワークスアプリケーションズ入社後、勤怠領域を中心に大手企業の人事システム導入・保守のコンサルタントを務める。その後、海外法人への導入プロジェクトや首都圏の導入担当責任者などを経験。現在は業務コンサルタントチームのマネジメントの傍ら、人事業務課題解決の経験と事例を活かした業務分析・ノウハウ提供に従事している。

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