役職定年制度とは?廃止が続く理由と新しいポストオフ制度のヒントを紹介

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役職定年制度とは?廃止が続く理由と新しいポストオフ制度のヒントを紹介

役職定年制度とは役員や部長、課長等の役職ごとに定年を設ける制度で、通常の定年制度と併存しています。役職定年制度には企業内の世代交代をはかる意味がありますが、近年は廃止を検討・実施する企業が増加中です。

本記事では、役職定年制度における近年の動向を整理し、減少の背景と新たなポストオフ制度について考察します。

目次

役職定年制度とは
役職定年制度の目的
役職定年制度のメリット・デメリット
役職定年制度の廃止が続く理由
役職定年制度にかわるポストオフ制度とは
役職定年制度のポイント


役職定年制度とは

役職定年制度とは、役職ごとに定年を設け、既定の年齢になった役職者がその役職(ポスト)から離れる制度です。役職から離れることをポストオフ(*)と呼ぶことがありますが、このポストオフをめぐる制度や運用は大きく3つ存在します。

①役職定年制度
②役職任期制度
③能力、成果、後継者の存在有無等を元に総合的に判断されるポストオフ

本記事では上記3運用のうち、①の役職定年制度について説明します。

たとえば、ある企業で定年退職の年齢が60歳、部長職の定年が55歳の場合、その年54歳の部長は次の年が役職定年のタイミングです。55歳の年を終えたら部長職から退き、定年退職までの5年間は別の職位・ポストで過ごし、空いた部長ポストには別の従業員がつきます。

役職定年制度は、1986年以降に各企業での導入が進みました。この年、高年齢者雇用安定法により、企業が定年制度を設ける場合は定年を55歳から60歳に延長することが努力義務とされたためです。

(*)一般的には「ポストオフ=役職定年制度」を意味することも多いですが、本記事では、ポストオフ=特定の役職から離れること、と定義します。

役職定年制度の目的

企業が役職定年制度を導入する目的は、主に下の2つです。

①人件費の高騰の抑止

年功的な昇格昇進、昇給が一般的な企業では、55歳の役職者は次の5年間でさらに報酬が上がる可能性があります。一定の年齢で強制的にポストオフすることで連続的な昇給を止め、人件費が上がり続けることを防ぎます。

②組織の新陳代謝と若手のモチベーション低下の抑止

たとえば「部長」のポストは一部署につき一人分ですので、簡単には増やせません。55歳の人が部長だった場合、定年が延長された結果さらに5年部長職であるとすると、下の世代はそのポストにつける見込みが少なくなります。

これによる若手のモチベーション低下と、若手の成長機会が奪われ後継者不足になるといった事態を防ぐ目的があります。

役職定年制度のメリット・デメリット

役職定年制度をはじめとしたあらゆる人事制度は、企業内における立場によって受ける影響が変わります。下の図では、現職・若手・企業という3つの立場から、役職定年制度のメリットとデメリットを整理しています。

現職へのメリット・デメリット

はじめに、役職定年があるポストの「現職」について見てみましょう。役職定年を迎えた現職は、自分の能力や実績と関係なく役職から外れる必要があるため、エンゲージメントと報酬の両観点でマイナスになるデメリットがあります。

下のグラフはリクルートマネジメントソリューションズが、ポストオフを経験した元管理職の方にポストオフ後のモチベーションについて調査した結果です。

部長・課長ポストオフを見ると、やる気は変わらないとする人が3割弱いる一方で、一度はやる気が下がったとする人は6割近くにのぼり、内訳として下がったままという人が4割前後となっています。

出典元:リクルートマネジメントソリューションズ「ポストオフ・トランジションの促進要因 -50~64歳のポストオフ経験者766名への実態調査

若手へのメリット・デメリット

次に、該当ポストを目指す「若手」について考えます。若手は自らの能力が現職に劣っていたとしても、役職定年になった現職がポストを空けるため昇進の可能性が高まります。エンゲージメント・報酬の両観点でプラスになることがメリットです。

企業へのメリット・デメリット

最後は、上記を踏まえた「企業」のメリット・デメリットです。現職のエンゲージメントダウン、若手のエンゲージメントアップ、に加え以下の要素があります。

・メリット :総額人件費を抑制しやすくなる
・デメリット:現職より能力の低い人が就任することによりパフォーマンスダウンの可能性がある

役職定年制度は、「企業」におけるメリット・デメリットの程度を考慮したうえで、導入が検討されます。

役職定年制度の廃止が続く理由

近年、企業における役職定年制度の導入件数は減少傾向です。本章では、役職定年制度の廃止が増えた背景について検討します。

「年齢のみ」に対する処遇検討が近年の潮流に合わなくなってきた

日本企業が近年新しく導入する職務等級・役割等級制度は、年齢に応じた昇格昇進が行われやすい旧来の職能等級制度から脱却する意図で行われることが多いです。

これに対して、年齢を基準に一律のポストオフをする役職定年制度は「年齢のみ」を判断軸として処遇を決める点で、上記の意図に反しています。それでは新制度を導入する意味がないとの判断で、役職定年制度の廃止検討に繋がっていると考えられます。

シニア層のモチベーション向上がより重要になってきた

2021年に高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの定年延長義務に加え、70歳までの就業機会確保の努力義務が加わりました。これにより、企業はこれまで以上にシニアの従業員のパフォーマンスとモチベーションに気を配る必要があります。

優秀なシニア従業員にはエンゲージメント高くパフォーマンスを上げてもらう必要がある中で、役職定年制度は、マイナスの要素が大きく作用してしまうと考えられます。

役職定年制度にかわるポストオフ制度とは

今後企業では、年齢でなく仕事・役割・貢献度等に応じた昇進昇格が増えていき、役職定年制度の廃止傾向は続くでしょう。

しかし、どの企業においてもポストには限りがあります。経営幹部候補を持続的に育成する必要がある以上、人材をある程度の間一つのポストに置き続けなければ意味がない、という考え方も否定できません。

これらを考慮して、最近では、「役職定年制度自体は廃止するが、年齢を一つの判断材料として残す」取り組みも見られます。

ある国内大手事務機器メーカーでは、2022年4月に独自のジョブ型人事制度を導入しました。その中で役職定年制度の廃止をし、別のポストオフ検討の運用をはじめています。ポストオフ検討候補者を選ぶ際の観点は以下3つです。

・評価
・任期(役職任期)
・年齢

上記の観点でポストオフ候補者を選び、登用候補がいる場合、総合判断によってポストオフが行われるかどうかが決まります。

別の国内大手電気機器メーカーもジョブ型人事制度を導入したことで有名ですが、同様のポストオフの制度を採用しています。

このように、年齢のみを判断基準にする役職定年制度を廃止しながらも、年齢を一つのポストオフ検討の材料として残すケースが増えるでしょう。

役職定年制度のポイント

本章では、役職定年制度を導入する際と、廃止する際に気を付けるポイントをそれぞれ紹介します。

役職定年制度を導入する場合

ここまで役職定年制度の直近の動向や、新しいポストオフの考え方について説明しましたが、定年延長の傾向がある中で役職定年制度が改めて必要になるケースも考えられます。

役職定年制度を新たに導入する場合は、職位・等級等の降格と、それに応じた報酬ダウンの2つに注意が必要です。従業員のエンゲージメントを保つことだけが目的ではありません。より重要な要素として、従業員にとって不利益になる制度変更のような、人事権の濫用を防ぐための法制度が挙げられます。

何が従業員にとって不利益になるかは法として明記されていないため、裁判の判例をもとにした判断が必要ですが、少なくとも役職定年制度を就業規則に明記することは必要でしょう。

役職定年制度を廃止する場合

役職定年制度を廃止する場合は、導入時に解決しようとしていた企業課題への影響を考える必要があります。たとえば、制度廃止時に若手・中堅層のモチベーションを下げないか、総額人件費が高騰しないか等、慎重に検討しなければなりません。

また、上記で紹介した企業のように新しいポストオフの運用を考えている場合は、ポストオフ対象者との話合いを綿密に行うことが求められるでしょう。対象となった従業員の、その後のモチベーションも考慮すべきです。

企業によっては、ポストオフ対象者の合意を得られず、裁判となったケースもあります。従業員の不信感を生まないよう、適切なケアが必要です。

役職定年やその他のポストオフ制度を適切に活用し、時代に合った組織開発を

今後、定年の延長に伴い企業で働く従業員の年齢は高くなっていきます。組織の新陳代謝を高めるためのポストオフも増えると考えられますが、役職定年やその他のポストオフ制度等、その方法は慎重に検討する必要があります。

自社に合ったポストオフの判断基準を定めることはもちろん、ポストオフ後の従業員をケアするためのしくみ作りも重要です。リスキリングや適材適所等の様々な人事運用と共に、ポストオフ前からポストオフ後の準備を促進することで、エンゲージメントの低下を防ぐようにしましょう。

この記事を書いた人

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奈良 和正(Nara Kazumasa)

2016年にワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は、入社以来継続して実践している各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。

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