定年退職の年齢引き上げは義務?70歳までの就業機会を確保する措置とは

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最終更新日 2024年9月2日

定年退職の年齢引き上げは義務?70歳までの就業機会を確保する措置とは

定年退職とは、一定の年齢を迎えた従業員が企業との雇用契約を終え、退職する制度です。
これまで60歳が一般的だった定年退職の年齢。2013年以降、高年齢者雇用安定法が2度にわたって改正され、企業には高年齢者の雇用機会のさらなる拡大が義務付けられました。

本記事では、定年退職の概要や関連する法律、継続雇用の方法・ポイントについて解説します。

 

目次

定年退職とは?
高年齢者雇用安定法の改正と定年制度の変化
 ・65歳までの雇用機会確保が義務に|2013年の法改正
 ・70歳までの就業機会確保が努力義務に|2021年の法改正
定年退職の年齢が引き上げられる背景
定年退職の年齢を引き上げるメリット・デメリット
継続雇用制度とは?
継続雇用制度についてよくある疑問
 ・1. 定年退職で失業保険は受け取れるか
 ・2. 退職金はいつ支払うか
 ・3. 再雇用において有給休暇はあるか
 ・4. 再雇用において賞与はあるか

 

定年退職とは?

定年退職とは、一定の年齢を迎えた従業員が企業と結んでいた雇用契約を終え、退職する制度のことです。定年退職の年齢は企業が自由に決められますが、基本的に60歳未満とすることはできません。

従来は、60歳を定年と定める企業が一般的でした。しかし「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)」の2度にわたる改正により、定年退職をする年齢の引き上げや、高年齢者の再雇用が求められるようになっています。

厚生労働省による令和4年の調査では、定年の年齢を60歳と定める企業が約70%、65歳と定める企業が約20%との結果が出ています。

参考:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査の概況

 

高年齢者雇用安定法の改正と定年制度の変化

高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の安定した雇用や再就職・就業の機会を確保することで、高年齢者の生活安定、経済・社会の発展を目的とした法律です。

高年齢者雇用安定法は、2013年と2021年の2度改正されました。本章では、それぞれの改正内容について詳しく説明します。
 

65歳までの雇用機会確保が義務に|2013年の法改正

2013年、65歳までの雇用機会を確保するための改正が行われました。2025年4月以降は、以下3つのうちいずれかの措置を講じることが企業の義務となります。

1. 65歳までの定年の引き上げ
2. 定年制の廃止
3. 65歳までの継続雇用制度の導入
 

70歳までの就業機会確保が努力義務に|2021年の法改正

2021年には、70歳までの就業機会を確保するための改正が行われました。企業には、以下5つのうちいずれかの措置を講じる努力義務があります。

1. 70歳までの定年の引き上げ
2. 定年制の廃止
3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
 ・事業主が自ら実施する社会貢献事業
 ・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

参考:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~

定年退職の年齢が引き上げられる背景

定年退職の年齢引き上げには、大きく2つの目的があります。1つは少子高齢化による労働力不足問題への対応、2つ目は労働意欲のある高年齢者への環境整備です。

本章では、これらの背景について詳しく解説します。
 

1. 少子高齢化による労働力不足への対応

定年退職の年齢が引き上げられた要因のひとつとして、少子高齢化による労働力不足が挙げられます。新たに労働者となる人数が少なくなる分、これまで働いていた人たちの現役引退を遅らせ、労働力を維持しなければなりません。

また、年金制度を支える人の減少に伴い、年金を支給する年齢が60歳から65歳に引き上げられていることも要因のひとつです。雇用の継続によって高年齢者の生活を安定させる必要が出てきています。
 

2. 労働意欲のある高年齢者への環境整備

定年退職の年齢を引き上げる2つ目の理由は、労働意欲がある高年齢者の働く機会を整えるためです。内閣府からの報告では、収入のある仕事をしたいと考える60歳以上の人は令和2年度で40.2%いることがわかっています。

定年の年齢を引き上げることで、経験やスキルのある高年齢者が実力を発揮できます。安定した雇用と収入が得られ、働く意志のある高年齢者のニーズに応えることが可能です。

参考:内閣府「令和3年版高齢社会白書

定年退職の年齢を引き上げるメリット・デメリット

定年退職の年齢を引き上げることについて、企業に生まれるメリット・デメリットを紹介します。
 

定年退職の年齢を引き上げるメリット

定年退職の年齢を引き上げるメリットは以下の通りです。

・ベテランの持つ経験やスキルを活用できる
・業務に慣れた人材を多く確保できる
・新人を教育・育成する費用が減らせる
・退職による手続きの手間や生産性の低下を抑えられる

定年の年齢を引き上げるメリットは、経験やスキルのある人材を継続して雇えることです。ベテランの人材を確保することで、新人を採用したり育成したりする費用を減らせます。
 

定年退職の年齢を引き上げるデメリット

定年退職の年齢を引き上げるデメリットは以下の通りです。

・給与の高い従業員を引き続き雇用することで、人件費がかかる
・組織が高年齢化し、世代交代が進まない
・若手の活躍を妨げる可能性がある

経験や立場のある人材を継続して雇用すると、その分人件費がかかります。また、能力の程度にかかわらず希望者全員を継続して雇う必要があるため、周りから不満があがる、人件費と見合わない等の問題が起こりえます。

さらに、組織が高年齢化すると世代交代が進まず、若い従業員が活躍する機会を逃す可能性もあるでしょう。

 

継続雇用制度とは?

本章では、継続雇用制度の概要や実施の手順、ポイントについて説明します。
 

継続雇用制度の概要

継続雇用制度とは、定年を過ぎた従業員を継続して雇用する制度です。たとえば60歳を定年とする企業では、本人が希望すれば60歳になった後も雇用の機会を与える必要があります。対象はあくまでも希望者であり、希望しない場合は60歳で退職することも可能です。
 

継続雇用制度の種類

継続雇用制度には、再雇用制度と勤務延長制度の2つがあります。それぞれの制度について、概要とメリット・デメリットを解説します。
 

再雇用制度とは?

再雇用制度とは、定年退職した従業員ともう一度雇用契約を結ぶ制度です。一般的に退職前とは違う雇用形態であるため、以前の役職は失われます。


▼再雇用制度のメリット・デメリット

再雇用制度のメリット 再雇用制度のデメリット
・雇用形態や条件が変わるため、人件費を削減できる
・スキルのある人材を有することで、若い人材を育成できる
・採用や教育にかかる費用を削減できる
・給与や待遇が下がることで、従業員が流出する可能性がある
・評価の管理に手間がかかる

勤務延長制度とは

勤務延長制度とは、従業員が定年に達したあとも雇用を続ける制度です。労働条件をあまり変えずに、勤務期間だけを延長します。


▼勤務延長制度のメリット・デメリット

勤務延長制度のメリット 勤務延長制度のデメリット
・労働条件が変わらないため、対象者から不満が出にくい
・特殊なスキルが必要な職種や、代わりの人材がすぐに見つからない職種に向いている
・これまでと変わらない人件費を確保する必要がある

 

継続雇用の手順

本項では、継続雇用をする際の手順について説明します。トラブルを生まないためにも、定年退職する従業員と丁寧な意思疎通を図りましょう。
 

1. 従業員の意思を確認する

雇用を継続するには、従業員本人がそれを希望している必要があります。面談を行い、定年時に退職を希望するか、継続雇用を求めるかを直接確認しましょう。

再雇用を希望する従業員は、再雇用希望申出書の提出が必要です。また、再雇用する際の労働条件も決めなければなりません。再雇用したあとのトラブルを避けるためにも、雇用形態や勤務時間、賃金等について明確にしましょう。
 

2. 各種保険の手続きを行う

再雇用が決定したら、社会保険と労働保険の手続きをします。


▼再雇用時の保険の手続

社会保険 ・定年退職を理由とする資格喪失届と、再雇用における資格取得届を同時に提出する
労働保険 ・労災保険と雇用保険は基本的に引き継ぎが可能
・再雇用により1週間の所定労働時間が30時間を下回る場合、雇用保険の区分を変更する必要がある

 

継続雇用制度を導入する際のポイント

継続雇用制度を取り入れる際には、現在の制度や従業員との契約を見直す必要があります。高年齢者を雇用するために、賃金制度や雇用形態等が適しているか確認しましょう。
 

賃金を見直す

継続雇用にともなって賃金を見直す際には、「同一労働同一賃金」の原則に注意する必要があります。同じ業務を行う人の間で、待遇や賃金に不合理な差をつけることは望ましくありません。

一方で、高齢になるにつれて仕事能力や健康面で問題が起こりやすくなることは事実です。
実際の業務内容に適した賃金制度を確立する必要があります。

雇用形態を見直す

雇用を継続するにあたって、定年後も同じ労働条件で雇用する場合は、原則として新しい雇用契約は必要ありません。ただし、定年退職をする前と別の業種で再雇用する場合は新たな雇用契約が必要です。

年齢を重ねたことによる能力の低下や、長時間勤務の難しさ等を踏まえて、雇用形態や労働時間を見直すことがおすすめです。
 

継続雇用における政府のサポート|65歳超雇用推進助成金

65歳超雇用推進助成金とは、定年退職年齢の引き上げや高年齢者の雇用確保を行う事業主に向けた助成金で、以下の3コースがあります。

・65歳超継続雇用促進コース
・高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
・高年齢者無期雇用転換コース

各コースの概要と支給条件は以下の通りです。


▼65歳超雇用推進助成金 3コースの違い

コース名 概要 支給条件
65歳超継続雇用促進コース 定年制度を見直したり、継続雇用制度を導入したりした企業に支給される助成金 下記のいずれかを実施
 ・定年制を廃止
 ・定年の年齢を引き上げる(65歳以上)
 ・継続雇用制度を取り入れる(66歳以上)
 ・他社との継続雇用制度にかかる費用を負担  
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  高年齢者の雇用管理について制度を定め、計画を実施した企業に支給される助成金  ・高年齢者の雇用管理制度を整備し、その措置を労働協約や就業規則に定める

 ・雇用管理整備計画を作って認定を受け、計画書に基づいて実施する  
高年齢者無期雇用転換コース  対象の有期契約労働者を無期限雇用者に転換した企業に支給される助成金  下記2点の施策によって50歳以上で定年に達していない有期契約労働者が対象

  ・無期雇用転換計画を作り、認定を受ける
 ・計画に沿って無期限雇用者に転換させる  

 

 

継続雇用制度についてよくある疑問

本章では、継続雇用制度についてよくあがる4つの疑問を取り上げ、解説します。

1. 定年退職で失業保険は受け取れるか
2. 退職金はいつ支払うか
3. 再雇用において有給休暇はあるか
4. 再雇用において賞与はあるか
 

1. 定年退職で失業保険は受け取れるか

以下の条件を満たす定年退職者は失業保険を受け取れます。

・定年退職する年齢が65歳未満である
・失業保険の被保険者期間が離職日以前の2年間で通算12か月以上ある
・働く意欲がある
・健康や環境面に問題がなく、いつでも就職できる
・職に就いていない
・求職活動を積極的に行っている

また、65歳以上で離職する場合は、失業保険ではなく高年齢求職者給付金を受給できます。
 

2. 退職金はいつ支払うか

退職金は、再雇用制度と勤務延長制度で支払うタイミングが異なります。再雇用制度では、定年退職をした時点で退職金を支払うのが一般的です。勤務延長制度は定年した従業員を引き続き雇用する制度のため、延長契約が終了して退職する際に支払います。

企業によっては、60歳で退職金を支給したり、再雇用終了時に支払ったりするケースもあります。従業員とのトラブルを招かないためにも、事前に退職金を支払うタイミングを規程しておきましょう。

3. 再雇用において有給休暇はあるか

再雇用制度では、定年前からの勤続年数を通算して有給休暇が付与されます。また、定年退職前に保持していた有給休暇日数は引き継がれます。再雇用は雇用形態が変わることもありますが、雇用契約を結んでいる状態は変わらず続いており、継続勤務にあたるためです。

4. 再雇用において賞与はあるか

再雇用後はボーナスがなくなるか、減額になる場合が多いです。ボーナスは基本的に正規雇用している従業員に福利厚生として与えられるのが一般的であるため、再雇用や非正規雇用者への支給は、企業で慎重に検討する必要があります。

 

自社の定年退職制度を見直して、時代やニーズに合った雇用体制に

定年退職制度は、高年齢者雇用安定法の2度にわたる改正によって、社会問題やシニア人材のニーズに合わせた変化を求められています。

高年齢者に対して雇用機会を確保する方法は様々ですが、再雇用制度・継続雇用制度を実施するにあたっては、それぞれのメリットとデメリットを正しく理解することが重要です。政府のサポートを受けつつ、ポイントを押さえて、従業員が納得できる制度構築を目指しましょう。

少子高齢化が進む現代、高年齢者の雇用問題はさらに広がると考えられます。自社の定年退職制度を見直して、時代やニーズに合った柔軟な雇用体制を作りたいものです。

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