高年齢者雇用安定法とは、労働意欲の高い高年齢者が長く働けるよう、労働機会の確保や労働環境の整備を目的に制定された法律です。
少子高齢化に伴う労働人口の減少が予想される中で、高年齢者の経験や知見をいかに活用できるかという点は、企業だけでなく日本社会における大きな課題となっています。
2021年4月には、高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの雇用確保義務に加え70歳までの就業確保措置をとることが努力義務として追加されました。
高年齢の方のライフプランも多様化する中、どのような選択肢を提示していくのか、人材不足に対してノウハウやスキルを保持した高年齢社員をどう活用するのか等、悩みをお持ちの企業も多いのではないでしょうか。
今回、統合人事システムCOMPANYのユーザーである国内大手92法人を対象に、WHI調査レポートとして高年齢者雇用に関する現行制度から課題意識、今後の取り組み予定について伺いました。
【WHI調査レポートとは?~HR領域における大手法人の実態を調査~】
当社の製品・サービスは約1,200の日本の大手法人グループにご利用いただいており、そのほとんどが当社のユーザー会「ユーザーコミッティ」へ加入しています。オンライン会員サイトをはじめとしたユーザーコミッティのネットワークを通じて、当社では適宜、社会・経済情勢に合わせた諸課題について調査を実施。その結果を製品・サービスに反映するとともに、ユーザー法人様・行政機関・学術機関への還元を行っています。(ユーザーコミッティについてはこちら)
目次
ーアンケート調査概要
ーアンケート調査結果
・高年齢者雇用に関する現状
・定年延長の課題・取り組み予定
・定年以降における継続雇用制度の動き
・高年齢者層の活用に向けての方針
ー調査監修者による考察
アンケート調査概要
統合人事システム「COMPANY」のユーザー92法人を対象に「高年齢者雇用」に関するアンケート調査を実施しました。
<調査概要>
1.調査期間
2022年4月11日(月)~4月28日(木)
2.調査対象
当社製品「COMPANY®」ユーザーである国内大手法人
3.有効回答数
92法人
4.調査方法
インターネットを利用したアンケート調査
※小数点以下の切り上げ、切り下げにより合計100%にならないことがございます。
アンケート調査結果
高年齢者雇用に関する現状
定年年齢・60歳以上の従業員比率
定年年齢は「60歳」が77.2%と最も多く、61歳以降の定年延長を行っている企業は20%余り。多くの法人では依然として60歳定年が標準という結果でした。
また、従業員総数における60歳以上の構成割合は「6〜10%」が最も多く、全体の平均値は8.6%という結果でした。別の調査結果では、50〜59歳の構成割合の平均値が22.7%という結果も出ており、合計をすると50歳以上が全体の約30%を占めています。
61歳以降の定年制度対象者・利用選択可否
※いずれも定年年齢を61歳以上としている法人のみ回答
61歳以降の定年制度の対象者は、「全従業員」が最も多く57.1%、「正社員」も合わせると8割を占めています。その他の回答には、「正社員と有期契約社員」、「無期雇用されている者のみ」、「正社員は65歳定年、契約社員は70歳定年」等が挙げられました。
さらに、61歳以降の定年制度利用の選択可否は、7社で33.3%でした。定年年齢を61歳以上としていない企業も含めると全体で10%以下(母数92法人のうち7法人)です。
61歳以降の役職・担当職種
役職は57.1%が変更なし、担当職種も66%が変更なしという結果でした。
高年齢者の経験や知見を最大限活用する目的で、61歳以降であっても特例扱いしない企業が半数以上であることが伺えます。
定年延長の課題・取り組み予定
定年延長の課題・定年延長企業の支給報酬
定年延長の課題として上位に挙がったのは、「対象者の報酬水準」、「対象者のモチベーション」が半数を超え、ついで「人件費の高止まり」でした。その他の回答には、「退職金計算」や「若手のモチベーション」が挙げられています。
定年延長において最も課題と感じられている「対象者の報酬水準」について、すでに定年年齢を延長している企業の報酬内容を見てみましょう。
定年前後での報酬内容の変更として多いのは「基本給の減額」と「手当類の減額」でした。
一方、「一律で変化は発生しない」という回答も42%と多く、企業によって方針が大きく分かれる結果となりました。
定年延長における今後の取り組み予定
「特に変更の予定はない」と回答した企業が半数を占める結果でした。定年延長は上述の通り課題も多いため、異なるアプローチで高年齢者雇用の対応を検討している企業も多いと考えられます。
定年以降における継続雇用制度の動き
定年以降の継続雇用制度の有無・就業身分
定年以降の継続雇用制度は、約9割の企業が定年退職後の継続雇用制度を運用しており、そのうち15.2%の企業が上限年齢なしという結果になりました。
また、就業身分は、「嘱託社員」や「契約社員」として働くケースが約70%を占めています。その他の回答には、「正社員」や「嘱託(〜65歳)⇒アルバイト(〜70歳)」「グループ会社への転籍」等が挙げられました。
定年以降の継続雇用者に対する課題
定年以降の継続雇用者の課題は、「対象者のモチベーション」と「報酬水準」の2つが大きな課題として浮き彫りとなりました。一方、定年延長における課題で回答が多かった「人件費の高止まり」は少ないようでした。
報酬が低下し評価との連動もない中で何をモチベーションとするのかを課題としている企業が多く、周囲の従業員や上司である管理職の働きにくさに繋がっていることも伺えます。
定年以降の継続雇用における今後の取り組み予定
「特に変更の予定はない」という回答が半数を占める結果でした。また、取り組み予定の上位は「継続雇用制度内容の見直し、対象年齢の変更」であることがわかりました。
高年齢者層の活用に向けての方針
高年齢者層の活用に向けて、「活躍が見込める高年齢者層を継続雇用し、知見やスキルを業務に生かしてほしい」と考えている企業が62.5%という結果でした。
一方で他の選択肢の回答を踏まえると、活躍が見込める高年齢者層の継続雇用には意欲的であるものの、現在は法改正のような国の施策に応じて雇用を継続している状況であると考えられます。
調査監修者による考察
総括(解説:WHI総研 シニアマネージャー 伊藤 裕之)
2021年4月の高年齢者雇用安定法の改正に対して、積極的な導入を進めている企業はまだ少ないことが明らかになりました。
背景には、企業・法人側にとって高年齢者雇用を拡大していくことに課題が多く、法改正だけでは変化を生み出せない実態があると考えられるでしょう。
たとえば、すでに定年年齢が61歳以上となっている法人の90%が「対象者のモチベーション」について、70%が「対象者の報酬水準」を課題として挙げており、定年延長前の法人より大きく上回ります。
高年齢者雇用は、大きく分けると下記3つの課題があります。
- 多くの法人にとってメリットを感じない
- いま対象となっている高年齢者に何か手を打つには遅い
- 次の対象となる中高年層の活性化に対する効果的な打ち手が不明
一方で、今後各法人で多数を占める現在の40代後半〜50代が高年齢者となる前に何かしらの対策が必要になるのではないでしょうか。
具体的には、前提として長く働いてもらうための配慮はしつつも、下記2点の施策の検討が必要になると考えます。
①長く働いてもらうためのサポート
・個人差(キャリア感、体力・気力、ライフプラン、家族状況等)を考慮した、柔軟性のある配置や制度設計
・これまでのキャリアの振り返り、特に第3者目線のコーチング、カウンセリング
・50歳前後から、60歳以降を見据えた情報共有、セミナーや勉強会の実施
・「いずれはみんな高年齢者になる」若手や中堅世代、特に実務上でサポートの中心となる、現場管理職への理解と協力
②変化への対応とキャリア向上の意識変化
・若手だけでなく、中堅・ベテラン層に対するキャリア教育、スキル獲得推進
・自らの知見や経験、専門性の発信や伝達の機会を創出するとともに、教育係に回るだけでなく自ら成果を生み出すことを高く評価し、年齢だけで一律で処遇を決定しない
・部門や事業部門を横断した、新規事業や価値創出タスクに対する、積極的なアサイン。専門性を生かしつつ、新たな領域へのチャレンジと若手との交流の機会を創出する
・上記を実践できている従業員をモデルケースとして社内へ周知。高年齢者層に不足しがちな承認欲求を満たす
会社が一律で決めるのではなく、高年齢になっても一線で成果を出す道や自分のペースで働く道を、本人が自分事として選択できるしくみづくりが、結果的に従業員の働くモチベーション低下を防ぐことになるのではないでしょうか。
<引用・転載時のクレジット記載のお願い>
本調査の引用・転載にあたりましては、「Works Human Intelligence調べ」という表記をお使いいただきますようお願い申し上げます。