年末調整の電子化に挑戦!取り組み事例から学ぶ電子化促進へのヒント

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最終更新日 2023年10月26日

年末調整の電子化に挑戦!取り組み事例から学ぶ電子化促進へのヒント

Works Human Intelligence(以下WHI)では、統合人事システムを提供しており、これまで、様々な業種業態の大手企業様の人事業務へ触れてきました。

そして実は、WHIも1,000名以上の従業員が所属している「大手企業」。

本コーナーでは、人事業務のノウハウを持つ私たち自身が「大手企業の人事部」として実施している人事施策事例をご紹介していきます。

今回は、「年末調整における控除証明書の電子化」に向け、WHIが実施した取り組みをご紹介します。

目次

年末調整、除証明書等電子化は茨の道?
2020年、電子化1年目。プロジェクト始動!
2021年もチャレンジ継続!電子化2年目の結果はどうだった?
電子化によるメリットは享受できたのか――申告者と人事担当者の声

年末調整、控除証明書等電子化は茨の道?

申告書の配布、回収、内容チェック、計算、申告書の保管、各種提出書類の作成…と、いくつもの業務工程がある年末調整。人事部にとっては非常にボリュームの大きい業務です。

そのため、比較的電子化が進められている領域ではありましたが、それでもなお紙の原本提出が必須だったのが「生命保険会社・損害保険会社の保険料控除証明書」

従業員が手元に届いた控除証明書から申告書や申告システムに内容を転記し、さらに申告とあわせてその証明書原本を提出するルール・運用でした。

これは年末調整業務を煩雑にしている最たる要因と言っても過言ではなく、人事部門を悩ませる様々な課題がありました。

・証明書内容の転記方法に関する問い合わせへの対応
・証明書内容の転記ミスの修正が発生
・証明書原本の送付忘れ、送付資料の間違いによる差戻し対応が発生

こうした課題の解決に向け、2020年の年末調整時からようやく電子データ(以下、XMLデータと記載)での提出が可能に。人事部にとってはチェック工数の削減、申告者にとっては申告負荷の削減等、多くのメリットが期待されました。


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一方で、いくつかの懸念点もありました。

最大のネックは、2020年の控除証明書等の電子提出は「義務化」ではなくあくまで「導入」であるがゆえにすべての保険会社が電子化に対応できるわけではない点

これによって紙と電子の控除証明書が併存せざるを得なくなり、人事部門・申告者ともに混乱をきたすおそれがありました。

そのような中、電子化拡大の動きを加速させていくためにも、まずはWHI自身がこの新制度の運用に挑戦。ユーザーへの情報発信や、関係機関へのフィードバックを行うべきと考えて電子形式の控除証明書による申告を実施しました。

年末調整電子化のメリットやデメリット、各社の対応状況や電子化に向けて必要な準備等はこちら

2020年、電子化1年目。プロジェクト始動!

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2020年6月中旬〜8月25日頃:プロジェクト発足〜対応にあたっての諸調査

2020年6月中旬頃、人事担当・コンサルタント・開発等、関係部門の担当者が集まってプロジェクトが立ち上がりました。

7月の上旬頃からは、電子化が「義務化」ではなく「導入」であり、すべての保険会社が対応するわけではないことから、実際にどの保険会社が対応予定なのか調査を行いました。

この時、各保険会社の対応有無は、本制度の設計に携わっている国税庁でも把握していませんでした。そのため、金融庁ホームページ記載の「生命保険(生命保険会社免許一覧)」「損害保険(損害保険会社免許一覧)」をもとに、1社1社直接確認・把握を進めました。

2020年8月27日〜9月30日:従業員への周知

電子化対応を実施するには、従業員へ周知をし、協力をしてもらう必要があります。そのため、下記を重視した資料を作成し、社内コミュニケーションツールのSlack上でアナウンス、協力してくれる従業員には、投稿へスタンプで反応をもらう形としました。

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テストへの協力者は20名、保険会社にして4社分です。協力者には、システムの検証用環境でアクセスするためのID・パスワード発行に向け、アンケートへの回答を依頼しました。​​​​​​

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従業員周知に利用した資料(一部抜粋)

2020年10月1日〜10月14日:電子化テストの実施

集まったテスト対象者に対し、電子化のテストへ協力していただき年末調整を実施しました。

なんらかの方法でXMLファイル提供の方針が示されている保険会社16社(※WHI調べ)のうち、4社分のXMLファイルを取得できました。

アンケートでは「XMLファイルさえ取得できれば取り込むだけなので簡単だった」「例年より手間がかからなかった」という声が多数を占めており、便利になると思った一方で、どうやらそうではないケースもあるようでした。

①XMLファイルの入手経路の複雑さ

XMLファイルを利用しない保険料控除の申告の場合は、払込額が記載された保険会社から届くはがきを利用します。「申告すべき金額の見方がやや難しい」という課題はありますが、契約者が何もせずとも手元に届く点では手間の少ないものでした。

しかしXMLファイルは、Webのマイページから取得したり、電話で発行を依頼する等、各社で取得方法が異なります。保険料を手入力する手間と、XMLファイルを取り寄せる手間を比較すると、後者のほうが重いと感じる方がいる可能性は否めません。

②XMLファイルのフォーマットに各社でわずかな差異がある

国税庁より「生命保険料控除証明書」、「地震保険料控除証明書」および「寄附金の受領証」について、当該データの形式が定められ、その仕様が一般公開(*)されています。

しかし、仕様とはデータの構造がやや異なるファイルや、仕様の範囲内であっても紙の証明書の記載内容と対応していないファイルにより、取り込み時のエラーに繋がることがありました。

(なお、こうしたエラーはすべて、取り込みテストの協力者を通じて開発担当者へ連携し、翌年度の年末調整へ活かせるようにしました。)

*国税庁:控除証明書等の電子的交付について(「電子的控除証明書等の発行者の方へ」部分)

2020年11月2日〜11月18日:本年末調整

いよいよ11月よりWHI内での本年末調整がスタート。本年末調整では新たに4社分のXMLファイルを取得し、計8社分のXMLファイルで検証を行いました。

保険料控除の申告がある対象者1,043名のうち、XMLファイルを提出できたのはわずか34名。

中にはXMLファイルのフォーマット差分により取り込めないケースもあり(12名)、実際にXMLファイルのみで保険料控除の申告が完結したのは22名となりました。割合にしておよそ2%ほどです。

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また、電子提出導入の目的であり最大のメリットは、年末調整申告に必要な証明書を改ざん不可の電子ファイルに統一することで、申告ミスを防ぎ従業員・担当者双方の負担を減らすことです。

今回、WHIでのXMLファイル提出数は決して多くはなかったものの、実際にそのメリットの片鱗を感じられたとの声も寄せられました。

2021年もチャレンジ継続!電子化2年目の結果はどうだった?

2021年も引き続き、電子化へのチャレンジを継続。2020年の電子化で挙がった課題を活かしながら実行しました。

 ▼2020年に挙がった課題
 ①全社が電子媒体の証明書(XMLファイル)提供に対応しているわけではない 
 ②どの保険会社・金融機関がXMLファイル提供に対応しているかの一覧がない
 ③XMLファイルのフォーマットが全社統一でない

2021年の電子化で進展があったのは「②どの保険会社・金融機関がXMLファイル提供に対応しているかの一覧がない」点です。

XML形式の控除証明書をマイナポータル経由で取得が可能な保険会社・金融機関については、国税庁のホームページ(*1)で公開されるようになりました。

一方、ページに記載のない保険会社は、前年に引き続き、WHIで独自に調査を実施。結果、生命保険会社は2020年から4社増加、損害保険会社は2020年から7社増加(*2)したことがわかり、WHI内でのXMLファイル提出数も34名から117名に増加しました。

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また、XMLファイルのみで申告が完結した従業員(保険料控除に関して紙提出をしなくて済んだ従業員)も22名→73名に増え、およそ50件分のチェック工数を削減できています。

一方、提供会社や提出数の母数が増えたことで、XMLファイルを取得・提出したものの、エラーで取込ができず紙提出となった申告者も増加しました。

また、保険会社によってXMLファイルの取得経路・取得方法が異なることにより、取得に手間がかかるという課題も挙げられました。

(*1)国税庁ホームページ「マイナポータル連携可能な控除証明書等発行主体一覧」より
(*2)2021/10/26時点、今後も増える可能性あり

電子化によるメリットは享受できたのか――申告者と人事担当者の声

WHI社内で実施したアンケートより、申告者と人事担当者それぞれからメリットを感じた声や課題の声が集まりました。

申告者の声

<メリットを感じた点>

・XMLファイルさえダウンロードできれば、システムへのアップロードを含めた年末調整手続きは簡単に終わる印象。入力項目もほとんどなく、便利なのでこれからも使用していきたい。
・在宅勤務/テレワークがメインで直行直帰等が多い場合、台紙を印刷し証明書を貼り付ける手間から解放される点はありがたい。
・システムだけで年末調整申告が終わるというのが画期的。思った以上に便利でした。

<課題を感じた点>

・保険会社側の案内がわかりづらく取得までに時間がかかってしまった。
・保険料控除証明書のXMLファイルをマイナポータルから取得したが、様々なところでつまづきがあり、あきらめようと思った。

人事部の声

<メリットを感じた点>

・XML取込の場合、内容のチェックが不要になるのはやはり楽。
・実感はできていないが、保管スペースが節約できるのと書類紛失の心配がないのは魅力。到着チェック等がなくなり、封筒を受け取らなくてよくなるとなおよい。

<課題を感じた点>

・一部金額が違っている保険会社もあったので、XMLファイルを全面的に信用できなかった。
・完全に電子化されてくれれば運用が楽になるのは間違いないが、難しいのであればせめて証明書のフォーマットを統一してほしい。証明書が統一されるだけでも、チェックの運用はかなり改善される。

「完全電子化」を実現するための挑戦はつづく

2020年、2021年と電子化に向けたチャレンジを実施し、下記の2点が年末調整の完全電子化には必要不可欠であることがわかりました。

「全保険会社がXMLファイルに対応できる」
「XMLファイルのフォーマットが全社統一されていること」


ですが、課題はまだまだ残っているため完全電子化への道は遠いのが現状です。

WHIでは、「多くの企業が年末調整の電子化に期待していること」を関係機関に示すために、ユーザーからの「署名」を集める活動も行っています。

約1か月の募集期間で集まった署名数は287社388名。様々な業種・規模の法人からの署名と、さらには年末調整の完全電子化に向けた熱いメッセージもいただきました。

また、WHIのユーザー会では、年末調整に関する機能の活用・運用改善に向けた意見交換会や会員専用サイトを通じた情報発信等により、ユーザーの理想の人事業務実現に向けた取り組みを行っています。

WHIでは、引き続き「年末調整完全電子化」へ向けて対応を進めていきます。

年末調整に関するWHIの取り組みについて詳しく話を聞きたい方は、お気軽にお問い合せください。

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