年末調整の電子化で気を付けるべき点とは?概要からデメリットまで解説

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年末調整の電子化で気を付けるべき点とは?概要からデメリットまで解説

 

人事部にとっても従業員にとっても、毎年対応が必要な年末調整。以前から電子化が進んでいる領域ではありましたが、2020年から適応範囲が広がり、これまで紙のままだった控除証明書等についても電子データ提供が可能となりました。

在宅勤務/テレワークの定着によって、バックオフィスの業務が電子化されることは、大きなインパクトがあり、ポジティブな評価や印象を受けることが多いでしょう。当然、各社の人事担当者にとっても、年末調整業務の効率化は常に意識する部分かと思います。

しかし、すぐに電子化に踏み切ることは可能なのでしょうか?メリットとその裏にある思わぬデメリットの両面からご紹介していきます。
 

目次

年末調整電子化の概要
年末調整を電子化した際の運用方法
年末調整の申請電子化で大変なこと
 ・①義務化でないことにより「電子と紙の併用」が発生
 ・②実は電子化による従業員へのメリットがない?
 ・③年末調整を自発的に行ってもらいにくい
電子化を進めるメリットがある企業
年末調整の”完全”電子化を進めるためのアクションプラン
 

 

年末調整電子化の概要

年末調整業務には、申告書の配布、回収、内容チェック、計算、申告書の保管、各種提出書類の作成といくつもの業務工程があり、人事部にとっては非常にボリュームの大きい業務です。

そのため、比較的システム化の進んでいる領域でもあります。ゆえに、紙の申告書の提出ではなく電子申告とし、申告内容に基づきシステムで自動で年末調整計算を行う企業が増えています。
 

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参考:人事システム「COMPANY」ユーザーにおける年末調整電子化度合い(*)
(2020年1月30日(木)~3月31日(火)、254社306名に実施したアンケートより)
(*)年末調整の対象者のうち、申告用紙の配布・回収を行わず、システム等によって電子的に申告を行っている従業員数の割合

 

しかし、住宅借入金等特別控除申告書・生損保の保険料控除証明書・残高証明書の提出・保管については電子化されていなく、以下のお悩みやデメリットが発生していました。
 

  • ・申告者本人や担当者が、申告書や申告システムへ証明書の内容を転記する必要がある
  • ・証明書のフォーマットが統一されておらず、保険会社等により異なる


人事部では、申告内容と証明書の内容との突き合わせのチェックに大幅な工数がとられてしまうケースや、年末調整の担当以外のメンバーにも応援を頼み、人事部総出で確認を行ったりしなければならないケースもありました。

 

2020年10月~の控除等証明書等電子化によって変わったポイント

2020年の10月より、これまで電子化されていなかった領域でも電子データ提供が可能となりました。従業員がはがきで受け取り、紙ないしは年末調整申請内で直接記入していた作業を、電子データで会社に提供できる点が最大の変化です。

※国税庁:年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)

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本来、控除申告書や控除証明書等の書類は、紙ないしは申請内で記入するだけでなく、原票の添付・届出も必要となるものです。

受け取った人事担当側も、添付された内容と申請内容が一致するかをチェックする必要があり、さらに紙申請であれば、その情報を年末調整システムに登録、あるいは別途登録データを作成し、CSVで一括登録という運用が必要となります。

また、紙で添付された申告書は7年間の保管が必要です。従業員数の多い企業であれば、倉庫に申告書の入った段ボールが山のように積まれており、処分が手間、さらには溜まる一方で保管場所もないといったケースもあるでしょう。

2020年10月から可能となった控除等証明書等電子化は、上記課題の解決につながります。
 

年末調整の電子化は義務?

年末調整の電子化はいつから?義務なのか?という疑問をよくお伺いします。

しかし、2020年10月から法令上、控除申告書を電子的に提出した場合に控除証明書を紙ではなく電子データで提出できるようになっただけです。そのため、電子化の導入は義務ではありません。

年末調整電子化の対応事例を知りたい方はこちら

 

年末調整を電子化した際の運用方法

では、年末調整の電子化はどのようなやり方で運用することになるのでしょうか。ここでは、申告書データの取り込みに対応できるシステムを利用するやり方で考えます。

2022年時点では、保険会社や銀行から送付される電子データについて、下記の方法で取得・電子申請することが可能です。

①各保険会社・銀行のWebサイト(マイページ)
②マイナポータルの民間送達サービス(*)
 

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①②によって取得した電子データ(XMLファイル)を、申告者がシステムへ提出することで完了となります。

また、当社のシステムCOMPANY(Web service)の場合は、システムからマイナポータルにAPI連携し、XMLファイルを取り込む運用も想定しています。

ただ、しくみの中核となる「e-私書箱」のAPI仕様が確定せず、検証環境も明確になっていない影響で対応時期は未定の状況です。

このやり方での運用が可能となれば、そもそも従業員がファイルを取得する必要もなくなるでしょう。
 

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(*)民間企業が提供している、インターネット上に自分専用のポストを作り、自分宛のメッセージやレターを受け取ることができるサービス(国税庁:マイナポータルを活用した年末調整手続について

 

年末調整の申請電子化で大変なこと

一見楽になると思われる年末調整電子化。実施に向けて、事前に従業員からの同意を得る必要はありませんが、いくつか超えるべきハードルがあると考えます。

ポイントは「従業員にとってのメリット/デメリットは?」+「電子化は義務化ではなくあくまで任意」=「従業員の協力が得られるのか?」です。
 

①義務化でないことにより「電子と紙の併用」が発生

電子化の透の壁は、今回の電子化があくまで義務化ではなく任意である点です。

義務化ではない=これまで通りの運用でもOK、言い換えれば電子申請と紙申請が混在し、下記の理由で担当者に2通りの届出チェックを強いることになります。
 

  • ・Web申請に必要な従業員用端末を十分に用意できない
  • ・ITスキルの低い(ないしは意欲に薄い)従業員をWeb申請に誘導できない


運用方法の統一は業務改善の第一歩です。そのため、統一されている年末調整のコア業務が2つに分岐することは担当者にとってありえないことでしょう。

 

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当社が実施した年末調整電子化に対するアンケート結果でも、担当者の懸念はこれまで記載した2点に集中していることがわかりました。

「在宅勤務/テレワークが基本となったのだから年末調整も電子化の流れに乗るべき」といった議論だけで実施に移るものではない、と理解できるのではないでしょうか。

年末調整申告の対応に関するアンケート結果を知りたい方はこちら

②実は電子化による従業員へのメリットがない?

では、年末調整を電子化することは従業員にメリットがあるのでしょうか。国税庁では、下記をメリットとして挙げています。

①手書きによる手続きを省略できる
②控除証明書等を紛失した場合、再発行の手間が不要となる


参考:国税庁ホームページ:https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho_01.htm


たとえば人事システムで年末調整の電子申請を利用している場合、①はおおむね解決できています。

当社の人事システムCOMPANYでは、控除額の計算は自動ですし、保険料であれば前年の登録データがデフォルト表示されています。入力画面も例年工夫が進み、ストレスのない入力が可能です。

となると、②は紛失をした場合に限られるため、従業員を対象とした新しいメリットはほとんどないのではないでしょうか。

それにもかかわらず、従業員は申告データを取得できるPC環境の準備や、自身で各保険会社、金融機関へ証明書の発行依頼を行う、各社のホームページからファイルを取得する必要があります。

同じ保険会社で統一している方はよいかもしれませんが、住宅+保険で複数の会社からデータ取得しなくてはならないデメリットを考えると、「はがきを切り取ってホチキスで止めるほうが楽」という従業員も多いかもしれません。
 

③年末調整を自発的に行ってもらいにくい

大多数の従業員にとって、「年末調整は人事の仕事」という価値観が根強く残っていると考えます。

以前、99%の従業員にWeb上で年末調整申請を公開、申請提出を行っている、従業員数万名規模の企業の地方事業所(工場)にお邪魔して、事業所人事担当者とお話したことがあります。

その際に、「従業員が自発的に申請を行わない」ことが、事業所人事担当の業務負荷となっていると聞きました。Web慣れしていない年齢層が高い方に限らず、若い世代にも当てはまっているそうです。

これには驚きました。数千人もの従業員がいる事業所の何割かが人事担当のサポートを求める状態では、人事業務の改善など夢のまた夢でしょう。

きちんと申請が上がってこなければ、申請に対する差し戻しも頻発します。上記の企業では、年末調整申請における差し戻し率は5%。それほど多くないと思われるかもしれませんが、3万人企業であれば5%=1500人です。

また、申請を自発的に行わないことはもちろん、ぎりぎりに対応している従業員が多いことも業務負荷を高める原因です。

”年末調整は人事の仕事。なんで俺たちがこんなことをしないといけないんだ、面倒くさい”

各従業員の認識が人事担当にとっては最大の敵である、という理解が必要となります。

今後、最後の砦となりそうなのが、マイナンバーカードの取得やマイナポータルの開設手続き、さらにはe-私書箱の開設手続きです。

前途の運用イメージで述べたマイナポータルとのAPI連携が最も業務改善につながると考えていますが、マイナンバーカードの取得が必須です。ただ、マイナンバーカードの取得が進めきれていない中で必要な準備をしてもらうには、かなりの労力が必要となるでしょう。

人事担当者は、課題に向き合わなければならないことを認識する必要があります。
 

 

電子化を進めるメリットがある企業

ここまで記載した通り、年末調整申請の電子化は「従業員からの理解」と「すべての申請を電子化(紙の撤廃)」することで、実施への道筋をつけることができます。

そのため、年末調整の電子データ提供をデメリットなく活用できる企業はこれを満たしている企業のみです。たとえば、下記のような企業は電子化を進めるメリットがあるでしょう。
 

  • ・すでに年末調整申請を電子化している(する予定がある)
  • ・本人、家族等の年末調整に関連する申請を電子化している
  • ・トップダウンで従業員に運用変更とその理解を徹底できる
  • ・電子データを利用した申請しか規定として認めない/義務付ける
  • ・全従業員がPCを所有していて、すでに自立的に申請できる


該当しない場合は、思わぬデメリットが発生するかもしれません。まずは現在の年末調整申請やその他の申請を対象に、運用状況の整理をするところから始めるべきでしょう。

 

年末調整の”完全”電子化を進めるためのアクションプラン

以下に具体的なアクションについて整理してみましたので、参考にしてみてください。


① 年末調整申請を電子化(Web化)
② 関連する申請(本人情報、家族情報、住所情報の変更申請等)も電子化(Web化)
③ ②まで実施できている企業は現在の活用状況を調査し、下記を確認。
  ・紙申請が残っていないか、
  ・従業員が自立的に利用できているか
  ・運用面の負担を確認
④ ③を確認した結果、改善ポイントがあれば整理して対処
⑤ 完全電子化の必要性をPRするとともに、マイナンバーカードの取得、e-私書箱の開設準備をアナウンス(*)
⑥ 規定を整備し、XXXX年度以降の年末調整はマイナンバーカード利用を前提として
  電子申請のみ受け付けることを決定
⑦ ⑥の本番稼働に必要な準備の実施
  ・運用面の見直し
  ・システム対応
  ・マニュアル準備 等

(*)なお、国・政府は、マイナポータルをハブとした、従業員の各種申告手続きの集約(ワンストップ化)を検討しており、将来の対応を見据え、早めに準備しておくに越したことはありません
 

安易な実施に踏み切ることなく、かといって実施しないからといって何もしないのではなく、状況整理と段階的な準備に十分な時間を割くことをおすすめします。

 

メリット・デメリットを把握したうえで電子化の検討を

ここまで、年末調整の電子化を進める際のポイントや実現に向けた壁、さらには完全電子化へ向けたアクションプラン等を紹介しました。

電子化を進める前に、

・現状、従業員が各種申請を正しく上げることができているのか
・人事部や各事業所の担当に問い合わせやヘルプが集中していないか、
・マニュアルは正しく参照されているか、活用できているか

等、現在の運用状況を確認し、改善できる点がないか、把握することから始めてみてください。

従業員にとって年末調整をはじめとした各種申請をより使いやすく、自立的に使用できる状況を整えたうえで、電子化に向けた協力を依頼する、という流れで進めることで、自社にとって最適な選択ができるでしょう。

年末調整電子化の対応事例を知りたい方はこちら

この記事を書いた人

ライター写真

伊藤 裕之 (Ito Hiroyuki)

2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している。

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