年末調整の電子化、本当に実施して大丈夫?気を付けておきたいポイントまとめ

年末調整の電子化、本当に実施して大丈夫?気を付けておきたいポイントまとめ

公開日 2020年7月31日
更新日 2021年9月15日
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2020年から年末調整申告において
・保険料控除申告書
・住宅借入金等特別控除申告書
・住宅借入金等特別控除証明書及び年末残高証明書
の電子データ提供が開始されました。

年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)
※国税庁ホームページより

在宅勤務の定着によって、バックオフィスの業務が電子化されることは、大きなインパクトがあり、どちらかといえばポジティブな評価や印象を受けることが多いでしょう。当然、各社の人事担当者にとっても、年末調整業務の効率化は常に意識する部分かと思います。しかし、果たしてすぐに電子化に踏み切ることは可能なのでしょうか?メリットとその裏にある思わぬデメリットの両側面からご紹介していきます。
 

目次

年末調整手続きの電子化で何が変わるのか
便利に思える年末調整申請電子化。その裏にある担当者の苦悩とは?
 ・①年末調整は誰のもの?
 ・②業務効率化の真逆を行く「電子と紙の併用」
 ・③電子化による従業員のメリットは実はない?
年末調整の完全な電子化の実現に向けて考えるべきこと

 

年末調整手続きの電子化で何が変わるのか


上記の国税庁資料から、改めて制度の概要を整理してみましょう。

これまで従業員がはがきで受け取り、紙ないしは年末調整申請内で直接記入していた
・保険料控除申告書
・住宅借入金等特別控除申告書
・住宅借入金等特別控除証明書及び年末残高証明書
電子データで会社に提供できる、ということが最大の変化です。
 

年末調整の電子化はいつから?という疑問もよく聞かれますが、2020年10月から、法令上、控除申告書を電子的に提出した場合に、控除証明書を紙ではなく電子データで提出できるようになったというだけであり、電子化の導入は義務ではありません。
 

本来、控除申告書や控除証明書等の書類は、紙ないしは申請内で記入するだけでなく、原票の添付・届出も必要となるものです。
受け取った人事担当側も、添付された内容と申請内容が一致するかをチェックする必要があり、さらに紙申請であれば、その情報を年末調整システムに登録、あるいは別途登録データを作成し、CSVで一括登録という運用が必要となります。

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特にチェック~データ登録は、従業員1人分を対象に実施するだけでも10分はかかる作業です。1000人分実施すると、単純計算で10000分=160時間=1人月必要となります。したがって多くの企業は、とても人事担当者だけで対応できず、アウトソーシング化したり、普段は給与に関係しない人事部員総出で作業を実施したりしています。
年末調整の電子申請は多くの企業で導入されていますが、一方で義務化ではないため、申請者の直接記入と紙の添付が残っている、保険料や住宅情報の届出チェックは、担当者の業務負担として残っている、といったケースが多いです。

また、紙で添付された申告書は7年間の保管が必要です。
社員数の多い企業であれば、どこかの倉庫に申告書の入った段ボールが山のように積まれており、処分が手間、さらには溜まる一方で保管場所もなくなってきた、というケースもあるでしょう。

今回の法改正は、上記課題の解決につながります。
実際、前述の国税庁ホームページでも下記のように記載されています。
 

≪勤務先のメリット≫
勤務先は、従業員が年調ソフトで作成した年末調整申告書データを利用することにより、控除額の検算が不要となります。また、控除証明書等データを利用した場合、添付書類等の確認に要する事務が削減されます。
さらに、従業員が年末調整申告書作成用のソフトウェアを利用して控除申告書を作成するため、記載誤り等が減少し、従業員への問合せ事務も減少することが期待されます。
加えて、書面による年末調整の場合の書類保管コストも削減することができます。

※ 年末調整申告書データを利用して年税額の計算等を行うためには、勤務先の給与システム等が年末調整申告書データの取り込みに対応する必要があります。

ちなみに、COMPANY(Web Service)では下記のような対応状況となっています。
※当社会員サイト「年末調整電子化特集」より

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2021年時点では、
従業員が各保険会社のWebサイト等からないしはマイナポータルから電子データ(XMLファイル)を取得→年末調整申請にて登録
で申請が可能となっています。

③の形式が可能となれば、そもそも従業員がファイルを取得する必要もなくなりますが、現時点ではその仕組みの中核となる「e-私書箱」のAPI仕様が確定せず、検証環境も明確になっていない影響で、対応時期未定となっています。

 

便利に思える年末調整申請電子化。その裏にある担当者の苦悩とは?

「電子化できているし、少なくとも担当者は楽になるのでは?何が問題なのか?」

と感じることもありますが、年末調整電子化の実施に向けてはいくつか超えるべきハードルがあると考えます。
ポイントは「従業員にとってのメリット/デメリットは?」+「電子化は義務ではなくあくまで任意」=「従業員の協力が得られるのか?」です。

①年末調整は誰のもの?


当社申請ワークフローシステム(COMPANY Web Service)の年末調整申請の利用率は年々高まっています。
そもそも、COMPANY導入のきっかけが年末調整申告を利用すること、というケースも多くあります。さらに、毎年、弊社ユーザー会が主催する年末調整に関する意見交換会や年末調整申請の事例講演は人気コンテンツです。

 

その一方で、担当者にとっては申請サービスを導入して効率化完了、というわけにはいかない事情があります。それは、大多数の従業員にとって、「年末調整は人事の仕事」という価値観が根強く残っていることです。

以前、すでに99%の従業員に年末調整申請を公開、申請提出を行っている、従業員数万名規模の企業の地方事業所(工場)にお邪魔して、事業所人事担当者とお話したことがあります。その際に、従業員が自発的に申請を行わない、ということが事業所人事担当の業務負荷となっているという悩みを聞きました。しかもその従業員というのがいわゆるWEB慣れしていない年齢層が高い方に限らず、若い世代にも当てはまっているというのです。

これには驚きました。数千人もの従業員がいる事業所の何割かが人事担当のサポートを求める状態では、人事業務の改善など夢のまた夢です。きちんと申請が上がってこなければ、申請に対する差し戻しも頻発します。上記の企業では、年末調整申請における差し戻し率は5%。それほど多くないと思われるかもしれませんが、3万人企業であれば5%=1500人です。約1企業分の従業員を対象に、差し戻しの案内やその後のフォローをすることになるのです。

また、申請に義務感を感じ、自発的に行わないことはもちろん、行っていても、ぎりぎりに対応している従業員が多いことも、担当者にとって業務負荷を高める原因なのです。

”年末調整は人事の仕事。なんで俺たちがこんなことをしないといけないんだ、面倒くさい” 

各従業員のその認識が人事担当にとっては最大の敵である、という理解が必要となります。
 

 

②業務効率化の真逆を行く「電子と紙の併用」

電子化の浸透を阻むもう1つの壁が、今回の電子化はあくまで義務ではなく任意のものである、という点です。
義務化ではない=これまで通りの運用でもOK、ということは言い換えれば、電子申請と紙申請が混在するということです。

申請と紙の混在は担当者に2通りの届出チェックを強いることになります。現在でも、Web申請に必要な従業員用端末を十分に用意できない、ITスキルの低い(ないしは意欲に薄い)従業員をWeb申請に誘導できない、等の理由で、多くの企業の年末調整は、電子申請と紙申請の混在が続いています。

今回電子化を義務ではなく任意で進めた場合、これまで控除証明書、申告書の添付→チェックで統一されていた業務が、既存と電子化の2つに分かれることになります。

運用方法の統一は業務改善の第一歩です。そこから考えれば、今統一されている年末調整のコア業務が2つに分岐することは担当者にとってありえないことでしょう。
 

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当社が実施した年末調整電子化に対するアンケート結果においても、担当者の懸念はこれまで記載した2点に集中していることがわかります。「在宅勤務が基本となったのだから年末調整も電子化の流れに乗るべき」のような議論だけで実施に移るものではない、と理解できるのではないでしょうか。

 

③電子化による従業員のメリットは実はない?

長くなりましたが、上記前提を踏まえて、年末調整の電子化によって従業員にはどんなメリットがあるか、再度国税庁の説明を見てみましょう。

≪従業員のメリット≫
従業員は、これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき、年末調整申告書の作成を簡素化できます。また、書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に対し、再発行を依頼しなければなりませんでしたが、その手間も不要となります。

たとえば当社システムで年末調整の電子申請を利用していると、
「これまでの手書きによる手続(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略でき」
ここは概ね解決できています。控除額の計算は自動ですし、保険料であれば前年の登録データがデフォルト表示されています。入力画面も例年工夫が進み、そこまでストレスなく入力できます。
 

となると従業員を対象とした新しいメリットはほとんどありません。それにもかかわらず、電子化にあたって従業員が準備しないといけないことがあります。

そもそも、申告データを取得できるPC環境の準備は必須ですし、これまで自宅に送られてきたはがきではなく、従業員自身で各保険会社、金融機関へ証明書の発行依頼を行い、各社のホームページからファイルを取得しなければならないというデメリットがあります。同じ保険会社で統一している方はよいかもしれませんが、住宅+保険で複数の会社からデータ取得しなくてはならないというデメリットを考えると「はがきを切り取ってホチキスで止めるほうが楽」という従業員も多いかもしれません。

 

そして今後、最後の砦となりそうなのが、マイナンバーカードの取得やマイナポータルの開設手続き、さらにはe-私書箱の開設手続きです。

電子化という点で考えた場合、運用イメージ図の③の対応が最も業務改善につながるはずですが、そのためにはマイナンバーカードの取得が必須です。ただ、現状マイナンバーカードの取得率は4割弱とも報じられています。この状態で電子化を進めようと思っても、何度も言いますが義務ではないため、従業員の理解を得て必要な準備をしてもらうにはかなりの労力が必要となるでしょう。

人事担当者は、この課題に向き合わなければならないことを認識する必要があります。
 

 

年末調整の完全な電子化の実現に向けて考えるべきこと

ここまで記載した通り、年末調整申請の電子化は、

①従業員への理解
②全申請の電子化(紙申請の撤廃)

が可能となって初めて実施への道筋をつけることができます。

そう考えると、今年から年末調整の電子データ提供をデメリットなく活用できる企業は上記2点を満たしている企業のみです。

たとえば、

・すでに年末調整申請を電子化している(する予定がある)
・本人、家族等の年末調整に関連する申請を電子化している
・トップダウンで従業員に運用変更とその理解を徹底できる
・電子データを利用した申請しか規定として認めない/義務付ける
・全社員がPCを所有していて、すでに自立的に申請できる

こういった企業は積極的に電子化を進めてメリットがあるでしょう。そうでない場合は思わぬデメリットが出てくる可能性があるため、まずは現在の年末調整申請やその他の申請を対象に、運用状況の整理をするところから始めるべきかと思います。

電子化を進める前に、

・現状、従業員が各種申請を正しく上げることができているのか
・人事部や各事業所の担当に問い合わせやヘルプが集中していないか、
・マニュアルは正しく参照されているか、活用できているか

等、現在の運用状況を確認し、改善できる点がないか、把握することから始めてみてください。
そして、従業員にとって年末調整をはじめとした各種申請をより使いやすく、自立的に使用できる状況を整えたうえで、電子化に向けた協力を依頼する、という流れで進めてみてはいかがでしょうか。
 

 

以下に具体的なアクションについて整理してみましたので、参考にしてみてください。

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① まずは年末調整申請を電子化(Web化)する。
② あわせて関連する申請(本人情報、家族情報、住所情報の変更申請等)も電子化(Web化)する。
③ ②まで実施できている企業は、現在の活用状況を確認し、紙申請が残っていないか、
  従業員が自立的に利用できているか、運用面で負担となっている部分はどこかを確認する。
④ ③について改善ポイントがあれば整理して対処する。
⑤ 来るべき完全電子化に向けて、実施の必要性をPRするとともに、マイナンバーカードの取得、
  e-私書箱の開設準備をアナウンスする。
  ※なお、国・政府は、マイナポータルをハブとした、従業員の各種申告手続きの集約(ワンストップ化)を検討しており、
   将来の対応を見据え、早めに準備しておくに越したことはありません。
⑥ 規定等を整備し、XXXX年度以降の年末調整はマイナンバーカード利用を前提として
  電子申請のみ受け付けることを決定する。
⑦ ⑥の本番稼働に必要な準備を行う(運用面の見直し、システム対応、マニュアル準備等)。

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安易な実施に踏み切ることなく、かといって実施しないからと何もしないのではなく、状況整理と段階的な準備に十分な時間を割くことをおすすめします。

 

この記事を書いた人

伊藤 裕之(Ito Hiroyuki)

2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している。

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