人事部の一大イベントといっても過言ではない年末調整業務。
出社を前提としていたこれまでの年末調整では、何らかのシステムで申告方法はWeb化しつつも、システム操作や証明書の提出は出社して行う場合が大半でした。しかしコロナ禍で在宅勤務/テレワークが広がり、年末調整の様相は変わりつつあります。
本記事では、2020年のコロナ禍において年末調整がどのように行われたのか、当社のユーザー様にアンケートをとった結果をまとめます。そして、2021年や今後の年末調整業務はどうあるべきかについて見ていきます。
目次
ーコロナ禍における年末調整申告の現状
ー年末調整のWeb化/電子化を進めていく方法
ー年末調整業務に伴う人事担当者の在宅勤務/テレワーク状況
ー年末調整業務における問い合わせ対応の変化
ーコロナ禍における年末調整業務の工夫方法
ーこれからの年末調整に向けて
コロナ禍における年末調整申告の現状
コロナ禍でなかなか出社ができない環境下において、従業員からの年末調整申告方法についてはどのような変化があったのでしょうか。
年末調整申告のWeb化を進められている当社ユーザー様に、業務用の個人PCの貸与がない従業員の申告方法について伺ったところ、以下の回答をいただきました。
PCを持たない申告者の申告方法
※当社分科会参加者に対する事前調査票の集計結果より
※有効回答数:97社
一部、申請システムのネットワーク外部公開を行い、個人のPCや私用のスマホ等を用いて自宅から申告ができるようにしているケースがありました。しかし、やはりPCを持たない申告者の申告方法を一気にWeb化/電子化することは難しく、いまだ「紙」「共有PC」が多数を占めているようです。
申請システムの外部公開有無
個人用のPCを持つか持たないかに関係なく、申請システムを外部公開(社外から申請ができるように環境を整えている状態)して、自宅やサテライトオフィス等から年末調整申告ができるように整えている企業もありました。
では、実際にどれほどの企業が申請システムを外部公開しているのかについても見ていきましょう。
※当社分科会参加者に対する事前調査票の集計結果より
※有効回答数:106社
回答結果から、約半数の企業が人事部・エンドユーザー共に外部公開をしていることがわかりました。
外部公開ができると自宅やサテライトオフィス等の社外からWebで年末調整の申告が可能です。従業員にとっては非常に便利になりますが、セキュリティの関係から、難しい企業も多いようです。
年末調整のWeb化/電子化を進めていく方法
このように、在宅勤務/テレワーク下においても年末調整の申告がWeb化/電子化できるよう環境を整備している企業がある一方、紙や社内の共有PCでの申告を余儀なくされるケースも残っています。そのため、まだまだ年末調整のWeb化/電子化は十分であるとは言えません。コロナ禍の年末調整においては、これまでよりもいかに紙の書類を減らしていくかが鍵といえるでしょう。
紙を減らすための第一歩は、申告をWeb化し、なおかつ申告書を電子保管することです。この点については、年末調整申告のWeb化を進めている企業のうち、8割強が既に申告書の電子保管を実施していることがわかりました。
年末調整申告書の電子保管の有無と対象者
※当社分科会参加者に対する事前調査票の集計結果より
※有効回答数:106社
申告書の電子保管を実施している企業が多い一方で、保険料控除・住宅取得控除等の証明書類については依然として紙での提出が必要な場合が多く残っています。これら紙書類の回収については、各自で出社して提出、もしくは郵送による提出を求めざるを得ない状況であることがほとんどのようです。
2020年の法改正により、保険料控除や住宅取得控除等の証明書類については電子データ(XMLファイル)での提出が認められています。ですが、「XMLファイルの提供に対応している保険会社が少ない」「紙とXMLファイルの二重提出等のリスクが懸念」といった理由から、電子データでの提出を求めた例は少数に留まっています。
年末調整業務に伴う人事担当者の在宅勤務/テレワーク状況
年末調整の申告後、提出された書類の確認に関しては人の手が必要となります。そのため、出社を余儀なくされた企業も多いようです。
年末調整時における担当者のテレワーク状況
※当社分科会参加者に対する事前調査票の集計結果より
※有効回答数:106社
上記調査によると、「担当者はテレワークで対応できた」ケースは約7%に留まっています。また、60%強の企業では担当者全員が出社し、約30%の企業で、一部担当者が在宅勤務/テレワークで対応できたという回答がありました。
それぞれの事例を見ていきましょう。
一部担当者はテレワークで対応できた:30.2%
・設定作業や問い合わせ対応等はテレワークで実施できた。紙の書類の受付や内容の確認は出社して行った。
担当者は全員出社して対応した:63.2%
・年末調整申請システムの設定や提出有無のチェックで年末調整期間中はほぼ毎日出社していた。
・申告書を回収する11月頃は出社して書類の回収・内容のチェックを行うことができた。しかし、新型コロナウイルスの感染状況を鑑みて在宅勤務/テレワークが推奨される時期であったら、社内で証明書の回収・チェックは難しかったのではないかと思う。
年末調整の申請システムが外部からも操作できる環境にあれば一部在宅勤務/テレワークで対応できる場合もあるものの、それ以外の場合や、紙で提出された書類の回収・チェックについては出社が必要となっていたケースが多かったようです。
年末調整業務における問い合わせ対応の変化
コロナ禍の年末調整では問い合わせの受付方法にも変化が見られました。
電話・メールという従来の方法だけでなく、一部ではビジネスチャットツールやチャットボットによる対応も出てきています。
申告者からの問い合わせ受付方法
※当社分科会参加者に対する事前調査票の集計結果より
※有効回答数:104社
電話やメール以外に、ビジネスチャットツールやチャットボットを利用した企業においては、具体的にどのような運用で進められたのでしょうか。各企業の事例を見ていきましょう。
ビジネスチャットツール、グループウェア等
・問い合わせの受け口としてグループウェアを使っている。
チャットボットの活用
・問い合わせ対応にチャットボットを利用した。年末調整の制度の基礎的なことから質問ができるようにしている。
その他
・前年まで電話対応に時間を取られていたため、Web申告のメイン問い合わせ先を専用メールに変更した。
コロナ禍における年末調整業務の工夫方法
年末調整における問い合わせ方法の工夫以外にも、申告期間を延長したり業務フローをまるごと見直したり、というように、コロナ禍を1つのきっかけとして業務の見直しを行った企業もありました。
具体的な事例を見ていきましょう。
年末調整の申告期間を延長
・コロナ禍で郵送での申告が増えることを考慮し、例年より少し申告期間を延ばしたところ、概ね期日通り提出してもらえた。
年末調整関連書類の事前配布
・コロナ禍により在宅勤務/テレワーク実施者が多いことから、書類提出専用の封筒を事前に勤務場所へ送付。提出期日を守ってもらえないという課題があったが、現物として封筒が届くことで年末調整開始の周知、申告の促進に繋げることができた。書類の紛失防止にも役立った。
年末調整業務の見直し
・コロナ禍をきっかけとした業務プロセスの見直しの一環として、年末調整申告に関する人事部の対応を一部縮小した(申告内容のチェックの簡略化/各拠点へのフォローの廃止等)。
その他にも、問い合わせの工数や申告ミスをなるべく減らすために
・なるべくわかりやすいマニュアルを作成する
・動画やメルマガを活用して年末調整申告の方法を解説する
といったような工夫をしている企業もありました。
在宅勤務/テレワークが進んだ中で、申告時にわからないことを周囲の社員に気軽に質問しづらいことから、より直感的に申告できる必要性が高まっています。
ひとりひとりが簡単に理解できる、そして年末調整期間であることを認識してもらう工夫を行った企業が多かったようです。
これからの年末調整に向けて
「年末調整申告をWeb化/電子化し、一定のエラーはシステムで除外する。」
「マニュアルやFAQの整備で問い合わせや申告ミスを減らす。」
上記のような各企業の工夫も相まって、年末調整業務は年々アップデートされ続けています。
この状況下で目指すべきは、
「控除証明書の完全電子化によって紙の証明書や証明書提出用台紙すら不要になり、申告はWeb上で完結しチェックも不要。わかりやすい画面設計によって問い合わせや申告ミスは限りなく減り、問い合わせた対応による受電も不要になる状態」
なのではないかと考えます。
今一度自社の年末調整業務を見直し、今からでも改善が見込める部分については取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
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