政府が個人のリスキリング支援に5年で1兆円を投じると表明したことで、改めて人的資本施策や、企業における研修・教育への取り組みに注目が集まっています。
今回、従業員数500名以上の企業に勤める会社員を対象に、企業での研修・教育施策に関する調査を行い、WHI調査レポートとしてまとめました。
前半の「従業員編」に引き続き、今回は研修・教育施策を行う人事側の回答結果です。今後の教育制度・施策立案にぜひお役立てください。
【WHI調査レポートとは?~HR領域における大手法人の実態を調査~】
当社の製品・サービスは約1,200の日本の大手法人グループにご利用いただいており、そのほとんどが当社のユーザー会「ユーザーコミッティ」へ加入しています。オンライン会員サイトをはじめとしたユーザーコミッティのネットワークを通じて、当社では適宜、社会・経済情勢に合わせた諸課題について調査を実施。その結果を製品・サービスに反映するとともに、ユーザー法人様・行政機関・学術機関への還元を行っています。(ユーザーコミッティについてはこちら)
アンケート調査概要
従業員数500名以上の企業に勤める従業員を対象に「企業が提供する研修・教育支援」に関するアンケート調査を実施し、1,082名から回答を得ました。
<調査概要>
1.調査期間
2022年10月5日~10月7日
2.調査対象
従業員数500名以上の企業に勤務する会社員1,082名
3.有効回答数
従業員数500名以上の企業に勤務する会社員1,082名
4.調査方法
インターネットを利用したアンケート調査
※小数点以下の切り上げ、切り下げにより合計100%にならないことがございます。
アンケート調査結果
1. 企業が提供する研修・教育施策の内容
Q1. 貴社が社内で実施している研修の種類を教えてください(n=541、複数選択可)
※1 新入社員研修・〇年目研修・管理職研修等、人事等級や職位に応じて定期的に行われる研修
※2 コミュニケーション研修・プレゼンテーション研修、リーダーシップ研修等
最も多く企業で実施されている研修は階層別研修で、集合型やオンラインでの形式が多く見られました。
その他、一般的なビジネススキル習得研修や、職種別・業務別のスキル習得研修を行う企業が多いこともわかります。
Q2. 貴社が社内で実施している学習支援内容を教えてください(n=541、複数選択可)
企業が実施する学習支援の内容として、「eラーニングコンテンツの提供」を実施している企業が最も多く、64.1%と半数を超える結果になりました。次点で「資格取得補助」が多く、61.0%でした。
2. 企業の研修・教育施策にかかるコスト
Q3. 貴社人事部門では教育関連の投資額、実施コストについてどのように把握、測定、開示しているか教えてください (n=541)
教育関連の投資額、実施コストについて算出していない企業を除くと「投資額やコストを算出しているが、開示は行っていない」と回答した企業が最も多く、25.1%でした。
Q4. 貴社人事部門では研修の受講時間、教育にかかる時間についてどのように把握、測定、開示しているか教えてください(n=541)
研修の受講時間、教育にかかる時間について算出していない企業を除くと「受講時間等を算出しているが、開示は行っていない」と回答した企業が最も多く、22.7%でした。
Q5. 貴社における教育関連の投資について、来期増やす予定のもの、減らす予定のもの、変える予定のないものを教えてください(n=541、複数選択可)
教育関連の投資について、「従業員の業務スキル向上」を増やす予定の企業が最も多く、29.2%でした。減らす予定の投資は全体的に少なかったものの、「賃金や手当等報酬面への投資」と回答した企業が多く、4.4%でした。
Q6. 貴社において、人材育成にかかる費用はどのように認識されていますか(n=541)
人材育成にかかる費用について、「企業の成長を加速させるための投資である」と考える企業は44.9%、「企業の成長のために必要なコストである」と考える企業は55.1%でした。
Q7. 貴社において、人材育成や人的資本への投資に対するリターンは何をもって測定されていますか(n=541、複数選択可)
人材育成や人的資本の投資について、「全社の売上高、営業利益率、付加価値額等の経営指標」で成果を測定する企業が最も多く、32.5%でした。次いで「人材の定着率・流動率等、人材面のKPI達成」の回答が多く、32.2%でした。
3. 企業が提供する研修・教育施策の課題
Q8. 貴社の人材育成における課題を教えてください(n=541、複数選択可)
人材育成における課題として、「人材育成に対する方針が従業員に浸透していない」と回答した企業が最も多く、25.3%でした。
4. 企業の制度・組織文化
Q9. 貴社の組織制度や文化について、あてはまるものを教えてください(n=541、複数選択可)
「自分の成長やキャリアについて上長と定期的に話す機会がある」と回答した企業が最も多く、45.1%でした。
5. 企業の人的資本開示状況
Q10. 貴社の人的資本開示について、各テーマの実施状況を教えてください(n=541、複数選択可)
流動性 | ダイバーシティ | 労働慣行 ・ コンプライアンス |
育成・ 教育 |
健康・ 安全 |
エンゲージメント | 特に何もしていない | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
すでに開示済みであり、より改善を行っていく | 13.7 | 43.6 | 41.6 | 38.1 | 39.7 | 22 | 27.2 |
いったん開示が完了している | 7.2 | 21.6 | 27 | 22.2 | 24 | 13.3 | 48.1 |
開示に向けて準備中 | 6.7 | 10.2 | 8.1 | 11.1 | 10.5 | 13.5 | 62.3 |
開示に向けて情報収集中 | 6.1 | 10 | 6.7 | 10.7 | 7.4 | 12 | 67.5 |
人的資本開示について、「ダイバーシティ」に関して開示済みであり、さらなる改善の予定がある企業が最も多く、43.6%でした。次いで「労働慣行・コンプライアンス」が多く、41.6%でした。
Q11. 育成や教育に関連する人的資本開示の課題を教えてください(n=541)
人的資本開示の課題として「開示に向けた社内の方針が定まっていない」と回答した企業が最も多く、17.6%でした。次いで「データを開示できる状態にできていない」の回答が、17.4%ありました。
WHI総研による総括
今回の人事編では、各社人材育成の施策を様々に実施しているものの、施策そのものや人的資本開示について多くの課題があることが伺えます。
前回の従業員編では、研修や学びを活かす組織制度と従業員エンゲージメントは密接に関係していると述べました。これらを相互に高め、よい循環を生むためには、以下の3ステップが重要です。
1. エンゲージメント調査(組織サーベイ)結果を人材育成における測定指標とする
人材育成への投資は組織への貢献や定着があってリターンが生まれる、という前提に立ち、まずはエンゲージメントスコアで実態を調査します。
育成や成長に対する満足度だけでなく、処遇や評価に対する納得度や組織風土やマネジメントへの評価等、関連性のある項目についても確認を行います。課題の相関性やボトルネックを分析し、対策を実施しましょう。
2. 制度改善に必要な指標を細かく測定する
人材育成の施策は、実践状況や組織への貢献と帰属意識等、多角的に指標を設定することで有効な効果測定が可能です。
効果測定指標の例は以下の通りです。
学びを現場で活かすことができているか、業務に定着しているか
- ・研修内容・ラーニングの実施半年~1年後の定着度調査
- ・評価や目標管理、定期的な自己申告等による学び定着度合いの測定
- ・部門の業績目標や成長を前提とした人材ポートフォリオの充足度合い
スキルを活かせる場の提供、キャリア感に即した職務の配置がなされているか
- ・キャリア面談実施率
- ・社内公募実施率
- ・部門間異動実施率
- ・上長との1on1実施率
評価や報酬や処遇へ反映されているか
- ・昇格数、昇格率
上記について、研修の満足度や研修内容・ラーニングの定着度調査と組み合わせながら定期的にモニタリングすることで、育成施策の有用性を判断します。
3. 現場部門を巻き込んだPDCAを実践する
エンゲージメント調査や各種分析内容は、人事にとどめるだけではなく、現場部門にも積極的に情報提供して改善を進めていく必要があります。
そのためには、あらわれた数値や結果を部門長や責任者の「成績(=責任をとるもの)」とするのではなく、「診断結果(=よりよい環境にするための物差し)」として、未来志向で議論することが求められるでしょう。
人材育成や社内教育に対する取り組みを人事内で完結するのではなく、経営・現場部門を含め企業が一体となって実施し結果を考えることが、投資対効果を最大化するための基盤になるのではないかと考えます。