人事データ活用がうまくいかない理由とは?目的を実現する5つの秘訣

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人事データ活用がうまくいかない理由とは?目的を実現する5つの秘訣

「人事データを有効活用して戦略的な配置を行いたい」

「人事データを使って退職予測を行い対策を打ちたい」

というお声をいただくことが、ここ数年増えてきました。

 

人事データを生かしたタレントマネジメントシステムやデータ可視化・分析を行うBIツールの市場は非常に活況であり、各企業が人材活性化の領域においてもデジタル化を進めており、タレントマネジメントシステムの市場もここ数年で急拡大しています。

 

人事データ分析・活用を前提とした、人材活性化、戦略配置を中期経営計画等の企業戦略における重点課題、施策に入れるケースも増えており、人事データの活用は人事部門だけではなくむしろ経営課題の一つとして考えられているように感じます。

 

一方で、タレントマネジメントシステムの導入や人事データの活用には多くの課題が存在し、当初の目的通りの効果を得られないケースも少なくありません。

 

また、一言で人事データといっても、その範囲は、個人情報、発令、給与、評価、勤怠、教育・研修、ストレスチェック…と多岐に及び、すべてがデータ化されているとはいえないでしょう。

いざデータ活用を始めようとしたら、管理されていると思っていたデータが存在しない、利用するに値しない、ということもよくあるケースです。

 

本記事では、人事データの活用が急激に求められている背景について整理したうえで、目的達成に向けて頓挫することなく、有効に活用するためのポイントについて記載します。 ​​​

 

目次

人事データ活用が求められる背景
人事データ活用が進まない?活用を阻む3つの壁
人事データ活用を頓挫させないためにー共通認識としたい3つの観点
人事データ活用を進めるための5つのステップ
データ活用目的の明確化と段階的な実施を

 

人事データ活用が求められる背景

DX(デジタルトランスフォーメーション)に代表される、デジタル化とデータ活用の流れは、人事の世界においても大きなトレンドとなりつつあり、人事データの活用の必要性が高まっています。

 

以前のコラム人的資本の情報開示が求められる背景と日本企業に必要な対策とはでも記載したように、現代の変化の速さと国際的な競争に対応するためには、これまでの「モノ・カネ」に代表される有形資産だけではなく、変化に対応するためのアイデア、テクノロジー、ブランディングといった無形資産とそれを生み出す「ヒト」の力が企業価値に直結するため重要となっています。

また、ISO30414に代表される人的資本の開示指標やコーポレートガバナンス・コードの改定という形で、人的資本に関する企業の考え、進捗、取り組みを開示する責任も求められつつあります。

 

自ずと、経営課題と人事課題は緊密化しつつあり、企業の人事機能は、管理的なものからより戦略的なものへの転換することが重要です。その実現においては、人事の領域でも、HRテックの進化を背景として、データ・事実に基づいた判断精度の向上や勘に頼らない科学的な意思決定アプローチが必要とされ始めています。

また、ジョブ型人事制度の導入や、リスキル(リスキリング・学び直し)でクローズアップされる、デジタル人材の育成のように、人材活用を活性化させ、3年後5年後の企業の成長につなげようとする取り組みが増えている傾向にあります。

 

人事施策の進捗、ギャップ把握、効果的な育成・適所適材の配置の実現を行うためには、人事データを活用し、人事部門だけでなく経営層から現場管理職に至るまで、実務に必要な情報を提供できることが求められているといえるでしょう。

人事データ活用が進まない?活用を阻む3つの壁

そうした中で、人事システムの刷新やタレントマネジメントシステム、BIツールの導入を検討したり、実施したりする企業も増えている傾向にあります。

一方で、「タレントマネジメントシステムの導入を行ったにもかかわらず、意図した効果が見られない」、「BIツールを導入したものの、用意したダッシュボードが活用されない」

といった、人事データ活用の難しさを感じる企業も多いのではないでしょうか。

 

人事データに限らず、企業内のデータ活用を推進するにあたっては、下記のような問題が存在していることが多いです。

 

①データ活用の目的が明確でないため適切な推進体制が組まれない

 

データ活用を推進することが決定される(最近は中計等で掲げられることも多くなっている)と、システムの選定が行われ、プロジェクト体制が組まれます。ですが、この時点でデータ活用で解決したい課題が明確になっていない、あるいはデータ活用で実現したいことが不明瞭な状態で、スタートが切られることがあります。

 

結果として、データ活用、という方針自体が目的化され、データを利用して実現したい本当の目的をプロジェクトメンバーが決定することになったり、システムの導入自体がゴールとなったりするケースです。

 

プロジェクトを推進する中で目的・ゴールの議論が行われ、経営や人事部門長との対話の中でブラッシュアップと認識合わせが進み、導入体制や現場部門への説明等における協力が得られればよいですが、プロジェクトチームに丸投げされ問題が解決しないまま頓挫することも多いのではないでしょうか。

 

②データ活用を推進できる人材が不足している

 

人事部門のなかで、人事データ活用を始める、必要なシステムを導入するとなったときに、誰がどのような形でプロジェクトを開始することになるでしょうか。

そもそもシステムを利用したプロジェクト推進の経験スキルを、部内で保有していることも少なく、既存の人事システムのデータ構造やデータ状況について十分に把握できていないことも多いのではないでしょうか。結果として、目的に対する適切なタスクやスケジュールを計画できない、計画通りに実施できないリスクにつながります。

 

そのため、企業によっては経営企画部門、情報システム部門、あるいは昨今新設されていることが多いDX推進室がプロジェクトを推進したり、外部からコンサルタントを参画させてプロジェクトを行うことになる場合も多いでしょう。

ただ、その場合は人事部門からプロジェクト参画への主体性が失われ、策定された目的やデータ収集・分析の実運用が実態と乖離するという可能性が高まります。

この場合は、せっかく導入したタレントマネジメントシステムやBIツールが活用されないというリスクがあるでしょう。

 

③人事データ活用を前提としたデータ蓄積・保有状況になっていない

 

多くの企業では、これまで蓄積された人事データの多くが異動情報の登録や給与支給、勤怠管理といったオペレーションを実現するために存在しています。

したがって、データはオペレーションをより高速に、より円滑に行われることを前提として存在していることが一般的で、人事データを活用するという観点で適した形で存在しているとは限りません。

 

また、人事データと一言で言っても、異動や給与、勤怠、評価、研修と利用者も利用シーンも全く異なり、すべてが同一のデータベースに存在していることはまずありません。

そもそも、データ化されていない、データベース化されていない情報もかなり存在しているのではないでしょうか。

 

一般的には下記のような課題が存在していると考えられます。

 

●人事データが集まっていない

 →発令業務や給与支給に関係しない人事情報はまったく入っていない
 

●人事データが標準化されていない

 →たとえば「管理職」「課長クラス」を決定づけるための発令情報が、グループ各社によってバラバラだったり、判断できなかったりする。
 

●人事データが散在している

 →勤怠システムを使っていない子会社はExcelで管理している、過去の研修履歴はPDFの台帳を見ないとわからない
 

●人事データが抽出できない

 →汎用のレポート機能は専門的な知識がないと決まったデータしか出力できない

 

こうした課題をおろそかにしたままで、単純にシステムを導入したり、壮大なデータ活用プロジェクトを始めたとしても、有効的なデータ活用を実現することは困難です。

 

人事データ活用を頓挫させないためにー共通認識としたい3つの観点

では、今後人事データ活用を推進する場合、どのような点を押さえておくとよいでしょうか。

ここでは3つの観点を記載します。

 

①データ活用を推進するための2つの軸

 

データ活用は

「データの活用レベル」×「データ活用のテーマ」

の2軸をもとにし、徐々に拡大していくことが頓挫せずに推進できる大きなポイントとなります。

 

まず、データ活用のレベルは次のように定義できます。

(参考:トーマス・H・ダベンポート、ジェーン・G・ハリス「分析力を武器とする企業」日経 BP 社)

 

1.データの収集、定義ができていない

2.データの収集、定義はできているが、データが散在している

3.データの収集や定義、集約はできているが、活用のための基盤が構築されていない

4.基盤化されたデータ収集システムは存在しているが、分析や戦略への寄与はできていない

5.基盤化されたデータ収集システムや分析ツールで、利用者の実務へ貢献できている

 

一方で、活用のテーマは下記のような形で定義します。

 

1.限定的な人事情報を活用

2.広範囲の人事情報を活用

3.人事データと他のデータを組み合わせて活用

4.将来予測、シミュレーションの実施

 

たとえば、様々な種類の人事データを活用して要員管理シミュレーションを目的に置いてから推進する場合で考えてみます。この場合、データ活用のレベルが2であれば先にその解決が必要であり、活用テーマの2がまだ実現していない場合は、分析に必要なデータが不足しているため、十分なシミュレーション結果が得られない可能性があるでしょう。

また、当初の実施目的の達成ができない場合、社内的に人事データ活用というプロセス自体に疑問が呈され、否定されることにもつながりかねません。

 

hrdate.png 

 

したがって、自社のデータ活用レベルと活用テーマの大きさの現在地を正しく把握することが出発点であり、実現性のある推進計画を立てることが基本となります。

 

②データ状況の把握

 

人事部門として最初に行うべきポイントとしては、現在、どのように人事関連のデータを管理できているかの把握です。

一般的に、人事データを利用して指標化するような情報には下記が挙げられます。

 

・人員数に関するデータ:年齢構成、男女比、勤続年数、管理職割合、休職率、離職率推移

・人件費に関するデータ:部門別人件費

・労務管理に関するデータ:時間外、在宅勤務/テレワーク率、有給休暇消化、残業手当推移、36協定超過状況

 

試しに、現時点で出力可能なデータ群で、上記に関する統計データを作成してみましょう。

その中で、入っていないデータがあったり、別途読み替えが必要となるようなデータがあったりしないでしょうか。その場合、まずデータの定義や整備を行うことを推奨します。

 

③データ活用の目的(GOAL設定)を定義する

 

そしてデータ活用の目的を定義することが必要となります。

定義内容は、「誰の」「何の業務に」「どのようなメリットが存在するか(提供者の業務やアクションがどう変化するか)」を言語化することです。

 

目的のないデータ収集や分析は、単にプロジェクトメンバーの工数や利用ツールの費用が無駄になるだけではなく、真に必要なデータ活用においても疑念を持たせる結果となります。

また、それだけのコストを投入してまでメリットを生み出すことができるのか、仮説を持ったうえでスタートすることが必要です。

 

一方で、実施してみなければわからないこともあります。

特に、経営層や上位層からのオーダーであれば、何らかの結果をレポートしたうえで、今後のアクションを相談したほうがよいでしょう。

 

そのためには、データ活用はいきなり全社的、多次元的な目的をターゲットとするのではなく、段階的に実施していくことが現実的なアクションとなります。 ​​​​​

 

人事データ活用を進めるための5つのステップ

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具体的には下記の5ステップを段階的に実現していくことを推奨します。

 

ここでは、各ステップの終了時に必ず効果測定を行い、課題の洗い出しと、より実施コストや難易度の高い次のステップに進むべきかどうか、検討と改善を繰り返しながら推進していくことがポイントとなります。

 

それぞれのステップの概略について順に説明します。

 

STEP1.<人事データを使って人事部門で必要な指標、運用に資するもの >

データを定義・収集し、出力するという人事データ活用サイクルの定着

 

まず、人事データを使って人事部門で必要な指標、運用に必要な出力・照会データの活用を行います。

年齢構成、男女比、勤続年数、管理職割合、休職率、離職率推移といった、基本的な情報がいつでも把握できるようにするとともに、健康経営(ホワイト500)や女性活躍推進指標(なでしこ、えるぼし、くるみん)等の公的開示指標を人事部門で確認可能な状態にすることが現実的な目標となるでしょう。

 

これは、単なる業務運用効率化だけではなく、人事部門のKPIとしても有用であり、その数値の進捗を誰もが把握できるようにしておくことは部門運営にとっても重要です。このステップにおいては、データを定義し収集し、出力するというデータ活用の型を定着することを最大の目的とします。

 

このステップをおろそかにすると、より価値の高いステップ2以降の実現につながりません。

ツールについてもまずは既存のツールを利用して、データの整備と収集を重点に置いて考えるのがよいでしょう。

 

STEP2.<人事データを使って経営・戦略部門で必要な指標、運用に資するもの>

経営戦略部門の指標開示方法と必要なデータ収集・照会の運用

 

次に人事データを使って経営・戦略部門で必要な指標や業務運用に必要となるデータの出力や照会を可能とします。

 

実施内容としては、ステップ1とほぼ同じようなものになると考えられますが、GOALとなる数値は何に準拠しているのか、それがなぜ経営戦略面で有用となるか、といったストーリーやメッセージを合わせて考える必要があるでしょう。

 

具体的には、コーポレートガバナンス・コードやサステナビリティレポート、統合報告書等で使われている人事指標や、レポート内のメッセージを定量的に補足する指標がターゲットとして考えられます。

このステップでは、経営戦略部門のメンバーが指標をどのように開示して、出力や照会を行うか、という運用を考える必要があります。

 

また、誰に何を開示するのかを検討していく中で、今後の展開も加味したBIツールの比較検討や導入判断の開始、部分的な導入も視野に入れたいタイミングです。

 

STEP3.<人事データを使って現場部門で必要な指標、運用に資するもの>

現場部門で活用可能なデータの可視化(ダッシュボード化)

 

ステップ3では、人事データを使って現場部門、特に部門長や現場管理職の業務に必要なデータの出力や照会を可能とすることを考えます。

ここでは、部門全体の状況や他部門との比較を実施するためのサマリー数値の把握を可能としたうえで、個別の状況をドリルダウンできる情報の提供を進めていくことになります。

 

どのような情報提供が部門のメリットにつながるのか、提供先の利用対象者と議論を行っていくことで、結果的に現場部門への理解を深めることにもなるでしょう。

したがって、いきなり全社展開するのではなく、協力が得られる、実施にメリットのあると考えられる部門から随時実践していくことが現実的な進め方となります。

 

また、提供形態については、ステップ1、2同様いきなりツールで展開するのではなく、Excelやスプレッドシートのような提供しやすい形でサンプル的に実施していくことも重要です。徐々にツール化、システム化していくことが現場との齟齬を生まない、動かないシステムとならない進め方であると考えます。

 

STEP4.<人事データ+αを使って人事部門、経営・戦略部門で必要な指標、運用に資するもの>

人事、経営戦略部門におけるデータ分析や予測モデルの実装

 

人事データの整備と活用が進んで運用が定着してきたら、活用するデータを拡大し、得られるメリットをより大きくすることを次のステップの目的とします。

 

具体的には

・人件費管理・適正化、およびシミュレーション

・要員計画の予実管理、調整

・新規事業への適正人員把握、不足人員に対する採用・配置転換計画

・ハイパフォーマー・ローパフォーマー分析

といった目標が考えられます。

 

いずれも、これまでどちらかといえば経験や勘、主観的な判断で実施していた業務の実施レベルを上げるとともに部門外、社外への発信に対して説得力を与えるものとなるでしょう。

 

重要なのは、上記1、2のステップを経てから実施すること、実施の目的が明確であることです。

人事データ活用を行う、となるといきなりこのステップから実施することもありますが、前のステップで消化されているべき「課題やデータを収集し活用する」というサイクルが定着していないため、効果が出るまでに時間がかかり、頓挫するリスクが高くなります。

 

STEP5.<人事データ+αを使って、現場部門で必要な指標、運用に資するもの>

現場部門に対する参考値の出力やアラート検出の自動化

 

ステップ4と同様に、人事データ+αで現場部門の運営に必要な情報提供を行います。

進め方としてはステップ3と同じく、まずは、部門全体の状況や他部門との比較が可能となるような、サマリー数値の把握が可能であることが望ましいでしょう。そのうえで、部下の育成、モチベーション管理、健康管理、業務や仕事のアサインといった業務観点で、個別の従業員に関する様々な情報を色々な角度から分析し、多種多様なサジェストを与えられるものであることが望ましいと考えます。

 

繰り返しになりますが、ステップ1から順に「データの活用レベル」×「データ活用のテーマ」の領域を徐々に広げることを意識して実施することが、途中で頓挫しない人事データ活用の肝となるでしょう。

 

データ活用目的の明確化と段階的な実施を

以上、人事データの活用が求められている背景と確実な実現のためのポイントについて記載しました。

 

VUCAと呼ばれる事業環境の変化が激しい時代において、経営課題と人事課題は緊密化し、企業の人事機能は、管理的なものからより戦略的なものへの変換を求められています。

さらに、DXに代表されるデジタル化によって、人事領域でも科学的なアプローチが重要視され、人事データ活用により戦略人事を実現することが、多くの企業で求められることになっています。

 

一方で人事データの活用を実現するにあたっては、一足飛びに高度な分析や大量データの収集、活用を目指すのではなく、まずは実施の目的を明確に。そのうえで、基礎的な人事データの収集活用を確実に行い、その過程で発生する様々な課題を消化しつつ、徐々に実現範囲を広げて行くことが、迂遠なようでも重要であることをお伝えして、本記事のまとめとさせていただきます。

この記事を書いた人

ライター写真

伊藤 裕之 (Ito Hiroyuki)

2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している。

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