社会における女性活躍の重要性が高まる昨今、企業では管理職に女性を登用する動きも高まりつつあります。しかし、女性管理職の登用が進んでいない企業も多く、対策に悩まれているご担当者様も少なくないのではないでしょうか。
本記事では、企業における女性管理職登用の現状や、女性管理職を増やすための取り組み例を紹介します。
日本における女性管理職登用の現状とは?
内閣府は「第5次男女共同参画基本計画(令和2年12月 閣議決定)」において、2025年度までに係長職以上の女性管理職比率を30%、課長職以上で18%という目標を掲げています。
また「女性版骨太の方針2023」では、東京証券取引所プライム市場の上場企業を対象に下記の目標を設定しました。努力目標ではありますが、大手企業を中心に女性活躍を牽引するよう促しています。
・2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
・2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
・上記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。
引用:男女共同参画局「女性版骨太の方針2023 概要」
https://www.gender.go.jp/policy/sokushin/list_kako.html
さらに厚生労働省は、上場企業を対象に、有価証券報告書において女性管理職比率の開示を2023年から義務づけています。このように、女性活躍を推進するために政府は様々な方針を打ち出しており、企業は女性登用のさらなる取り組み強化が求められています。
こうした政府の方針に対し、企業では女性管理職の登用は進んでいるのでしょうか。まずは、日本における女性管理職の登用状況を見ていきましょう。
管理職における女性比率は依然として低い
厚生労働省の「令和5年度 雇用均等基本調査」によると、課長職以上の女性管理職を有する企業の割合は54.2%、係長職以上では62.7%でした。半数以上の企業で女性を管理職に登用している状況です。
引用:厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要」(P3)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r05.html
規模別で見ると、従業員数が多い企業ほど女性管理職を有する割合が高い傾向があり、5,000人以上規模の企業の97.3%が課長相当職に女性を登用しています。
ここでは、1,000人以上規模の大手企業で女性管理職がいる割合を以下にまとめました。
引用:厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査 統計表 」(企業調査 第6表より抜粋)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r05.html
続いて、各役職における女性の割合を見ると、2023年度は課長相当職が12.0%、部長相当職が7.9%、係長相当職が19.5%でした。役員以外では直近10年で緩やかに上昇傾向にあるとはいえ、依然として管理職は男性比率が高い状況が続いています。
引用:厚生労働省「令和5年度雇用均等基本調査 企業調査結果概要」(P4)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r05.html
男女共に管理職になりたいと思わない従業員は8割以上
女性管理職比率の向上に向けた動きが高まる一方、男女ともに多くの従業員が管理職を希望していないという実態も明らかになりました。
当社(Works Human Intelligence)が大手企業の人事部と従業員を対象に実施した【女性管理職比率向上に関する施策実施状況の調査(2023年12月実施)】では、従業員に管理職への昇進意欲を聞いたところ、「管理職になりたいと思わない」と回答した女性従業員は85.3%、男性従業員では80.3%と、性別に関係なく管理職を望まない従業員が8割を超える結果となりました。
引用:Works Human Intelligence プレスリリース 調査レポート【女性管理職比率向上に関する大手企業人事部・従業員調査】
管理職になることを望まない理由を複数選択で回答する設問では男女共通して、「ワークライフバランスが悪化するから」、「管理職になれるほどの能力がないから」、「責任のある仕事をやりたいと思わないから」という順で回答が多く寄せられました。
引用:Works Human Intelligence プレスリリース 調査レポート【女性管理職比率向上に関する大手企業人事部・従業員調査】
本調査の詳細な結果やレポートにつきましては、下記よりご確認ください。
なぜ増えない?女性管理職登用のネックとなる要因の例
なぜ日本では女性管理職が増えないのでしょうか。ここでは、女性管理職登用のネックとなり得る要因の例をご紹介します。
仕事と家庭生活両立の難しさ
出産・育児等でライフステージが変化しても仕事と家庭生活を両立しやすい環境が整っていない場合、女性従業員がキャリアアップをあきらめてしまうことが想定されます。
内閣府の「仕事と生活の調和連携推進・評価部会 第49回(令和3年6月実施)」の総括文書によると、正社員における末子妊娠・出産時の退職理由として「仕事と育児の両立の難しさ(就業を継続するための制度がなかった場合を含む)」を挙げる人が最も多いと報告しています。
特に管理職(管理監督者)になると、労働基準法における「1日最大8時間、1週間あたり最大40時間」という労働時間の上限が適用されなくなります。昇進に伴う長時間労働やワークライフバランスへの影響は、大きな懸念材料となるでしょう。
また、総務省統計局「令和3年社会生活基本調査」によると、女性の家事関連時間(家事・育児・介護等)は1日あたり3時間24分と、男性の51分と比べて約4倍長いという結果でした。家事時間の男女差は縮小傾向にあるものの、依然として女性の家事負担が大きいことも背景にあると考えられます。
引用:総務省統計局 令和3年社会生活基本調査「生活時間及び生活行動に関する結果 結果の概要」(P4)
https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/kekka.html
身近に女性管理職のロールモデルがいない
厚生労働省が女性社員の活躍を推進するために作成した「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」では、男性社員に比べて女性従業員に対する教育訓練の機会が十分でなかったり、活躍の場が限られていたために、ロールモデルとなる女性社員が少ないことを指摘しています。
「産休・育休を経て管理職に昇進した女性がいない」「育児や介護と管理職の仕事を両立している人がいない」等、女性従業員が目指したいと思う模範となるようなロールモデルが職場に少ない場合、女性従業員の昇進意欲が低下する可能性があります。
「前例がないから昇進は無理だろう」「自分が管理職になることをイメージできない」とあきらめてしまうケースが考えられます。
また、女性従業員に相応の能力や意欲があったとしても、出産や育児といったライフイベントを機に管理職への登用が見送られるケースも無いとは言えません。
管理職の職務内容が不明瞭
管理職の職務内容が明確ではないことも、女性管理職のなり手が増えない要因になると考えられます。
先述の当社調査における「会社でどのような支援があれば、管理職になりたいか」という設問では、女性従業員で最も多い回答は「管理職の職務定義の明確化」でした。男性従業員においても2番目に多く、性別を問わず管理職の職務の明確化が求められていることがわかりました。
引用:Works Human Intelligence プレスリリース 調査レポート【女性管理職比率向上に関する大手企業人事部・従業員調査】
管理職の業務内容は、担当部門の目標達成に向けた戦略立案や業務進捗管理、予算管理、部下の育成・マネジメントなど多岐にわたります。職務の特性上、業務の範囲を明確化しづらい側面があるため、その曖昧さが従業員にとって不安材料になっている可能性があります。
女性管理職を増やすための取り組み例
女性管理職を増やすために、企業は何をすればよいのでしょうか。ここでは、効果的な取り組みの例を4つ紹介します。
仕事と家庭の両立支援を強化する
まず挙げられるのが、ワークライフバランスを保つための支援策です。結婚や出産・育児といったライフイベントを経ても働き続けやすい環境を整えることで、女性従業員のモチベーション向上や離職率の低下が期待できます。
内閣府 男女共同参画局は「仕事と生活の調和」推進サイトにおいて、多様な働き方を推進する制度を整備することを企業の行動指針として定めています。
具体的には産休・育休制度のほか、フレックスタイム制や、テレワークの導入・推進等が挙げられ、ライフスタイルに応じた柔軟な働き方を後押しできます。また、産休・育休中でも社内の情報にアクセスしやすい環境を整えることで、スムーズに職場復帰しやすくなるでしょう。
仕事と家庭の両立支援制度を整備することに加え、それらを利用しやすい職場風土づくりを進めることも重要です。
女性従業員のキャリアアップ施策を充実させる
女性従業員が、自身のキャリアアップについて明確にイメージできるような施策を強化することも有効です。具体例を以下に挙げます。
管理職を目指すための段階別の研修プログラムを実施する
性別を問わず、管理職を目指すにあたって、キャリアの段階別に、異なる課題が生じます。
担当者クラスの人材が課長クラスになるための課題と、課長クラスの人材が部長クラスになるための課題が異なるため、それぞれの段階に応じて必要な支援、研修を実施するとよいでしょう。
たとえば大東建託株式会社様では、担当者レベルの人材には、まず自身のキャリアを考えるキャリア教育を実施します。一方で、課長よりさらに上の役職を目指す人材に対しては、リーダーシップを学ぶ研修を実施しています。
段階に応じ、少しずつステップを踏みながら管理職を目指せる支援を企業が行うことで、従業員自身のキャリアアップに対するイメージが、より明確化されるのではないでしょうか。
社内外のロールモデルとなる人材との交流機会を作る
管理職候補者が、管理職としてのキャリアをイメージできるよう、社内のロールモデルとなる管理職とのメンター制度や座談会を実施することも一案です。また社内のみならず、社外人材を活用することも有効です。
サッポロビール株式会社様では、社外メンタリング制度として、社外の女性管理職と自社の管理職候補者との対話の機会を設けています。自社とは違う文化の女性管理職と対話することで、新たな気づきや刺激を得られているとのことです。
職務内容を明確にする
先述の当社調査結果が示している通り、女性管理職の担い手を増やすためには、管理職の職務定義を明確にすることも効果的だと考えられます。管理職の場合、チーム目標の達成や部下の育成といった「求められる役割」や「責任の範囲」を明確に示すことが重要です。これらを定義することで、管理職の業務内容や働き方をイメージしやすくなります。
管理職の役割を提示することで、女性従業員の漠然とした不安感を低減し、キャリアの選択肢として管理職を捉えられるようになるでしょう。
自社に合った施策で女性管理職比率向上を推進しよう
管理職における女性比率は依然として低い状況ですが、女性管理職を増やすための有効策は各社で異なるため、自社では何がボトルネックになっているのかを明確にしたうえで対策を打つ必要があります。
また、施策は実施するだけではなく、その有効性を判断するために効果測定まで行うことも重要です。あらかじめ目標(KPI)を設定して定量的に効果測定を行い、PDCAを回すことで施策の精度を高められます。
自社に合った取り組みを行い、女性管理職の登用を推進しましょう。