日本企業の管理職改革|持続的成長に向けた課題と展望

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日本企業の管理職改革|持続的成長に向けた課題と展望

部門目標や業務管理、部下の育成だけではなく、経営層と従業員の橋渡しを担う「管理職」は中長期的な企業経営において欠かすことのできない重要なポジションです。

しかし、管理職の処遇においては、2024年の春季労使交渉で過去最高の賃上げが実現した一方、管理職を担う35歳から54歳の中堅社員の賃金はここ数年で減少傾向にあり、処遇悪化が懸念されています。

また、雇用形態や慣行の変化により、多様化する部下への柔軟な対応や適切な指導が求められる等、管理職の役割は近年複雑化しています。

このような管理職の処遇悪化や役割の複雑化は若手の管理職志向低下に繋がり、管理職人材の確保において大きな課題となるため、企業は管理職の在り方や役割を再度整理することが重要です。

本コラムでは、現在の管理職の処遇や役割の分析を通じ、ポジションの再定義や改革のポイントをご紹介します。
 

大企業の中堅社員の賃金傾向

令和4年と令和5年の大企業における賃金構造基本統計調査を比較してみると、働き盛りの30代後半から50代前半までの1人当たりの平均給与が減っていることがわかりました。

下記の表より、若手層である20~24歳は3.0%、25歳~29歳は1.6%増加しているのに対し、35〜39歳は-2.1%、40〜44歳が-0.6%、45〜49歳は-1.3%、そして50〜54歳が-1.2%のいずれもマイナスとなっていることがわかります。


賃金構造基本統計調査比較.JPG

出典:令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況 #第4表 企業規模別(厚生労働省,令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 #第4表 企業規模別(厚生労働省)
出所:令和4年、令和5年賃金構造基本統計調査比較を元に株式会社Works Human Intelligence作成

若手の処遇改善が進む一方で、管理職を担う年代である35~54歳のミドル層は処遇が悪化しているといえます。

日本の労働人口が減少している中で、採用競争の一環として新卒初任給が引き上げられることはあっても、中堅社員と言われるミドル層には十分な投資が行われていない状況です。

雇用形態の変化や慣行の変化により、管理職の役割が拡大・複雑化する一方で賃金は減少していることから、管理職が疲弊していると推察できます。また、このような状況から、若手層は管理職を目指す意欲を持てなくなっていることが、近年問題になっています。この問題が放置されれば、組織の崩壊に繋がる可能性があるでしょう。

就業者の人口ピラミッドから10年後の就業者数を予測する

中長期的な経営のためには、管理職を担う人材を計画的に育成し確保することが重要です。

そのため、企業はどの年代の従業員が自社のボリュームゾーンなのか、現在の就業者分布の把握と未来の就業者分布のシミュレーションを通じ、管理職人材の育成計画を立てる必要があります。

本章では、「労働力調査 長期時系列データ」を例に就業者分布の考察例を紹介します。

2003年(20年前)はピラミッド型だった

今から約20年前、2003年の就業者の年代別ピラミッドを見てみましょう。一番下の若い層(25〜34歳)が多く、一番上の層(55〜64歳)が少ないことがわかります。

1990年頃に一般的に少子化問題が認知されるようになりましたが、1971年〜1974年生まれの第二次ベビーブーム世代が当時の人口ピラミッドを支えていました。
 

2003_ピラミッド.JPG

出所:労働力調査 基本集計 全都道府県 全国 年次 / 就業状態,年齢階級別15歳以上人口(1953年~)を基に株式会社Works Human Intelligence作成

2023年(現在)はピラミッドが壺型になる

では、直近の2023年についてはどのようになっているでしょうか。2003年に25〜34歳だった第二次ベビーブーム世代が45〜54歳に移動し、この層が男女ともに圧倒的な最多層を形成しています。ピラミッド型は崩れて、壺型に変わったことが見て取れます。


2023_ピラミッド.JPG

出所:労働力調査 基本集計 全都道府県 全国 年次  / 就業状態,年齢階級別15歳以上人口(1953年~) を基に株式会社Works Human Intelligence作成

2033年(10年後)は逆ピラミッド型になる

それでは、就業者ピラミッドは10年後どのように変化していくでしょうか。

2023年と雇用者比率が変化しないと仮定した場合、男女とも55〜64歳が最多層となり、逆ピラミッド型の構造となっているのがわかります。貴社でも10年後をシミュレーションすることをお勧めします。
注釈)35~64歳は2023年のデータから従業率が変わらないと仮定して10年後を推察
   25~34歳は過去の就業率の変化から10年後を推察

 

2033_ピラミッド.JPG

出所:労働力調査 基本集計 全都道府県 全国 年次 / 就業状態,年齢階級別15歳以上人口(1953年~) 2023年の数値を基に推測、株式会社Works Human Intelligence作成

45歳~54歳のボリューム層の役職

令和4年賃金構造基本統計調査によると、45〜49歳の労働者のうち15.7%が課長を占めています。また50~54歳の労働者のうち16%が課長を占めています。

大企業の課長層はこのボリューム層に多く存在しており、課長に昇進すると基本的に役職定年まで課長で居続けるのが慣例になっているのではないでしょうか。この年代が組織の中核を担っており、管理職としての役割が重要視されていることがうかがえます。

しかし、先に述べたように、この層の処遇が悪化している現状があり、なんらかの対応が必要とされているといえるでしょう。

役職者の割合.JPG

出所:令和4年賃金構造基本統計調査(厚生労働省) 株式会社Works Human Intelligence作成

若手の管理職志向の低下が企業の将来を脅かす

日本企業が5年後、10年後も持続して組織を成り立たせるためには、44歳以下層の処遇と役割のバランスを整えることが不可欠です。

しかしながら、多くの企業では管理職への処遇と役割のアンバランスや、マネジメント能力の高度化等、様々な課題により管理職を敬遠する傾向が強まっています。

一方で、期待される役割は拡大の一途をたどっています。また、働き方改革、ハラスメント、コンプライアンス、人材不足、定年再雇用等による年上部下、キャリア自律に伴い、管理職に求められるマネジメント能力は年々複雑化しており、その難易度は上がり続けています。

このような状況下で、非管理職が管理職を目指す目的が薄れやすいのが実情です。企業が持続的な発展を遂げるには、優秀な人材を管理職候補として計画的に育成し、処遇と役割のバランスを適正化することが重要となります。

非管理職のキャリア形成意欲を喚起し、将来の経営を担う人材を確保することが喫緊の課題といえるでしょう。

管理職改革3つのポイント

現時点の人口ピラミッドのボリュームゾーンである45〜54歳は、上層部の方針を現場に浸透させ、現場の声を経営層に伝える重要な役割を果たしており、組織活力の源泉となっていると考えられます。

企業は、この45歳から54歳のボリュームゾーンに注目し、抜本的な改革に取り組む必要があります。本章では、管理職の改革を行う際の3つのポイントと企業の取り組み事例を紹介します。

1.管理職の役割を定義する

管理職の役割は大きくわけると「業務の管理・改善」「部下の育成」「経営理念・方針の浸透」の3つです。それぞれの役割で求められるスキルは違いますが、時代の流れからすべてを同時にこなすことを求めている企業が多いように思われます。

管理職に求められる役割やスキルが多岐にわたるため、何をすればよいのかわからず、管理職は疲弊しやすい状況にあるといえるでしょう。

この課題を解決するためには、ジョブディスクリプション(職務記述書)に「役割や職務内容」「必要なスキル」で管理職の役割を明確化し、管理職の負荷を軽減することが有用だと考えられます。

また、これに加えて従業員に広く公開することで、管理職自身が自分に求められる範囲を把握できるだけでなく、部下や他部門にもその役割が明確に伝わります。そうすることで、管理職への無駄な要求が避けられ、管理職は本来の職務に専念できるようになるでしょう。また、経営層と管理職との役割認識のズレも解消できます。

このように、ジョブの定義を明確化し、社内で共有することで、管理職の業務効率化と、組織全体でのコミュニケーション改善も期待できます。

2.役割ごとにポジションをわける

業務範囲が広く、山積みになっている課長職の役割を分業することで負荷を下げる手法を取る企業があります。たとえば、従業員育成は課長の仕事ではなく、専門の管理職を設置することで、従来の課長は育成業務から開放され、他の業務に専念できます。

 

アート引越センター株式会社

同社では、支店長と同格の「育成専門管理職」を新設しました。この新設職は3~4支店を担当し、支店長から営業職と業務職の育成業務を引き継ぎます。これにより支店長の負荷が軽減され、併せて従業員の離職が減少しました。

また、管理職ポストが増え、業務負担が分散されたことで、女性登用が進み、5年前に比べ女性管理職は約3倍に増加しました。

 

双日株式会社

同社では、2019年に「副課長」を導入しました。副課長は課長と係長級の上級主任の間に位置し、課長と連携して部下とのコミュニケーションを担当します。副課長は次期課長候補の人材プールとなり、プレーヤーからマネジャーへの移行を円滑にする役割を果たします。

 

株式会社 荏原製作所

同社では、課長が「サクセサー」と呼ばれる2~3人の後継者候補を育成します。課長は業務をサクセサーに任せ、その成長を促します。3年ごとに課長の2割をサクセサーと入れ替え、降格した元課長に代わりサクセサーが昇格するケースもあります。

出所:
日 経ビジネス電子版 2023 年 10 月 11 日 掲載『双日「副課長」 、日東電工「チャレンジ」 管理職の役割を再定義』
日 経ビジネス電子版 2023 年 10 月 12 日 掲載『 アフラックやマネーフォワード、全社員を管理職予備軍に』


このように、課長職の役割を分業することで、管理職の負荷軽減と後継者育成を両立させる動きが広がっています。

3.若手社員を計画的に育成する

若手社員の管理職への抵抗感を解消するため、将来の経営層を育成するための様々な対策を講じている企業もあります。部下育成の支援体制の強化や実践的な研修を通じて、若手社員に管理職のポジティブな側面を伝え、経営層を担う人材の確保・育成に力を入れている企業を紹介します。

 

株式会社リクルート

23年度から部下育成を補助する「Co-ALパートナー施策」を導入しました。部下にどのようなキャリアを積ませるか、直属の上司とともに考える取り組みです。

出所:リクルート、従業員の多様なリーダーシップ創出と、組織長の人材マネジメント力向上を目的としたコーチングプログラムを開発

HR Techの活用・推進

前述のポイントを押さえた管理職改革を進めるにあたり、タレントマネジメントシステムは非常に有用です。

タレントマネジメントとは、従業員一人ひとりの能力や適性を的確に把握し、最適な配置や育成計画を立案して事業戦略に必要な人材を確保・育成することが目的です。タレントマネジメントを進めるにあたりデジタル化したタレントマネジメントシステムが注目を集め、その市場も拡大し、企業に普及しています。

システムを活用することで、管理職の改革のポイントである「管理職の役割を定義する」「計画的な育成役割ごとにポジションをわける」「若手社員を計画的に育成する」の3つをスムーズに進めることが可能です。

弊社製品である統合人事システム「COMPANY」のタレントマネジメント機能について一部概要と活用方法をご紹介します。

COMPANY Human Capital Insight

ダッシュボード機能

「COMPANY Human Capital Insight」では、COMPANYに登録されている人事情報から、男女別と管理職の年齢分布(人口ピラミッド)を確認することが可能です。以下のようなグラフを簡単に確認できます。

現在の人員構成の課題や将来の課題として何がありそうか確認してみましょう。組織の課題解決には10年単位で時間がかかるため、今から将来を見据えることが大切です。

 

HCI_年齢分布(デモチーム確認済).png

COMPANY Position&Career Development

ポジション管理機能

前述の通り、管理職の役割をジョブディスクリプション(職務記述書)に明記し、公開することが一つのポイントです。さらに中核となる重要ポジションを特定し、そのポジションに最適な人材を配置することが組織の中長期的な成功に不可欠です。

重要ポジションの要件や役割を明確化し、育成計画を立てることで、常に適正な人材の確保に繋がります。「COMPANY Position&Career Development」では管理職や一部職種のみ職務定義を管理する等の日本独自のジョブ型人事管理が可能です。

また「COMPANY人事・給与」で管理している組織情報を利用してポジションを設定でき、ポジションや職務定義に変更が生じた際には、「COMPANY人事・給与」に変更点を反映することが可能です。

ポジション構成明細画面.png

 

後継者管理 / キャリア管理機能

経営層を担う人材を確保するためには、経営幹部や主要ポジションの世代交代を円滑に行うための計画的な育成が必要不可欠です。早期からの後継者育成により、スムーズな引き継ぎと組織の安定化を図れます。

COMPANYでは各従業員のキャリアプランを管理し、従業員のキャリア志向を正確に把握することが可能です。また、各ポジションの後継者についての計画的な育成を支援し、後継者を、就任ステータスごと(すぐに就任可能、数年後に就任可能等)に指名し、それぞれの指名理由や育成計画を記録する機能を搭載しています。

【リリース掲載用】後継者管理レポート編集画面.png

AIとの役割分担を考える

近年のAIの急速な発展により、企業における管理職の役割と業務範囲を再定義する必要性が高まっています。AIが従来の管理職業務の多くを肩代わりできるようになれば、管理職の負荷は大幅に軽減されるでしょう。

しかし、AIが人間の能力を完全に置き換えることはできません。むしろ、管理職は戦略的な意思決定や部下の育成、モチベーション向上等の人間ならではの役割に専念することが求められます。

具体的には、組織のビジョンとミッションを明確に示し、部門間の調整役を担うことが重要です。また、AIツールを上手に活用しながら、部下一人ひとりの長所を引き出し、最大限に活かすことも管理職の重要な責務となるでしょう。

このように、管理職の役割は変革を迎えつつあります。企業が中長期的に持続可能な組織を構築するためには、管理職の役割と責任範囲を明確化し、AIとの最適な役割分担を図ることが不可欠です。管理職とAIがうまく連携することで、企業は生産性と競争力を高められるでしょう。

企業の持続的発展を支えるために

管理職の業務を適切に把握し、次世代の管理職候補を確保・育成し、持続的な組織にしていくために役割定義が必要となります。ジョブ型を導入することやジョブディスクリプションを作成することは目的ではなく、継続的に成長する組織であり続けるための第一歩です。

企業が必要としている職務が明確になることで、企業が提供できる成長機会が明確になり、従業員の自律した成長を促進できます。

また、役割を明確化するだけでなく、マネジメントを職能として定義することが必要です。管理職に求められるスキルセットを明確にすることで、スキルを習得した適性のある人材を配置することが可能です。

このような取り組みが、企業の持続的発展を支える基盤となるでしょう。

この記事を書いた人

ライター写真

袋瀬 淳(Fukurose Jun)

2008年、大手不動産会社へ入社。企業の寮・社宅運用のソリューション 営業、コンサルタントとしてキャリアをスタート。 導入コンサルティング、および、導入後のカスタマーサクセス支援を通じ、 企業の業務改革に従事。2020年、Works Human Intelligence入社。保守コンサルタントを歴て、多くの企業を見てきた経験を活かし、人事全体の事例・トピックスの研究・発信活動を行っている。

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