令和6年度も年末調整の時期となりました。定額減税が実施された点を含め、2024年の変更点が気になっている方も多いでしょう。
本コラムでは、年末調整の基礎知識や、定額減税の処理を含む令和6年度の年末調整の変更点およびポイントを解説します。前編となる本記事では、年末調整の対象者や実施時期等の基本的な流れを見ていきましょう。
1分サマリ
・年末調整とは「年間の所得税額を調整すること」。
・1月から12月にかけて概算で源泉徴収する所得税と、12月末を基準に算出する本来の所得税額には差があり、その差額を調整する。
・年末調整はおおよそ10月中旬からスタートし、1月の法定調書提出までが実施期間。収入から所得を計算し、様々な控除を行って所得税を算出する。
・年末調整の結果から、従業員には所得税の還付または徴収を行い、明細表示および源泉徴収票で通知する。
・企業等の法人は、翌年1月10日までに税務署に12月分の所得税を納付する。また、年末調整を実施した各従業員の源泉徴収票(税務署提出用)と、法人全体での金額を記した法定調書を翌年1月31日までに税務署に提出する。
目次
年末調整とは
年末調整とは、企業等の法人が各従業員に対して「年間の所得税額を調整すること」を指します。
法人は各従業員への給与・賞与の支給額、家族の扶養実態、社会保険料から「源泉徴収」という国の制度に基づいて所得税を計算し、月例給与や賞与から天引きを行いますが、これはあくまで概算の金額です。
所得税は本来、12月末日時点における従業員の年収、家族の扶養実態、1年分の社会保険料の他にも、生命保険や地震保険の年間支払額、住宅ローンの残額等を考慮して計算します。
しかし、源泉徴収で天引きされるのは概算額のため、12か月分の総額は一致しません。そこで、源泉徴収で天引きされた1年間の概算の所得税額と、1年間の正しい所得額で計算した所得税額との差を調整するのが年末調整です。
1月から12月までを通して、源泉徴収で天引きされた総額が年末調整時に確定した所得税額よりも多い場合は還付(徴収しすぎた金額を返還)し、少ない場合は徴収(不足している所得税額を天引き)します。
参考:国税庁 年末調整計算シート (図はWHI作成)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/nencho_keisan/index.htm
年末調整の対象者
年末調整の対象となるのは、年末調整を行う日までに在籍中の法人へ『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(※)』を提出している一定の人です。
※給与等を主として受取っていることを所属している法人に提出する書類。複数の法人から給与等を受取っている場合はいずれかの法人に提出する
従業員自身が「今年に住宅をローンで購入した(住宅ローン控除の1年目)」「ふるさと納税をしている」「年間の医療費が10万円を超えた」といった理由で確定申告する場合でも、年末調整の実施は必須です。
年末調整の対象外となるケース
・年間給与総額が2,000万円を超える
・災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税および復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた
・12月末日時点で日本国外に居住している
・複数の法人に在籍しており、別の法人に『給与所得者の扶養控除等(異動)申告書』を提出している
・継続して1つの法人に雇用されないいわゆる日雇い
年末調整の実施時期
年末調整を実施するタイミングと、年末調整のための準備期間も併せた全体のスケジュールについて説明します。
年末調整を実施するタイミング
年末調整は12月の給与・賞与のうち最後に支給する方で実施します ※。
所得税は12月末日時点を基準に計算するのが本来ですが、実施するタイミングが12月支給の給与あるいは賞与のため、実務としては12月末日時点の従業員の収入や家族の状況等を見込んで行うことになります。
もし、年末調整実施後に家族の出生や死亡等の理由により従業員の12月末日時点の状況が変化した場合は、1月給与にて当該従業員に関する年末調整を再度行います。
※以下の場合は12月に限らず年の途中でも年末調整を行います。
・日本国外へ出国する
・死亡による退職
・著しい心身の障害のために退職し、年内の再就職の見込みがない
・12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した
・いわゆるパートタイマー等が退職し、退職後に別の職場から給与を受け取らない予定で、当年中に支払を受ける給与の総額が103万円以下である(退職後に別の職場から給与等を支給される見込みの場合は、そちらで行われるため実施しない)
年末調整の全体スケジュール
従業員の人数によりますが、大企業の年末調整はおおむね10月中旬から11月中旬にかけて、一般的に「年末調整手続き」と呼ばれている事務手続きを行います。
年末調整の実施に必要な各種の申告書を従業員に案内し、従業員から必要事項が記載された申告書と保険料や住宅ローン残高に関する証明書等を提出してもらいます。
また、年の途中に転職してきた従業員の場合は、前職の給与所得等を証明するために前職の源泉徴収票も必要です。
従業員から申告が行われたら、労務担当者は順次、申告された内容に不足や誤りがあるか確認します。申告書類が揃い、記載内容を確定したら、年収から様々な控除を行い当年の所得税額を計算します。
年末調整の計算結果から還付または徴収した金額を給与明細に記載するとともに、源泉徴収票を発行して従業員に配布します。
還付・徴収によって発生した所得税の調整額を12月の源泉徴収総額と合わせて納付書に記載し、翌年1月10日までに税務署に納付します。また、従業員ごとの源泉徴収票(税務署提出用)と支払調書をとりまとめ、翌年1月31日までに所轄の税務署に提出します。
年末調整の計算の流れと調書
従来通りの年末調整の計算と調書について説明します。
計算の順序と各種の所得控除
下図のように年末調整では給与等の収入額から様々な種類の金額を控除して「年調所得税額」を算出し、本来の1年分の所得税額である「年調年税額」を求めます。
(注)2037年まで復興特別所得税0.21%がかかります。
出所:WHI作成「従来の年末調整計算の流れ」
はじめに、年間の課税対象となる収入額からみなし経費として給与所得控除を行います。上図の「給与所得控除後の額」がいわゆる「所得」です。
続いて、従業員の家族の状況や従業員が年間で支払っている保険料等に応じて「所得控除」を行います。さらに従業員が住宅ローンを組んだ住宅を利用し、一定の要件を満たしている場合は住宅ローン控除を行います。
年末調整における代表的な控除
年末調整で受けられる控除と申告書の種類の対応は下の表の通りです。
申告書 | 受けられる控除 | 控除の概要 |
---|---|---|
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 扶養控除 | 16歳以上の子どもや親族を扶養に入れている場合。扶養している親族により38万円~63万円 |
障害者控除 | 従業員本人やその家族に障がい者がいる場合。27万円~75万円 | |
ひとり親控除 | 従業員がひとり親の場合35万円 | |
勤労学生控除 | 従業員が勤労学生の場合27万円 | |
給与所得者の基礎控除申告書 | 基礎控除 | 年末調整対象者は基本的に給与収入のみで年収2,000万円以下なので48万円 |
給与所得者の配偶者控除等申告書 | 配偶者控除 配偶者特別控除 |
従業員本人の所得と配偶者の所得 |
所得金額調整控除申告書 | 所得金額調整控除 | 従業員の収入が850万円以上あり、本人が特別障がい者であるか、扶養家族が条件を満たす場合。 {給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円) - 850万円}×10% |
給与所得者の保険料控除申告書 | 生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料または個人年金保険料を支払った場合。契約時期と年間の保険支払金額に応じて最大12万円まで |
地震保険料控除 | 特定の損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料または掛金を支払った場合。最大5万円まで | |
社会保険料控除(申告分) | 健康保険料や国民年金保険料等の社会保険料の支払った総額 | |
小規模企業共済掛金等控除(申告分) | 小規模企業共済の掛金を支払った場合。その年に支払った掛金の全額 | |
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 | (特定増改築等)住宅借入金等特別控除 |
|
※各種控除の詳細な条件や金額については以下の国税庁のHPも併せてご覧ください。
『所得控除のあらまし』https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1100.htm
『所得金額調整控除』https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1411.htm
『住宅借入金等特別控除の対象となる住宅ローン等』https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1225.htm
年末調整による還付の例
従来通りの年末調整ではほとんどの従業員が還付対象となるため、還付の場合の例を説明します。
年収720万円のAさんの場合、給与収入額から社会保険料を引いた金額を当該年度の「給与所得の源泉徴収税額表(*)」に当てはめると源泉徴収税額を求めることができます。(今回は賞与はないものとして考えています)
Aさんは、概算の所得税として毎月24,410円を1月から12月にかけて給与から源泉徴収され、1年間の合計は292,920円でした。これに対し、年末調整の結果、Aさんの年調年税額が258,600円と確定したとします。
年間の源泉徴収額の方が年調年税額よりも大きいため、Aさんはこれまでの給与から所得税を多く納めすぎていることになり、292,920円と258,600円の差額34,320円が還付されます。
*出典:国税庁 令和6年分 源泉徴収税額表
(https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2023/02.htm)
『給与所得の源泉徴収税額表(令和 6 年分)』
年末調整結果の従業員への通知記載
給与明細への記載
給与明細に還付額または徴収額を記載します。明細の記載方法は法人によって異なりますが、一般的には1つの項目を12月給与時のみ用いて表示します(例:『年末調整額』)。
源泉徴収票への記載
給与明細と同時に源泉徴収票を発行します。
下の画像の左は税務署提出用、右が従業員用で、従業員には右側のみを渡します。
出典:国税庁 F1-1 給与所得の源泉徴収票(同合計表)
(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100051.htm)
『【手書用】令和 年分 給与所得の源泉徴収票(令和6年分用)』
年末調整結果の納付と法定調書の提出
「所得税徴収高計算書(納付書)」の記載と納付
年末調整にて従業員に還付・徴収した総額は、12月に源泉徴収した金額とともに『所得税徴収高計算書(納付書)』に記載し、合計額を2025年1月10日までに税務署へ納付します(年末調整で従業員に還付した金額が多く、納付する金額が0円でも納付書は記載して提出する必要があります)。
出典:国税庁 令和6年分 年末調整のしかた
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/nencho2024/01.htm
『5 税額の納付と所得税徴収高計算書(納付書)の記載』をもとにWHIが作成
源泉徴収票および合計表の提出
年末調整を行った従業員それぞれの『源泉徴収票』(税務署提出用)を作成します。また、『令和6年分の給与所得の源泉徴収等の合計表』を作成し、2025年1月31日までに税務署へ提出します(合計表は退職金の支払い、弁護士・税理士等への支払い、自法人が不動産を借りている場合の支払額、といった年額も合わせて記載します)。
出典:国税庁 F1-1 給与所得の源泉徴収票(同合計表)
(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100051.htm)
『令和 年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表』
年末調整を円滑化するポイント
年末調整は限られたスケジュールの中で何百人から何万人分もの申告内容を受け付けて確認・計算をするため、事前の準備と周知がポイントとなります。
1.「プレ年調」で家族情報の事前確認を行う
従業員への確認等で手戻りが発生すると、再提出の督促や記載内容の再確認で年末調整業務全体の進捗に支障をきたします。
このため、年末調整で基本的な情報である本人および家族の住所や扶養の状況について、現在管理されている情報が合っているか従業員本人にシステム上で確認してもらいましょう(当社ではこれを『プレ年調』と呼んでいます)。
2.必要なシステム投資を行う
紙での申告では「所得を記載する必要があるが、従業員が収入と所得の違いに気付いていない」「本人や配偶者の収入はわかるが、そこから所得を計算することが難しい」「各種の年末調整に必要な書類の記載方法がわからない」といった難しさがあり、その結果、従業員にも給与担当者にも大きな負担がかかるため、システム投資はもはや必須です。
近年では当社製品「COMPANY」も含めて年末調整を行うためのシステムは進化しています。従業員が本人や配偶者の年収、保険料控除に利用する控除証明書に記載された保険の内容を入力(*)する等、一連の手続きをWebシステム上で行うと必要書類の形式に変換され、印刷して提出できるようになっています。
*保険料の控除証明書に関しては(保険会社が対応していれば)従業員が個々で契約している各保険会社のサイトからXML形式の控除証明書を取得し、年末調整を行うシステムに取り込む方法も認められています。従業員による記載漏れや金額の誤りを防げるため担当者の負荷も下がります。XLM形式の控除証明書の発行に対応している保険会社の一覧を従業員向けに案内し、可能な限り申告漏れの防止と確認作業の削減に努めましょう。
▼ COMPANYをもっと知りたい方はこちら ▼
3.従業員への督促や問い合わせ対応を自動化する
上記の通り、年末調整はほぼすべての従業員に関わるため、年末調整手続き開始のお知らせや、定期的な書類提出をリマインドするためのBOTシステムを利用することが有効です。未提出状態や再提出が必要な従業員のみに督促をかけられるようなシステムを利用できるとなおよいでしょう。
また年末調整は年に1回のため、昨年行った申告方法を忘れていたり、年間に家族の増減や収入の変化があったため昨年と異なる箇所への記載内容がわからないこともあるでしょう。
そのような従業員の疑問を解決するために、Q&AチャットBOTを導入できると典型的な質問に回答する数が減り、担当者の負荷が下がります。
後編に続く