大東建託様が実践するクオータ制とは?女性活躍推進の秘訣に迫る(後編)

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大東建託様が実践するクオータ制とは?女性活躍推進の秘訣に迫る(後編)

不動産賃貸や仲介、賃貸用住宅の建設を手掛ける大東建託様では、女性活躍推進を経営課題の1つと捉え、早くから働き方改革やワークライフバランスの推進といった施策に取り組まれています。

2021年には、建設業界でいち早くクオータ制(※1)を導入し、最近では女性管理職の育成施策にも力を入れる等、よりいっそう女性活躍推進施策を実施しています。

本対談では、大東建託株式会社 ダイバーシティ推進部 宮崎緑様に、WHI総研(※2)の井上がインタビュー。大東建託様における女性活躍推進施策の課題や秘訣に迫りました。

(※1)クオータ制:役職者の一定数を女性に割り当てること
(※2)WHI総研:当社製品「COMPANY」の約1,200法人グループの利用実績を通して、大手法人人事部の人事制度設計や業務改善ノウハウの集約・分析・提言を行う組織


後半となる本記事では、大東建託様の女性育成プログラムの内容や女性活躍推進の課題、成功要因について触れています。

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今回の対談者
宮崎 緑 様(写真右)
大東建託株式会社 ダイバーシティ推進部
 

スモールステップで着実に進める意識改革

Q6. 女性管理職候補者はどのように選定しているのでしょうか

宮崎様:
選定基準は、営業と非営業で違います。非営業に関しては、今までの評価を参考に昇格要件を満たしているかどうかを判定します。そのため、評価の状況を見て、管理職一歩手前のゾーンにいるかを見極めています。営業職に関しては、売上実績を選定基準にしています。

基本的には統括部と現場が連携して、育成対象者として選定しています。

ダイバーシティ推進部の役割は、候補者が増えるように、女性自身の意識改革、背中を押す役割と候補者を選定する側の意識改革を担います。選定に際して情報提供をすることはあっても、あくまで現場目線で適任かどうかを判断してもらうようにしています。

井上:
統括部と現場で検討した結果、最終的な候補者が決まるということですね。

宮崎様:
そうですね。そして、各職種の役員層で構成する女性活躍推進委員会で選定された候補者のリストを見つつ、全社的に女性管理職の育成状況を確認します。どのくらいの人数がいるかもそうですが、女性育成プログラムを受けているかも昇格要件になるので、研修を受けているか等を見たうえで各統括部の進捗を話して調整します。

たとえば、営業の女性管理職候補者が極端に少なかったら、営業は女性がそもそも少ないので、もっと女性活躍を進めないといけない等です。

井上:
営業、設計、工事、業務の各統括部と話し合う場があるんですね。

宮崎様:
はい。最終的には役員候補も挙げていかないといけないので、役員は会社全体の候補者を把握する必要があります。そういった情報共有の場にもなっています。

井上:
その話し合いの場で、候補者のリストに残る人もいれば、残らない人もいるのでしょうか。

宮崎様:
残らない人もいますね。クオータ制は必達目標です。会社としてもクオータ制を実施している以上は、設定している女性管理職数に確実に到達できるよう、役員層が主導して最終的な選定を行っています。

Q7. 女性教育プログラムの4つの階層(担当者・課長候補者・上級管理職候補者・役員)ごとに、どのような違いがあるか教えてください。

宮崎様:
階層ごとに内容が全く異なります。

たとえば担当者の層は、社歴5年超の方は誰でも社外セミナーを受講可能にしていて「Women’sアカデミー」というものがあります。

課長候補者向けには、管理職候補者としてキャリアを考えてもらいつつ、メンバー同士のグループでの情報共有等、「Women’sキャリアデザインセミナー」を実施しています。受講した人は、人事部の候補者研修を受けて、そのままスムーズに昇進する人もいれば、昇進せずにチーフのままでいる人もいます。チーフでいる方に関しては昇進してほしいので、女性活躍勉強会を開いています。

勉強会に関しては、管理職昇進をイメージしやすくするため、女性管理職との座談会等を行い、ロールモデルとの交流の場として開催しています。その後は、社外交流を目的に異業種交流会を用意しています。

上級管理職候補者に関しては、外部講師を招いたリーダーセミナーを開催しており、世の中の流れやリーダーの役割について学びます。その後、人事部のマネジメント候補者研修を受けていただき、その後は、社外交流を目的に異業種交流会を用意しています。

役員候補者に関しては、人事部で実施する経営育成アカデミーというものに参加してもらったうえで、ダイバーシティ推進部で外部セミナーに派遣しています。

このように、ステップに応じて色々なものを用意しています。

井上:
非常に丁寧に段階を踏んでやられているという印象を受けました。なぜこのようにステップを踏んで細かくやられているのでしょうか。

宮崎様:
ステップを踏む理由としては、女性に多い謙遜感情や自信のなさを解消するためというのがあります。全員がそうというわけではありませんが、女性は管理職になりませんかと言われると、できない、自信がない等のネガティブな感情を抱いてしまう方もいらっしゃいます。

私でもできるかもという意識に徐々に変わってもらうために、スモールステップを踏んで、意識改革を行うようにしています。急がせるとよくないです。着実に学んでもらい、自信に繋げることが大事なのかなと思います。

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女性活躍推進施策の現状とこれから

Q8. 2024年4月の数値目標(女性管理職比率6%、女性従業員比率20%、女性採用比率33%)に対する進捗状況や現在の課題を教えてください。

宮崎様:
女性管理職比率に関しては、2023年4月時点5.6%で進捗しています。2024年4月の実績値は集計中ですが、予測値としては6%の見込みです。

女性従業員比率は2023年4月の段階で15.6%、女性採用比率は22.4%で進捗しています。管理職比率は割と順調ですが、従業員比率や採用比率については課題感がありますね。

弊社の場合、採用については、新卒以外の中途採用は営業職なので、営業職の女性活躍が進まない限りは採用も伸びてきません。弊社としても営業職の女性活躍は課題です。動いてはいますが、苦戦しているところです。

井上:
営業職の方も、教育プログラム等は他の職種と変わらないと思いますが、何が違うのでしょうか。

宮崎様:
やっぱり雰囲気だと思います。営業職はまだまだ女性が少ないのが現状です。たとえば、子供が病気をした際に休みが取れる家族休暇制度がありますが、そのような制度自体を知らないということもあります。

周りに子育てをしている女性がいれば、家族休暇を取ったという会話が日常的に出ると思いますが、営業の現場ではそのような会話はなかなか出ないです。

井上:
他の職種の女性との交流や、全社的なコミュニティを作るということが大事になってきますね。

宮崎様:
そういった交流やコミュニティを通して家族休暇について知ることもあるので、全社横断的な取り組みは本当に重要だと思います。

Q9. 女性活躍推進施策を行ったことによる効果や影響について教えてください。

宮崎様:
上司の意識が変わったというのがあります。女性管理職候補者の育成プログラムを個別に作成しているのですが、候補者の状況が見える化されたことは、登用する側の意識改革にも繋がりました。

上司が、自分の周りにはどのような人がいて、どのレベルにいるのかということを知ることで、些細な日常的な声掛けも変わってきます。

育成プログラムの中には上司向けの研修も入れています。なぜ育成プログラムを入れているのか、なぜクオータ制を実施しているのかということを丁寧にお伝えするようにしています。そうすると、男性の上司や管理職にも、目的や意図が伝わり、協力してくれるようになりました。

女性自身も、「管理職はできない」「男性がやるもの」という思い込みがある方もいましたが、不安を少しずつ払拭してあげることで女性自身の意識改革にも繋がっています。

また、女性の意見が反映された商品ができる等、特に商品開発においては、女性の活躍が目に見えて感じられています。営業支援に関しても、土地オーナー様向けセミナーで、クリスマスの際にリースを作りましょうといったようなこれまでなかった企画があがることもあり、変わってきたと感じる点は大いにあります。

井上:
現場に女性目線が取り入れられるようになったのは大きな成果ですね。

宮崎様:
そうですね。あとは外部から評価される機会が増えたことも大きいです。ダイバーシティ推進部の部長とも、「私たちずっと走り続けているよね」という言葉を交わしたりするのですが、なかなか評価されない日々が続いていました。

ここ2、3年で賞をいただいたり、なでしこ銘柄に認定されたりと、結果として目に見えるものを手にできたときは嬉しいですね。

Q10. 現在の施策に関する改善や新たな施策等、今後の展望について教えてください。

宮崎様:
今のクオータ制の育成プログラムで言うと、昇進後のフォローですね。昇進した後のフォローが不十分だと考えているので、昇進後の個別サポートも入れた方がいいのではないかということを今話しています。

また、先ほどもお話しましたが営業職の女性活躍が進まないことには全体の数字が伸びていかないので、肝となるのは営業職をいかに変えるかというところですね。

女性活躍推進の秘訣とは

Q11. 最後に、宮崎様が考える女性活躍推進の秘訣や大東建託様で女性活躍推進が成功している理由を教えてください。

宮崎様:
クオータ制というのは、実は社風を活かした施策で、トップダウンの強い弊社にすごくフィットしたと思っています。トップがこうすると言ったらすぐに行動するのと、スピードと一体感が強いので、そういった面では社風に合った施策を実施できたという点があります。

他にも、昔から男女平等で実績で評価するなど、男性と同じように女性が評価される会社だということも大きいです。

また、経営層の姿勢もあります。社長は現場主義なので、自ら出向いて現場の声を聞いて、それを経営に活かすというスタイルを取っています。役員の柔軟性も大きいですね。

井上:
社長自ら現場に行かれるんですね。

宮崎様:
そうですね。現場主義で現場が大好きなので、時間があれば現場にいって社員の声を聞いて帰ってきます。

井上:
実力主義というところもあって、男女関係なく活躍するという考えも受け入れられやすかったのですね。

宮崎様:
男性社会の中で優秀な女性が隠れていただけで、女性側も自然に昇格を考えられるようになってきたのかなと思います。

最近は、マネジメントクラスに昇格している上司の姿を見ると、男性の中で揉まれてきた先輩方が切り拓いてきた道が、今の恵まれた環境としてあるのかなと感じますね。

井上:
大東建託様の女性活躍への取り組みや効果、これからに向けた施策まで、本日は貴重なお話をありがとうございました。
 

この記事を書いた人

ライター写真

井上 翔平(Inoue Shohei)

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年、調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年、Works Human Intelligence入社。様々な企業、業界を見てきた経験を活かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動を行っている。

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