昨今、働き方の多様性や人材の流動性が高まる中、異動・人材配置業務の重要性が高まっています。
そこで当社では人材配置業務に関するユーザー様同士の分科会を実施し、効率的かつ戦略的に人材配置を進めるための人事のあり方について、議論を行いました。
本記事では、議論の中で見えてきた、大手企業の人材配置における課題や取り組み事例を一部抜粋してご紹介します。
目次
ー人材配置業務とは
ー人材配置業務における主管部門と利用されるデータとは
ー人材配置業務で考慮すべき「キャリア志向」の収集事例と課題
ー人材配置業務に必要なその他の要素と課題
ー自社に合った人材配置業務を実現するために
人材配置業務とは
人材配置とは一般的に、企業の目標を達成するために必要な人材を適切な部署に配置することを指します。
しかし、人材配置と一口に言ってもその内容は様々であり、
・組織改編に伴う異動
・退職/異動による欠員の補充
・定期異動/ローテーション
等、様々な種類の人材配置が存在します。
最近では「公募による異動」があるケースも多く見られるようになりました。
ただ、業種/業態によっては定期異動や公募がない企業もあります。人材配置の主導が現場か人事部なのかも、会社の方針や人材配置の種類によって異なるでしょう。そのため、人材配置の際に考慮すべき内容やデータは多岐にわたります。
人材配置業務における主管部門と利用されるデータとは
人材配置業務の流れと主管部門
人材配置業務の流れは以下の通りですが、担当となる主管部門はその内容や人材配置の種類によって異なります。
人材配置業務におけるそれぞれのフェーズにおいて、どこが主管部門となっているのか、分科会の中でアンケートを実施したところ、以下の結果になりました。
人材配置業務の初期段階である、配置や異動に関するニーズに着目してみると、「組織改編に伴う異動」については事業や会社の状況によるところが大きいため、比較的経営層の目が入っている場合が多いようです。
「退職・異動による欠員の補充」の場合はアラートが現場から上がってくることから、現場主導になっていると言えるでしょう。
また、「定期異動/ローテーション」については人事部主導と現場主導がそれぞれ同数見られました。
人材配置業務において考慮されること
また、人材配置業務が行われる背景によって、考慮されることも少しずつ異なります。
欠員の補充を目的とする場合は、即戦力が必要となるためスキルや能力が重点的に考慮されていることがわかりました。しかし、組織改編に伴う異動や定期異動/ローテーションにおいては、本人のキャリア志向(異動希望からさらにもう一歩踏み込んだ、現在の業務に対する考え方や今後の業務・働き方等、広くキャリアに対する考えを収集したもの)が考慮されているという傾向がありました。
人材配置業務において利用されるデータ
主管部門や考慮する内容がわかったところで、各企業では具体的にどのようなデータを利用して人材配置業務を行っているのでしょうか。
こちらについても分科会参加の各企業にアンケートを実施したところ、氏名や所属といった基本情報のほか、キャリア志向、異動希望(有無や時期、希望する異動先等)や評価の結果、スキルのデータを利用・開示していることがわかりました。
(7法人分の回答を集計)
では、企業におけるデータの開示事例や課題・理想の姿を見ていきましょう。
< 開示しているデータの事例 >
・所属や氏名等の基本情報
・異動履歴
・職位や等級の履歴
・人事考課のデータ
・異動希望
・一定回数連続で異動希望を出している従業員
・スキル(部門ごとに管理)
・通勤時間 等
すでに様々な種類のデータを収集・開示していることがわかります。
しかしながら、これらのデータを上長に公開し、配置を考える際に配慮するよう依頼をしていても、強制力がないため、実際にはどこまで反映されているかわからないという課題を持つケースがあるようです。また、スキルが部門ごとでしか管理できていないため、今後は部門間の異動も考慮し、会社全体でスキルを管理していきたいというケースもありました。
人材配置業務で考慮すべき「キャリア志向」の収集事例と課題
さて、人材配置業務の中でも考慮する項目としてキャリア志向が上位に挙げられていました。しかし実際に集めることは容易ではありません。
どのようなタイミング・方法で回収するのか、そしてそれをどのように人材配置へ反映させていくべきかについて課題を抱えている企業や担当者の方が多いのではないでしょうか。
企業における実際の収集パターンを見てみましょう。
< 頻度 >
・1年に1回
・半年に1回
< タイミング >
・目標管理の中間レビュー時
・評価のフィードバック実施後 等
< 項目 >
・異動希望先、理由
・異動希望時期
・今後取り組みたい仕事
・現在の業務の量、難易度、環境について
・現在の業務に対する興味
・同一業務の経験年数
・現在のキャリアへの不安 等
< 共有先・用途 >
・所属長に共有し配置の際の考慮に入れるよう指示
・所属長に共有の上必須で面談を実施
・人事のみ閲覧可能(所属長には共有しない)
・人事+経営陣へ共有し配置時の参考に 等
全体傾向としては年に1度、全従業員から今後のキャリアについての考えを収集するしくみを設けている場合が多く見られました。
キャリア志向に関する情報を収集するタイミングは大きく2つです。
・評価期間の中間レビューに合わせる場合
・評価後のフィードバック完了後
特にフィードバック完了後、に関しては、評価結果を受けてキャリアについて従業員本人から何かしらのサインが出てきやすいタイミングであるため、という意見がありました。
項目やフォーマットは各社で方針が異なりますが、比較的フリーフォームで記入させる場合が多いようです。現在の業務に対する考えや今後行いたい業務のほか、組織上異動はしているものの実態として業務内容が変わっていない場合を考慮し、同一業務を担当している年数を記入させる事例もありました。定量的なデータだけでは読み取れない従業員のキャリア志向を収集しているようです。
また、収集したデータについては
・人事部での人材配置検討の際に考慮に入れる
・現場が主管部門である場合は、人事部から現場へ、人材配置の際の考慮に入れるよう伝えられる
といったケースが多く見られました。
ただ実態として、
・事業計画との兼ね合いもあり、キャリア志向を100%叶えられるわけではない
・現場や上長の意向によってはなかなかキャリア志向が異動・人材配置に反映しきれていない
という課題もあるようです。
人材配置業務に必要なその他の要素と課題
もちろん、ただキャリア志向を人材配置に反映するだけでは、適切な人材配置の実現には不十分です。
適切な人材配置によって、従業員のモチベーション向上、ひいては生産性向上を図ることが大切です。
しかし、キャリア志向を大切にしたいものの、欠員が出た場合の人員の補填や、より組織や事業を強化するための適材適所の実現という観点も外せないため、なかなか悩ましいのが実情ではないでしょうか。
そのため、
「全従業員の希望を聞いて適材適所を行うことは難しいため、ある一定層の人材を対象に、後継者管理のようなことを実現していきたい」
「本人のキャリア志向と、会社にとって注力したい領域、あるいは人材が不足している領域とのマッチングを行っていきたい」
という声も上がっていました。
さらに、より戦略的な人材配置の実現のためにはスキル情報も外せません。職務やポジションにも一部通ずるものがありますが、とりわけスキルについては、まずどのように定義するか、そしてどう測定するか、基準を定める点について課題を抱えている企業が多いようです。
しかしながら、こうした課題意識を持ち、スキルの棚卸しを始めたという声もあります。また、スキル情報の整備を行うことで、特定のポジションに必要なスキルを十分に満たしていない場合でも一旦チャレンジさせてみる、というストレッチアサインメントを実施していきたいという声も見受けられました。
自社に合った人材配置業務を実現するために
いかがでしたでしょうか。
分科会に参加した各企業においては、すでに必要なデータの整備や現場への開示は行われているケースが多いようです。
一方で、
・データの公開範囲が限定されている
・そもそもデータ化や可視化がされていない情報がある
・スキル情報のように、部門単位で分断されているような情報が存在している
・各種データを複合的に活用できるしくみがない
等の課題が見えてきました。
今回、各企業が収集しているデータや、その活用方法、そして課題についてご紹介しましたが、ご紹介した事例はあくまで他の企業の事例です。
企業それぞれで、人材配置の方針や収集しているデータ・人事制度も異なるため、各企業によって課題を抱えている点は様々でしょう。
今回ご紹介した事例はあくまで参考としていただき、この記事をきっかけとして改めて自社の人材配置業務について見直していただけたら幸いです。