健康診断は企業の法定義務!従業員の健康と安定経営のためのポイントを紹介

ビジネスコラム

人が真価を発揮する、
人事・経営・はたらく人のためのメディア

最終更新日 2024年9月2日

健康診断は企業の法定義務!従業員の健康と安定経営のためのポイントを紹介

健康診断を労働者に受けさせることは、労働安全衛生法の第66条で定められた事業主の義務です。企業は従業員を雇用している場合、勤務時間や労働条件等の条件に合わせて健康診断を実施する必要があります。

この記事では、健康診断の種類や対象者、費用負担等、企業が知っておくべきポイントについて解説します。

目次

健康診断は企業の義務
健康診断の対象範囲
健康診断の主な種類
健康診断の主な診断項目
健康診断の費用負担
健康診断の費用を経費計上する方法
健康診断の実施において企業が気を付けるべきポイント

 

健康診断は企業の義務

健康診断の実施は、法令で定められた企業の義務です。企業は対象の従業員に対して、医師による健康診断を定期的に受けさせなければなりません。これに違反した場合、労働安全衛生法120条に基づき、罰則が課せられる可能性があります。

従業員もまた、企業の実施する健康診断を受ける義務があります。企業・従業員ともに健康診断は義務であることを認識し、対象者に対して適切に実施するようにしましょう。

企業には健康診断の実施だけではなく、以下のことも義務付けられています。

  • ・健康診断結果の労働者への通知
  • ・健康診断結果の記録
  • ・健康診断結果に基づく保健指導の実施
  • ・健康診断結果についての医師等からの意見聴取
  • ・労働者の健康のために必要な措置
  • ・健康診断結果の所轄労働基準監督署長への報告

健康診断の対象範囲

健康診断の受診対象となる従業員は、労働時間や労働条件によって定められています。

アルバイトやパートの職員であっても、契約期間や労働時間、労働内容によって健康診断を受診する対象となる場合があるため、企業は対象従業員の範囲について正しく理解しておきましょう。

正社員|全員が健康診断の受診対象

正社員は、業務時間や業務内容、勤続年数にかかわらず全員が健康診断の対象です。

年に一回の定期健康診断のほかに、雇い入れの直前もしくは直後にも健康診断を受ける必要があります。ただし新卒社員の場合、入社前3ヶ月以内に健康診断の必須項目を受診し結果を提出する場合は、雇い入れ時の診断を省略できます。

アルバイト・パート|労働条件により健康診断の受診対象

アルバイトやパートは、常時雇用されている場合健康診断の受診対象です。常時雇用されている場合とは、以下2つの条件を両方満たす状態です。
 

  • ・契約期間が1年以上である
  • ・週の労働時間が正社員の4分の3以上である


これらの条件に該当することがはじめからわかっている場合、雇い入れ時の健康診断も必要です。また、条件にあてはまらなくても週の労働時間が正社員の2分の1以上であれば、健康診断を実施する努力義務があるとされています。

派遣社員|労働契約の締結先により健康診断の受診対象

派遣元の企業と労働契約を結んでいる派遣社員に対して、派遣先の企業は健康診断の実施義務を負いません。パートナー企業や下請け企業からの出向社員等は、自社と直接労働契約を結んでいるかを基準に、健康診断の実施を判断しましょう。

役員|役職により健康診断の受診対象

役員は、役職によって健康診断の受診対象となるかならないかが変わります。

ポイントは労働者性です。役員待遇であっても、工場長や支店長等、労働者性の強い役職の場合は健康診断の対象です。一方で、代表取締役や社長等の役員は企業とみなされるため、健康診断の対象からは外れます。

しかし、従業員の健康に配慮し職場を健全に運営するためにも、役員が健康診断を率先して受けることが望ましいでしょう。
 

健康診断の主な種類

健康診断は、大きく一般健康診断と特殊健康診断のふたつに分けられます。それぞれ受診対象と実施時期、診断項目等が異なりますので、健康診断の種類について正しく把握しましょう。

一般健康診断

一般健康診断は、職種や業務内容、勤務時間に関係なく実施する健康診断です。一般健康診断には以下の5種類があります。

▼一般健康診断の種類

一般健康診断の種類 対象となる労働者 実施時期
雇い入れ時の健康診断 常時使用する労働者 雇い入れ時
定期健康診断 常時使用する労働者
(次項の特定業務従事者を除く)
1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断 体に著しい振動を与える業務や、有害物質を扱う業務等、特定業務従事者 業務実施の都度
海外派遣労働者の健康診断 6ヶ月以上海外へ派遣する労働者 出国時と入国時それぞれ
給食従業員の検便 飲食を提供する業務に従事する労働者 配置換え時

 

特殊健康診断

特殊健康診断とは、人体に有害となる恐れのある業務に従事する従業員に対して実施される健康診断です。該当する業務への雇い入れ時や配置替え時、6ヶ月以内ごとに1回の定期的な診断が必要です。

以下の従業員は、特殊健康診断を受けなければなりません。

  • ・屋内作業場等における有機溶剤業務に常時従事する労働者
  • ・鉛業務に常時従事する労働者
  • ・四アルキル鉛等業務に常時従事する労働者
  • ・特定化学物質を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者及び過去に従事した在籍労働者(一部の物質に係る業務に限る)
  • ・高圧室内業務又は潜水業務に常時従事する労働者 
  • ・放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者
  • ・除染等業務に常時従事する労働者
  • ・石綿等の取扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者及び過去に従事したことのある在籍労働者

その他の健康診断

一般健康診断や特殊健康診断の他に、以下の健康診断があります。

じん肺健康診断

常時粉じん作業に従事する労働者、従事したことのある労働者

歯科医師による健康診断

塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りん等、歯またはその支持組織に有害な物のガスや粉じんを発散する場所での業務に常時従事する労働者
 

健康診断の主な診断項目

健康診断の診断項目は、健康診断の種類によって異なります。本章では、一般健康診断と一部の特殊健康診断の診断項目について解説します。
 

一般健康診断の診断項目

一般健康診断の診断項目は以下の通りです。

雇い入れ時の健康診断項目

雇い入れ時の健康診断項目は、以下の11項目です。雇い入れ時の健康診断ではすべての項目において検査が必須であり、項目の省略は認められていません。

①既往歴および業務歴の調査
②自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③胸部エックス線検査および喀痰検査
④身長・体重・腹囲・視力および聴力の検査
⑤血圧測定
⑥貧血検査
⑦血中脂質検査
⑧肝機能検査
⑨血糖検査
⑩心電図検査
⑪尿検査

定期健康診断の検査項目

定期健康診断の診断項目は、以下の11項目です。定期検診では、医師が不要と判断した項目のうち、いくつかの条件により省略できる検査があります。

①既往歴および業務歴の調査
②自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③胸部エックス線検査および喀痰検査(省略可)
④身長・体重・腹囲・視力および聴力の検査(体重・視力・聴力以外は省略可)
⑤血圧測定
⑥貧血検査(省略可)
⑦血中脂質検査(省略可)
⑧肝機能検査(省略可)
⑨血糖検査(省略可)
⑩心電図検査(省略可)
⑪尿検査

定期健康診断において省略できる診断項目とその条件は下表の通りです。

省略できる項目 条件
胸部エックス線検査 40歳未満の者(20、25、30、35歳を除く)で、感染症関連法やじん肺法の条件に該当しない者
喀痰検査 胸部エックス線検査で病変の発見をされない者
同検査で結核発病の恐れがないと診断された者
 
身長 20歳以上の者
  腹囲 40歳未満の者
妊娠中の女性のうち、腹囲が脂肪の影響を受けていないと判断される者
BMIが20未満の者
BMIが22未満で自ら腹囲を測定し、申告した者
貧血検査 40歳未満の者(35歳を除く)
血中脂質検査
肝機能検査
血糖検査
心電図検査

特殊健康診断の診断項目(一部)

特定健康診断は、従事する業務によって診断項目が異なります。一例として、鉛を取り扱う業務についての検査項目をご紹介します。

鉛を取り扱う業務の特殊健康診断項目

  • ・業務経歴の調査
  • ・鉛による自覚症状または他覚症状における既往歴の調査
  • ・血中の鉛の量、尿中のデルタアミノレブリン酸の量における既往の検査結果の調査
  • ・自覚症状、他覚症状における有無の検査
  • ・血液中の鉛の量の検査
  • ・尿中のデルタアミノレブリン酸における量の検査


医師が必要と判断した場合は、以下の項目が追加されます。

  • ・作業条件における調査
  • ・貧血検査
  • ・赤血球中のプロトポルフィリン量における検査
  • ・神経内科学的な検査

健康診断の費用負担

健康診断は、多くの医療機関で自由診療とされています。診断費は約10,000円〜15,000円と設定されていることが多いですが、企業は見積もりを事前に依頼し、受診にかかる費用を把握することが大切です。

健康診断の費用は原則企業負担

健康診断は従業員の健康を確保・維持するため、企業に法律で義務付けられています。従って、一般的な健康診断にかかる費用は、原則として企業負担です。

従業員が受診する医療機関を指定してきた場合は、従業員が自費で健康診断の費用を立て替え、領収書の提出を受けて企業が費用を支払うことが一般的です。

オプション検査や再検査の費用は従業員負担

従業員の希望で、人間ドッグや必須の診断項目ではないオプションの検査を実施する場合、法で決められた診断項目以外の費用は従業員が自費で支払います。

また、健康診断の結果により再検査や精密検査が必要になった場合は、それらの検査は健康診断に該当しないと判断されるため、費用は従業員が負担します。
 

健康診断の費用を経費計上する方法

企業は、健康診断にかかる費用を福利厚生費の勘定科目として計上することが可能です。しかしそのためには、以下の要件をすべて満たしている必要があります。

1.健康診断の対象者を限定しない
2.企業が医療機関へ直接費用を支払う
3.常識的な金額にとどめる

1.健康診断の対象者を限定しない

法で定められた条件に関係なく、従業員全員が一般的な健康診断を受けられるようにすると、健康診断の費用が法定外福利と判断され、福利厚生費の勘定科目として計上できます。これは、従業員全員が平等に健康診断を受けられる環境が福利厚生とみなされるからです。

一方で、従業員の年齢に応じて健康診断の内容を指定することは可能です。

2.企業が医療機関へ直接費用を支払う

健康診断の費用を企業が医療機関に直接支払うことで、福利厚生費として認められます。従業員が費用を自費で立て替えたり、健康診断の費用を従業員にあとで支払ったりすると給与と判断されるため、福利厚生費の勘定科目として計上できません。

3.常識的な金額にとどめる

健康診断にかかる費用は、常識的な範囲内に収める必要があります。たとえば、一部の従業員が人間ドッグのような値段の高いオプション検査を受けると、その費用は福利厚生費ではなく賞与とみなされます。

常識の範囲内での金額に収めることと、役職や年齢、性別等、従業員の間で過度な費用差を作らないことが福利厚生費の勘定科目として計上するために必要な要件です。

健康診断の実施において企業が気を付けるべきポイント

企業は、健康診断記録の管理や労働基準監督署への報告を義務づけられています。健康診断をただ実施するだけではなく、診断の結果を受けて従業員の就労条件を改善したり、医師の助言を聞くことも必要です。

本章では、健康診断を実施するにあたって企業が知っておくべきポイントについて、詳しく解説します。

健康診断結果の保存や報告義務の把握をする

企業は健康診断の結果を保管する義務があり、保存期間は健康診断の個人表が作成されてから5年間です。

また常に50人以上を雇用している企業の場合、雇い入れ時の健康診断を除く一般健康診断の結果について、所轄の労働監督基準署に報告する義務があります。報告義務に違反すると罰則を受ける可能性があるため、注意が必要です。

健康診断中の給与の取り扱いを把握する

一般健康診断中の給与

一般健康診断の場合、基本的に給与の支払い義務はありません。

しかし、多くの医療機関が診断を実施している時間は企業の就業時間と重なることが多いです。企業と従業員との間でトラブルなく健康診断を実施するためには、従業員に有休を認めることも有効です。

特殊健康診断中の給与

特殊健康診断は、業務に従事するために必要なものとみなされるため、健康診断の受診時間に対して給与が発生します。たとえば、健康診断を就業時間外に受診する場合、企業は時間外勤務といった割増賃金を支払う必要があります。

特殊健康診断の受診は、業務の一部と考えましょう。

健康診断費用の立て替えを周知する

上述のとおり、従業員が企業指定以外の医療機関を希望する場合があります。その場合、いちど従業員が自費で受診費用を立て替え、あとから企業が従業員に費用を支払います。

企業は、受診費用の立て替えについて従業員によく周知しておくことが重要です。健康診断は自由診療であり立て替えの費用が高額となることが多いためです。

また、健康診断の費用を福利厚生費の勘定科目として経費計上したい場合は、従業員の立て替え払いが認められません。従業員が指定医療機関で受診しやすいように、有給休暇を認める、時間の融通をきかす等の対策を取ることが必要です。

従業員に受診を拒否された場合の対応を考える

従業員に健康診断の受診を拒否される場合もあります。健康診断は企業に課せられている法律上の義務であること、従業員にも健康診断を受ける義務があることについて、充分な説明が必要です。

それでも受診拒否が発生する場合は、就業規則に受診を拒否した場合の会社としての対応を記載し、事前に告知しておくとよいでしょう。
 

健康診断を実施して従業員が健康に働ける環境づくりを

健康診断の実施は、企業に法で定められた義務であり、従業員の健康状態を管理するためにも必要不可欠なものです。企業は、健康診断を実施する以外の義務についても正しく把握し、法令違反なく適切に対応できるようにしましょう。

また、健康診断を通じて従業員の心身の安全・健康を守ることは、企業の健全な運営につながり、企業価値の向上にも寄与します。企業の安定性を高め、従業員が健康で安全に働ける環境づくりの一環として、ぜひ本記事をお役立てください。

 

参考資料

”労働安全衛生法に基づく 健康診断を実施しましょう”.厚生労働省.

www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

 

 

本サイトは、快適にご覧いただくためCookieを使用しています。閲覧を続ける場合、Cookie使用に同意したものとします。 Cookieポリシーを表示