2021年税制改正の影響とは?ポイントと思いがけない落とし穴を解説

2021年税制改正の影響とは?ポイントと思いがけない落とし穴を解説

公開日 2021年5月19日
更新日 2021年5月19日
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税制改正は毎年の定例イベントで、特に源泉徴収関係や給与所得に関する控除、納税手続きに関する変更等、人事給与業務に影響を及ぼす改正が少なくありません。
しかし、内容が複雑なこともあり、網羅的に改正内容を検証するのは大変です。

本記事では、2021年度(令和3年度)の税制改正の概要を押さえながら、あまり注目されていないと思われる改正内容にも焦点を当て、年末調整や電子帳簿保存法等に関連した思わぬ落とし穴がないかについて検討します。

 

目次

2021年税制改正の概要
年末調整に関わる!源泉徴収関係書類の電子提供要件緩和とは
  電子提供要件緩和の中身
2021年税制改正の落とし穴 -電子帳簿保存法における電子取引-
電子取引に該当すると印刷して紙保存ができなくなる
今回のまとめ -2021年税制改正で注意したい電子手続きと知っておきたい年末調整手続き-


2021年税制改正の概要

2021年税制改正では
・期間延長及び、対象となる住宅要件の一部変更を伴う住宅ローン控除の特例を創設
・一定の場合に役員以外の従業員の退職所得課税を増額
・給与所得者の扶養控除等申告書、保険料控除申告書等を含む、ほとんどの税務関係書類の押印義務を廃止
・個人住民税の特別徴収税額通知の電子提供を一定の場合に義務化
等、人事業務に関連のありそうな改正がいくつかあります。

たとえば住宅ローン控除の改正については、取得した住宅の要件をチェックしている場合は対応が必要になる可能性があります。また、退職所得課税の変更については計算ロジックの見直しが必要になりそうです。

そして、押印廃止は各様式の押印欄を削除する改定を伴っており、新様式を用意する必要があります。

これらについては財務省の税制改正のパンフレットでも取り上げられていますし、注目して対応を始めている読者の方も多いのではないでしょうか。


年末調整に関わる源泉徴収関係書類の電子提供要件緩和とは

そんな中、今回の税制改正には源泉徴収関係書類の電子提供要件を緩和するというあまり目立たない改正があります。
具体的には、税務署への届け出が不要になるという内容です。

従来、国税庁は年末調整手続電子化のための準備として4つのステップを挙げていました。

 ステップ1:電子化の実施方法の検討
 ステップ2:従業員への周知
 ステップ3:給与システム等の改修等
 ステップ4:税務署への届出

今回の税制改正で該当するのが、このうちステップ4を不要とするものです。
年末調整/源泉徴収に関連する改正であるため、念のため内容を把握しておく必要がありそうです。

電子提供要件緩和の中身


では、変更の内容をもう少し細かく見てみましょう。
従来のルールでは、給与の支払を受ける者(従業員)が給与の支払者(勤務先)に対して提出する源泉徴収に関する申告書は、書面によることが原則でした。

ただし例外として、事前に「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請」を行い、所轄税務署長の承認を得た場合には、電子データでの提出及び保管が認められていました。なお、この手続きでは特に返事の通知がない場合は承認があったものとされます。

2021年税制改正後は、2021年4月1日以後に提出する源泉徴収関係書類について、上記の届出および税務署長による承認が不要となります。

代わりに、以下の2つの要件が課されるという建付けとなっています。(所得税法第198条2項)
 

1. 当該申告書に記載すべき事項の提供を適正に受けることができる措置を講じていること
 その他の政令で定める要件を満たしていること(所得税法施行令第319条の2第1項)
2. その者(従業員)の氏名を明らかにする措置であって財務省令で定めるものであること(所得税法施行規則第76条の2第2項)
 

1および2の具体的な内容を整理すると、以下の表のようになります。

要件 具体的な対応例
従業員が電子提出を適正に行うことができるための措置 電子署名を付与するか、パスワードを設定してインターネット経由のメールで提出
電子署名を付与するか、パスワードを設定してUSBメモリ等に保存して提出
社内ネットワーク内にデータを格納
社内ネットワーク内でメールにより提出
従業員が電子提出をする際に、勤務先がその者(従業員)を特定することができるための措置 電子署名を付与して申告書を提出
他の従業員と区別できるようなID及びパスワードを用いて提出
申告書に記載すべき事項について画面への表示及び書面で印刷するための措置 具体的な指定はなし

 


よく見ると見覚えがあるのではないかと思いますが、実はこれらの条件は以前と変わっていません。
税制改正前の届出の様式である「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」の記載要領欄や、年末調整電子化に関する国税庁Q&A[2-9]にも同様の事項が記載されています。

年末調整の電子化対応が済んでいる場合は、この届出も完了しているはずです。
まだ済んでいなかったとしても、ほかの税制度(たとえば、下記で紹介する電子帳簿保存法)における対応要件と比べても特に厳しいものとは言えず、クリアするのはさほど難しくないと言えるでしょう。
これについては一安心してよさそうです。

 

2021年税制改正の落とし穴 -電子帳簿保存法における電子取引-

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ところが、思いがけないところに落とし穴があります。それは、電子帳簿保存法に関連したものです。

電子帳簿保存法とはその名の通り、国税に関する帳簿や書類等を電子的に保存するにあたっての方法を規定する法律です。書類を最初から電子データで作成して保存する場合や、紙の書類やレシートをスキャンしてデータ化する場合等、いくつかの類型に分かれているため、全体像がつかみにくい法令です。また、「e-文書法」という、電子帳簿保存法に似た法律があることも、どの書類をどのように保存すべきか、制度を複雑にしています。

電子帳簿保存法における規制対象のひとつに、「電子取引」という取引・書類の類型があります。具体的には注文書、契約書、送り状、領収書、見積書等を電子データとして受け取る場合が対象で、いわゆるEDI取引や電子メールに契約書を添付する場合、ウェブサイト上に領収書が表示され、書面でのやり取りがない場合等が該当します。

この説明だと、通常の人事部の業務で取り扱う書類はほとんど対象にはならないと考えられるでしょう。しかし、当社の所轄税務署に確認したところ、たとえば「雇用契約書」あるいは「労働契約書」をデータとして作成した場合には規制の対象となります。昨今のリモートワークの普及に伴い、雇用手続きをオンラインで完結させるケースも増えてきているはずであるため、注意が必要です。

電子取引に該当すると印刷して紙保存ができなくなる

電子取引に該当する場合、データを保存するシステムの要件をクリアしたうえで保管する義務が生じます。具体的なシステムの要件は下記の表に整理してみました。

先に確認した源泉徴収に関する届出の要件と比較しても明らかですが、電子取引に関するデータ保存の要件はかなり複雑です。

また、保管期間は原則7年間となります。一方、労基法上は労働者名簿、賃金台帳のほか、雇入れに関する重要な書類である雇用契約書の保管期間は原則5年間(109条)です。2020年に民法改正を受けて改正される前は3年間であり、2021年4月時点では移行措置として3年間保管すれば問題ありません。いずれにせよ必要な期間にギャップが生じています。

区分 根拠条項 要件 具体的な対応例
いずれかを選択して遵守 規則8条1項1号 タイムスタンプ付与後の授受 データの発行者側(クラウドサービス等)でタイムスタンプを付与
規則8条1項2号 授受後タイムスタンプを付す データの受領者側で、授受後にタイムスタンプを付す
当該電磁的記録の保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておく
規則8条1項3号 データの訂正削除を行った場合に記録を残すシステムの利用 システムの仕様上、対象書類へのすべての変更が管理されること
データの訂正削除ができないシステムの利用 システムの仕様上、ユーザが書類を任意に変更削除できないこと
規則8条1項4号 データの訂正削除防止に関する内規の整備 (1) 自らの規程のみによって防止する場合
1 データの訂正削除を原則禁止
2 例外的にデータを訂正又は削除する場合の手続
3 データ管理責任者及び処理責任者の明確化
(2) 取引相手との契約によって防止する場合
1 データ訂正等の防止に関する条項を含む契約を整備
2 事前に上記契約を行う
3 電子取引の種類を問わない
すべて遵守 3条1項4号 システム関係書類の備え付け システム概要、システム仕様、操作説明、事務処理マニュアル等
保存場所で記録画面が出力できるよう端末等を整備 PC、モニタ、プリンタ、マニュアル等の設置
国内事業所で記録事項が画面に明瞭・整然と表示でき、印刷できること
3条1項5号イ 保存内容の検索(法改正により一部が免除されるようになる) 取引年月日、勘定科目、取引金額等、帳簿の種類に応じた主要な記録科目による検索が可能
3条1項5号ロ 日付または金額の範囲指定が可能
3条1項5号ハ 2以上の任意の記録項目の組み合わせで検索が可能

 

従来は保管要件が複雑であることから、システム上でデータとして保存せず、紙に印刷して保存するという手段がありました。保管場所の確保や管理といった別の課題は生じますが、これらを天秤にかけたうえで判断することは可能でした。

しかし、2021年税制改正により、2022年1月1日以後は印刷しての保管が認められないことになります。もし雇用契約をオンラインで締結することを考えている場合、改めて電子帳簿保存法に関連する要件を整理し、どのようにデータを保管するのかの検討が必要になるでしょう。

今回のまとめ -2021年税制改正で注意したい電子手続きと知っておきたい年末調整手続き-

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年末調整に関係してくる源泉徴収関係書類の電子提供要件緩和は、所轄税務署への申請が未済だった場合にこの手続きをスキップできるようになるという内容でした。追加の手続が増えるものではないため、申請が済んでいる場合には特にメリットもデメリットもないといえます。

一方、電子帳簿保存法の改正では、雇用手続きを電子化する場合に雇用(労働)契約書の保管方法を検討する必要が生じます。特にリモートワークや電子契約を推進するにあたり注意が必要だと言えるでしょう。

源泉所得税はもちろん、それ以外の領域でも、税制改正は様々な形で人事業務に影響を与えます。キャッチアップは大変ですが、細かな変更も見逃さずにもれなく対応していきましょう。

 

※本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、法的な助言を行うものではございません。また、本記事内に掲載した表や法令の整理は、わかりやすさを優先するため法令上正確な表現を用いずに簡略化している場合があります。ご対応を検討される場合は正確な記載を確認し、必要に応じ専門家のアドバイスを得てください。
 

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