人事のアタマ|キリンHD独自のキャリア展開・人的資本経営に迫る(前半)

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人事のアタマ|キリンHD独自のキャリア展開・人的資本経営に迫る(前半)

酒類・清涼飲料に加え医薬品の製造・販売を中心に事業を展開し、直近では独自技術や独自素材を強みに、ヘルスサイエンス領域の事業拡大にもチャレンジされているキリングループ様。「人間性の尊重」を人事の基本理念に掲げ、従業員と会社が「イコール・パートナー」であるとして人的資本経営を推進されています。

本対談では、キリンホールディングス 人財戦略部人財開発担当 辻翔馬様に、WHI総研の奈良がインタビュー。辻様のキャリアとキリングループ様の人的資本経営に迫りました。

前半となる本記事では、辻様がこれまでの歩みから得た人事にとって大切な視点や、キリングループ様の人的資本経営における課題について触れています。

 

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今回の対談者
辻 翔馬 様(写真左)
キリンホールディングス 人財戦略部人財開発担当
 

人事のキャリア|現場に精通した人事になるまで

Q1. はじめに、辻様のこれまでのキャリアについてお聞かせいただけますでしょうか

辻様:
私は大学卒業後、2013年にキリンビールに新卒で入社しました。

就職活動の際から営業を希望していたのですが、最初はキリンビールの名古屋工場で人事労務の部署に配属されました。人事の適性を見極めていただいたのかもしれません。

奈良:
新卒配属が人事関連というのはめずらしいですね。

辻様:
そうですね。

名古屋工場は中部エリアの製造と物流を担う拠点工場で、直接雇用の従業員数は約200名の規模でした。そこでの採用、研修プログラムの策定、労務管理、組合対応が基本的な業務です。

工場には広報機能もあるので、広報系の企画も行っていました。たとえば、お客様を工場にお呼びして、ビールのおいしさを体感してもらうようなものです。

奈良:
人事労務業務の他に広報活動もされていたなんて、幅広いですね。

辻様:
人事労務の仕事が多かったのですが、配属としては総務広報担当でした。もちろん人事業務もあるし、広報業務もあるし、当時は組織開発なんて言い方はありませんでしたが、組織風土改革といったところにもチャレンジしていました。

それから工場での社内イベントですね。工場内におけるビアフェスティバルの企画運営をしたり、従業員食堂の利用率向上を図ったり、3年間何でも屋として様々な仕事にチャレンジさせてもらいました。

奈良:
現場との距離感が近しいところで、最初の3年間を過ごされたんですね。そのあとはどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

辻様:
名古屋にいたまま、2016年4月より営業に異動しました。

営業には大きく2種類あります。飲食店様に商品を取り扱ってもらえるようにする業務用営業と、コンビニやスーパー等の小売店様に取り扱ってもらえるようにする家庭用営業です。

私はそのうち後者を担当し、4年間営業としてキリンブランドの育成に最前線で関与させてもらいました。その後、現部署へ異動してきたというのがこれまでのキャリアです。

奈良:
最初に工場の総務広報担当として現場で人事業務に従事し、その後営業を経て、現在は人事をされているということですね。人事にとって非常に重要な現場の視点を持たれてますね。

辻様:
メーカーにおいて製造部門と営業部門はビジネスの要である存在ですが、その2つを早くに経験できたのは、経営視点を持つという意味でとてもよかったです。また、全社の中でも両部門で働く従業員の人数は多く、そこでの現場感覚が持てるという点でも重要な経験でしたね。

現在、人事でさまざまな施策を検討していますが、結局は従業員の皆さんが一つひとつの施策に共感し、行動してもらわないと意味がないと思っています。一番人数の多い、工場や営業の方の気持ちをある程度想像できるようになったことで、人事にとって大切な視点を得られました。

Q2. これまでのキャリアを経て、人事部に異動された現在、どのようなお仕事をされていますか

辻様:
2020年にキリンホールディングスへ転籍し、現在の部署である人財戦略部に異動しました。主な業務は、キリンホールディングス籍従業員の異動・配置・評価です。加えて、人財マネジメント全体の再構築や従業員の自律的キャリア形成支援、タレントマネジメントシステム導入等、複数のプロジェクトにも参加しています。

異動・配置は組織や人の成長にとって重要な人事施策の一つと考えています。ただし、人財マネジメント上の1つのパーツでしかないとも考えています。採用・育成その他の要素と、線で繋がって初めて意味のある異動・配置ができるはずです。

奈良:
特に異動・配置のあたりは各企業で特徴が出るところですが、辻様がされている異動・配置業務はどのようなものでしょうか。

辻様:
毎年4月と10月が定期異動時期で、それぞれの前3か月は異動配置の企画・調整を行っています。

残りの6か月は基本的に現場に出て、各組織のリーダーに従業員の皆さんのキャリアビジョンや今の成果発揮状況、特性を聞いて回っています。この聞き込みは1回やって終わりではありません。多い場合は1年に1回、人事が出向いて従業員1人1人の人財情報をアップデートしています。

奈良:
人事部で人事権を持つ企業様の中でも、キリン様はかなり丁寧に従業員のデータ収集を実施されていて、企業と従業員両者の希望を一致させようとされているなと感じました。活動内容をお聞きしますと、辻様はHRBPのような活動も担われているのですね。

 

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キリングループの人的資本経営の根幹「ユニークな事業ポートフォリオ」

Q3. 「ユニークな事業ポートフォリオ」は、どのような点でユニークなのでしょうか

辻様:
キリングループはビール・飲料の会社と思われている方も多いかと思いますが、実は国内のビールと飲料の売上は全体の半分ほどで、残り半分はグローバルを含めたその他の事業が牽引しています。特に直近では医薬事業が大きく成長しており、事業利益の1/3まで伸長してきています。飲料業界を見渡しても、飲料事業と医薬事業の両方を持っている企業はあまり無いかなと思います。

これからキリングループは、飲料と医薬を繋げるヘルスサイエンスを第3の柱とし、力を入れていこうとしています。大きくカテゴライズすると食・医薬・ヘルスサイエンス、この3つの領域を事業ポートフォリオの軸として、それぞれ拡大していく予定です。これがキリンの独自性だと捉えています。

奈良:
元々強みとされている飲料事業に加え、医薬も非常に強く、これからはそれを掛け合わせたヘルスケア領域を強化されるということですね。医薬事業は元々キリンビール様にとって得意な領域だったのでしょうか。

辻様:
医薬は、ビールの市場シェアが圧倒的首位だった頃から注力してきた事業です。元々ビールの製造には発酵バイオ技術が使われていて、当社で長年研究を積み重ねてきました。

この発酵バイオ技術を活かして何か新しいものを、と様々なチャレンジを続けた結果、現在主力事業として残っているのが医薬事業です。薬を作るにも生物の力を応用する発酵バイオ技術が求められ、それが当社の医薬事業における強みとなっています。

奈良:
飲料と医薬が2大事業だということがよくわかりました。その2大事業の架け橋となる事業としてヘルスケア領域を選んだことで、キリングループ独自の「ユニークな事業ポートフォリオ」になったのですね。

辻様:
その通りです。

キリングループのやりたいことは、食と健康を通したこころ豊かな社会の実現です。

今までお酒や飲料を通じて、お客様の心の健康には貢献できたと思うんですが、やはり人を笑顔にするためには、そもそも体が健康であることが大事だと思っています。そこで、医薬事業を展開し、すでに病気にかかった人の負担を軽減することで社会貢献を果たしてきました。

今注力しているヘルスサイエンス事業はその2つの領域をつなぐ役割だと捉えております。COVID-19をきっかけに世界で健康ニーズが高まる中、キリングループの強みである発酵バイオ技術を活用し、そもそも病気にならないよう、免疫機能の向上や健康状態の維持等を通して、これまで以上に多くの社会課題を解決したいと考えております。

奈良:
まさに転換期、挑戦期なんですね。

Q4. 「ユニークな事業ポートフォリオ」の実現にあたって、人的資本の面での課題はありますか

辻様:
やはり、新事業であるヘルスサイエンス事業を担える人財がまだまだ不足していることが課題です。これに関しては採用も重要ですが、内部での育成も大切だと考えています。

すでに飲料・医薬に精通している人財は多くいるのですが、その方々にどうヘルスサイエンス領域で活躍してもらうかが重要なミッションになりそうです。

奈良:
素人目線の質問ですが、ヘルスサイエンス領域はお酒や飲料に精通している方々に単に異動してもらうだけでは、うまくいかないものなのでしょうか?

辻様:
うまくいかないですね。理由のひとつに、顧客ニーズの違いがあります。お酒とサプリメントでは、当然お客様が求める機能や購入までのプロセスも異なります。

ヘルスサイエンス領域のお客様がどのような課題やニーズを持っているのか、その本質を掴み、法律などのレギュレーションをクリアにしながら、自社との強みと融合させていくというこれまでと異なるマーケティング能力が求められます。

さらにはサプライチェーンも飲料とは異なりますので、素材やサプリメントを効率よく製造し、高い品質を担保することが必要です。お客様に届け続けるためのオペレーション力と、組織能力も今後さらに強化しなければなりません。

奈良:
なるほど、とても面白いですね。

製品開発そのものではなく、どちらかというとその後の商流部分、売るという観点で難しさがあると。

次にキリングループ様の人的資本経営について詳しく伺いますが、この課題が人財戦略とタレントマネジメント施策に繋がるということですね。

 

後編に続く

この記事を書いた人

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奈良 和正(Nara Kazumasa)

2016年にワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は、入社以来継続して実践している各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。

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