厚生労働省の調査によると、従業員1,000人以上の大手企業では、9割以上の事業所でメンタル不調により長期休職した従業員または退職した従業員がいると回答しています。
休職手当申請には煩雑な手続きが必要とされ、担当者の負荷が増えていることが現状です。
本記事では、休職手当(傷病手当金)の条件・期間や計算方法など担当者が知っておくべきルールを簡単に解説します。また、診断書・申請書など企業の対応ポイントや手続きを効率化する統合人事システムのメリットを、実際の導入事例とともに紹介します。
目次
休職手当(傷病手当金)とは?支給条件や概要をおさらい
最初に、一般に「休職手当」と呼ばれるものは何か、「傷病手当金」との違いなどについて確認しましょう。
休職手当と傷病手当金の違い
「傷病手当金」とは、健康保険法第99条によって定められた、病気やケガで働けない場合の公的な生活保障制度です。一方「休職手当」とは、企業が独自に定めている休職手当制度が該当します。これらは、制度の目的や支給元、支給条件などが異なります。
しかし、一般的に「休職手当」と「傷病手当金」は同義で使われているケースが多いです。 本記事では公的制度である傷病手当金を『休職手当』として解説をしていきます。
傷病手当金を受け取るための4つの条件
この休職手当(傷病手当金)の支給を受けるには、次の4つの条件をすべて満たしている必要があります。
休職手当(傷病手当金)の支給の条件
①業務外の事由による病気やケガの療養のための休業である
②仕事に就くことが困難
③連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けない
④休業した期間中に給与の支払いがない
出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
支給の条件についてよくある質問
個人事業主やアルバイトはもらえる?
休職手当(傷病手当金)は、協会けんぽや組合健保など、企業の従業員が加入する健康保険の被保険者(従業員)が対象の制度です。個人事業主やアルバイトなどで、国民健康保険にしか加入していない場合は対象外となります。
休業期間中に副業など別収入があっても受給できる?
休職手当(傷病手当金)は休職して、会社から給与支払いがない場合に支給されるものです。副業などの別収入があっても受給できます。
休職手当(傷病手当金)の支給額・計算方法・支給期間
支給額の計算式は下記の通りです。支給期間は最長で1年6か月、同一傷病での休職・復職を繰り返した場合は通算できます。
なお支給日数は、労務不能となった日から3日間連続して休む「待期」を経た4日目からカウントされ、最初の3日間は支給対象外です。
1日当たりの手当金の計算方法
【支給開始日の以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額】÷30日×(3分の2)
たとえば、6月1日から6月30日まで休職し、その後いったん復職。同一の病気により9月15日から11月15日まで再休職した場合、待期期間3日間を除いた合計89日間が支給対象となります。
参考:全国健康保険協会「傷病手当金」
なお、同一期間に出産手当金の給付を受ける場合は、傷病手当金は支給されません(出産手当金の額が少ない場合は差額が支給されます)。育児休業中に給付される育児休業給付金は、休職手当(傷病手当金)と併用できます。
出典:全国健康保険協会「傷病手当金」
厚生労働省 雇用保険事務手続きの手引き「第12章 育児休業給付について」P170
休職手当(傷病手当金)の申請手続きのポイント
休職手当(傷病手当金)は休職中の従業員にとって重要な収入源です。迅速に手続きを進めるためにも、従業員の協力が必要であることをしっかり説明しましょう。
診断書は必要?申請書のポイント
休職手当(傷病手当金)の申請にあたって、診断書自体の提出は求められません。しかし、申請書の中に「休職が必要である」と医師が判断した旨を示す「療養担当者〈医師〉意見書欄」があり、ここに医師の記入が必要です。
申請書には以下3つの記入欄があり、それぞれ記入しなければなりません。
・従業員本人の記入欄:被保険者番号や振込口座などの本人情報
・会社(事業主)の記入欄:直近3か月の出勤日などの勤務状況
・療養担当者(医師)の記入欄:休職の根拠となる病気やケガの症状やその期間
出典:全国健康保険協会「傷病手当金について」
全国健康保険協会「健康保険傷病手当金支給申請書」 (手書き用記入例)
休職手当(傷病手当金)申請時 企業の対応ポイント
申請にあたって、企業が申請者に案内するべき項目は下記です。
<案内するポイント>
1.医師の書類記入:
・診断書は不要ですが、申請書には医師が傷病名と休職期間を記入する欄があります。
・従業員は、医師にこの欄を記入してもらう必要があります。
2.休職期間の確認:
・従業員と人事担当との間で休職期間の見込みについて調整しましょう。
・その期間をもとに医師へ記入を依頼しましょう。
3.給与の支払い有無:
・事業主の証明が必要です。一般的に、1か月単位で給与支払日ごとに申請が必要です。
・申請後、協会けんぽによる審査が行われ、支給はおおよそ1〜2か月後になります。
支給までには一定のタイムラグがあります。
4.申請方法:
・協会けんぽへは、郵送での申請が基本であるため、手続きには時間を要します。
5.税、社会保険料の徴収:
・傷病手当金は所得税と住民税が非課税。しかし、社会保険料は支払いが必要です。
・社会保険料の徴収は会社が行うので、支払い方法を確定する必要があります。
6.必要書類:
・事業主証明には、「出勤簿の写し」と「賃金台帳の写し」が通常必要です。
詳しくは、協会けんぽの傷病手当金に関するページを確認しましょう。
頻発する休業手当(傷病手当金)申請手続きを効率化
ここまで休職手当(傷病手当金)の申請手続きについて整理してきました。次に、企業にとってこの業務がどれほどの負担になっているのか、現状を見ていきましょう。
月10件以上の休職手当(傷病手当金)申請が発生
厚生労働省の調査によれば、従業員1,000人以上の企業では91.2%の事業所が1か月以上の休職者を抱えている状況です。さらに全国健康保険協会(協会けんぽ)の調査では、同規模の企業で年間12.58%の被保険者が傷病手当金を受給しています。この割合をあてはめると、1万人規模の企業では年間で1,258件前後の申請が発生している計算になります。
こうした状況下では、担当者は休職予定者と連絡を取り、申請書の記入内容をすり合わせ、給与支給の有無を給与台帳と突き合わせて確認するなど、膨大な量の申請業務に追われます。
参考:
厚生労働省 令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 P3
全国健康保険協会 現金給付受給者状況調査報告「現金給付受給者状況調査(令和5年度)」 P7
大手企業に広がる悩み
申請件数が増える中で、多くの企業では実務上の負担だけでなく、精神面・制度面における課題も抱えています。
休職手当(傷病手当金)に関する企業の悩み
【人事部門の業務負担と属人化】
対応部門の担当者にとって、休職者がメンタル不調を抱えている場合、慎重な対応や配慮が求められることは、心理的な負荷となります。さらに、こうした状況から業務が属人化しやすいといった側面も見逃せません。
【企業としてのコンプライアンスリスク】
休職理由にハラスメントが絡むケースではコンプライアンスリスクに繋がるおそれもあり、企業としての対応を整理・整備する必要があります。
【制度のわかりにくさと申請・復職時の不安】
休職者とのやり取りや復職支援を進めるうえで手続きは毎月必要であり、会社ごとの制度への対応も不可欠です。手続きの煩雑さやわかりにくさが休職者自身にも対応部門の担当者にとっても負担になっています。
申請手続きを効率化するには?システムによる一元管理が鍵
負担が増える要因の一つに、複数の書類やシステムをまたいで情報を確認しなければならない点が挙げられます。
出勤簿・給与台帳・申請書などが分散しているだけではなく、グループ企業がある場合にはそれぞれの企業が独自のルールやフォーマットを使っているケースもあります。
こうした状況を改善するために検討したいのが、システムによる情報の一元管理です。出勤状況や給与支給状況などを同一システム上で管理・参照できることで、申請に必要な各種確認・書類作成のプロセスが大幅に効率化されます。
さらに、休職中の従業員の状況を人事部内で共有しやすくなるため、属人化解消のメリットもあります。
TOPPANエッジ株式会社様の事例に見る、業務効率化の成果
TOPPANエッジ株式会社様は、「情報」を核としたインフォメーションソリューション事業、ハイブリッドBPO事業、コミュニケーションメディア事業、セキュアプロダクト事業の4領域で事業活動を展開しています。
同社は、システム刷新によって申請手続きなどの効率化を図り、担当部門の負担を大幅に削減しました。本章では、TOPPANエッジ株式会社様の「COMPANY」導入・業務改善の事例をご紹介します。
同社では、グループ会社9社に対し、2003年から1年以上かけて段階的に統合人事システム「COMPANY」を導入しました。
その後も順次機能を追加することでスムーズな導入・機能強化を行っています。これにともない、1,000種類以上あった紙の帳票類について現場主導で見直しを実施。最終的に9割以上の帳票を削減し、申請関連のペーパーレス化と管理業務の負担軽減を実現しました。
詳しくは、TOPPANエッジ株式会社様の導入事例記事をご覧ください。
休職者だけでなく人事担当者のためにも、休職手当(傷病手当金)手続きを効率化しましょう
休職手当(傷病手当金)の申請業務は、多くの大手企業で日常的に発生しており、一連の手続きは大きな業務負担となっています。メンタルヘルス不調などによる休職者の増加は企業の生産性や従業員のモチベーションにも影響を与えるばかりではなく、対応の属人化や申請者への配慮といった側面からも、人事部門にかかる負荷は見過ごせません。
統合人事システム「COMPANY」は、こうした課題を解決するための強力なサポートツールです。申請手続きに必要な情報を一元管理することで、業務負担を削減するとともに、勤怠管理やストレスチェックの分析機能で従業員の健康を事前にケアできます。
休職手当(傷病手当金)の手続きの効率化や従業員の健康管理を強化したい企業担当者の方は、「COMPANY」の導入を検討してはいかがでしょうか。