2025年、WHIは5つの人事トレンドに注目してきました。その5つとは「①育児・介護休業法の改正」「②賃上げの実施」「③生成AI活用」「④障がい者雇用」「⑤スキルベースの人材マネジメント」です。
2025年は育児・介護休業法の大きな改正があり、企業は「柔軟な働き方を実現するための措置」の5つのうち、2つ以上を選択して実施する必要がありました。また生成AI活用についても、前進が見られた年でした。
本記事の前編では、2025年、企業がこれらのテーマにどのように取り組んできたのか、現状や課題について解説します。
1分サマリ
①育児・介護休業法の改正
大手法人では、法律の最低要件である2つ以上の「柔軟な働き方を実現するための措置」を実施済みの企業が多かった。育児をする人としない人、職種間の不公平感が課題。
②賃上げの実施
2025年は過去2番目に高い引き上げ額。ただし連続で賃上げをしている場合には、企業の人件費負担が大きく増加していることが課題。
③生成AI活用
企業が生成AIを導入していることは珍しいことではなくなり、AIを「とりあえず使う」フェーズから、「自社仕様に育てる」フェーズへと移行。
④障がい者雇用
採用後の「定着」に注目。「ミスマッチ防止のためのインターンシップ」を行う企業も見られた。
⑤スキルベースの人材マネジメント
「ポータブルスキル」と「自社固有スキル」をどう分け、統合するかが大きな課題。
2025年の振り返り
1. 育児・介護休業法の改正
男女ともに仕事と育児・介護を両立できる状態を目指して、2025年4月と10月、改正育児・介護休業法が段階的に施行されました。
4月は子の看護休暇の見直しや、育児・介護を行う従業員へのテレワークの努力義務化などが施行され、10月からは「柔軟な働き方を実現するための措置」が施行されました。事業主は3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つの措置の中から2つ以上を選択して講ずる必要があります。
・始業時刻等の変更
・テレワーク等(10日以上/月)
・保育施設の設置運営等
・就業しつつ子を養育することを容易にするための休暇(養育両立支援休暇)の付与(10日以上/年)
・短時間勤務制度
WHI総研では、2025年1月から2月に、特に注目度が高かった「柔軟な働き方を実現するための措置」の実施状況について、大手法人へのアンケート調査を実施しました。
その結果、「始業時刻等の変更」「短時間勤務制度」を実施済みの企業が多く、多くの大手法人ではすでに法律の最低要件である2つ以上の施策に対応できていることがわかりました。
出典:株式会社Works Human Intelligence 【2025年4月・10月育児・介護休業法改正 法人の対応状況と課題に関する調査】77.8%の大手法人が今後義務化の「柔軟な働き方を実現するための措置」を先行対応
https://www.works-hi.co.jp/news/20250317
調査では、育児をする従業員・しない従業員や、職種間で利用できる施策に差が生まれてしまう不公平感に対して課題を挙げた法人が、34.7%にのぼりました。この結果から、従業員が抱えるネガティブな感情への対応が重要な論点であると伺えます。
育児をする従業員、しない従業員の間にある不公平感については、育児休業に入った従業員の業務を代替した場合、応援手当を支給するといった金銭的な報酬で報いる企業も見られます。
職種間で利用できる施策に差が生まれてしまう不公平感については、現場従業員が利用しにくいテレワークや時差出勤以外にも、たとえば子ども以外の家族に使える休暇のように、全従業員が公平に利用できる制度を検討してみてもよいでしょう。
2. 賃上げの実施
一般社団法人日本経済団体連合会の発表によると、2025年の大手法人(原則従業員500人以上)の賃上げ率は平均5.39%と、2年連続で5%を超えました。また賃上げ幅は1万9,195円で、比較可能な1976年以降2番目に高い引き上げ額でした(※)。
(※)一般社団法人日本経済団体連合会 2025年春季労使交渉・大手法人業種別妥結結果(最終集計)
https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2025/0828_06.html
ただし、状況としては物価上昇が賃上げのペースを上回っています。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、2025年9月の実質賃金(「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化)は-1.4%と、2025年1月以降、9か月連続のマイナスとなりました(※)。
(※)厚生労働省 毎月勤労統計調査 2025(令和7)年9月分結果速報等
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r07/2509p/dl/pdf2509p.pdf
また2026年から、有価証券報告書において、平均給与が前年度からどれだけ上昇したか(平均年間給与の対前事業年度増減率)を公表することが義務となります。そのため上場企業では、継続的な賃上げが投資家や求職者へのPRにも繋がります。

出典:金融庁 金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回) 資料3 事務局資料 P31の表をWHIが編集
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/shiryou/20250826/03.pdf
以上の状況を踏まえると、2026年にも2025年と同程度の賃上げをする可能性が考えられますが、2024年から連続で賃上げをしている場合、企業の人件費負担が大きく増加していることが課題です。賃上げは、資金力があるか業績が好調な企業を中心に、限定的なものになると予測されます。
3. 生成AI活用
2025年、人事部門における生成AI活用のあり方は大きく変わりました。この一年で、「試行」から「定着」への動きが明確になりました。
WHI総研が行った調査では、約9割の企業が「生成AIを人事労務分野ですでに利用している」または「近く利用予定」と回答。「人事労務分野での生成AI活用はまだ道半ば」と予測していましたが、現実はその想定を超えるスピードで進展しています。もはや「生成AIを導入していること自体」が珍しいことではなくなりました。
注目すべきは、その利用方法の変化です。これまでは要約やアイデア出しなど、汎用的な機能を試す段階が中心でした。ところが2025年に入り、社内規程や過去のナレッジを学習させ、自社固有の文脈を理解したうえで回答を生成させる活用が広がっています。
代表的な事例が、従業員からの問い合わせに応答する社内チャットボットです。単なる文章生成ツールではなく、社内情報に基づき実務に対応するしくみとして機能し始めています。
AIを「とりあえず使う」フェーズから、「自社仕様に育てる」フェーズへと移行したのが2025年だったと言えるでしょう。
導入企業の増加は想定を超える速さで進み、その活用レベルも着実に深化した一年でした。2026年は、その取り組みが人事労務分野においてどのような成果を生み出すのか、さらに注目が集まる局面となりそうです。
4. 障がい者雇用
2025年は、障がい者採用の確度をより高めることや、採用後の定着方法が注目されました。
出所:厚生労働省 令和5年度からの障害者雇用率の設定等について
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001039344.pdf
具体的な取り組みとしては「ミスマッチ防止のためのインターンシップ」がトレンドでした。
インターンシップを通じて、求職者に自社での就業イメージを持ってもらうことについては、障がいの有無にかかわらず同じです。ただし、障がい者を対象としたインターンシップの場合、企業は以下の点に着目することがあります。
・法定雇用率に反映しやすい1日6時間以上の連続勤務が可能か
・(土日をはさんだインターンシップを実施した場合)休日に休養を取れているか
・実際に働いてみた時に必要な配慮は何か
上記のように、インターンシップによって、障がい者が自社で継続的に働けるかどうかを確認し、ミスマッチを防止しようとする取り組みがみられました。
5. スキルベースの人材マネジメント
スキルベースとは、複数の人材のスキルを組み合わせることでジョブ要件を満たすという考え方に基づいた、人材マネジメントの手法です。
前回の記事では、スキルベースの人材マネジメントで重要なのは「自社に必要なスキルの定義」であると解説しました。
自社に必要なスキルを洗い出し、スキルベースの人材マネジメントに移行する企業も出てきていますが、スキルを定義し、体系化することは非常に難易度が高いようです。
特に一般的なビジネススキルである「ポータブルスキル」と「自社固有スキル」をどのように分け、統合するかが大きな課題となっています。
スキルベースの人材マネジメントは一部の企業で進んでいますが、生成AIを活用して、社内外のスキルを整理、統合するといった工夫も見られています。社内の多数の職種や仕事に対して、どのようなスキルが必要なのかを判断するのに生成AIは役立つと考えられます。そのための第一歩として、まずは社内の職種や業務を言語化し、整理することが求められます。
前編では2025年の人事トレンドを振り返り、企業での取り組み状況や課題についてまとめました。テーマによって、大きな成果が出たものもあれば、課題が浮き彫りになったものもあります。
続く後編では、2026年にも引き続きトレンドとして注目したいテーマや、2026年に新たに注目されるトレンドについてご紹介します。










