2026年人事トレンド5選!(後編)|最新テーマと実務におけるポイントを解説

ビジネスコラム

人が真価を発揮する、
人事・経営・はたらく人のためのメディア

最終更新日

2026年人事トレンド5選!(後編)|最新テーマと実務におけるポイントを解説

前編では、2025年の人事トレンド5つについて振り返り、企業の取り組みや課題、今後の見通しについて解説しました。

後編の本記事では、2026年に人事部門が押さえておくべきトレンドについてご紹介します。「①労働基準法改正」「②治療と仕事の両立支援」「③障がい者雇用とニューロダイバーシティ」「④生成AI活用の進化」の4つにフォーカスして、注目される理由、その背景と企業が実施すべき実務対応のポイントについて詳しく解説します。

1分サマリ

①労働基準法改正
2026年の改正を視野に議論中。部分的フレックスタイム制の導入や副業・兼業時の労働時間通算ルール見直しなど、より柔軟な働き方ができるように検討が進められている。

②治療と仕事の両立支援
2026年4月、事業主が職場における治療と仕事の両立を促進するため必要な措置を講じることが努力義務化。時短勤務制度や在宅勤務制度、特別休暇といった人事制度を整えることが有効。

③障がい者雇用とニューロダイバーシティ
2026年の法定雇用率引き上げに向けて、発達障害などの脳・神経の特性を個人ごとの認知スタイルの一つとして捉え、その違いを組織の強みに変えるニューロダイバーシティに注目。

④生成AI活用の進化
汎用AIを「個人が使う」ところから、自社データと業務に組み込まれたAIを「組織が使う」段階へと移行。動的データやAIエージェントの活用が鍵。

2026年の人事トレンド

1. 労働基準法改正

​​​​労働基準法の改正が検討される背景

現在、2026年の改正を視野に労働基準法の見直しが議論されています。改正の背景には、労働者の働き方が多様化していることが挙げられます。コロナ禍を契機にテレワークが普及したことに加え、育児や介護を行うにあたって、労働時間にも柔軟性が求められるようになりました。

2018年に公布された働き方改革関連法においても、フレックスタイム制の拡充等が定められましたが、今回の労働基準法改正ではより多様な働き方を考慮した法改正が検討され始めました。

本章では、具体的にどのような議論がなされているか、特に重要な改正点をとりあげて解説します。
 

部分的フレックスタイム制の導入

コロナ禍の収束後、出社とテレワークが混在するハイブリッド形式の働き方をとる企業も多いのではないでしょうか。いっぽう、フレックスタイム制が導入されていない場合、テレワーク時においても休憩時間以外は労働が求められます。

このように、固定労働時間制の場合は、せっかくテレワークをしていて子どもの送り迎えなどがしやすくても、中抜けできないという課題があります。そこで、週5日のうち2日間のテレワーク日だけフレックスタイム制を導入するような、部分的フレックスタイム制が検討されています。
 

テレワーク時のみなし労働時間制

テレワーク時においても労働時間の管理は必要ですが、自宅で働く以上、実際にいつからいつまで働いたかを厳密に管理するのは困難です。労働時間の管理がいきすぎると、自宅というプライベート空間での活動を、会社が過度に監視することに繋がります。

こういった事態を防止するため、テレワーク時にみなし労働時間制が適用できるような法改正が検討されています。
 

法定休日の特定義務化

労働基準法第35条1項によれば、原則として休日は少なくとも毎週1回、労働者に与えなければなりません(例外的に4週間に4日以上与える運用も認められています)。

この、最低限与えなければいけない休日を法定休日といいますが、法定休日をあらかじめ特定の日に決めておくことは法律上求められていません。そのため、現場の運用では法定休日がどれにあたるのか明確になっていないこともあります。

休日には法定休日の他、会社が定める所定休日があります。法定休日については、割増賃金を通常の労働時間の35%以上で計算しなければなりませんが、所定休日は時間外労働にあたる部分について25%以上で計算します。

このように割増賃金の率が法定休日と所定休日で異なるケースがあるため、法定休日を特定していない場合、給与の誤支給が起こる可能性があります。

これを是正するために法定休日をあらかじめ特定することが検討されています。
 

連続勤務の上限規制(14日以上の連続勤務禁止)

上記で、休日を4週間に4日以上与える運用が例外的に認められていると記載しました。極端な例ですが、4週間(28日)のうち、24日連続勤務をして、最後の4日間を休日にするといったことが可能です。

ただ、このような働き方は労働者の健康が損なわれるリスクもありますので、14日以上の連続勤務を禁止するという方向性で検討が進んでいます。

繁忙期のある飲食店など、14日以上の勤務が生じる可能性のある業界で、影響が大きくなると想定されます。
 

勤務間インターバル制度の法規制強化

勤務間インターバル制度とは、終業時刻から始業時刻まで、一定の間隔を空け、労働者の休息時間を確保する制度のことを指します。

しかし、現状この制度は一般労働者に対して努力義務ということもあり、2024年時点で導入率が5.7%(※)と、あまり浸透していません。まだ導入余地があるとみて、勤務間インターバル制度の義務化も視野に入れ、導入促進が検討されています。

主に深夜まで業務を行う企業への影響が想定されますが、いくつか実務的な懸念が挙げられています。たとえば突発的に深夜残業が発生した場合、勤務間インターバルを確保するために翌日の始業時間を遅らせることを、どのように上長が承認するのかといった点です。

(※)厚生労働省 令和6年就労条件総合調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/dl/gaikyou.pdf

 

副業・兼業時の労働時間通算ルール見直し

複数の企業で雇用契約を結んでいる副業・兼業者については、割増賃金を計算する際に、2つの企業の労働時間を通算したうえで、時間外労働に対する割増賃金を支払います。しかし、現在のルールが複雑すぎて企業側の負担が重いため、副業・兼業の促進を妨げているという課題があります。

この通算ルールは原則、先に契約した企業から順に労働時間を通算し、後に契約した企業が割増賃金を支払うことになっており、後者は他社での労働時間も含めて計算しなければなりません。

副業を促進するために、このような複雑な計算が必要ない形で割増賃金を計算する方法が検討されています。

求められる企業の対応

上記の内容はまだ議論中であり、改正が決まったわけではありません。そのため、現時点で企業が実務上準備しておくべきことはないと言えます。ただし、今後も少子高齢化を背景に、育児・介護がしやすい柔軟な働き方の拡充が企業に求められるでしょう。

ただ法改正に対応するという姿勢ではなく、自社の従業員が育児や介護が必要になっても働き続けられるよう、「働き方の選択肢を用意しておく」ことが重要になると考えられます。出社しての週5日、8時間労働が当たり前ではない時代が来ています。

業種、業態によっては柔軟な対応が難しいケースもありますが、自社で何ができるかを継続的に考えなければなりません。

2. 治療と仕事の両立支援

治療と仕事の両立支援が求められる背景

両立支援というと、これまで育児・介護が大きく取り上げられてきました。しかし、人手不足な社会の中で、シニア活用や健康問題を抱える従業員の離職防止の観点から、新たなテーマとして治療と仕事の両立支援が浮上してきています。

2026年4月1日には、改正労働施策総合推進法が施行される予定です。事業主が、職場における治療と仕事の両立を促進するため、必要な措置を講じることが努力義務化されます。

求められる企業の対応

事業主に対しては、従業員が治療と仕事を両立できるよう、人事・産業医・産業保健スタッフで連携して行う相談支援のほか、サポート体制を構築するための案内が求められます。

後編1_治療と仕事の両立支援1.jpg

出典:厚生労働省 治療と仕事の両立支援ナビ
https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/


また、時短勤務制度や在宅勤務制度、特別休暇といった人事制度を整えることも、治療と仕事の両立には有効です。

厚生労働省の「治療と仕事の両立支援ナビ」には、ガイドブックや参考資料が充実しています。

それぞれの立場に応じた行動ガイドへのリンクや、経営者・人事担当者・管理者向けのリーフレット、ガイドのほか、書面の様式例、事例集、疾患に応じたノート、支援制度の事例集などを入手できます。

両立支援は、従業員の要請を起点に始まり、それぞれの従業員に応じた柔軟な対応が求められます。管理側・従業員側双方に必要な資料として活用するとよいでしょう。

後編2_治療と仕事の両立支援2.jpg

後編3_治療と仕事の両立支援3.jpg

出典:厚生労働省 治療と仕事の両立支援ナビ
https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/download/

3. 障がい者雇用とニューロダイバーシティ

障がい者雇用が抱える課題とニューロダイバーシティが求められる背景

2026年7月、障がい者雇用促進法の改正により、民間企業の障がい者法定雇用率は2.7%へと引き上げられる予定です。2024年の2.5%からさらに水準が高まる今回の改正では、これまでの「数を満たす雇用」を超えて、より多様な特性を持つ人材が活躍できる環境づくりが求められます。

独立行政法人高齢・障がい・求職者雇用支援機構の調査によると、障がいのある従業員の業務はデータ入力や書類整理、清掃、事務などの定型業務に偏る傾向があります。さらに、AIやRPAの普及による自動化が進む中で、「仕事をつくって雇う」モデルは持続が難しくなりつつあります。このため、企業は従来とは異なる形で活躍機会の創出を模索しなければなりません。

後編4.2_障害者従事業務.jpg

出典:独立行政法人高齢・障がい・求職者雇用支援機構
「雇用されている障がい者の合理的配慮、職務内容等の実態-障がい者の雇用の実態等に関する調査研究」
https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku176.html

求められる企業の対応

障がい者と職務のマッチング

定型業務を障がい者が担う機会が減る中で重要になるのが、障がい者の特性を理解し、その人に合った仕事をやってもらうことです。一口に障がいといっても人によってその程度や特徴が異なります。今後の障がい者雇用では、これらを理解し必要な配慮を行ったうえで、その人ができる業務を任せることが求められます。
 

ニューロダイバーシティの浸透

特に発達障害などの脳・神経の特性を個人ごとの認知スタイルの一つとして捉え、その違いを組織の強みに変える考え方を「ニューロダイバーシティ」と言います。

組織全体で認知スタイルに多様性があることを理解し、スキルだけでなく、「どのように思考し、どのような環境で力を発揮するのか」といった特性を可視化することで、適材適所の配置に繋げることが必要です。

法定雇用率の引き上げを「戦略転換の契機」に

2026年の法定雇用率の引き上げは、障がい者雇用を単なる義務から、組織の力を高める戦略として捉え直すきっかけになるのではないでしょうか。発達特性や感覚特性など「見えにくい違い」を組織の強みに変えることで、従業員一人ひとりが最大限に力を発揮できる環境づくりが進められるでしょう。

4. 生成AI活用の進化

生成AI活用の進化に着目する背景

2025年、AI活用による「業務効率化」は多くの企業で成果をあげました。しかしWHIの調査では、その成果とは裏腹に、人事担当者の「満足度」は低いままでした。
 

生成AI利用に関して、満足していますか?満足度を選択してください(n=64,単一回答)

後編5_生成AIアンケートVol.02_グラフ変換用 (1).jpg

このギャップの理由は、次なるフェーズへの強い期待だと考えられます。人事担当者はもはや「便利な文章作成ツール」としてのAIには満足しておらず、「個人情報や基幹システムと連携させ、もっと業務の根幹で使いたい」というところまで見据えているのです。

この期待こそが、2026年のトレンドです。焦点は、汎用AIを「個人が使う」ことから、自社データと業務に組み込まれたAIを「組織が使う」ことへと移行します。

求められる企業の対応

データ戦略の深化:「動的データ」がAIの価値を決める

2026年、AIの真価を問うのは「データ戦略」です。これまでの社内規程のような「静的データ」の活用から、いよいよ1on1の記録やサーベイの回答といった、日々蓄積される「動的データ」の活用が始まります。

これらの「生きた情報」をAIが解析して初めて、離職予兆の検知やキャリア提案といった、高度なタレントマネジメントが可能です。ただし、データは企業内の部門やシステム間で孤立・分断され、全社的に共有・活用されていない状態にあります。このデータ基盤の整備が、人事部門の急務となるでしょう。
 

ワークフローへの組み込み:「AIエージェント」が業務を遂行する

もう一つ注目すべきなのは、AIが「実行する」存在、すなわち「AIエージェント」へ進化することです。

先進企業では、AIがエントリーシートを評価し、選考プロセスを自動化する事例や、従業員がチャットで申請を依頼すると、AIが対話し、基幹システムへの登録まで完結させる事例が出始めています。

AIが「答える」だけでなく、実際に業務を「動かす存在」へと進化しつつあるのです。たとえば、面接評価の一次判定や勤怠処理の自動登録など、人事担当者の負担を大きく減らす動きが進んでいます。
 

人事の役割は「オペレーター」から「アーキテクト」へ

2026年、AIの活用は「使う」から「組み込む」フェーズへと移行します。

人事担当者の役割も、AIを操作する「オペレーター」から、AIが自律的に動く業務プロセスの全体を設計する「アーキテクト」へと変わらなくてはなりません。

AIという強力なデジタル労働力を前提として、未来の業務プロセスをどう再設計するか。2026年、その主導権を握るのは、人事部門でしょう。
 

AIが従業員のパートナーに

AIエージェントが業務プロセスに組み込まれることで、いよいよAIは人間のパートナーとして協働するようになります。採用のようにAIが一部の業務を自動化する動きと並行して、キャリア相談のような分野でもAIが導入される動きが見られ始めました。

特に最近は「静かな退職」という言葉に代表されるように仕事をこなしてはいるものの、社内での次のキャリアが見出せない、モチベーション高くスキルアップに取り組めないといった課題を抱える従業員も出てきています。公募制やスキルアップ支援のような制度を用意しても、従業員がそれらを積極的に利用しないという課題もあります。

企業側もHRBPの設置、1on1、キャリア面談などで従業員のキャリアを支援していますが、対象の広さやタイミングのずれ、相談への心理的抵抗などから、全員に行き届かせるには限界があります。

一方、人ではなくAIへの相談なら、より気軽に自分の悩みを話せるという利点もあります。またAIにそれぞれの企業の仕事の情報を学習させれば、その企業でどういうキャリアを歩めばよいかもアドバイスしてくれます。これが汎用AIと組織で使うAIの違いです。

AIが従業員に寄り添うパートナーになる未来が、すぐそこまで来ています。

さいごに

2026年は、より柔軟な働き方を目指した、労働基準法の改正や治療と仕事との両立支援のための法改正に注目が集まります。また生成AIや障がい者雇用については、昨年から引き続きのトレンドですが、ニューロダイバーシティという新たな波も来ています。

これらのトレンドを把握しつつ、自社でどのような取り組みを行っていくのか検討するために、本記事が参考になれば幸いです。

この記事を書いた人

ライター写真

井上 翔平(Inoue Shohei)

共同執筆:眞柴 亮(Mashiba Ryo)
     袋瀨 淳(Fukurose Jun)
     角川 亜由美(Tsunokawa Ayumi)

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年、調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年、Works Human Intelligence入社。様々な企業、業界を見てきた経験を活かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動を行っている。

COMPANY