【これからの日本企業に必要なIT統制】第3回「IT部門が企業の生産性をリードするために必要なこと」

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最終更新日 2023年6月6日

【これからの日本企業に必要なIT統制】第3回「IT部門が企業の生産性をリードするために必要なこと」

前回の記事「第2回:IDaaSだけではだめ?日本企業特有のID管理の要件とは」では、日本企業が特殊な人事制度を持っているがゆえに特殊なID管理要件が必要になる点、それをきちんと満たすためにはどういった管理方法が適切なのか、という点についてご紹介しました。
それらを踏まえて、本記事では【これからの日本企業に必要なIT統制】シリーズの最終回として、俯瞰的な目線で今後企業の生産性を上げていくためのヒントをご紹介いたします。

 

目次

多様化する現代の働き方
ツールを検討する際に理解しておくべき社内の『仕組み』
これからのシステム部門に求められること
人事システム要件もシステム部門から提案すべき
まとめ

多様化する現代の働き方


昨今新たなテクノロジーが普及する中で、人々の働き方は大きく変容してきています。
数年前までは、仕事で必要なITの仕組みはすべて社内ネットワーク(イントラネット)の中でほとんどが完結していました。しかしながら近年、働く場所、働き方の多様化や、クラウドサービスの普及に伴い、社外からも業務システムへアクセスしたいというニーズが増えています。また、私用デバイスの業務利用やシャドーITの問題など、情報システム部門が対応すべき働き方のバリエーションが膨大に増えてきました。それら多くのニーズに応えるために、その解決の選択肢(ツール)もまた非常に増えてきています。

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        多様な働き方により多様なニーズが生まれている
 

ツールを検討する際に理解しておくべき社内の『仕組み』


様々な働き方に対応するために必要なのは、社内の『働くための仕組み』を理解することです。ここでいう『仕組み』とは、組織やチームの構成や業務習慣、そこで働く“ヒト”のデータ、業務の性質、利用しているツールやサービスなどです。

具体的なケースでご説明します。
例えば、顧客管理システムを導入するとします。まずは、そのアカウント付与および権限管理を行うケースについて考えてみましょう。どのようなシステムにおいても権限管理は必要かと思いますが、顧客情報などをどの部門のどのレイヤーにどこまで見せるか、すべて閲覧可能なのか一部閲覧可能にするのか、等の情報公開の考え方、契約情報や取引条件なども管理していくとなれば、編集の権限はどこまで付与するのか、社員の中でも、在宅勤務の社員がいたり、兼務の社員がいたり、客先に常駐している社員がいたり、あるいは、協力会社の方が社内に常駐しているケースもあります。そして予算の問題もありますので、アカウントも全員一律に付与するわけにはいきません。それらの社員に対してどのような方法でどのように見せるのか。それを決めるためには、どの組織のどんな社員が、どこで、どのような道具を使い、どんな働き方をしているのかという『仕組み』を把握しないと無駄の多い選択を行うことになります。

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全社的な働き方の『仕組み』を理解して最適な選択をする必要がある
 

かつて、これらの『仕組み』はベテラン社員の頭の中や、表計算ソフトのファイルとして管理されてきたものですが、今やこれらのインベントリ情報を把握することが可能な技術があります。これらのインベントリ情報によって全社のシステムやデジタル化をサポートしているシステム部門だからこそ、『仕組み』に関する全てを把握することが必要なのです。もし『仕組み』の全体像を正しく把握できておらず、例えばIT機器についてしか把握していない場合、“ヒト”や組織のデータを持っている人事部門に逐一問い合わせる必要があります。企業によっては、人事部門にすら情報が集約されておらず、各事業部門ごとで情報が閉じているケースもあります。業務プロセスがデジタル化されてこそ、情報システム部門がそれぞれの部門の業務を全て把握することが可能となるのです。
ゆえに、組織生産性を高めるためのツール導入を検討する際に「そもそも現在の働き方や業務の実態はどうか」というところは事前にデータで確認することができるようになり、人事部門や関係各所へ相談する際も、前提をそろえながらスムーズに対策や利用ツールの検討が可能になります。

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業務プロセスがデジタル化され、可視化されれば前提をそろえながら話をすることができる


これからのシステム部門に求められること


人事部門は人事のスペシャリストではありますが、全社員の生産性を決定づけるのはITです。各部門毎に活用するツールはもちろん、部門を跨いで利用するものや全社的に利用するツールについて、世の中のトレンドを社内で最も知っている(情報が集まってくる位置にいる)のは情報システム部門であり、経営から各部門までの業務やシステムを横断してサポートしているというのも情報システム部門の強みです。

これらの情報システム部門の強みに、前述のような社内の『仕組み』の理解を加えるために今後システム部門に求められることは、大きく3つあると言えます。

1.企業として持つべき“ヒト”や組織のデータ、業務プロセスのデジタル化の推進
2.ITトレンドや価値ある情報を収集するためのベンダーとの関係づくり
3.全体最適から部門最適までそれぞれのニーズに応じた各部門向けのシステムコンサルティング


クラウドサービスも乱立し始めた今だからこそ、システム部門は様々なベンダーから情報が集まる仕組みを作ることと併せて、各部門のシステムコンサルタントの役割を担っていくことが求められます。さらにシステムコンサルタントとしてのパフォーマンスをより効果的に発揮するためには、企業として持つべき“ヒト”や組織のデータ、業務プロセスのデジタル化の推進をシステム部門が主体的に進めていく必要があるのです。
              

人事システム要件もシステム部門から提案すべき

 

しかしながら、各部門向けにシステムコンサルティングを行うにも、いちいち人事部や各事業部に直接組織や働き方について聞こうとすると、その度に膨大な工数がかかります。さらに、ヒアリングでは漏れが発生することもあるので、大方についてはシステムの中で判断できるようにデータを蓄積・整理しておく必要があります。
(もちろん、例外や都度変わるものもありますのでヒアリングは必要ですが、最小限に留める必要があります。)

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どこの組織にどんな人が何人いるのか、どういう働き方をしているのか、決裁を取る際にはどういうフローを踏んでいるのか。こういった情報を人事システムからすぐに出せるようにしておくことで、人事部や各事業部も手をかけずにシステム部門に『仕組み』の情報を渡すことができるようになります。逆に、今これらの情報がすぐに出せない場合は、どういう人事データを見たいのか、どういう識別フラグを持ってほしいのか、という要望をシステム部門から投げる必要があります。
企業によっては、人事システム要件を決めるのは人事部だけとしているところも多くあると思いますが、これからはシステム部門も主体的に要件を検討する必要があります。

 

まとめ

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2020年代を迎え、働く人々のITリテラシーは間違いなく上がってきています。同時に、皆それぞれが自分の使いやすいものを利用するようにもなってきています。ただ、それぞれがバラバラのシステムを使っていると、セキュリティのリスクがあるだけでなく、会社としての生産性も上がっていきません。もし仮に上がったとしても再現性はないため、偶発的、一時的なものとなるでしょう。企業の文化や『仕組み』にあったサービスやツールを利用することで、安全で生産的な業務を遂行することができ、企業全体の働き方も変わってくるのです。


今後、様々なクラウドサービスを検討・活用していく際には、社内の『仕組み』を加味する必要があります。『仕組み』を加味するためには、“ヒト”や組織の情報や業務プロセスなどのデジタル化が必要です。デジタル化においても社内全体のシステムやデータ連携などを鑑みる必要があり、これらを全社横断して把握できるのはシステム部門だけです。ここに各ベンダーから集まってくるITの最新情報やトレンドをかけ合わせて、各部門にあったシステムコンサルティングをシステム部門が行っていく必要があります。そして様々なサービスやツールを社内に導入する際に、効率的なアカウントや権限の管理を行い、高度なセキュリティを担保するために、日本企業文化(ライフサイクル)を加味したIDaaSやID管理システムの活用が必要になってきます。

数年前は、「情報システム部門というのは褒められない。うまく業務が回せているときは、会社で何も問題が起きていないということ。何か起きた時だけ情報システム部門が標的になる。」という声もお客様からお伺いしておりました。しかし、ITの活用が企業の生産性に直結するようになった今、情報システム部門は全体の統制を見ながらも経営や各事業部門にIT活用をこれまで以上に提案し、企業の生産性を上げるための舵取りとなることが求められていきます。

企業の生産性をリードするのは今や、情報システム部門なのです。

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