人事のアタマ|クラレのグローバル化と戦力最大化のための人的資本経営とは

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人事のアタマ|クラレのグローバル化と戦力最大化のための人的資本経営とは

高性能樹脂や繊維製品を中心に世界トップシェア商品を展開し、化学業界を牽引する株式会社クラレ様。「人と組織のトランスフォーメーション」を中期経営計画の一つの挑戦にすえ、独自の人的資本経営を進めています。

本対談では、株式会社クラレ グローバル人事センター 人事システムチームの浅川秀太様にWHI総研の奈良和正がインタビュー。浅川様のキャリアとクラレ様の人的資本経営に迫りました。

後半となる本記事では、クラレ様の人的資本経営の2つの方針や取り組み、また浅川様の考える今後のキャリアにも触れています。

※WHI総研:当社製品「COMPANY」の約1,200法人グループの利用実績を通して、大手法人人事部の人事制度設計や業務改善ノウハウの集約・分析・提言を行う組織

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今回の対談者
浅川 秀太 様(写真右)
株式会社クラレ グローバル人事センター 人事システムチーム
 

人的資本経営方針1:グローバル人材の能力発揮

Q5. グローバル人材の能力発揮のための取り組みについて教えてください

奈良:
まず1つ目のグローバル人材に能力を発揮していただくことに関して教えてください。

浅川様:
これまでのクラレの傾向として、会社の重要ポジションは日本人が多かったのですが、これからはグローバル人材からさらに積極的に登用しようとしています。

これを実践するにはDEI(Diversity & Equity & Inclusion)が必須です。そのうえで、優秀な人材がどこにいるのか確認し、積極的な施策が打てるように、グローバルでの人事データの可視化と彼らを抜擢するしくみが必要となります。

簡単に申し上げますと、もっとグローバルに目を向けるとよい人材がいるはずだから、その人達の存在を見える化したうえで、クラレで活躍できるようなキャリアを描ける環境にする、といったところです。

奈良:
浅川様のこれまでの業務で、サクセッションプランニングのトライアルに携わったという話がありましたが、そのお話と繋がりそうですね。

浅川様:
そうですね。サクセッションプランニングといっても様々ありますが、携わった1つの施策として、グローバルにおける部長層のサクセッションプランについてお話ししたいと思います。

クラレでは、サクセッション&ディベロップメントに関して、特にディベロップメント、たとえば部長になるためにはどのような準備が必要か、候補者が足りていないならばどのように候補者層を厚くできるか、に重きを置いた施策を検討しています。

特に現在検討しているのは、どのように公平性をもって、人材を事業・拠点において横串で把握し、育成・登用に繋げていけるかという点です。
そのため、できるだけ客観的に人材を把握できるツールやアセスメントの導入を検討しています。

今、お話しした内容はしくみの話ですが、この活動を継続していくために必須なのは、やはりDEIだと感じました。

Q6. グローバル人材の能力発揮におけるDEIの重要性について、具体的にどのようにお考えですか

浅川様:
グローバルにおける部長層のサクセッションプランニングですが、この施策の進め方がDEIに即した活動だったなと感じています。

今は私の兼務先の人材活性化チームで本活動を実施していますが、このプロジェクト自体はもともとタスクフォースという形で、グローバル事業を含め横串でチームを組んで2年間ほど活動しましたね。ドイツ、アメリカ、様々な国で議論してその原形を作ってきました。

そのうえで、昨年、そのタスクフォースから人材活性化チームにプロジェクトの引き渡しと、今後の進め方を決定するためのワークショップを丸4日かけて実施しました。私はこのワークショップのリーダーを務めたのですが、そこでの活動はDEIが実践されていたと感じます。

奈良:
様々な国の方、事業所の方がいらっしゃり、意見の集約が大変だと思うのですが、どうでしたか。

浅川様:
面白かった反面、大変でした。
サクセッションプランニングのような選抜的な考えは日本本社では馴染みが薄く、日本のメンバーが腹落ちするまで時間がかかったりもして、議論が行き詰まることも多々ありましたね。

でも参加メンバーが多国籍、多彩なキャリアを歩まれていることも影響して、一人ひとりキャラクターが異なり、議論が行き詰まったときに様々な方がその状況を打破してくれました。

たとえばある時は、ドイツ人の女性が「こうやって進めよう!」とホワイトボードにToDoをざっと書きだし、それがきっかけで議論が進んだりしましたし、ある時はアメリカ人の男性が「こんなツール作ってみた」とツールをベースに議論が進んだり。

このように、何度か行き詰まるシーンも出てきたのですが、そのたびに違う人がリーダーシップを発揮することで前進していくのを目の当たりにしました。これがDEIの効果で、今推し進めようとしているグローバル人材の活躍に必須なことだと実感しましたね。

奈良:
多様な人材がいるからこそ複数のリーダーシップが発揮される、DEIの重要な観点ですね。

Q7. DEIの定着のためにクラレ様で意識していることは何ですか

奈良:
多様な人材がいるからこそ複数のリーダーシップが発揮され、困難な局面も突破できるというのは、言葉では簡単ですが、実際にそれを機能させるのは大変難しいです。しかしお話を伺うと、すでにクラレ様ではDEIの文化が醸成されつつあると感じました。DEI定着のためにクラレ様で特に意識されていることは何ですか。

浅川様:
昔から意識していましたが、特にここ数年は強く「対話」を意識しています。
その反面、プロジェクトの進みは遅く、海外メンバーからもよく遅いと言われますが(笑)

印象的な話が2つあったので話しますね。

1つは、昨年1か月ほど、私がドイツの現地法人に出張した際の話です。

ドイツの従業員に「なぜ、日本のクラレに在籍しているのか」と聞きました。すると、「アメリカの企業は給料を沢山出すから言ったことをやれという空気だけど、クラレはドイツの意向も尊重したうえで前進しようとする。それが好きなんだ」と。

日本に帰ってきて、現在の本部長ともこのことについて話したのですが、これは日本企業がグローバルで勝つための1つの要素なのではないかと考えています。

トップダウンの強いアメリカ企業等と比較して、ゆっくりでも多様な意見を取り入れながら前進することで、1つの意見で素早く動くだけでは到達できない領域に到達できる可能性があるということです。

奈良:
もともと合議制で進めること自体は日本も得意だと思うんですが、出身国に関係なく多様な意見を許容し、多様なリーダーシップを発揮できる状態を作れているのは、特にクラレ様独自の強みが現れているところかもしれませんね。

浅川様:
そうですね。一方で海外拠点の従業員からは「意見を聞いてくれるのは嬉しい。聞かれて自分の考えと違ったらそこは主張する。しかし、さっさと決めてほしい」といった声もあったりします。

奈良:
多様性とスピードの調和は腕の見せどころですね。難しいですね。

浅川様:
そうなんです。そこで2つ目の話なのですが、グローバル人事システムを考える際に、各現地法人のタレントマネジメントのフローを直接伺い、業務フロー図に書き起こしたことがあります。

ご経験されている企業様だとよくわかると思うのですが、このような活動をする際、一部の企業、特に買収されたばかりの企業等は、そのような情報提供や本社からの指示を嫌がることも多いです。なぜ本社にそのような情報を提供しないといけないのか、と。

その際とても印象的だったのが、冗談半分ではあるのですが、現地の担当者の話でした。

「ローカル独自の都合があるので、統一したいかと聞かれたら嫌と答える。だけど、本社命令なら従うしかないから提供するよ。そのうえで、どうしてもその方針が嫌だったら自分は辞めるだけだ。自分の代わりに新しい人がきてその方針を受け入れてクラレが強くなるならそれでいいと思うし、会社としてもそれでいいじゃないか」と。

奈良:
これは現地に行っていろいろとやり取りされている浅川様だからこそのご経験ですね、非常におもしろいです。辞めてほしいわけではないが、協力もしてもらいたい。それぞれの意見をうまく昇華させていくことが本当に難しいですね。

浅川様:
そうなんです。辞めてもらいたいわけではないですしね。そのため、本社のガバナンスのためのグローバル人事システムだけではなく、各事業・拠点のエンゲージメント向上、能力向上のためのものであるというメリットを丁寧に説明し、納得してもらう必要があると思っています。

このあたりを悩みながら、対話には力をいれてDEIを促進しています。

人的資本経営方針2:戦力最大化のための全体最適と個人最適の調和

Q8. 従業員の最大戦力化についてどのような取り組みをされていますか

浅川様:
大きく2つあります。1つが個人最適、もう1つが全体最適です。

個人最適については、一人ひとりの長所やキャリア観に合わせてキャリアパスを提示していくことで、エンゲージメントの向上、ひいては能力向上と活躍に繋げてもらうことです。

全体最適については、今後必要になる従業員の能力・スキルと現時点とのギャップを明らかにしたうえで、それを満たすための計画的なリスキリングや配置等です。

奈良:
キャリア自律による成長促進と、エンゲージメント向上による生産性の向上という個人最適における話と、人材ポートフォリオのような全体最適の両立は、昨今のタレントマネジメントの主流だと感じます。

一方で、個人最適と全体最適は相反することもあるため、非常に難しいとも思います。個人はキャリア志向としてこの部署に行きたい、しかし現状と将来の人材ポートフォリオを考えると、その異動の実現はなかなか難しいケースもありますよね。

クラレ様ではこのあたりの難しさについてはいかがでしょう?

浅川様:
難しいですね。

ですが、まずは個人最適の観点を優先して考えています。個人へフォーカスしてキャリア観に寄り添い、成長してもらうための施策を実施することで、成長量とエンゲージメントを向上させる。結果として従業員のリテンションを実施する。このようなビジョンで取り組んでいます。

一方で、経営目線では適切な事業への従業員の割り振りが必要な場面も発生します。

そうしたときに、どうしても全体最適と個人最適の話になってしまいます。
キャリア自律に取り組んでいる従業員に「事業の都合で、あちらの部署へ行ってくれない?」と急に伝えてしまうと、それこそエンゲージメントが下がってしまいます。

奈良:
このポイントは本当に大きな課題ですよね。

浅川様:
そうですよね。だからこそ、早めに予測し、少しでも事前の対策や従業員とのコミュニケーションができる状態にすることが大事だと考えています。そのためには、個人と全体の双方における情報の可視化が必要であるということで、われわれは日々人事システムやDX推進等に取り組んでいます。

たとえばですが、3年後にはこの事業部に必要な〇〇というスキルを持った従業員が足りなくなりそうだと。そのため、早めに〇〇のスキルを持った人を育成し、場合によっては個人、組織共に異動できる状態にしておく必要がありますね、と。

このような状況を、関係する組織長や該当する従業員の上長が、データを元に腹落ちしたうえで、前もって従業員のリソースコントロールを意図した異動を実施したり、日々の従業員のキャリア面談を実施したりすることが、個人最適と全体最適の両立には必要だと考えています。

奈良:
少し話が逸れますが、この人材ポートフォリオの作成自体が非常に難しいですよね。
ポートフォリオの軸としてスキルを焦点にするなら細かすぎても抽象的すぎてもだめですし、多すぎると運用が回らないですし、いい塩梅で加減するというのが難しいと感じます。

浅川様:
そうですね。一方で難しいといってただ傍観しても進まないので、試行錯誤していこうとしています。まず最低限できるところから着手しようとしています。

たとえば「この世代のエンジニアは明らかに少ない」、「この部署のこの世代はキャリア入社組が多く、弊社固有の専門知識の積み重ねができているかチェックする必要がある」等、まずは客観的なデータを見ながら戦略的な配置、育成ができるようなしくみを整えようとしている最中です。

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価値貢献の幅を広げる今後のキャリア

Q9. 浅川様の今後のキャリア観について教えてください

浅川様:
今後のキャリアについてはいろいろ考えています。1つはやはりクラレが好きなので、クラレのために自分は何ができるかを考えており、その1つとして現場に出ることも大事だなと感じているところです。

また、人事としてより貢献していくためにも、現場事業についてもっと知らないといけないと思っています。現場に配属するだけが道ではないとも思いますが、そういうキャリアは経験しないとな、という感覚もあります。

ただ、新卒から人事にいる方だとわかると思うのですが、人事から現場に出るのは非常に怖いんですよね。

奈良:
率直にありがとうございます。間違いなく怖いですよね。

浅川様:
本当に怖いです。でもよくいわれますが、キャリアは2軸持った方がいいなと思います。私は幸いなことに人事を専門としながら、デジタル関係にも一定程度携わってきたので親しみがあります。

直近はデジタル領域を強くしようと個人的には頑張っています。

奈良:
どのようなことをされているのですか。

浅川様:
実はクラレでは今年からDX教育を手挙げ選抜で受けられるクラスがあり、私も申し込んで研修を受けています。

結構ハードでして、毎週3時間、課題も追加でこなしながらDXに関して学んでいます。

奈良:
3つも兼務していて、その勉強はすごいですね。

浅川様:
結構大変ですね。でも、ここで人事×デジタルという強みを作ることで、現場に出た際にはキャッチアップと同時に価値を発揮できると思っています。

この過程で現場も知り、人事とデジタルも知った状態になると、自身のクラレに対しての価値貢献の幅は今よりもぐんと広がると考えています。

奈良:
とてもよいお話ですね。

別の方で人事から営業に異動された方とお話しした際に「やはり人事を5年やっていた人間と営業を5年やっていた人間では、同じやり方でやっても価値の発揮度合いは当然違う」と。

「だから、どちらかというと営業だけど企画側をやりながら営業もすることで、自分でしかできないことをやろうとしている」と仰っていた方がいらっしゃいました。

浅川様:
私も現場と同じやり方をするための現場にいくというよりは、私ならではの形で価値を発揮しながら現場についてキャッチアップをし、さらにできることを増やしていく、ということを考えています。

奈良:
本日は貴重な時間をありがとうございました。改めて様々なお話を伺えて、大変勉強にもなりましたし、なにより刺激になりました。

浅川様:
こちらこそありがとうございました。

この記事を書いた人

ライター写真

奈良 和正(Nara Kazumasa)

2016年にワークスアプリケーションズ入社後、首都圏を中心に業種業界を問わず100以上の大手企業の人事システム提案を行う。現在は、入社以来継続して実践している各企業の人事部とのディスカッションと、それらを通じて得られるタレントマネジメント、戦略人事における業務実態の分析・ノウハウ提供に従事している。

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