就労証明書の電子化で負担は軽減する?懸念点と今後の期待とは

ビジネスコラム

人が真価を発揮する、
人事・経営・はたらく人のためのメディア

就労証明書の電子化で負担は軽減する?懸念点と今後の期待とは

就労証明書とは、従業員の就労状況を証明するための書類です。2022年12月、関係3大臣がそれぞれ記者会見を行い、2023年秋から就労証明書の様式統一を図るとともに電子提出を可能とすることを発表しました。

今まで従業員(保護者)の依頼により、企業が手書きで作成していた就労証明書ですが、2023年秋以降、どのようなフローで作成・提出をすることになるのでしょうか。

今回発表された内容と今後注目すべきポイントについて解説します。

※本記事は2023年3月8日時点の情報を元にしています。

目次

就労証明書の概要
 ・就労証明書とは
 ・就労証明書を提出する流れ
 ・就労証明書の書き方
就労証明書における企業の負担軽減に向けた動き
就労証明書の様式統一、電子化の発表
就労証明書に関する今後の期待
就労証明書に関する今後の懸念点、注視するポイント

就労証明書の概要

就労証明書とは

就労証明書とは、従業員の就労状況を証明するための書類です。

従業員が子どもを保育園へ預ける入園申請の際に市町村へ提出する書類のひとつとして、勤務先の企業から発行されます。

就労証明書を提出する流れ

就労証明書を提出する際は、従業員本人が勤務先企業の人事・総務部門等へ依頼し、企業側が作成します。

syurou_01.jpg

依頼を受けた企業は、就労証明書の様式を以下のいずれかの方法で入手します。

 ①従業員から紙で受け取る
 ②各市町村のホームページからダウンロードする
 ③マイナポータル「ぴったりサービス」からダウンロードする

企業は、様式に必要事項を記入し作成した就労証明書を従業員へ渡し、受領した従業員は他の入園申請書類とあわせて居住する市町村へ提出します。

なお、就労証明書は就労している同居家族全員のものを市町村へ提出する必要があります(同居の定義や対象年齢は市町村により異なります)。また、保育園を利用している期間は毎年提出が必要です。

就労証明書の書き方

就労証明書の書き方は市町村の様式によって若干異なりますが、記入項目として設定されているものは以下の通りです。

・勤務先情報
・就労形態
・働き方
・就労時間・時間帯
・就労実績
・産前・産後休暇の取得(予定)期間

また、企業が人事システムを利用して就労証明書を作成する場合、人事システムで出力できる項目と手入力や計算が必要な項目があります(システムの種類やシステム内でのデータの持ち方により異なります)。また、これらの項目は、先ほどの通り市町村により異なります。

就労証明書における企業の負担軽減に向けた動き

企業からの負担軽減を求める声

現在、企業が就労証明書を作成する際には、以下の理由により負担がかかっています。

・設問やレイアウト等の様式が市町村により異なる
・紙であることが多く手書きで作成しなければならず、市町村によっては社判の押印が必要

とくに、作成枚数や拠点数の多い大手企業では、数十から数百に及ぶ市町村の就労証明書を作成する必要があるため、多大な負担がかかっています。

また、これらを効率化するために人事システムを導入したとしても限界があるでしょう。

そこで、就労証明書の作成負担について、当社がアンケートを実施*したところ、なんと就労証明書の作成業務に年間平均88時間もかかっていることが判明しました。

この衝撃的な事実を受け、当社では政府や関係国会議員等に対して、企業に負担が生じている状況や負担軽減のために就労証明書の様式統一を図ることの必要性を訴えていました。

また、当社以外にも就労証明書の様式統一を求める声は経済界を中心に上がっており、政府は、これらの声を受けて議論を開始しました。

*COMPANYご利用のユーザーコミッティ会員様、239社が回答(2016年3月実施)

政府による標準的様式の策定

企業からの声を受け、政府は、就労証明書に必要な設問項目の絞り込みや用語の定義を整理し、標準的様式を策定・発表しました。標準的様式については、2017年以降、数度の改正が行われています。
 

  1. 2017年8月:最初の標準様式「保育の必要性の認定の際に用いる就労証明書の標準的様式について」を発表
  2. 2019年8月:「保育の必要性の認定の際に用いる就労証明書の大都市向け標準的様式について(通知)」を発表
  3. 2021年7月:上記の標準様式、大都市向け様式に代わるものとして、「就労証明書(簡易版)」、「就労証明書(詳細版)」(利用調整が必要な市町村向け)を発表
     

現在、政府は標準的様式の「詳細版」と「簡易版」を策定し、全国の市町村に対してその利用を促しています。各市町村は、これら標準的様式を利用するか、もしくは独自様式を作成・利用しています。

この標準的様式を利用した2022年4月入所分からの利用状況*は、以下の通りです。

令和3年7月に提示した標準的な様式の、令和4年4月入所分からの活用状況は、標準的な様式(簡易版)を活用している自治体(予定含む)は 53.2%、標準的な様式(詳細版)は 7.1%、活用していない自治体は 38.2%である。 

※引用:日本総研 「令和3年度子ども・子育て支援調査研究事業 就労証明書の標準的な様式の活用による市区町村 及び企業等の負担軽減に関する実態調査 報告書


このように、政府は企業の作成負荷軽減に向けて標準的様式を策定・公開し、全国の市町村へその利用を促しているものの、地域により保育ニーズや業務フローが異なること等から、依然として利用する様式は異なっています。

就労証明書の様式統一、電子化の発表

2022年12月13日、河野太郎デジタル大臣、小倉將信こども政策担当大臣、岡田直樹規制改革担当大臣がそれぞれ記者会見を行いました。各大臣から発表された内容は大きく3点です。

1.就労証明書の様式統一

現在の標準的様式の簡易版を基本として全国の市町村で統一し、市町村が独自に項目を追加する場合は、どの市町村が項目追加しているか見える化を図るとしています。

2.手続きの電子化と企業による直接提出

就労証明書の様式が統一されれば、企業は既に持っている人事情報をベースにして自動的に様式へ入力することが可能という認識のもと、企業から市町村に対し、マイナポータルを利用して直接提出できるようシステム構築を行うとしています。

3.制度改正の実施時期

上記1.2.は、法令上の必要な措置を講じ、2024年4月入所申請分(2023年10月ごろ)から実施する予定としています。

就労証明書に関する今後の期待

上記発表により、企業の業務はどのように変わるでしょうか。期待できるポイントをまとめました。

1.様式統一による業務効率化

これまで見てきた通り、企業に負担が発生する大きな要因として、市町村ごとに就労証明書の様式が異なる点があります。

現在の標準的様式の簡易版を基本として全国の市町村で様式統一がなされれば、市町村ごとに個別対応する必要はなくなり、業務の大幅な効率化が期待できるでしょう。

2.手続きの電子化によりシステム処理が可能に

就労証明書の様式統一の結果、どのような設問となるか次第ですが、企業の人事システムを利用して手作業なく出力することも期待できます。

また、様式は紙であることが多いため企業では手書きで作成する必要がありましたが、電子化が実現すれば、ペーパーレス化の推進による業務効率化やコスト削減を期待できます。

就労証明書に関する今後の懸念点、注視するポイント

一方で、発表内容についての懸念点、注視すべきポイントもあります。

1.様式統一に対する実現のハードル

就労証明書は、市町村が実施主体である保育事業に必要な書類であるため、地方自治体が裁量を持って事業を行う「自治事務」とされています。

つまり、政府は就労証明書の統一様式を規定しても、市町村に対してその利用を強制することはできません。市町村は必ずしも統一様式を利用する必要はなく、地域の保育ニーズ等に合わせた独自様式を策定・利用することができます。

今回の大臣発表において、独自の追加項目を設定した市町村の「見える化を図る」とされていますが、果たして、自治事務という法的なハードルを超えて様式の全国統一が可能かどうかは重要なポイントです。

2.企業による直接提出への懸念

これまで、就労証明書は従業員→企業→従業員→市町村というフローで作成・提出されてきました。

今回の発表では、マイナポータルを活用して、企業から直接市町村へ提出するフローも選択肢に加わるようですが、注視するポイントとしては以下の事項が考えられます。
なお、就労証明書以外の入園申請書類は引き続き従業員から市町村へ提出することになります。
 

  1. 受付番号を用いた手続きにより、企業の業務が煩雑化するのではないか
  2. マイナポータルを活用した電子提出のしくみはどのようになるのか、企業の人事システムではどのような対応が必要となるのか
  3. 夫婦共働きの場合、それぞれの勤務先企業から別々に就労証明書が提出され、市町村において、いわゆる名寄せ(突合処理)作業の負担が発生するのではないか

3.2023年秋までという短期間で制度改正が可能か

今回発表された制度改正は、2024年4月入所分から実施されます。改正に向けて法令上の必要な措置を講じるとされていますが、受付開始となる2023年秋までの短期間で実現が可能なのか非常に気になるポイントです。

なお、内閣官房には、子育て家庭や子育て関連事業者、地方自治体等の手続き・事務負担の軽減を検討していくため、小倉將信こども政策担当大臣をチームリーダーとする「こども政策DX推進チーム」が設置されています。この場で、就労証明書の様式についても議論が進められる見込みです。

就労証明書に関する企業の負担軽減へ向けて

今回の関係3大臣から発表された「様式統一」「手続きの電子化」は、就労証明書作成にかかっていた企業の業務負荷の軽減に向けて、大きな期待ができます。

一方で、今まで見てきた通り、いくつかの懸念等があることも事実です。企業人事部では、これらの制度改正により、業務フローの組み立てや従業員への案内を変更しなければなりません。

2023年秋からの実施に向けて政府でどのような議論が行われるのか、企業の業務効率向上に寄与する制度となるのか、今後注目していく必要があるでしょう。

本サイトは、快適にご覧いただくためCookieを使用しています。閲覧を続ける場合、Cookie使用に同意したものとします。 Cookieポリシーを表示