ここ5年で、多くのタレントマネジメントシステム/ツールが提供されるようになりました。
大手ベンダーが提供する多機能なシステムから、スタートアップ企業が提供する一部の業務領域に特化した、無料からも試すことができるようなサービス/ツールにいたるまで、市場には様々なタレントマネジメントシステム/ツールが存在します。比較サイトでランキングがついていることもありますが、その中で、自社に最も合うタレントマネジメントシステム/ツールはどれか、どのような機能を持つシステムを選ぶべきなのか、という判断は容易ではありません。
“タレントマネジメントシステム/ツールを検討するにあたって、本当に必要な機能は何なのか、その判断はどのように行えばよいか。正しいシステム選定とはどのようにすればよいのか。”
このような疑問に答えるため、そもそもタレントマネジメントとは何なのか、を定義した後で、タレントマネジメントシステム/ツールとして提供される代表的な機能群をご紹介します。その後、なぜタレントマネジメントシステム/ツールの選定が困難なのか、どのようにして必要な機能を判別すればよいのかについて解説します。
目次
ータレントマネジメントシステム/ツールには手軽さと柔軟性の両方あることが望ましい
タレントマネジメントシステム機能の代表例
タレントマネジメントとは一般的に、従業員が持つスキルや才能、経験値等の情報を一元管理・活用することによって、組織をまたいで戦略的な人材配置/開発を行うことを指します。
その実現のために、タレントマネジメントシステム/ツールでは、一般的に以下のような標準機能が提供されています。
プロファイル管理 | 従業員の人事情報を登録・閲覧するための台帳機能です。 |
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プロファイル検索 | プロファイルに対して条件検索やフリーワード検索を行う機能です。 |
レポート・分析 | 人事データを集計しグラフ化したり、顔写真を並べたりすることで、社内の人事情報を直感的に把握できる機能です。 |
面談管理 | 上司面談や異動時の面談、退職時の面談など、日々の面談を記録する機能です。 |
アンケート | 従業員本人から、職場環境や労働環境等に対する意見を収集するための機能です。 |
外部データ取込 | 外部システムからデータを取り込むための機能です。人事システムや給与システムなどの他、売上管理システムから個人別の売上をインポートしたり、工数管理システムから業務工数を取り込んだりするケースがあります。 |
育成管理 | 部下の育成計画を立てるための機能です。必要に応じて適切な研修を割り当てます。 |
キャリア管理 | 3-5年の中長期のキャリアプランを従業員が記入し、計画通りにスキルアップができているかの進捗を図ります。 |
研修実施(E-learning) | 従業員が各自のパソコンの画面上から研修を受けることができる機能です。研修動画の聴講の他に、webテストの受験などを行うケースがあります。 |
スキル・コンピテンシー管理 | 個人が保有するスキルを最大限定量化し、足りないスキル・伸ばすべきスキルをひと目で把握できる機能です。 |
資格管理 | 保有している資格を管理します。公的資格のみならず、社内資格の認定や期限管理などに活用することができます。 |
ポジション管理 | 社内の重要なポジションを管理し、その関係性やレポートラインを可視化します。 |
後継者管理 | 重要なポジションに対して後継者候補を割り当て、後継者不足を回避するとともに、後継者候補の育成を促進します。 |
昇格管理 | 昇格候補の抽出から、各種審査・推薦などの業務を支援します。 |
異動案作成 | 従業員の新しい配置先を検討します。 |
異動案チェック | 異動案を人事規定と照合し、妥当であるかを自動でチェックします。 |
玉突き異動登録 | 玉突き形式で後任者を登録する機能です。 |
人材プール | プロジェクトへのアサイン候補者など、任意の人材グループを作成・管理する機能です。 |
人材比較 | 顔写真や評価、所属、滞留年数などの任意の項目を並べて表示できる機能です。複数の従業員を比較・検討したい場合などの人材配置業務を支援します。 |
セキュリティ | 個人情報は厳格に扱われる必要があるため、非常に強固なセキュリティ機能が望まれます。 |
各種マスタ管理 | 学歴・資格・組織などは、マスタ管理を行うことで表記の揺れを防ぎ、検索性を高めることができます。 |
複数会社管理 | グループ会社を一元管理するために必要な機能です。 |
多通貨管理 | 複数国の報酬を横断的に閲覧できるように、複数の通貨に対応します。 |
多言語対応 | 英語・中国語等の言語に対応します。海外や非日本語話者の従業員の利用を促します。 |
複数国管理 | 異なる国の異なる役職体系に対応できる複数人事制度管理機能です。 |
タレントマネジメントシステム/ツールの比較的代表的な機能を挙げましたが、すべての機能が必須となるわけではありません。
むしろ、自社のタレントマネジメントにおいて機能を活用しきれずに「宝の持ち腐れ」となってしまうことが多くあります。適切に自社のタレントマネジメントを支援できるシステムを選定するには、どのような機能が必要で、どのような機能が不要なのかを正しく理解することが大切です。
タレントマネジメントシステムの検討に必要な考え方
タレントマネジメントシステム/ツールの比較検討にあたり、本当に必要な機能を選別するのは困難を極めます。
なぜなら、変化に富む「タレントマネジメント」は、実はシステム化に向かない業務だからです。
システム化に向く業務といえば、「定型化」された業務です。
たとえば、給与計算や経費精算等の比較的決まり切った業務は、システムが自動化することで大きな効果を得ることができます。
一方で、タレントマネジメントは「定型化」が難しい業務です。最初こそテンプレートで分析を行っていくことが多いものの、各従業員に対してどのような分析を行うのかはケースバイケースであり、トライアンドエラーを重ねていくことが重要とされます。さらには、人材配置・人材開発の手法は、既存のやり方では何らかの問題があると認識されるたびに検討・修正を加えていくため、仕様変更が多発します。
それでは「タレントマネジメントの実施」にあたり、そもそもシステム化は不要なのかというと、そうでもありません。
タレントマネジメントシステム/ツールを比較検討するには、通常の他のシステムと同様に、タレントマネジメントの実施目的を明確化すること。そのうえで、システム導入による効果が発揮できそうな業務領域を見極めること。そして、対象となる業務の効率化に寄与する機能が搭載され、導入後に仕様変更が発生した場合にも柔軟に対応できるタレントマネジメントシステム/ツールを比較・選定することが重要です。
タレントマネジメントに必要な機能を実施目的から考える
適切な「タレントマネジメントの実施」を行うためには、まずその目的を明確に考える必要があるということは、先述したとおりです。そのうえで、タレントマネジメントシステム/ツールの導入目的は、大きく以下の4パターンに分類することができます。
目的1.人の見える化を実現したい(人事情報可視化)
最も多いのは、次のような課題を抱えているため、タレントマネジメントシステム/ツールを導入したいというケースではないでしょうか。
- 「社内にどんな社員がいるのか分からない」
- 「新しく部下になった社員の経歴が分からない」
- 「社員数が多いために、社員の顔と名前が一致しない」
このような課題を解決したい場合、タレントマネジメントシステム/ツールの導入目的は「人の見える化の実現」になります。タレントマネジメントシステム/ツールの利用により、次のような効果が期待できます。
- ・経営者が社内の従業員の状況を俯瞰的・多面的に把握できるようになる
- ・「こんな社員はいないかな」と思ったときに、瞬時に検索ができる
- ・従業員一人ひとりの詳細な経歴をいつでも参照できる
この頃、『「あいつは仕事ができる」「そろそろ新しい仕事をさせてみよう」といった抽象的な発言に代表されるような、勘や経験に頼った人事から一歩進んで、客観的な事実やデータに基づく意思決定を行いたい』という人事部の声を頻繁に聞くようになりました。人事データの収集と可視化は、その第一ステップとなります。
人事台帳を管理するためのプロファイル機能や検索機能に加えて、面談管理やアンケート機能等があれば、氏名・所属等の基礎的な情報にとどまらない人事データベースを構築できるようになるでしょう。
目的2.従業員のスキルアップを促進したい(人材開発)
人の情報の可視化に加えて、従業員のスキルアップを支援し、測定するためのタレントマネジメントシステム/ツールを比較検討するというケースも多いかと思います。
- 「キャリアを体系化して、社員が目指すべき進路を示したい」
- 「社内で得られるキャリアを可視化し、どのようなチャンスが社内にあるのかを社員にシェアしたい」
- 「新しい資格・技術・スキルを身につけるように社員を動機づけたい」
こうした要望がある場合、タレントマネジメントシステム/ツールの選定にあたっては、人材開発に関する機能が備えられているかを中心に確認・比較検討した方がよいでしょう。
目的3 .後継者管理を実施・効率化したい
後継者管理は、近年の人事管理における大きなトレンドであり、グローバルに展開する大企業を中心に取り入れられています。
後継者管理を実施するメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
- ・後継者不足となるリスクを可視化する
- ・将来的に重要ポストに就けるような人材を計画的に育成する
今は後継者管理を行っていない企業であっても、今後実施する可能性があったり、後継者不足のリスクが懸念されたりするのであれば、検討対象として重視しておいた方がよい機能といえます。
目的4 .異動業務を効率化したい(人員配置)
最適な人員配置を考えるにあたっては、どの企業も丹念に人材情報を収集し、検討に検討を重ねた上で異動を実行する必要があります。しかし、慎重になればなるほど、異動業務は煩雑になり、担当者にとっては非常に工数のかかる業務になるというデメリットもあります。そのため、異動業務を効率化したい、というニーズは非常に多いです。
しかし、社内の配置転換や兼務・出向等は日本企業に特有の業務です。そのため、たとえシェアやランキングの高いシステムであっても、海外製のタレントマネジメントシステム/ツールでは、異動業務を想定して開発された機能が標準搭載されていないというデメリットがあることも比較的多くあるため、注意が必要です。
タレントマネジメントシステム/ツールには手軽さと柔軟性の両方あることが望ましい
ここまで目的別に必要となるタレントマネジメントシステム/ツールの機能を例示してきました。どのような目的でタレントマネジメントシステム/ツールを導入するかに関わらず、検索・分析の対象となる「社員プロファイル」で、常に最新の情報を一元管理できることが何よりも重要です。どのような業務を行うにしても、情報が最新でないのであれば、活用を見込むことはできません。また、情報に不足がある場合も同様です。
基礎的な人事情報にとどまらず、勤怠や報酬情報、人事考課情報や面談履歴等も合わせて複合的に確認しながら異動案や研修予定を立案することで、配置・育成の精度を高めることができます。したがって、タレントマネジメントシステム/ツールにおいては、十分な項目数を保持できるか、データ連携におけるリアルタイム性が保持できるかが、重要な論点であるといえます。
また、企業を構成する従業員の変化や、企業を取り巻く外部環境の変動によって、タレントマネジメントシステム/ツールに求められる機能は変わっていきます。そこで試行錯誤するうえでは、手軽さと柔軟性の両方を兼ね備えたシステムであることが望ましいでしょう。
単に市場でのシェアが高かったり、比較サイトでランキングの高いシステムを安易に導入するのではなく、
・目的に応じた機能の選別を行う
・手軽かつ柔軟な分析/仕様設計が可能かどうか
この2点に注意することが、タレントマネジメントシステム/ツールの選定にあたっては最重要事項といえそうです。
ぜひ、これらの観点を持って比較検討されてみてはいかがでしょうか。