2023年3月期決算より、有価証券報告書を発行する約4,000の大手企業を対象に、「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの人的資本情報の開示が義務付けられました。
人的資本開示は単なる成果指標ではなく、企業価値を社内外に発信する一つの手段です。
自社の魅力や成長ストーリーを効果的に発信できるよう、本記事では、男性育休取得状況の開示の実態を踏まえつつ、次年度以降の開示に向けたポイントについてご紹介します。
「男性育児休業取得率」の開示意義
人的資本開示とは
企業価値の構成要素が有形資産から無形資産に移行しつつある中、人材の価値を最大限まで高めることで中長期的な企業価値の向上を目指す「人的資本経営」が推進されています。
その中で義務化が始まった「人的資本開示」は、企業の人的資本経営に関する見解や取り組みを社内外のステークホルダーに開示するものです。
「人的資本」をどれくらい重視し活用しているのか、その企業の姿勢が反映されています。
情報の受け手である投資家・従業員・求職者といったステークホルダーにとって、人的資本開示は「資金や自分の人生の一部を投資するに値する企業なのか」を判断する材料となるため、自社の魅力や成長ストーリーを効果的に発信することが重要です。
人的資本の具体的な開示項目
2023年3月期決算より、有価証券報告書の中にサステナビリティー(持続可能性)に関する情報を記載する欄が新設され、企業は経営戦略・人材戦略と連動した「人材育成方針」や働きやすい職場づくりに関する「社内環境整備方針」の策定が求められるようになりました。
この2つの項目に関する具体的な目標値や評価指標は、現在企業の裁量に委ねられています。
その中で、人材の多様性を測る「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金格差」の3つの項目に関しては、有価証券報告書への記載が「義務」となり、企業同士の取り組みが比較しやすい状況になっています。
男性育児休業取得率を開示することによる期待効果
開示が義務付けられた3つの項目はいずれも人材の多様性を示す重要指標ですが、本記事で紹介する「男性育児休業取得率」は、男性の育児参加に関する企業の理解や育児休業を取得しやすい雇用環境が整備されているかを窺い知ることができる項目です。
また、男性の育児参加が女性活躍を推進する側面もあり、組織力向上における要の施策とも言えるため、企業の多様性推進に関する企業姿勢が現れる指標でもあります。
様々な意味を持つ「男性育児休業取得率」ですが、男性育休に関する取り組みの開示による具体的な期待効果を筆者なりに考察し、下記にまとめました。
- 企業が従業員に対して、従業員自身やその家族のために休みやすい環境を提供できていることを示すことで、人材が集まりやすくなる
- 従業員のエンゲージメントが向上し、出産・育児というライフイベントを経ても定着し続けるため、企業内に業務ノウハウや自社ならではのスキルが蓄積される
- 従業員が育児のための休みをとれる背景として、システム導入や仕組化等の業務効率化が行われていることや、周囲のフォローがある等、就業環境を整備しているというアピールに繋がる
また、上記以外にも長期的な視点から、
人口減少社会における少子化対策の一端を担うことで、日本社会のサステナビリティを維持し、結果として将来の従業員や顧客となりうる人を生み出すことで企業自身のサステナビリティに繋がる
という効果も挙げられます。
男性育休に関する開示の実態
「男性育休」の開示実態を日経225採用企業の有価証券報告書から分析
個社個別の背景があるため「男性の育児休業取得がどれくらい推進されているか」を数値と併せてストーリーを発信していくことが重要です。
しかし、企業同士の取り組みが比較できる状況の中で、いかに自社の魅力を数値として発信していくか、男性育児休業取得の開示に苦労された企業も多かったのではないでしょうか。
そこで、「男性育休」に関する情報開示の実態を把握すべく、日経225採用企業183社の2023年3月期決算の有価証券報告書について、弊社で分析を行いました※。
開示が義務付けられている「男性育児休業取得率」のほかに、自社の考えや取り組みがより伝わるよう、独自で男性育休に対する取り組みを開示している企業もありました。
そのため、男性育休に関する開示の実態を下記2つの観点から解説します。
- 義務記載である公表前会計年度における取得率の開示
- 男性育休に関する独自開示の取り組み
※EDINET上に公開された有価証券報告書のうち【従業員の状況】【サステナビリティに関する考え方及び取組】を2023年7月~8月の期間で調査。男性育休取得率については「提出会社」の記載がある場合は提出会社のデータを、記載がない場合は「本社」「当社」もしくは「記載されているグループ各社のうち1行目の法人」に記載されているデータを用いた。また、ホールディングス本体が提出会社であるが人数が少なく提出対象外の場合は「記載されているグループ各社のうち1行目の法人」のデータを用いた。
義務記載である公表前会計年度における取得率の開示
「男性育児休業取得率」3種類の計算方法
法令等で決められた開示フォーマットはありませんが、ほとんどの企業が男性従業員の育児休業等の取得率を開示し、計算方法となる法令に関する注記を付けています。
この注記を調査すると、若干文言は異なっていますが、以下の3種類に大別されます。
- 育児介護休業法71条の4 第1号における育児休業等の取得率
- 育児介護休業法第71条の4 第2号における育児休業等および育児目的休暇の取得率
- 女性活躍推進法の規定に基づく育児休業等の取得率
つまり、男性育児休業取得率の計算方法は、育児介護休業法を元にした2種類と女性活躍推進法を元にした1種類の計3種類があります。各企業はこれら3種類から一つ、または複数種類を用いて計算した数値を開示しています。
これら3種類の具体的な計算方法は下記の通りです。
・育児介護休業法に基づく計算方法
1.育児休業等を取得した男性従業員の割合
公表前事業年度中に育児休業等(※1)を取得した男性労働者の数
÷ 配偶者が事業年度内に出産した男性労働者の数
2.育児休業または育児目的休暇を取得した男性従業員の割合
(公表前事業年度中に育児休業等 + 育児目的休暇(※2)を取得した男性労働者の数)
÷ 配偶者が事業年度内に出産した男性労働者の数
※1)育児介護休業法に定められている休業のほか、企業が独自に設ける「子が1歳(育児介護休業法による休業を延長した場合には1歳6か月)から3歳までの休業」を含みます。
※2)育児目的休暇は育児介護休業法により設置が努力義務(厚生労働省資料)とされている、企業が規定に定める休暇を指します。例としては「配偶者出産休暇」や「子の行事に参加するための休暇」等があり、有給か無給かは各企業の規定によります。
引用:「育児休業取得状況の公表の義務化」,厚生労働省ホームページ,令和5年(2023年)4月1日施行内容,
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001122221.pdf
・女性活躍推進法に基づく計算方法
男性労働者のうち育児休業を取得した数 ÷ 男性労働者のうち配偶者が出産した数
計算方式は1と同様ですが、女性活躍推進法に基づき公表する際には「雇用区分ごと」で示すことになっているため、計算するにあたり、より詳細な集計が必要になります。
注)男性育休の取得に関しては従業員個別の事情に左右され、必ずしも配偶者の出産と男性育休取得が同じ事業年度内とならないことも考えられるため、いずれの計算方法でも取得率が100%を超えることがあります。
注2)いずれの計算方法においても、同一従業員が当該会計年度中に育児休業を分割取得した場合や、育児休業等と育児目的休暇を併用した場合は「1人」と数えます。
参考:厚生労働省,「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」,2022年, https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000984248.pdf
どの計算式もおおむね似ていますが、どの方式で計算してステークホルダーに開示するかによって、どこまで細かくデータを管理するかが異なります。また、これによってステークホルダーに開示できる範囲も変動します。
今回調査した日経225採用企業のうちの183社において、各社がどの計算方法で算出した数値を開示しているかを調査したところ、「1.育児休業等を取得した男性従業員の割合」が53.0%、「2.育児休業等または育児目的休暇を取得した男性従業員の割合」が38.3%という結果でした。
※下記グラフ内では「1.育児休業等を取得した男性従業員の割合」を「育児介護休業法 休業のみ」、「2.育児休業等または育児目的休暇を取得した男性従業員の割合」を「育児介護休業法 休業+休暇」としています。
(調査結果からWHIが作成。【従業員の状況】ではいずれか1つで記載していても、【サステナビリティに関する考え方及び取組】で他の計算方法でのデータが記載がされていれば複数と数えた)
調査結果の考察
「育児介護休業法 休業のみ」が半数以上となった理由として、2023年は人的資本開示の初年度であり、これまで蓄積されたデータを短期間で集計するため、社会保険給付の届出から辿ることができる育児休業を取得した人数を数える方法がやりやすかったのだろうと推察します。
一方で、「育児介護休業法 休業+休暇」の割合が約4割に至った理由としては、育児休業等の取得率は低かったものの育児目的休暇を含めると実質的に休めているとして、こちらの方式を採択したのではないかと考えられます。
育児目的休暇の無給・有給は各企業によって異なりますが、今回の分析から、「配偶者出産休暇」「男性産後休暇」等の名称で有給の育児目的休暇制度を定めている企業が数多くあることがわかりました。
これらの育児目的休暇は1日から5日程度の制度ですが、社会保険から月給の約7割が給付される育児休業よりも100%の給与が企業から支給される方が従業員にとってメリットがあることから、数日間の取得なのであれば育児休業ではなく育児目的休暇を取得するケースも多いことが推察されます。
このため「実態として育児休業と同じように休めている」として取得者を数えるのでしょう。
どの計算方法もおおむね似ていますが、どの方法で計算してステークホルダーに開示するかによって、どこまで細かくデータを管理するかが異なりますし、ステークホルダーに与える印象も異なります。
繰り返しになりますが、取得率の数値のみで男性育休に関する企業の考えを判断することはできません。
しかし、たとえば「育児介護休業法 休業のみ」で開示するのであれば、育児休業が想定する「1日から数か月程度の休業」を取得させ、できれば長めに育児参加を促そうとしている印象を、ステークホルダーへ与えられるでしょう。
また、「育児介護休業法 休業+休暇」で開示するのであれば、企業独自の育児目的休暇はほとんどの場合が「2日から5日程度」ですが、少ない日数でもよいので取得者を増やし、育休取得の文化形成へ取り組んでいる姿勢をステークホルダーへ印象付けられます。
「女性活躍推進法」に基づいて開示する場合は、「正規・非正規」「総合職・一般職」等の雇用区分ごとの開示になるため、ステークホルダーの中でも特に求職者に対して就職/転職の判断基準を示せます。
企業姿勢を最も反映できる計算方法は何か、各計算方法の特性等を見極めつつ選択することが重要です。
男性育休に関する独自開示の取り組み
今回分析した範囲では、企業が独自に開示している項目として主に以下の3点が挙げられます。
- 平均取得日数または取得日数(期間)の分布
- 取得率や平均取得日数の経年変化
- 目標・原因分析・対策
1.平均取得日数または取得日数(期間)の分布
平均取得日数または取得日数(期間)の分布の実態がわかるデータを開示している企業は183社中7社(3.8%)でした。
調査結果の考察
開示が義務化されている取得率のみでなく、実際の取得期間がわかると、従業員の親としての一面や従業員の家族を支えるための企業活動の達成度を示すことができ、それが冒頭の男性育休に関する開示の意義に繋がります。
(Works Human Intelligence作成:取得期間の分布グラフのイメージ図)
2.取得率や平均取得日数の経年変化
男性育休の取得率や平均取得日数について、昨年度との比較や昨年度以前を含んだ経年変化を記載している企業は183社中21社(11.5%)でした。
記載形式は各年度の数値を示した表がほとんどであり、なかには「2019年度△%から2022年度〇%へと拡大」と文中に記載されているものもありました。
調査結果の考察
2023年は開示初年度ということもあり、昨年度以前に今年度と同列に比較できるデータが存在しない企業や、時間的に集計できなかった企業もあるかと思われます。
次年度以降は、取得率の変遷や平均取得日数の増加を掲載することで、企業として労働環境の改善が実行できていることを内外に示せます。
3.目標・原因分析・対策
男性育休について、なんらかの目標値を設定している企業は183社中67社(36.6%)でした。
また、目標の記載方法については次のようなものがありました。
- ・「2025年:70%」「2030年:100%」のような将来の単年度目標
- ・「2021年度からの5年間の累計において50%以上」と複数年で集計する目標
- ・「2025年度までに男性育児休業取得率を2018年度の2倍以上」と現在進行中の経営計画と連動した目標
- ・「100%に近い水準の継続」「2030年まで毎年100%を維持」のようにすでに取得率が100%に近い場合の現状維持目標
しかし、公表前年度の取得率に関する原因分析を行っている企業や、現状と将来の目標とのギャップ解消に向けた対策について言及している企業はありませんでした※。
※現状の施策を記載している企業は複数社あり
調査結果の考察
2022年、2023年と男性育休に関する法改正があり、各企業が環境整備や文化形成や事例づくりを進めている中においては、現状の施策を進めながら取得実態の伸びを観察し、必要ならば改善を図ろうと考えているようです。
人的資本開示において投資家は、今後成長できる企業かといった点を重要視します。
今年はまだ開示初年度ということや前述の法改正に伴った改善の初期段階であることから記載されていませんでしたが、今後は
- ・いつまでにどうなりたいのか(目標)
- ・なぜ現状で目標に達していないのか(原因分析)
- ・目標達成に向けて今後どのように対応するのか(対策)
これらを記載することで、社内外のステークホルダーから期待される企業となれるでしょう。
男性育休の開示において必要な4つの要素
前章では、2023年度3月期における183社の開示実態を説明しました。
さて、ここで人的資本開示の原点に立ち返ると、人的資本開示とは「経営戦略を実現するための実行力を評価することによって、現在から将来にわたる企業価値評価を明らかにすること」です。
つまり、投資家等のステークホルダーへの開示には、現状だけでなく将来への成長・発展への期待が見て取れる「ストーリー性」が求められます。
この「ストーリー性」を男性育休に関する開示において考えてみるとどのようになるでしょうか。
本章では、前章で解説した2023年3月期の開示内容を踏まえ、次年度以降の開示において重要な4つの要素を考察します。
1.男性育休取得率の計算は「育児休業等」と「育児休業等+育児目的休暇」を併記する
「男性育休に関する開示の実態」の章で紹介した計算方式1,2を併記することで、育児休業等をどの程度取得できているかといった実態がより詳細に伝えられるようになります。
現在では、育児休業の取得といっても数日〜1週間が約4割と言われており、これでは育児目的休暇を利用しているのとあまり変わりません。
また、株式会社クリエイティブバンクが実施した「男性の育休取得とITツール」に関するアンケート調査によると、男性が希望する育児休業の期間は「1か月〜3か月未満」という回答が最も多いという結果でした。
筆者も子育て世代ですが、新生児を家庭に迎えてからの睡眠不足も原因の一つとされている「産後うつ」の防止や、出産後回復に1ヶ月以上はかかるとされる産褥期の配偶者のケアを含めた家庭維持の観点から「1か月~3か月未満」は必要だと感じます。
※転載:『デジタル化の窓口』(運営元:株式会社クリエイティブバンク),「男性の育休取得とITツール」に関するアンケート調査,https://digi-mado.jp/article/42335/
男性の従業員がどの程度育児に参画しているかを考える際に、1か月以上の「育児休業等の取得」と数日程度の「育児目的休暇の取得」では取得日数に大きな差が生まれやすくなります。
そこで「育児休業等の取得率」が高い企業が「育児休業等または育児目的休暇の取得率」も併記すると、育児休業等の取得促進が進んでいることが明確にわかります。
さらに、次に紹介する「平均取得日数」や「取得期間の分布」でよいデータを記載することで、育児と配偶者のケアのために休める企業であることの大きなアピールに繋がります。
2.平均取得日数/取得日数の分布を示すグラフの掲載
平均取得日数、あるいは取得期間の分布がわかるグラフを明示することで、取得率だけでは不明瞭な「実際にどのくらい育児に参加しようとしたのか」を示せます。
言い換えると、これらのデータは業務運営や企業文化において、その企業が「男性の育児参加がどの程度可能な組織であるか」を表しており、人的資本開示の主旨に沿って、当該企業の事業実行力の一部を開示できているといえます。
(Works Human Intelligence作成:平均取得日数の分布グラフのイメージ図)
3.経年変化がわかるグラフの掲載
経年変化を示すグラフによって、取得率の変遷や平均取得日数の増加を掲載できると、企業として労働環境の改善が実行できていることを社内外に示せます。
2023年は開示元年であったため当該年度のみの記載となりますが、次年度以降は、取得率が増加していることを示すグラフや、おおむね100%に近い状態を維持できていることを示す折れ線グラフがあるとよいでしょう。
(Works Human Intelligence作成:取得率と平均取得日数の増減を示したグラフのイメージ図)
4.取得率計算の元である従業員数の記載
男性育休取得率は当該年度内の「取得した男性の人数÷配偶者が出産した男性の人数」を計算します。そのため、「昨年度は5人中5人の取得で100%だったが、今年は20人中16人の取得で75%に下がった」といったことが起こる可能性があります。
従業員の都合により、
- ・親世代と同居しているので当年度中には休業/休暇を取得しなかった
- ・業務調整等により取得開始が遅くなり当年度中には取得しなかった
- ・里帰り出産した配偶者が帰ってきてから取得予定のため当年度中は取得しなかった
といったことが発生するためです。
個々の従業員の事情を開示する必要はありませんが、このような性質を知らないステークホルダーもいます。
人数による変化がわかるように下図のようなグラフの作成や、おおよそ希望者のすべてが取得できているのであれば「期中に本人の都合により取得しない従業員もおりますが、実態として1歳を迎えるまでにほぼすべての従業員が休業・休暇を取得しております」といった注記文を付けるとよいでしょう。
(Works Human Intelligence作成:取得率の経年推移及び、取得率計算の内訳となる公表前年度における男性育休取得者と配偶者が出産した男性の人数を示すグラフのイメージ図)
次年度以降の開示に向けた準備を
前章までの内容を踏まえ、次年度以降の開示に向けた準備のポイントを紹介します。
まずはデータを保存できるようにすること
前述の通り、現在は1週間程度の取得が多く、育児休業等と育児目的休暇での取得日数の差があまり見られない状況です。
しかし、ここ数年の育児介護休業法の改正や昨今の風潮から、男性育休の取得期間が延びていくことは確実であり、いずれ差がつくことでしょう。
育児休業等と育児目的休暇のそれぞれで取得率や取得日数を数えられるしくみが必要です。
収集したデータから自社の課題や目標を設定する
現状として育休取得率が低い企業は、目標設定と改善案を記載することから始めましょう。
今回の開示でも目標値に関しては「2025年度で取得率30%」という企業もあり、現状とかけ離れた数値や100%を目指す必要はありません。
対策と合わせて、現実的な目標を立てて改善を進めることが非常に重要です。
改善案に関しては、今回の開示において、文化の醸成方法のほかに「〇日以上の取得を義務化」といった制度を定める企業もありました。同業他社や同規模の異業種企業の開示結果と比較することで、自社にも取り入れられるものを発見できる可能性があります。
現在すでに育休取得率が高い企業は、より開示内容を充実させることで差別化を図れます。その際には上記に記載した内容を参考にしていただければ幸いです。平均取得日数の目標設定をしてその達成度合いを測るのもよい方法です。
また、有価証券報告書に男性育休施策を記載している企業が複数見受けられました。簡易的な記載を行うか、あるいは施策や風土を案内しているウェブページへのリンクを貼る等小さな工夫があるとよいでしょう。
ステークホルダーに将来性を感じさせるストーリーを開示する
2023年は人的資本開示元年であったため、大半の企業が当年度のみの数値を開示していましたが、2024年以降は「成長し続ける企業」として前年度との比較や経年変化を記載する必要があると考えます。
人的資本開示の元には人的資本経営があることを踏まえ、中期経営計画や統合報告書で公開している内容との整合性が取れていること、また、数年後の目標に向かっていることが読み取れるようにできるとよいでしょう。