2026年7月、民間企業における障がい者の法定雇用率が2.7%へ引き上げられます。
企業にはこれまで以上に、単なる雇用数の確保にとどまらず、個々の人材が役割を持ち、その価値を最大限に発揮できる環境を整備していくことが求められます。
こうした状況を踏まえ、Works Human Intelligence(以下、WHI)は自社が提供する統合人事システム「COMPANY」を利用する大手企業約20社を集め、障がい者雇用に関する情報交換会を実施しました。
約20社の人事実務担当者による議論から見えてきたのは、採用から定着、マネジメントに至るまでの課題が、共通するひとつの前提のもとにあるということです。
その前提とは、障がい者雇用における「業務の切り出し」を主軸とした雇用モデルです。既存業務の一部を切り出して任せる方法はこれまで広く採用されてきましたが、業務のデジタル化や自動化の進展により、根底が揺らぎつつあります。 その結果企業には、「どの業務を任せるか」ではなく、「どのような役割を設計するか」という視点が求められるようになっています。
本稿では、こうした変化を踏まえ、制度改正の概要と実務対応のポイントを全3編にわたり整理します。前編では法定雇用率の引き上げや関連制度改正の要点を解説し、中編・後編では情報交換会での議論をもとに、2026年以降に企業が直面する課題と具体的な対応策について掘り下げます。
1分サマリ
・2026年7月の法定雇用率引き上げにより、民間企業では総従業員数の2.7%の障がい者雇用が義務付けられ、対象企業も従業員37.5人以上に拡大します。
・2024年4月から障がいのある従業員への合理的配慮が義務化され、物理的環境や業務慣行の整備など、平等に働ける職場づくりが求められます。
・除外率の引き下げや、短時間勤務者・精神障がい者の算定方法の見直しにより、個々の状況に応じた柔軟な働き方の実現が後押しされます。
・助成金・報奨金制度の見直しや、未達成企業への対応など、関連する各制度も改正されます。
・単に雇用人数を達成するだけでなく、すべての従業員が安心して働ける職場づくりを進める中で、障がい者雇用をどのように支えていくかは、企業にとって重要な課題となっています。
目次
法定雇用率とは?
はじめに、2026年の法改正を正しく理解するため、制度の基本を整理しましょう。
法定雇用率とは、「障害者雇用促進法」に基づき、企業や国・地方公共団体に対して、障がい者を一定割合以上雇用するよう義務付ける制度です。
対象となる障がい者は、身体障がい者、知的障がい者、精神障がい者で、企業は総従業員数に対して一定割合以上の人数を雇用する必要があります。
身体障害者:身体障害者手帳を所持している人
知的障害者:療育手帳(愛の手帳など)を所持している人、
または児童相談所などで知的障害者と判定された人
精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を所持している人
※参考:厚生労働省「障害者手帳」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html)
2026年4月現在、民間企業では常時40人以上の従業員を雇用する企業が対象です。2026年7月には、法定雇用率引き上げと同時に対象企業も拡大され、従業員数が37.5人以上の企業に適用されます。
法定雇用率の改定と制度変更の流れ
これまで法定雇用率は、労働市場や経済状況に合わせて、おおむね5年ごとに見直されてきました。民間企業では、2013年に2.0%、2018年に2.2%、2021年に2.3%へと段階的に改定されています。
2023年の見直しでは、第123回労働政策審議会障害者雇用分科会において、最終的に2.7%までの引き上げが決定しました。ただし、一度に大幅な変動があると企業の負担が大きくなるため、法定雇用率は2024年4月(2.5%)と2026年7月(2.7%)の2回に分けて、段階的に引き上げられています。
さらに、2024年4月からは、企業に対して障がいのある従業員への合理的配慮の提供が義務化されました。合理的配慮とは、障がいを持つ人が障がいを持たない人と平等に社会活動に参加できるよう、それぞれの特性や状況に応じて、物理的環境やルール・慣行を調整することです。
雇用率の引き上げに加え、職場環境の調整や業務上の配慮など、障がい者雇用に関わる対応の幅も広がっています。
押さえておきたい 法定雇用率改正5つのポイント
2026年7月の改定に限らず、法定雇用率の引き上げについては、企業が押さえておくべきポイントが複数あります。本章では、段階的な引き上げと対象企業の拡大、除外率の見直し、働き方の多様化に対応した算定方法、助成金・報奨金制度の見直しという5つの視点から整理します。
1.段階的な引き上げと対象企業の拡大
2026年7月の法定雇用率引き上げと同時に、対象範囲が従業員37.5人以上の企業へと拡大されます。これにより、これまで雇用義務のなかった企業にも対応が求められるようになります。
また、すでに障がい者雇用に取り組んできた企業にとっても、達成すべき水準が引き上げられることで、採用だけでなく定着や業務設計を含めた見直しが必要となります。
2.除外率の引き下げによる障がい者雇用の拡大
法定雇用率の計算には、「除外率」というしくみがあります。これは、障がい者の雇用が一般的に難しいとされる業種において、雇用すべき障がい者の人数を計算する際に、母数となる従業員数を減らせる割合のことです。除外率が高いほど、企業の負担は軽くなります。
しかし2025年4月から、障がい者の雇用機会拡大のため、この除外率が一律10ポイント引き下げられました。これまで除外されていた人数も計算に含まれるようになった結果、義務として雇用すべき障がい者の人数が増える企業が出ています。
<具体例:従業員1,000人の会社(法定雇用率を2.7%とする)>
●除外率10%の場合
雇用義務の計算に含まれる従業員:1000 × 0.9 = 900人
法定雇用率2.7%を適用:900 × 2.7% = 24.3人 → 端数切り捨てで24人
●除外率0%に引き下げられた場合
すべての従業員1,000人が対象
法定雇用率2.7%を適用:1000 × 2.7% = 27人 → 27人
除外率の引き下げで雇用義務人数が24人から27人に増える
つまり、除外率が引き下げられることで、企業はこれまでより多くの障がい者を雇用する必要が出てくることになります。
対象業種と除外率は以下のとおりです(2025年4月以降適用)。

※出典:厚生労働省「除外率制度について」(https://www.mhlw.go.jp/content/001133551.pdf)をもとにWHIで作成
3.働き方の多様化に対応した算定方法の見直し
近年、働き方の多様化が進む中で、障がい者の短時間勤務も増加しています。こうした実態を踏まえ、法定雇用率の算定方法も見直されました。
特定短時間労働者の算定追加(2024年4月~)
これまで、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の短時間勤務をする重度障がい者(身体・知的)および精神障がい者は、雇用義務のカウントに含まれていませんでした。しかし、実際にはこうした短時間勤務の方も多く働いているため、実態が法定雇用率の算定に反映されるよう、 1人につき0.5人として計上できるようになりました。
この改正により、企業が多様な勤務形態を取り入れやすくなることで、障がい者の柔軟な雇用を促進することが期待されています。
精神障がい者の算定特例延長
週20時間以上30時間未満で働く精神障がい者については、従来0.5人とカウントされていたところを1人として算定できる特例措置が、当面の間延長されました。この特例は、精神障がい者の雇用機会を増やすことを目的に2021年から導入されており、短時間で合っても1人として算定できます。
背景には、障がい者の就労機会を広げ、短時間勤務でも安定した雇用環境を確保したいという政策的な狙いがあります。企業にとっても、多様な働き方の支援体制を整えやすくなり、職場の多様性につながります。
4.助成金・調整金制度の見直し
2024年4月の法定雇用率引き上げに合わせ、障がい者雇用を支援する各種制度についても見直しが行われました。
従来、一定数以上の障がい者を雇用する企業に対して支給されていた「障害者雇用調整金」などは、支給額が引き下げられました。また、週10時間以上20時間未満で働く層が新たに雇用率のカウント対象となったことに伴い、それまで支給されていた「特例給付金」は廃止されました。
一方で、職場環境の整備や設備投資を支援する助成制度は拡充されており、障がい者が働きやすい環境を整えるための取り組みに対しては、後押しするしくみが強化されています。
このように、政府による企業の障がい者雇用への支援は、単に雇用人数を増やすことに対するものから、職場環境の整備や定着支援といった「雇用の質」に重点を置いたものへとシフトしています。
5.法定雇用率未達成時の対応と社会的影響
法定雇用率を達成していない場合、企業には法令に基づく報告・納付金など、段階的な対応が求められます。これは単なるコスト負担の問題ではなく、コンプライアンスや企業の持続可能性(ESG)の観点からも重要な論点です。
1.障害者雇用納付金(経済的な調整)
法定雇用率に達していない企業のうち、常時雇用している労働者数が100人を超える企業には、不足人数に応じて「障害者雇用納付金」の支払い義務が生じます。
この制度は、障がい者雇用に伴う職場整備などの観点から、雇用している企業と未達成企業との間の負担を調整するしくみです。
不足1人あたり:月額50,000円
(例:不足2人の場合=年間120万円)
なお、雇用義務の対象(従業員37.5人以上)と納付金の対象(従業員数100人超)は基準となる企業規模が異なるため、雇用義務は発生するが納付金は対象外、というケースもあります。ただし、その場合も後述する行政指導の対象には含まれます。
2.行政による指導と改善プロセス
雇用状況が基準に満たない企業に対しては、ハローワークによる指導が行われます。
具体的には、障害者雇用の実施計画の作成や、2年間の改善計画に基づく進捗管理などを通じて、段階的な改善が求められます。
これは処分というよりも、雇用促進に向けた支援的なプロセスとして位置づけられたものです。
3.企業名の公表とレピュテーションリスク
改善が進まず、正当な理由がないと判断された場合には、最終的な措置として企業名が公表されます。
近年は、ダイバーシティやESGへの関心の高まりを背景に、こうした公表が採用ブランディングや取引関係、投資判断に与える影響は大きくなっています。納付金以上に、企業の社会的評価に影響を及ぼす可能性があるでしょう。
2026年の法定雇用率引き上げは、企業にとって単なる制度変更ではなく、障がい者雇用の進め方そのものを見直すきっかけになります。
前半まとめ|制度への理解にとどまらない、採用後の定着を見据えた現場づくりのために
対象企業の拡大、除外率の引き下げ、算定方法の見直し、合理的配慮の義務化など、対応すべき論点は多岐にわたります。まず必要なのは、自社がどの程度の影響を受けるのかを正確に把握し、採用や受け入れの体制整備を早急に進めることです。
しかし、制度への理解を深めるだけでは不十分で、実際の現場では、採用後の受け入れ体制や業務設計、定着支援といった運用面の整備が欠かせません。
中編では、各種調査データやWHIの情報交換会で見えてきた、企業の現場で実際に生じている課題を整理します。


