雇用保険被保険者証は、従業員が雇用保険に加入していることを証明する重要な書類です。
事業主である企業は制度を正しく理解していないと、手続きの誤りや漏れから信頼を損なうリスクがあります。本記事では、雇用保険被保険者証の概要や様々な手続き、正確かつ効率的に管理する方法を解説します。
雇用保険被保険者証とは
雇用保険被保険者証は、従業員が雇用保険に加入していることを証明する重要な書類です。雇用保険は、失業や育児・介護等で働けない期間に給付金を支給する公的制度であり、厚生労働省が運用しています。
この証明書は雇用保険制度に基づいて発行され、人事業務においては、雇用や離職等の各種手続きで必要となる場面が多く、制度を正しく理解していないと手続きの誤りや漏れに繋がる恐れがあります。
雇用保険被保険者証の概要
雇用保険被保険者証とは、雇用保険制度に加入していることを証明する書類で、従業員本人による保管が原則です。一方で、手続きするうえで企業側(雇用主)が提示を求められる場面も多く、実務としては人事部門が管理や確認を行うケースが一般的です。
この証明書は、たとえば失業や育児休業等で給付を申請する際の本人確認や、雇用保険の資格の有無を確認する場面、また事業主が雇用保険に関する各種手続きを行う際等に使用します。他にも、失業時の基本手当申請や、育児・介護休業を取得する際の給付金の申請等、労働者の生活安定と再就職支援を支える雇用保険の制度運用にとって欠かせない証明書です。
雇用保険の被保険者となる要件
雇用保険に加入するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
ー所定労働時間が週20時間以上であること
ー31日以上の雇用見込みがあること
これらの条件を満たしていれば、正社員に限らず、パートタイマーやアルバイト、契約社員も雇用保険の被保険者となります。
ただし、一部の例外も存在します。たとえば、昼間学生(夜間・定時制・通信制の学生は除く)、日雇い労働者、会社役員等は、原則として雇用保険の対象外です。
また、雇用保険制度は原則としてすべての事業に適用されますが、農林水産業の一部個人事業(常時5人以上の労働者を雇用していない場合)は適用されません。
制度理解は法令遵守の第一歩
雇用保険被保険者証の管理や手続きに関する正確な理解は、企業の法令遵守(コンプライアンス)に直結します。たとえば、被保険者資格の取得・喪失の届け出が遅れたり、誤った番号を使用してしまうと、従業員が失業給付や育児休業給付等を正しく受け取れなくなる恐れがあります。
その結果、企業側には行政指導や罰則が科されるリスクも生じます。特に大手企業においては、複数の拠点・部門にまたがる雇用形態の多様化により、手続きミスのリスクが高まりがちです。だからこそ、正しい制度の理解と、適切な対応の準備が欠かせません。
事業主が行う雇用保険の手続き
企業が従業員を雇用する際には、雇用保険に関わる様々な手続きを適切に行う必要があります。ここでは、よくある状況別に事業主・人事部門が行う手続きをご紹介します。
新たな従業員を雇用したとき
従業員を新たに雇い入れた場合、雇用保険の「資格取得届」をハローワークへ提出し、被保険者としての登録を行う必要があります。新卒入社で雇用保険の加入が初めてである場合は、ハローワークで新たに被保険者番号が付与されます。一方、中途入社者であれば、前職の雇用保険被保険者証を提出してもらい、被保険者番号を引き継ぎます。
従業員が退職したとき
従業員が退職した際には、管轄のハローワークへ「資格喪失届」を提出します。また、失業給付の受給に必要な「離職票」の交付も行います。被保険者証は、離職票の記入や転職先での手続きに必要となるため、本人に返却します。
従業員が異動や転勤をしたとき
異動や転勤により、雇用保険の適用事業所が変更になる場合、転勤先のハローワークに「雇用保険被保険者転勤届」を提出します。手続きのなかで、事業主が保管している雇用保険被保険者証の提出を求められることがあります。
従業員の雇用形態に変更があったとき
短時間労働者(パートタイマー等)が週20時間以上勤務するようになった場合、要件を満たせば新たに雇用保険へ加入します。反対に所定労働時間が減少した場合は、資格喪失することもあります。これらの手続きにおいて、雇用保険被保険者証が必要になることがあります。
従業員が育児休業を開始したとき
従業員が育児休業を取得する際には、「育児休業給付金」の申請が可能です。事業主は本人から申請書類を受け取り、必要情報を記載・添付してハローワークに提出します。申請にあたって、雇用保険被保険者証に記載の被保険者番号を確認する必要があります。
従業員が介護休業を開始したとき
従業員が介護休業を取得する際にも、「介護休業給付金」の申請が可能です。事業主は、申請書に必要情報を記載・添付しハローワークに提出します。この申請についても、雇用保険被保険者証に記載の被保険者番号を確認する必要があります。
従業員が高年齢雇用継続給付を受けようとしたとき
60歳以降も雇用を継続し、賃金が一定割合減少した従業員は「高年齢雇用継続給付」の申請が可能です。この手続きにおいても、事業主が申請書に必要情報を記載し、ハローワークに提出します。他の申請と同様、雇用保険被保険者証に記載の被保険者番号を確認する必要があります。
補足:被保険者に関する手続一覧
届け出を要するとき | 提出数 | 提出期限 | 提出・確認書類 |
---|---|---|---|
労働者を雇用したとき (雇用保険被保険者資格取得届) |
1枚 | 被保険者となった日の属する月の翌月10日まで | 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード)、他の社会保険の資格取得関係書類、雇用期間を確認できる資料(雇用契約書等) |
被保険者が離職、死亡等したとき (雇用保険被保険者資格喪失届) (雇用保険被保険者離職証明書) |
1枚 3枚 1組 |
被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内 | 出勤簿、退職辞令発令書類、労働者名簿、賃金台帳、離職証明書(離職票が不要のときは提出しなくてよい)、離職理由が確認できる書類等 |
同一法人内で転勤をしたとき (雇用保険被保険者転勤届) |
1枚 | 事実のあった日の翌日から10日以内 | 異動辞令書類、賃金台帳、転勤前事業所に交付されている被保険者資格喪失届・氏名変更届 |
高年齢雇用継続給付を受けようとするとき (高年齢雇用継続給付支給申請書) |
1枚 | (初回) 支給対象月の初日から起算して4ヶ月以内 (2回目以降) 安定所から指定された日又は月 |
賃金台帳、出勤簿、(初回のみ)六十歳到達時等賃金証明書、高年齢雇用継続給付受給資格確認票・(初回)高年齢雇用継続給付支給申請書、労働者名簿、被保険者の運転免許証・住民票記載事項証明書等年齢が確認できる書類の写し |
雇用する被保険者が育児休業を開始したとき (休業開始時賃金月額証明書・育児) (育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書) |
3枚 1組 1枚 |
被保険者が初回の支給申請を行う日まで(※) | 賃金台帳、出勤簿、労働者名簿、被保険者の母子健康手帳等育児の事実が確認できる書類の写し |
育児休業給付金を受けようとするとき (育児休業給付金支給申請書) |
1枚 | 安定所から指定された日等 | 賃金台帳、出勤簿 |
雇用する被保険者が介護休業を開始したとき (休業開始時賃金月額証明書・介護) |
3枚 1組 |
被保険者が支給申請を行う日まで(※) | 賃金台帳、出勤簿、労働者名簿 |
介護休業給付金を受けようとするとき (介護休業給付金支給申請書) |
1枚 | 各介護休業の終了日 (介護休業期間が3か月以上にわたるときは介護休業開始日から3か月を経過する日)の翌日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日まで |
介護休業申出書、賃金台帳、出勤簿、対象家族の氏名・本人との続柄・性別・生年月日が確認できる住民票記載事項証明書等の写し |
※事業主を経由して支給申請書を提出する場合には、その支給申請書と同時に(支給申請書の提出時期までに)提出できます。
出典:厚生労働省 被保険者に関する手続一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/tetsuduki_ichiran01.html
雇用保険手続きにおける人事業務の課題と効率化の壁
雇用保険に関する手続きは、法令上必須である一方で、現場の人事部門にとっては大きな業務負荷となっているのが実態です。特に大企業では、組織構造や人員規模の影響により、非効率な運用が慢性化しているケースも少なくありません。
大企業ならではの構造的な業務負荷
従業員数が数千〜数万人におよぶ大企業では、毎月の入社・退職・異動等の手続きが膨大になります。そのたびに必要となる雇用保険の届け出や書類対応は、担当者にとって大きな負荷となり、人的ミスや処理遅延を引き起こすリスクが潜んでいます。ルーチン業務と思われがちですが、法的責任を伴うため慎重かつ正確な対応が求められます。
拠点・部門をまたぐ情報連携の難しさ
事業所や部門が全国に分散している大企業では、現場と本社間で情報の粒度が統一されていなかったり、情報連携に時間がかかったりすることが課題です。「いつ」「誰が」「どの事由で」異動・転勤・退職したかといった基本情報がリアルタイムに共有しきれず、雇用保険の手続きに遅れが生じる、または重複申請・誤申請のトラブルが発生する可能性もあります。
e-Gov申請業務の煩雑さと属人化リスク
行政手続きの電子化が進んでいるとはいえ、e-Govを通じた申請作業は依然として煩雑で、特に初めての担当者にはわかりづらいという声もあります。操作手順や必要書類の確認、自社のシステムとの連携不具合で、申請完了までに想定以上の時間と手間がかかります。
さらに、e-Govの運用は特定の担当者に属人化しやすく、その担当者が休職・退職した場合に、引き継ぎの難しさから業務が滞るリスクも抱えています。電子申請という形式であっても、「人がいなければ処理ができない」状態では、業務の標準化ができているとは言えません。
統合人事システムで人事業務をまとめて効率化
雇用保険に関する手続きのように、法的責任が伴う煩雑な業務は、統合人事システムを導入することで大幅な効率化が図れます。ただし期待した効果を得るためには、電子化するだけでなく、人事業務全体をシームレスにデジタル化できるシステムを選ぶ必要があります。
電子化してデジタル管理するだけでは効果は限定的
紙ベースの管理からExcelやPDFでの管理に移行した企業も多いものの、それだけでは実務の効率化には限界があります。電子化されていても、次のような問題が残り、業務は属人化・非効率なままとなりがちです。
ー個人単位の管理であるため、全社視点での可視化や統制管理ができていない
ー申請・承認・管理が連動して運用できていない
ーe-Govなど外部システムへの転記作業で二重入力が発生している
COMPANY人事管理なら、e-Gov申請をAPI連携で効率化
統合型の人事システム「COMPANY人事管理」では、入社・異動・退職などの情報を一元管理し、データをそのままe-GovとAPI連携できます。人事業務と行政手続きをシームレスに行えることが特長です。
これにより、下記のメリットが得られ、組織全体の人事業務効率が大きく向上します。
ー拠点間・部門間の情報をリアルタイムで統合管理
ー手作業でのe-Govへの情報転記が不要に
ークラウドサービスなので法改正や提出先ルールの変更にも迅速に対応
さらに、操作や運用面でも、人事部門全体での共通理解・標準化を実現できるため、属人化のリスクも軽減できます。
e-GovやマイナポータルとのAPI連携により、COMPANYから直接申請手続きが可能です。
申請だけではなく、再申請を含めた手続き状況の把握から公文書の出力、社会保険労務士による電子申請まで対応。
出典:当社 COMPANY人事管理 標準機能紹介資料(P76)
雇用保険被保険者証に関する手続きQ&A
最後に、人事部門で実際に発生しやすい「雇用保険被保険者証」に関する手続き上の疑問をQ&A形式でまとめました。よろしければ、事業主や人事業務を担当される皆さまの実務の一助としてご活用ください。
Q1:被保険者証を紛失した従業員への対応は?
A: 所轄のハローワークで再交付申請が可能です。事業主/人事担当者が申請を代行できます。
Q2:転職してきた従業員について、以前の被保険者番号を引き継ぐ必要はありますか?
A: 雇用保険の被保険者番号は生涯同一番号で管理されるため、引き継ぐ必要があります。従業員には、前職の被保険者証の提出を依頼してください。
Q3:試用期間中の従業員にも被保険者証は発行されますか?
A: 労働時間などの加入条件を満たしていれば、試用期間中でも被保険者として扱われます。
Q4:パート・アルバイトの被保険者証はどのように管理しますか?
A: 要件を満たす場合、パート・アルバイトも被保険者として扱われます。雇用形態に関係なく、他の正社員同様に一元的な管理が必要です。
Q5:定年再雇用の従業員の被保険者証は再発行が必要ですか?番号は変わりますか?
A: 60歳で定年退職した社員を再雇用しても、社会保険、労働保険の扱いは特に変わりません。ただし、再雇用した社員の賃金が低下する場合は、「高年齢者雇用継続給付(高年齢者雇用継続基本給付金)」の申請が可能です。
Q6:グループ会社間で異動があった場合の取り扱いは?
A: 雇用保険上は事業主単位で扱われます。転籍の場合は「離職」と「再雇用」の手続きが必要です。
Q7:海外転勤する従業員の被保険者証はどう扱いますか?
A:海外転勤の場合、雇用保険の適用対象外となるケースがあります。たとえば、現地法人への転籍や長期の海外出向・派遣といったケースでは、雇用関係の継続性や保険料の支払い実態により適用可否が変わります。そのため、転勤形態(出向・転籍・派遣)や予定期間、勤務先の所在地、給与支払い主体などの詳細情報をもとに、管轄するハローワークに事前に確認します。
Q8:外国人従業員の被保険者証の取り扱いは?
A: 労働時間などの要件を満たしていれば、外国人でも被保険者として扱われます。技能実習生についても、要件を満たす場合には、加入が必要です。昼間に学校に通っている学生は加入対象外ですが、通信教育を受けている学生、大学の夜間学部や高等学校の夜間または定時制の学生は、上記の加入要件を満たす場合に、加入対象となります。
Q9:被保険者証の保管義務はありますか?期間は?
A: 保管義務は従業員にありますが、事業主には被保険者に関する雇用保険関連書類について、その方の資格喪失から4年間保管する義務があります。
Q10:派遣社員の被保険者証は、派遣元と派遣先どちらが管理しますか?
A: 雇用主は派遣元企業であるため、派遣元が管理を行います。派遣先での収集・保管は不要です。