アルムナイ制度とは?注目される背景やメリット・デメリットを解説

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アルムナイ制度とは?注目される背景やメリット・デメリットを解説

アルムナイ制度とは、退職者を再雇用するといったように、退職した人材をリソースとしてとらえ、活用していくことです。

近年は採用難による人手不足から、採用制度として取り入れている企業もみられます。

本記事では、アルムナイ制度が注目される背景やメリット・デメリット、またアルムナイ制度の導入ステップについて解説します。
 

アルムナイ制度とは

「アルムナイ」とは、卒業生・同窓生という意味で、企業を退職した元従業員のことを指します。企業におけるアルムナイ制度は、元従業員との関係性を維持しつつ、元従業員と組織を結びつける制度のことです。
 

アルムナイ制度が注目される背景

本章では、アルムナイ制度が注目される背景を解説します。
 

少子高齢化と労働力不足

日本の労働市場は、少子高齢化の影響で労働人口が減少しています。リクルートワークス研究所のデータによれば、2030年に341万人、2040年に1,100万人分の労働力が不足するという予測があります。

このような背景の中、企業においてはどのようにして優秀な人材を確保し、生産性を高めていくかが大きな課題です。アルムナイ制度は売り手市場により、優秀な人材の確保が難しい状況の中で、外部から新たな人材を確保するより、元従業員にアプローチをするほうが、効率的であるといった点で注目されています。
 

※参考:リクルートワークス研究所 『未来予測2040』.リクルートワークス研究所公式HP.2023年3月.
https://www.works-i.com/research/works-report/item/forecast2040.pdf​​​​​​

中途採用における採用難易度の上昇

総務省の労働力調査によると、転職希望者の数は10年間で623万人から968万人と急増しています。

しかし、実際に転職を果たしている人数は300万人前後であまり変化は見られない状況です。2022年では、転職希望者968万人に対して、実際に転職を果たしている人数は303万人でした。

このギャップには、660万人近く動いていない転職希望者、つまり「転職の潜在層」が存在することになります。労働力の確保が難しくなる中、アルムナイ制度は潜在層へのアプローチが可能と考えられる新しい採用手法の一つとして注目されています。

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※総務省「労働力調査」統計名:詳細集計 全都道府県 全国 年次 
 表番号:2-3-12-14-1 をもとに株式会社Works Human Intelligenceが作成

政府資料による事例掲載

経済産業省「人材版伊藤レポート2.0実践事例集」にもアルムナイ制度に関する多くの事例が掲載されています。

アルムナイ制度は、キャリア自律、ダイバーシティ&インクルージョン、エンゲージメント向上の実現方法として、多様な人材を獲得するための一手法です。

アルムナイ制度では、一度退職した従業員は、退職後であっても貴重な人的資源であることは変わらないと考えることが必要とされています。

※参考:経済産業省.“「人材版伊藤レポート2.0実践事例集」”.令和4年5月
.https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0_cases.pdf

アルムナイ制度のメリット3つ

本章ではアルムナイ制度のメリットを3つ紹介します。

メリット1:採用と人材育成にかかるコストの削減

1つ目のメリットとして、採用コストの削減がアルムナイ制度による採用の大きな魅力として考えられます。

アルムナイ採用の場合、企業側から退職者に直接声をかけて採用するケースが多いでしょう。転職エージェントの求人媒体を利用せずとも採用が可能なため、採用プロセスが大幅に簡略化され、必要な費用が低減します。

また、短いオンボーディング期間もアルムナイ採用のメリットの一つです。

一度退職した従業員であれば、企業の文化や業務フローにすでに馴染んでいるため、新しい従業員と比べて教育や研修の時間・コストの軽減に繋がると考えられます。
 

メリット2:ブランディング・エンゲージメント向上

2つ目のメリットとして、企業ブランディングやエンゲージメント向上が挙げられます。

「再び働きたい」と考える退職者を受け入れる企業は、「働きやすく、人間関係が良好な組織」としてのイメージを外部に発信できます。これは、求職者へのアピールとなり、優れた人材の獲得が期待できるでしょう。

さらに、他の従業員のエンゲージメントを高める効果があります。たとえば、一度退職した従業員が、再就職先で自社での過去の経験を生かしたエピソードを共有することはよい方法です。自社の業務経験が市場でも高い価値を持つことを認識できます。

一方で、それでも自社に戻ってきたということは、他社と比較しても、自社で働きたいと思ったからに他なりません。他社と比較して、自社のどのような点に魅力を感じて戻ってきたのかを共有することで、従業員のエンゲージメントが高まることが期待されます。

退職者自体が、他企業での経験を生かし、新しい視点や提案をもたらすことで、組織の活性化やイノベーションを促進する可能性もあります。

このように、アルムナイ制度は企業の魅力を内外に伝える効果的な手段となるでしょう。
 

メリット3:採用のミスマッチ減少・即戦力採用

3つ目のメリットとして、採用のミスマッチの減少や即戦力採用に繋がる点が挙げられます。

アルムナイ制度は、企業文化や組織風土をすでに理解している人材を即戦力として採用できるメリットがあります。一度、組織内で働いた経験を持つ人材は、業務内容や企業の方針に対する適応が早いです。

また、再雇用により、他社や外部での新しいスキルや知識を自社に持ち込むことも期待されます。採用のミスマッチのリスクが低減し、早期退職を防げる点も大きな利点となります。

 

アルムナイ制度のデメリット2つ

アルムナイ制度は、多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも考えられます。本章ではアルムナイ制度のデメリットについて、従業員と企業、それぞれの目線で解説します。

従業員目線のデメリット:モチベーションの低下

前章で従業員のエンゲージメント向上に繋がると述べましたが、その一方で、従業員目線のデメリットとして、従業員のモチベーション低下のリスクも挙げられます。

退職者が既存の従業員に比べて好待遇で再雇用された場合、「自分は頑張っているのに、一度退職した従業員の方が自分よりも評価されているではないか」というネガティブな気持ちが高まってしまうことで、従業員のモチベーションを低下させてしまう可能性があります。

また、「一度退職しても、好待遇で再び働ける」という印象を与えた結果、退職へのハードルが下がり、人材流出やモチベーションの低下を招くリスクが増大する恐れもあります。

企業目線のデメリット:アルムナイ採用の従業員を受け入れるための社内環境整備が必要になる

企業目線のデメリットとして、アルムナイ制度に伴い、社内環境の整備が必要となることが挙げられます。

アルムナイ採用を成功させるには社内の受け入れ体制の整備が必要不可欠です。
歴史的に「途中退職=裏切り」との概念が日本企業に根付いていたため、再雇用に対する不満や抵抗が生まれることが考えられます。

現代の多様な働き方の浸透とともに、退職者も新しい経験や価値観を持って戻ってくるため、これらを受け入れる風土作りが求められます。また、採用基準や処遇、配属先等を明確にすることで、不満の原因を排除することも大切です。

社内の理解と協力のもと、アルムナイ制度の導入を進めることで、多様な価値観の共存と企業の成長が期待できるでしょう。

 

アルムナイ制度導入の5つのステップ

アルムナイ制度を成功させるための5つのステップについて考えてみましょう。
 

アルムナイ制度を導入するための前提条件

アルムナイ制度を成功させるためには、下記のような前提条件が必要です。

ポジティブな退職

一度退職した従業員が再び会社に戻る際、過去の経験や当時の印象が大きく影響します。円満退職をすることで、再びその企業での職務に前向きに取り組むことが期待できます。

一方で、不満や対立を抱えたまま退職した場合、再びその環境に戻ることは難しいと考えられます。また、前回の退職の状況や理由が、今回の職場環境にどれほど影響するか考慮が必要です。

アルムナイ制度を成功させるためには、退職時の関係や状況を良好に保つことが不可欠だと考えられます。

上記を踏まえ、アルムナイ制度を導入するステップ5つを解説します。
 

ステップ1:復職条件を明確に設定する

アルムナイ制度を活用する際、まずはどのような条件で再雇用するのか、明確に設定しなければなりません。

「リーダー職以上を経験した人」や「3年以上勤務した人」という具体的な基準は、再雇用の方針を明確にし、期待と実際のギャップを防ぐ役割を果たします。

そのうえで、退職者のための専用ポジションを設けることで、経験やスキルに合わせた役職や業務範囲を提示することが可能です。
 

ステップ2:アルムナイ制度の周知

アルムナイ制度について、退職者はもちろん、在籍中の従業員に対してもアルムナイ制度の存在とその意義を周知する必要があります。

従業員がアルムナイ制度を理解することで、再雇用時に円滑なコミュニケーションを促進し、組織全体として退職者を受け入れる体制の強化に繋がります。
 

ステップ3:継続的な交流の場を持つ

定期的な情報発信や、退職者を対象としたイベントの開催は、会社の最新情報を共有し、退職者との絆を深める手段として効果的です。

退職後も退職者との交流を持つことで、会社の最新の情報や変化を伝えられます。また、退職者同士のネットワーク形成や情報交換の場を提供することは、アルムナイ制度の土壌を育むうえで不可欠です。
 

ステップ4:退職者がスムーズに業務に取り組める環境の構築

退職者と従業員が円滑に情報交換できる場を設けることで、退職者がスムーズに業務に取り組むための環境を整備することが重要です。

また、現場の納得感を高め、退職者が活躍できる環境を作ることで、組織全体の生産性向上に繋がるでしょう。
 

ステップ5: 採用フローの構築

復職を希望する退職者との採用プロセスは、中途採用とは異なるフローが求められます。

すでにその人物の性格や能力は理解しているため、標準的な採用フローではなく、新たなフローの構築が求められます。

無駄なステップは排除し、実際の業務内容や期待値についての確認をメインに進めるとよいでしょう。具体的には、カジュアルな雰囲気で今後の可能性や期待を話し合う場を設け、双方の理解を深めることが大切です。

 

アルムナイ制度成功のためのポイント

本章では、アルムナイ制度を成功させるためのポイントを2つ紹介します。
 

中途採用比率が増えている

アルムナイ採用が成功する企業は、中途採用者が主役として活躍している特徴があります。

入社から数年経過すると、新卒採用者と中途採用者の区別が付かなくなるほど、すべての従業員が平等に活躍する環境が整っていることが望ましいです。

そのような環境が整うことで、キャリアの背景を問わず、全員が同じフィールドでの実力を競い合う文化の形成に繋がり、新卒採用者と中途採用者のレベルの差はなくなるでしょう。

中途採用の比率が高い企業は、異なるバックグラウンドを持つ人々との親和性が高いと言えます。
 

退職者が退職した会社での経験を誇りに思っている

アルムナイ制度の成功には、一度退職した従業員がその会社での経験を誇りに思っていることが重要なポイントとなります。企業は従業員に「この企業でよい経験・成長ができた」や「働けてよかった」と思えるような風土づくりが必要です。

一度退職した従業員が過去にその会社で働いたことを誇りに感じていれば、再びその企業での雇用を検討する可能性が高まります。

また、退職者から見ると、再度会社に戻ることは大きなハードルと感じることもあります。

そのため、企業側は退職者に対して継続的なコミュニケーションを持ち、退職後に誇りに気づいてもらうために、自社の売上成長やブランドのポジティブな情報を退職者に発信し続けることが必要です。

退職者が企業の「仲間」として活動するような環境を整えることで、アルムナイとしての関係性を強化し、採用の成功率を高めることができます。

 

採用方法の一つとして、アルムナイ制度の検討を

本記事では、アルムナイ制度の成功企業の考え方についてご紹介しました。
一昔前は新卒一括採用で入社し、一つの会社で働き続ける人が多く、中途採用といえば、転職サイトが主流の方法でした。

しかし、今では中途採用の手法は多数あります。人材の流動性が高くなる中、採用コストの増加、入社後のミスマッチのリスク、採用の工数負荷といった課題が年々多く聞かれます。

企業によっては、既存の採用活動方法や手法が時間と共に本来の目的や意義を失い、単なる形式として行われており、刷新が必要だと考えているケースもあるでしょう。

新たな採用方法の一つとして、アルムナイ制度を検討してみてはいかがでしょうか。
 

この記事を書いた人

ライター写真

袋瀬 淳(Fukurose Jun)

2008年、大手不動産会社へ入社。企業の寮・社宅運用のソリューション 営業、コンサルタントとしてキャリアをスタート。 導入コンサルティング、および、導入後のカスタマーサクセス支援を通じ、 企業の業務改革に従事。2020年、Works Human Intelligence入社。保守コンサルタントを歴て、多くの企業を見てきた経験を活かし、人事全体の事例・トピックスの研究・発信活動を行っている。

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