みなさまこんにちは。Works Human Intelligence(以下、WHI)の営業部門に所属している夏目通伸と申します。
「『エンタープライズアーキテクチャ』大手企業・法人だからこそ描きたい、価値創造の設計図」では、25年にわたりHuman Capital Management(以下HCM)領域のシステム再構築に携わってきた私自身の経験、共に学ばせていただいたお客様のお声や事例を基に、エンタープライズアーキテクチャを軸とした提言をしていきます。HCMシステムの再構築を検討・実行されるみなさまにとって、お役に立つような情報提供ができれば幸いです。
連載の最終回となる本記事は、「AI活用時代に進化し続けるアプリケーションとは」がテーマです。これまでの記事でお伝えしてきた通り、エンタープライズアーキテクチャ(以下EA)の考え方においては、それぞれのアーキテクチャの位置関係と、その設計方向がとても重要になります。アプリケーションアーキテクチャは、データアーキテクチャとテクノロジーアーキテクチャとの間に位置付けられます。
AIをはじめとした日進月歩の各種テクノロジーを、ビジネス戦略・目標の達成に対していかに「都合よく」利用できるか。そのイニシアチブをユーザー部門が持てる、いや、持つ必要がある、という時代に突入した現代。それを自律的に進めていくための観点として、EAの考え方からは常に本質的なインサイトが得られます。
当連載の締めくくりに、当社製品である統合人事システム「COMPANY」に四半世紀関わってきた当事者として、その歴史・思想も交えご説明していきます。ぜひ最後までお付き合いください。

2001年当社の前身会社へ入社。勤怠管理プロダクト(COMPANY 就労・プロジェクト管理)の発売と共に導入支援コンサルタントに従事、累計約40案件を担当。その後プロジェクトマネージャーとして35案件を担当。2014年から2018年まで自社人事部にて採用業務に従事したのち、営業本部に異動。以降、様々な案件支援の他、お客様との対談コンテンツ公開、ブログ記事の発信などスペシャリスト職として活動している。
▼執筆活動
・「報われるプロジェクト」をスタートさせる前に
・大手企業のHRシステム導入 3つのKFS ~Key Factor for Success~(前編)
・大手企業のHRシステム導入 3つのKFS ~Key Factor for Success~(後編)
・永続的なプロジェクトのKey Factor・タッチダウンミーティングとは?
▼セミナー活動(一部抜粋)
・COMPANY Forum 2023 お客様対談 (古河電工様)
・COMPANY Forum 2024 お客様対談 (オープンハウスグループ様)
・当社主催セミナー登壇 など
目次
ユーザーからアプリケーションへの「真の要求」
この連載の第1回で、EAの目的と活動について、以下のように定義しました。
そして、EAの設計におけるトレーサビリティを確保するためには、設計方向が重要であること、そして第3回のコラムではセオドア・レビット氏の「ドリルと穴」という言葉を引用し、How駆動型の思考に陥らないでほしいということをお伝えしました。

©ケイプラス・ソリューションズ 田中康氏
EA特集のまとめとして、ユーザーが要求するアプリケーションの仕様・要件は何によって決まるのかを、この図の下から上への設計方向を意識しながら改めて言語化します。
①:経営目標に根差し、業務のあるべき姿をまず定義し、
②:①の成果物となる出力データと、そのために求められる入力データとを定義し、
③:②を支えるために必要な処理(を提供する機能)を、ベンダーに要求する。
法人としてのビジネス戦略に従い、あるべき人事業務の構造を設計するのが①です。ここにおいて重要なのは、理想の姿、つまり目的から考えること。そして、その理想を叶えるために解決すべき課題を明確にすること。そのためには、WhyとWhatから考えるアプローチが欠かせません。EAでは、それがビジネスアーキテクチャの設計に相当します。
その理想の業務とは、いつ、誰に、何が提供されることを指すのか。人事業務構造が成立したと言えること、つまりGoalとなる成果物(≒出力データ)を定義し、それを支えるための前提条件(≒入力データ)を導くことが②です。EAでは、これがデータアーキテクチャの設計にあたります。
①と②を行わないうちに、③を列挙する活動にエントリーしてしまうと、出来上がったアプリケーションと入出力されるデータとの親和性が低い、いわば「仕様バグ」に直面してしまう可能性があります。
アプリケーションの仕様・要件そのものを要求するのではなく、上記のプロセスを経て必要になる仕様・要件を、ベンダーに要求することが非常に大事です。そのための考え方が「EAの設計方向」なのです。第3回のコラムで言及した「How駆動型の思考」に、決して陥ってはなりません。
エンタープライズIT投資はTCOで考える
長らく「COMPANY」のご提案に携わっている経験も踏まえて申しますと、法人としてのシステム再構築への向き合い方には、「5年に1回は見直しを検討するもの」という暗黙の了解が存在しています。その理由として、減価償却期間が5年程度で設定されるのが一般的だという共通認識の存在が挙げられます。そのような背景もあり、IT投資の効果測定には「ROI※1」という言葉がよく使われます。
キチンと償却できたということは、仕事としては成立したということ。誰からも後ろ指を指されることはない。確かにそうかもしれません。しかし、それは法人としてのIT投資をするうえで好ましいことでしょうか。自分の好みでマイカーを乗り換えるサイクルならいざ知らず、会社として欠かせない・なくせない業務を支えるITシステムへの再投資が、そんなに頻繁に行われるのは健全ではありません。
しっかりと業務を支えてくれる、長く使えてコスパが良いシステム。あるべき業務の遂行を支えるITインフラへの投資評価は、ROIで終わらせず、TCO※2で考えねばなりません。
※1:ROI(Return on Investment)。導入からある期間までの投資対効果。
※2:TCO(Total Cost of Ownership)。導入以降の費用や工数の総額。
「ラン・ザ・ビジネスコスト」と「バリューアップコスト」
昨今のDX推進の機運もあり、日本のあらゆる法人にTCOを重視する考えが浸透してきていることを、私は多くのご提案機会で感じています。競争領域への積極的な投資意欲も然りです。IT予算が増加傾向にあることは、様々な調査統計からも見て取れます。
しかしながら、そのマインドおよび原資があるにも関わらず、実際にはそのための投資に十分な配分が行われていません。一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が発行している『企業IT動向調査報告書※3』のデータを見てみましょう。同報告書では、IT予算を「現行ビジネスの維持・運営」にあたる「ラン・ザ・ビジネス予算」と、「ビジネスの新しい施策展開」にあたる「バリュー・アップ予算」に分類しています。
同報告書の最新版である『企業IT動向調査報告書2026※4』(P49 図表2-1-18)によると、2025年度の予算配分実績は「ラン・ザ・ビジネス:バリュー・アップ = 75.9%:24.1%」となっています。上昇するITコストに対し、経営陣からはラン・ザ・ビジネス予算を減らし、バリュー・アップ予算の比重を高められるよう指示が出ているものの、ランニングコストが依然として重く、バリュー・アップ予算の比率が上がらないという事実が浮き彫りになっています。
つまり、ラン・ザ・ビジネスコストが高止まりし、トレードオフが発生しているのです。
実は、これは2025年度の調査結果に特有のものではありません。10年前の『企業IT動向調査報告書2016※5』(P77 図表4-2-3)を見ても、2015年度のIT予算配分は「78.2%:21.8%」であり、現在とほぼ同等の比率であることがわかります。バリュー・アップ予算比率の経年推移を見てみても、大きな変動はみられません。

※3:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査」(https://juas.or.jp/library/research_rpt/)
※4:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査」内『企業IT動向調査報告書2026』(https://juas.or.jp/cms/media/2026/04/JUAS_IT2026.pdf)
※5:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査」内『企業IT動向調査報告書2016』(https://www.juas.or.jp/cms/media/2017/02/16itdoukou.pdf)
連続的なBPRで、それらをトレードオフにせず活動することが重要
同報告書の「IT投資で解決したい、現在直面している経営課題」についても見てみました。ここ10年以上、毎年第1位は「業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)」です。第2位以降の課題は「働き方改革」「セキュリティ強化」「既存ビジネスの強化」が年ごとに順位を前後させて続いています。
2019年の働き方改革、2020年のコロナ禍、ランサムウェア被害、といった年ごとのエポックを勘案すると納得がいきます。しかし改めて注目すべきは、バリュー・アップを目指しつつも、喫緊の経営課題として「BPR(Business Process Re-engineering )」が常に位置づけられ続けているという事実です。
これは、多くの法人が目指したいと考えている業務改善/改革には終わりがないこと、そして、それに十分に投資できていないという現状を示していると言えるでしょう。
連続的なBPRは、日本のIT投資における「積年の課題」であると私は考えています。その足かせとならない、投資効率が高く持続可能なITインフラの獲得・維持が、日本の法人経営に等しく求められているということを、改めてみなさまと共有したいと思うのです。
「COMPANY」の30年間を振り返る
私は1996年にビジネスパーソンとしてのキャリアをスタートさせました。たまたまではありますが、時を同じくして、当社製品である「COMPANY」も世の中に登場しました。当時の日本企業は、さまざまな「バブル後遺症」に苛まれていたと言えるでしょう。そのうちの一つに「IT投資効率の低さ」がありました。
30年前の日本のIT投資
昭和から平成に突入する時代のIT産業構造は、「要件はユーザーが出し、ベンダーはそれを満たすシステムを構築する」というカスタムメイド型が当たり前でした。ITリテラシー獲得のすそ野が広がると同時に、SaaSが有力な選択肢となった今を生きる若い世代のみなさまにとっては、にわかに信じがたいかもしれません。しかし当時はユーザーからの要求があり、予算もあるならば、「やればいいじゃないか」「はい喜んで!」という時代でした。結果、このころにはROIという言葉こそあっても、それはIT投資領域の合言葉にはなっていませんでした。
しかし、バブル経済が崩壊し、日本は後の世で言う「失われたXX年」に突入します。再び競争力を高めんとする企業・法人は、ROIを大事に考え始めることになりました。時を同じくして、欧米ではERP※6が隆盛を極めはじめます。あらかじめ標準機能として搭載したパッケージソフトを用いたシステムを構築することで、ベストプラクティスに基づく効率的な業務プロセスを手に入れる。そのシステムによる業務運用をユーザーが受け入れることでBPRを実現する。これが、欧米のERPベンダーが提唱したBPRを指向する考え方でした。日本もこれに倣おうと、欧米製のERPを日本にローカライズする導入が流行しました。
しかし、このコラムの第2回でも触れましたが、日本の人事業務には、特有の法制度や商習慣や人事制度が多く存在し、その複雑性は世界的に見ても高いものです。その複雑性を担保するのに、欧米製ERPの標準機能ではまったく追いつかず、アドオンやカスタマイズが前提となるため費用が膨らみました。その結果、日本の企業・法人は全くROIが出ないという問題に直面することになります。さらに、アドオンやカスタマイズした部分はパッケージソフトの標準機能ではないため、維持し続けるためのコストが高止まりすることに。こうして、日本のIT投資効率が上がらない構造欠陥が生まれてしまっていたのです。
※6:ERP(Enterprise Resource Planning)。企業がビジネスを遂行するために不可欠な主要業務を処理するために用いられるシステムのこと。
「COMPANY」を誕生させたのは「BPR思想」
欧米で効果が出ていたパッケージソフトによるBPRが、日本の人事業務領域では効果を生まない構図。これは裏を返せば、日本の法制度や商習慣にとって不可欠な機能を標準搭載した国産のパッケージソフトがあれば、日本でもBPRを目指していくことができ、欧米並みのIT投資効率が得られる、ということです。
当時、こうした事実(理屈)に気づいていたステークホルダーは、少なからずいました。しかし、それを進んで行うプレーヤーは、当時の日本のIT業界には存在しませんでした。それは無理もありません。なぜなら、当時はどのユーザーからも「そうしてほしい」との顕在的な要求がされていなかったからです。頼まれてないこと・ものを、なぜ作らないといけないんだ。言われたことを作って納品すれば儲かるだろう。そう思うのが当たり前です。
そんな1996年の日本に、「COMPANY」が誕生しました。
ユーザーが口をついて求めてはいないけれど、日本の構造的課題を解決しないといけない。だから、日本の法人が求めているはずの価値を創出する。我々のその事業により、日本の経済に貢献していく。このイノベーティブな精神が、「COMPANY」のDNAです。
日本の大手法人に必要不可欠な機能を標準機能として実装し、すべてのお客様に既製品として提供する。まずそれを、もっとも複雑で変化に直面させられやすい、源泉徴収制度を含めた月例給与計算業務から実現せんと、1996年に「COMPANY 人事・給与」が誕生します。その後、勤怠管理業務を含めたミッションクリティカル業務の領域をSuite化。現在では、タレントマネジメント領域にもプロダクト展開を進めるに至りました。
30年間貫いた「COMPANY」の歩みがもたらす価値
日本の給与業務では、こうした結果が正しく成立し、出力されればよいはず。今ユーザーが行っている業務フローとは違う手順になる部分があるかもしれない。しかし、「COMPANY」という新しい業務ツールに標準搭載された機能を、ぜひ使ってみてほしい。そして、その受け止めをフィードバックしてほしい。それを糧に、標準機能をよりよきものに育てれば、ユーザーの業務もよりよきものになるはず。
このフィードバックループが回ること。回し続けられること。これこそが、連続的なBPRを期すユーザーと、それを永続的に支えるベンダーとの正しい関係であり、結果として持続可能な関係を築くことになる。我々はそう信じ、サステナブルに日本の人事業務を支える「COMPANY」を提供し続けるために、このビジネスをスタートさせたのです。
この価値提供を永続的に提供するために、当初から掲げられ、30年間貫いてきた2つのスローガン(製品/サービスの思想)があります。
1)ノーカスタマイズ
2)無償バージョンアップ
個社個別のカスタムプログラムは作らない。作れないのではなく、作らない。顧客の目的を同じ目線で見つめ、目的思考であるべき業務を想定し、考え抜き、それを実現させるために必要な手段(機能)を実装します。このサイクルをたゆみなく繰り返し、製品・サービスを成長させ続けることで、貢献し続けられる存在になる。
そして、年額の定額保守料を対価として「業務遂行の足かせとならない」というお客様とのインクルーシブな約束を、30年前からすべてのお客様と契約締結という形で交わし、それを果たし続けんと事業を営んできました。
私はよく、「この2つを定額のサポートサービスフィーで永続的にご提供していくことこそが、COMPANYの思想のコアである」、とみなさまにご説明しています。
このスローガンを錦の御旗として掲げ、製品企画から開発、販売、導入支援、カスタマーサクセスまですべてを垂直統合で提供するビジネスモデルを、愚直に貫いてきました。SaaSが市民権を得た今では「当たり前だよね」との感想をお持ちになる方も多いと思います。はい、いまでは常識となった定額モデルの先駆けだったというのは史実です。良い世の中になってきましたよね。私は勝手に、世の中が追いついてきてくれたな。おかげで、顧客への提供価値の総量が大きくなって日本が良くなってきたな。と理解しています。
「COMPANY」を「COMPANY」たらしめることは、人事業務における、日本のすべての法人にとってのBPR基盤を提供し続けることにほかなりません。そのために、What&Whyから考えHowを導き出すという思想は不可欠。EAの考え方は、「COMPANY」のDNAと同根なのです。
これからの人事システムをどう考えるか
エンタープライズな法人として、内的・外的な変化を受け入れつつも、その目的・目標を叶えるべくあくなきBPRを繰り返す命題をお持ちのみなさま。変化対応のイニシアチブをみなさま自らが持つことは、AI Readyの今、避けて通れないでしょう。そのためには、最新のテクノロジーを利用したアプリケーションを活用するリテラシーの獲得が欠かせません。そうしたマインドと、それを可能にするスキームとを、ぜひ手に入れてください。
そのスキームをエンタープライズな組織で考えるにあたっては、EAの考えから大きな示唆が得られるはずです。EAの設計方向のスタート地点を担い、日進月歩の技術を手段として受け入れ続けること。そのために、WhatとWhyでユーザーが能動的・自律的に歩むこと。今回の連載に、みなさまにとって幾ばくかのお役立ちポイントが含まれていれば幸甚です。
これからの人事システムに対する私からの提言を、3つの文にまとめます。
・内的/外的変化をプロアクティブに捉え、業務変革を自律的に目指せること
・最新のテクノロジーを、スピーディーかつ積極果敢に活用できること
・TCOを最大化させつつ、連続的なBPRを支えられること
日本の人事業務を支え続けるための価値提供者として
日本の人事業務を支え続けた30年間、約1,200法人グループのお客様に使い続けていただいていることで、我々は日本の人事業務を誰よりも深く知る、唯一無二のプレーヤーとなりました。これをもとに、より良い人事業務プロセスを、世の中に提言していきます。そして、それを支え続けられる持続可能なアプリケーションを、そしてEA全体を通じたより良いソリューションを、ご提供します。
そのひとつのアプローチとして、これから「COMPANY World」の仲間になられるみなさま、つまり「COMPANY」をこれから導入なさるお客様に向けて、新しい価値提供スキームを開発し本年からご提供を開始しました。それは、我々だからこそ定義できる「日本の人事業務の標準プロセス」をベースにし、最短距離で「COMPANY」を手に入れていただくためのアプローチ。つまり画期的な新しい「COMPANY」の導入手法です。
これにより、システム再構築や制度改変などの大きな変革に向き合うみなさまにとっての「どう構築し運用すべきなのか」というご不安やハードルを大幅に軽減し、短期間で、高品質かつ持続可能な人事業務基盤としてのTo-beシステムの立ち上げを強力に支援します。
これからもみなさまのために、そして日本の社会のために、欠かせない価値提供者となるために。みなさまの永続的なパートナーであり続け、人間の人間であるが故の真価を最大化するために。よりいっそう邁進していくことが、引き続き、我々の使命です。5回の連載の締めくくりにあたり、みなさまに次の3つをお約束し筆を置きます。
・EAに根差し、進化し続けるアプリケーションをこれからも提供します
・AIを新たなアクターとして活躍させるための包括的な価値を提供します
・不断のBPRを指向するみなさまのイマジネーションを刺激し、その遂行を支えるパートナーであり続けます
最後までお読みくださりありがとうございました。またどこかでお会いしましょう。







