株式会社Works Human Intelligence(本社:東京都港区、代表取締役社長最高経営責任者:安斎富太郎、以下 ワークスHI)は、従業員規模500名以上の企業の経営者・役員および人事・教育担当者の計1,075名を対象に、「人的資本」に関する意識調査を実施いたしましたので、結果についてお知らせします。

 

本調査の背景

昨今、企業価値の決定因子が有形資産から「人的資本」を含む無形資産に移行しつつあるといわれています1。また、2020年8月には米国証券取引委員会(SEC)が上場企業の「人的資本開示」を義務化したことをきっかけに、その主要指標である「ISO 30414」についても注目が集まっています。

日本においても、4月に金融庁が公表した2021年6月改訂のコーポレートガバナンス・コード改訂案で、人的資本への投資に関する情報開示・提供について、新たにサステナビリティ開示の項目として追加されました。

こうした背景を踏まえ、ワークスHIでは日本の大手企業に勤める1,075名に対し「人的資本」に関する意識調査を実施いたしました。

 

調査結果概要

  1. 全体の7割近くが「人的資本経営」の潮流を認知。特に役員・経営者は人事・教育担当者と比較して「人的資本」への意識が高いことがうかがえる。
  2. 6割近くが「経営戦略と人事戦略が連動している」と回答。
  3. 人材価値向上への取り組みは進んでいるものの、その価値を可視化し、開示するのに重要とされるテクノロジー活用や経営体制が敷かれている企業はわずか1割程度。
  4. ISO 30414で提示されている11領域の項目の指標化について、いずれも半数以下にとどまっている。
  5. 半数近くの企業が、今後、人的資本の開示を積極的に行っていく予定である。

 

一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤邦雄氏より

「人材を資源ではなく資本と捉え、企業価値向上のために投資をするという人的資本の考え方は、今後日本企業にとって避けられないものとなります。本調査は現在の日本企業の動向を示す貴重なものだと感じます。各企業は調査結果をひとつのきっかけとして、表面的な結果のみにとらわれず、改めて自社の経営戦略と人材戦略を照らし合わせ、ギャップを埋めるための指標化や情報開示に向けて真剣に取り組んでほしいと思います。」

 

調査結果

※本調査では以下5つの設問の他、「社外に公開している項目」「公開している理由」「公開にあたっての障壁」「HRテクノロジーの活用状況」「回答者の投資経験の有無」についてもうかがっています。

1.国内外で、経営戦略において「人的資本」を重要視する潮流があることを知っていましたか。

設問1.png(n=1,075)

経営戦略において「人的資本」を重要視する潮流があることを知っていたか尋ねたところ、全体の66.4%が「知っている(詳しく知っている/少し知っている)」と回答。また、属性別に見ると、役員・経営者の「知っている」人の割合(73.8%)のほうが、人事・教育担当者(62.1%)より10ポイント以上高いという結果でした。

国内でもすでに「人的資本経営」の考え方が広がっており、特に役員・経営者のほうが「人的資本」への意識が高いことがうかがえます。

 

2.あなたの企業では、経営戦略と人事戦略が連動していると思いますか。

設問2.png

(n=1,075)

所属企業において「経営戦略」と「人事戦略」が連動しているか聞いたところ、57.5%が「連動している」「ある程度連動している」と回答。国内でも経営戦略と人事戦略の連動は新たな潮流として浸透しつつあることがうかがえます。

 

3.人的資本の価値向上のために、あなたの企業で検討または実施しているものをすべてお選びください。

設問3.png

(n=1,075)

人的資本の価値向上に向け検討または実施している取り組みを聞いたところ、「従業員満足度調査」や「従業員の自主的な学びの支援」を実施・検討している企業は半数を超えた一方で、「CHO/CHROの配置」や「HRテクノロジーによる異なる部署間のデータの一元管理」についてはそれぞれ1割程度にとどまりました。

人材価値向上への取り組みは進んでいるものの、その価値を可視化し、開示するのに重要とされるテクノロジー活用や経営体制が敷かれている企業はまだ少ないことがうかがえます。

 

4.下記は人的資本開示の国際規格のひとつである「ISO 30414」で定められている11の領域です。あなたの企業で指標化を実施(経営指標として計画・実績をレポート)している項目をすべてお選びください。

設問4.png

(n=1,075)

ISO 30414の11領域のうち、「指標化を実施している」と回答した人が多かったのは、1位「コンプライアンスと倫理」、2位「人件費」、3位「採用、異動、離職」で、いずれも4割を超えていました。また、少なかった項目としては「後継者育成計画」21.4%、「リーダーシップ」23.3%という結果でした。

各項目の指標化について、ある程度進んでいるものもありますが、いずれも半数以下にとどまっています。人的資本価値の可視化を行うためには、まず指標化(数値化)から始める必要があると言えるでしょう。

 

5.今後、あなたの企業は人的資本開示を積極的に行っていく予定ですか。

設問5.png

(n=1,075)

今後、人的資本開示を「積極的に行っていく」「おそらく積極的に行っていく」という回答が合わせて46.4%と半数近くになりました。今後、国内でも人的資本開示への意識はますます高まっていくことが予想されます。

 

 

 

【APPENDIX】解説:WHI総研※ シニアマネージャー 伊藤 裕之

■ 日本国内でも高まりつつある、人的資本情報開示の必要性

今回の調査結果から、人的資本情報の開示や、その主要指標であるISO 30414が日本国内でも注目を集めつつある傾向がうかがえました。

今年6月に改訂予定の東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」では、下記3点が内容に盛り込まれると言われており日本市場においても人事に関する発信強化の流れが加速していくと思われます。

 

・経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表

・管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定

・多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表

 

また、以前から、ESG投資の重要性の高まりに伴い、サステナビリティレポート等において「GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)スタンダード」に代表されるESG情報開示も増えています。

こうした流れは、グローバルや金融・証券市場からの圧力とも見える一方、日本企業の人事および経営のポジティブな変化と成長につながるものでもあると考えます。

 

■ 共通指標が生み出す、答えのない人事施策の方向性

これまで各企業の人事戦略や組織の風土は、企業の特徴や雰囲気を表現するものであり、必ずしも成長や市場価値を表したり、他社と定量的に比較されたりするものではありませんでした。

 

ISO 30414やGRIスタンダードのような指標、コーポレートガバナンス・コードのような指針は、各社の人事戦略や施策に判断の物差しを与えるものです。他社と比較可能になれば、自社の人事戦略の是非を問われることになりますが、「答えがない」と考えられていた人事の世界に標準のガイドラインや指針が定められることによって、なすべき方向が明確になるかもしれません。

 

一方で、たとえば、女性管理職の割合が15%、あるいは全社員の年間平均研修受講時間が10時間であったとして、それだけでは外部の人間にとって(あるいは自社の従業員にとっても)、妥当かどうか判断できません。

「どのような目的で情報を開示しているのか」「目標は自社の何年後の成長レベルを基準として実施しているのか」「成果は何をもって判断するのか」「他社と比較して適切なレベルといえるのか」といった情報を企業のメッセージとして説明することが必要となります。

 

結果として、指標を開示に必要な義務数値ではなく、「答えを導くための物差し」として活用でき、人事戦略や人事施策の実現や効果測定により一層役立てられるのではないでしょうか。

 

■ 人的資本の開示が従業員の働き方の変容を促す

人的資本を開示することは、人事としての公平性や透明性に関する社内の従業員へのメッセージでもあるといえるでしょう。重要なのは、目標を満たすことではなく、その実現プロセスにおいて、組織や個人の行動やマインドがより良い方向に変化していくことです。

従業員の業務時間の基準が指標化されていれば、業務効率化による生産性の向上と働き方の変化や、従業員の心身の負担軽減によるコミュニケーションや情報インプットの増加が、新たなアイデアやビジネスプランの創出、従業員のやりがいにつながるかもしれません。多様性の指標を向上させるためには、バックボーンや考え方の違いを受け入れることができる部門長や管理職が必要となり、そのための施策が実を結べば組織風土の変化が起こるでしょう。

 

こうした積み重ねで従業員エンゲージメントの向上や離職率の低減といった結果が生まれ、指標を公開できれば市場や社会からも評価を得られるというポジティブなサイクルを作ることも可能です。

 

さらに、人材育成や生産性に関わる指標は、単にその企業が働きやすい環境であるかだけでなく、従業員が成長し、成果につながる環境を伴っているかを示します。実施と改善を繰り返すプロセスの中で、各自の働き方や学びに変化を促すことになれば、結果的に業績の向上や企業への対応につながるでしょう。

 

人事戦略や施策が外部の目に触れ、比較評価されることは、社内の実務部門や経営陣にとって負担となることも予想されます。

一方で、これまで課題認識はしていたものの具体的な進捗につながらなかった人事施策を推進するための原動力として活用するチャンスでもあるのではないでしょうか。

 

■ 情報開示を義務ではなく、持続的成長へのガイドラインとして利用するために

現時点では、情報開示に前向きでありながら、何から手を付ければいいか難しいと感じているケースも多いでしょう。今回の調査では「指標化に向けた準備はしているが、公開はできていない」「レポートをどのように作成するかわからない」という回答も多くありました。

 

各企業のサステナビリティレポートでも人事に関する記載が増え、健康経営や女性活躍推進に関する認定等、人にまつわる指標やデータは充実する傾向にあります。しかし、指標としての数値を集める、記載すること自体が目的となっており、その内実が伴っていないことも多いのではないでしょうか。

 

指標や開示内容を決めることは大事ですが、より重要なことは、開示する情報に対して下記のような企業としてのストーリーを持たせることでしょう。

 

・自社のミッション、ビジョン、ないしは理念を支えるものは何か、自社が取り組むべき重要課題は何か、その実現状況を可視化するために必要な指標と目標値は何か、それはなぜか

・5年後、10年後に描く自社の戦略の実現や、設定課題の解決に必要な人材像、ロールモデル、その必要数から逆算したときに、重要な判断材料となる指標とはどれか、それはなぜか

・今、そして将来の自社の従業員が成長を実感し、会社と高いエンゲージメントを保つことを表す指標は何か、それはなぜか

・実現過程や今後の見通しを表す指標として、定量的で恣意性のないデータ、定性的であっても裏付けとなるような情報の取得が可能か

 

人的資本情報の開示は、今後、義務化されていく流れですが、内容や表現そのものについての規定はありません。指標を単に数値や定型文ではなく、企業のメッセージを効果的に伝えるためのガイドラインとして利用することが大切です。このように外部の人間が理解し、共感を覚えるような発信をすることが、市場や投資家、社会に対する企業の責任となっていくでしょう。

これは決して人事部門だけで実現可能なミッションではありません。経営陣がメッセージを発信し、より多くの従業員が自分事として参加することで、はじめて可能となるのではないでしょうか。

 

 

解説者プロフィール

hiroyukisann.jpg 伊藤 裕之(いとう ひろゆき)
 株式会社Works Human Intelligence WHI総研 シニアマネージャー

 プロフィール
 2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとし
 て人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者
 として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設
 計・運用に携わった経験と、約1,200のユーザーから得られた事例・ノウハウを分
 析し、人事トピックに関する情報を発信している。

※WHI総研:当社製品「COMPANY」の約1,200法人グループの利用実績を通して、大手法人人事部の人事制度設計や業務改善ノウハウの集約・分析・提言を行う組織。

 

<調査概要>
期間:2021年5月7日~5月10日
対象:500名以上の経営者・役員または人事・教育部門の1,075名 
調査方法:インターネットを利用したアンケート調査
※小数点以下の切り上げ、切り下げにより合計100%にならないことがございます。
 

<引用・転載時のクレジット記載のお願い>
本リリース内容の転載にあたりましては、「Works Human Intelligence調べ」という表記をお使いいただきますようお願い申し上げます。
尚、本調査では他にも「社外に公開している項目」「公開している理由」「公開にあたっての障壁」「HRテクノロジーの活用状況」「回答者の投資経験の有無」に対する回答も得ております。詳細レポートをご要望の方は、当社ホームページのお問い合わせフォームよりご連絡ください。

 

 

ワークスHIでは引き続き、大手企業・法人のトレンドや業務実態について調査をしてまいります。

 

[1]経済産業省「伊藤レポート2.0 持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会報告書」(2017年)https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/kigyoukaikei/itoreport2.0.pdf

 

 

* 会社名、製品名等はそれぞれ各社の商標または登録商標です。
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この記事に関するお問い合わせ先

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広報(担当:羽鳥、若林)

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