年次有給休暇管理簿は、労働基準法によって企業に作成・保存が義務づけられています。従業員の有給休暇を正確に管理するための重要な帳簿であり、法律に則って適切な作成が必要です。
本記事では、年次有給休暇管理簿の記載事項や罰則の有無、効率的な作成・管理方法について解説します。
目次
【作成・保存が義務化】年次有給休暇管理簿とは
2019年4月施行の改正労働基準法において「年5日の年次有給休暇の取得(※)」が義務化されたことに伴い、年次有給休暇管理簿の作成・保存も義務づけられました。
年次有給休暇管理簿とは、従業員の年次有給休暇の取得状況を記録・管理するための帳簿です。企業が従業員に対して、有給休暇を適正に付与・取得させているかを把握することが目的です。企業は従業員一人ひとりの有給休暇取得状況を明らかにしたうえで、立ち止まって業務のあり方を見直すことが求められています。
※年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させること
参考:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
対象者
年次有給休暇管理簿へ記載が必要な対象者は、年間10日以上の有給休暇が付与されるすべての従業員です。管理監督者や派遣社員、パートタイム労働者(アルバイト・パート)も含まれます。
労働基準法では、「6か月継続して雇用され、かつ全労働日の8割以上を出勤している従業員」に対して年間10日以上の有給休暇を付与できます。
年次有給休暇の付与日数は従業員の所定労働日数に応じて決まり、所定労働日数が少ない従業員(アルバイトやパート等)の場合、フルタイム勤務者に比べて少ない有給休暇が付与されます。そのなかでも、下表の太枠で囲んでいる部分に該当する従業員が、年次有給休暇管理簿の作成対象です。
<所定労働日数が少ない従業員に対する付与日数>
出典:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
なお、付与日数が10日未満の場合、年次有給休暇管理簿を作成するかどうかは任意です。
年次有給休暇管理簿は、従業員ごとに作成する必要があります。
保存期間
従業員ごとに作成した年次有給休暇管理簿は、有給休暇を実際に付与した期間中および、その期間の満了後、3年間保存しなければなりません。2020年4月1日施行の改正労働基準法において保存期間は5年に延長されましたが、経過措置として当面は3年保存も認められています。
従業員が有給休暇を適切に取得したかを確認・証明するために、企業は年次有給休暇管理を適切に保存し、管理する必要があります。保存方法に関する規定はなく、紙媒体や電子データのいずれでも保存可能です。
参考:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
参考:厚生労働省「労働基準法の一部を改正する法律について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322_00037.html
必須記載事項3つ「基準日」「取得日数」「取得時季」
年次有給休暇管理簿への記載が求められる事項は、「基準日」「取得日数」「取得時季」の3項目です。3事項について明記されていれば、それら以外の事項は各社の管理方法に従って任意で追加できます。
<厚生労働省資料の記載例>
出典:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
基準日
基準日とは、従業員に対して年次有給休暇を付与した日です。入社から6か月経過した日を基準日とする企業が多く、たとえば4月1日に入社した従業員の場合は、10月1日に有給休暇が付与されます。
その後は、勤続年数に応じた有給休暇が1年おきに付与されます。例に挙げたケースでは毎年10月1日に付与されることになります。基準日は、有給休暇を使用する日とは異なる点に注意しましょう。
新入社員に対して入社(4月1日)と同時に年次有給休暇を付与するケースのように、労働基準法で定める基準日(10月1日)より前倒しで付与する場合は、前倒しで付与した日付を年次有給管理簿に記載します。
また、基準日が2つ存在する場合は、両方の基準日を記載する必要があります。たとえば、入社2年目以降の基準日が全社的に4月1日に統一されている場合、前年に入社した従業員の基準日が1年の間に2つ存在するケースです。その場合は、両方の基準日を記載する必要があります。
参考:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
取得日数
従業員が、基準日から1年以内に有給休暇を取得(使用)できる日数のことです。前年度の繰り越し分がある場合は、当年度の付与日数と繰り越し日数の合計を記載しなければなりません。日数に関する記載方法に規定はありませんが、取得日数のほか、実際に取得した日数や残日数を記載することで取得状況が把握しやすくなります。
なお、1年の間に基準日が2つ存在する従業員の場合、基準日と同様に、両方の付与日に対応する日数をそれぞれ記載します。
参考:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
取得時季
取得時季は、従業員が実際に年次有給休暇を取得(使用)した日を指します。たとえば、2024年12月10日に有給休暇を使用した場合、「2024年12月10日」と記載する必要があります。1日単位の取得(全休)か、半日単位の取得(半休)かを把握できるように記載しましょう。労使協定を締結して時間単位の取得を認めている場合は、取得した時間数を明記します。
参考:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
様式は自由
年次有給休暇管理簿に決まった様式はなく、上記項目(基準日・日数・時季)が記載されていれば、紙・エクセル・システム等どの形式で作成しても問題はありません。
厚生労働省(福井労働局)では、以下の年次有給休暇管理簿の参考様式(記載例つき)を公表しており、ダウンロードも可能です。作成時の参考にしてください。
※以下は「(福井労働局参考様式)年次有給休暇の管理台帳著作物(記載例)」を引用
出典:厚生労働省(福井労働局)「年次有給休暇取得管理台帳」
https://jsite.mhlw.go.jp/fukui-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku/hourei_seido/_120913_00013.html
年次有給休暇の管理や管理簿に関する罰則
年次有給休暇の年5日取得に対して企業が必要な措置を講じなかった場合、どのような罰則があるでしょうか。本章では、年次有給休暇の管理や管理簿に関する3つのケースについて見ていきます。
①管理簿の作成・保存を怠った場合
年次有給休暇管理簿を作成しなかったり、保存を怠ったりした場合の罰則規定はありません。ただし、労働基準法において年次有給休暇管理簿の作成および保存が義務づけられているため、義務違反にあたるとして労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。
②年次有給休暇を取得させなかった場合
年次有給休暇管理簿への記載ミスや漏れ、有給休暇の管理を適切に行わなかった等の理由により、以下の違反がある場合は罰則対象です。
● 従業員に年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合
⇒労働基準法第120条の罰則規定に基づき、「30万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。
● 労働者が希望する時季に所定の年次有給休暇を付与しなかった場合
⇒労働基準法第119条の罰則規定に基づき、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。
罰則は、従業員1名につき1罪として扱われるため、従業員数が多い企業は特に注意が必要です。年次有給休暇の取得状況を適正かつ正確に管理するためにも、管理簿を適切に作成・管理することが求められます。
③企業側による時季指定を行う際、就業規則に記載していない場合
企業側が年次有給休暇の時季指定を行う場合、時季指定の対象となる従業員の範囲および時季指定の方法について、就業規則に記載する必要があります。
就業規則に記載せずに時季指定を行った場合、労働基準法第120条の罰則規定に基づき、「30万円以下の罰金」を科せられる可能性があります。
年次有給休暇の管理体制が整っていない場合は、従業員が有給休暇を取得する権利を行使しづらい状況が生まれやすくなります。また、法的リスクが高まることにも繋がるため、年次有給休暇管理簿による管理を徹底することが重要です。
年次有給休暇管理簿を効率的に作成・管理するコツ
年次有給休暇の基準日や取得日数等は従業員によって異なるため、従業員数が多い企業ほど管理の手間がかかります。また、手作業が多い方法で管理している場合は人為的なミスが発生しやすくなるため、管理方法の工夫が必要です。
年次有給休暇管理簿を正確かつ効率的に管理する方法を3つ紹介します。
基準日を統一
従業員ごとに入社日が異なると基準日も一人ひとり異なるため、年次有給休暇管理簿の作成・管理に多くのマンパワーが必要です。改善策の一つとして、基準日を統一する方法が挙げられます。
厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」においても基準日を統一する方法が認められています。以下の例から、企業に合ったものを採用するとよいでしょう。
<方法①>基準日を年始や年度はじめに統一する
全社的に基準日を同一にする方法です。4月1日に統一した場合、入社日にかかわらず4月1日に年次有給休暇が付与されます。たとえば4月1日に入社した新入社員の場合、本来の基準日は10月1日ですが、2回目の付与日は4月1日です。
従業員規模が大きい企業や、新卒一括採用を行っている企業等に推奨されている方法です。
<方法②>基準日を月初に統一する
基準日を月初に統一することで、月の途中で入社した従業員の基準日を管理しやすくなります。中途採用が多い企業や、比較的小規模な企業等に向いている方法です。
出典:厚生労働省 東京労働局「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/newpage_00289.html
労働者名簿や賃金台帳と合わせて作成
年次有給休暇管理簿は、労働者名簿や賃金台帳と合わせて作成することが認められています。
● 労働者名簿:従業員の氏名、住所、雇用開始日等の情報を記載した書類
● 賃金台帳:従業員への給与の支払い状況や勤務日数等を記載した帳簿
年次有給休暇管理簿を個別に作成するのではなく、労働者名簿や賃金台帳にまとめる形で作成することで、従業員情報の管理業務を効率化できます。
勤怠管理システムを導入
年次有給休暇管理簿の作成・管理を効率化するには、勤怠管理システムを導入する方法も有効です。勤怠管理システムには年次有給休暇の管理機能が備わっているものがあり、有給休暇の付与日数や消化日数の計算等を自動化できます。また、従業員ごとの有給休暇の取得状況をリアルタイムに把握できるため、年次有給休暇管理簿をスムーズかつ正確に作成しやすくなります。
年次有給休暇管理簿の作成は勤怠管理システムで効率化
年次有給休暇管理簿は、年次有給休暇の取得義務化に伴って作成と保存が義務づけられた重要な帳簿です。基準日・取得日数・取得時季を正しく記入する必要があります。
管理簿の作成方法や様式に規定はなく、紙、エクセル、システムなど、さまざまな形式で管理できます。また、効率的な作成・管理のコツとして、基準日の統一、労働名簿や賃金台帳と合わせた作成、勤怠管理システムの導入を紹介しました。
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