賃上げ急増の2023年!背景や日本企業の事例、政府による促進税制を解説

ビジネスコラム

人が真価を発揮する、
人事・経営・はたらく人のためのメディア

最終更新日

賃上げ急増の2023年!背景や日本企業の事例、政府による促進税制を解説

賃上げとは、企業が定期昇給やベースアップ等の方法で従業員に支給する賃金の増額を行うことです。2023年、大手企業を中心に多くの企業が賃上げを発表しています。本記事では、近年の企業の賃上げの背景や平均賃上げ率、政府による促進税制等について解説します。
 

目次

賃上げとは
日本企業で賃上げが相次ぐ背景
賃上げ促進税制とは
今後の賃上げ動向
 

賃上げとは

賃上げとは、企業が従業員に支払う賃金を引き上げることを意味し、定期昇給とベースアップという2つの考え方があります。

定期昇給(定昇)とは
企業が定めた基準に沿って定期的に行われる昇給。主に従業員の勤続年数や年齢、評価結果等に基づいて昇給額が決定される。

ベースアップ(ベア)とは
全従業員に対して一律で行われるベース(基本給)の底上げ。インフレ時、物価に対して賃金の水準が低く、労働者の生活への支障が懸念される場合に行われる。

 

日本企業で賃上げが相次ぐ背景

2022年末以降、大手企業を含む多くの企業が賃上げを発表し、話題になっています。本章では、これまでの日本企業における賃上げ事情や、近年賃上げが相次いでいる理由を解説します。

これまでの日本企業はベースアップに消極的

年功序列の考え方が一般的だったこれまでの日本企業で、定期昇給は広く実施されてきた賃上げ方法です。しかし、基本給を底上げするベースアップに関しては消極的でした。

その理由は、基本給を一度上げると簡単には下げられないためです。基本給(賃金)の減額は労働条件の不利益変更にあたり、労働契約法の定めによって労働者の同意なく行うことはできません。

一度上げた賃金を下げるためには、労働組合等と交渉しながら労働者の同意を得る必要がありますが、労働者側の納得を得ることは難しく、話し合いの難航が想定されます。

そのため、ベースアップが業績悪化時に企業財政を圧迫するのではないか、と懸念する企業は少なくありません。そのリスクを回避するため、長らく日本企業は賞与の増額や特別賞与の形で従業員に利益を還元し、ベースアップを極力避けてきたのです。
 

2023年、様々な大手企業がベースアップを含む賃上げを発表

ところが2023年に入ると、賃上げを発表する企業が相次ぎました。この賃上げにはベースアップも含まれます。きっかけは、2022年12月に「連合(日本労働組合総連合会)」が春闘で5%の賃上げ要求を決定したことです。

この要求は、円安や原材料高に起因する物価上昇で労働者の生活が苦しくなる中、インフレ率を上回る賃上げが必要との判断からでした。インフレ率は2022年10月時点で3.7%だったため、連合はこれを上回る5%の賃上げを求めました。

連合の発表以降、続々と企業が賃上げを表明します。たとえば大手飲料メーカーは連合の要求を上回る6%の賃上げを目指すと発表。大手衣料品店の運営企業では国内従業員の年収を最大40%まで引き上げることを発表し、話題となりました。

その後も様々な企業が追随するように賃上げを宣言しました。2022年10月以降に発表された各社の賃上げ内容は下表の通りです。下表に記載されている19社の平均賃上げ率は、6%を超えます。


▼国内19社の賃上げ率

業界 企業 >賃上げ率(※) うちベースアップ 実施時期・備考
製造 A社 7% - 2023年度目標
B社 5% 3.5% 2023年4月から実施
C社 8% - 2023年4月から実施
小売 D社 4% - 2023年度目標
食品 E社 6%超 - 2023年度目標
F社 3~4% - 2023年4月から実施
外食 G社 6.5% - 2023年7月から実施
電機 H社 3.8% 1.9% 2023年1月から実施
I社 5% - 2023年4月から実施、同時にジョブ型も導入
J社 6% - 2022年12月から実施
建設 K社 5% - 2023年度目標
L社 10% - 2023年4月から実施
金融 M社 7% - 2023年4月から実施、20~30歳代の非管理職を対象
N社 7% - 2023年度目標、営業職員を対象
製薬 O社 7% - 2022年10月から実施、年功序列の見直しも実施
玩具 P社 10% - 2023年4月から実施、契約社員含む
テーマパーク Q社 7% - 2023年4月から実施、アルバイト含む
R社 6% - 2023年4月から実施、アルバイトは7%賃上げ
環境コンサル S社 - 6.5% 2023年1月から実施、契約社員含む

※定期昇給+ベースアップでの賃上げ率

賃上げの理由は?

2023年に企業が続々と賃上げを決定している理由は、人材獲得競争で優位に立つためです。

近年の採用市場は、少子高齢化の進行で人手不足感が強まっていること、高度なスキルを持った人材が奪い合いになっていることが課題とされています。その中で、いち早く賃上げを表明・実施することで企業力をアピールし、優秀な人材や専門人材を惹きつけたいという各社の思惑があります。
 

賃上げ促進税制とは

賃上げには政府による税制支援もあります。

2022年4月1日から施行された大手企業向け「賃上げ促進税制」では、国内の従業員の給与を3%増加させた場合に増加額の15%を法人税から控除、4%増加させれば25%まで控除されます。さらに教育訓練費を20%増加させれば、控除額は最大30%になります。
 

▼政府による賃上げ促進税制

適用要件 税額控除
通常要件 継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より3%以上増えていること

※資本金10億円以上かつ従業員数1,000名以上の企業については、上記の要件に加え、マルチステークホルダー方針を公表していることが必要
控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額または所得税額から控除
上乗せ要件① 継続雇用者給与等支給額が、前事業年度より4%以上増えていること 税額控除率を10%上乗せ
上乗せ要件② 教育訓練費の額が、前事業年度より20%以上増えていること 税額控除率を5%上乗せ

 

また厚生労働省は2023年1月に「賃金引き上げ特設ページ」を開設し、賃上げの取り組み事例や業種ごとの平均賃金等の情報提供を行うことで、企業の賃上げを後押ししています。

参考:経済産業省『大企業向け「賃上げ促進税制」 御利用ガイドブック
参考:厚生労働省『賃金引き上げ特設ページ

今後の賃上げ動向

政府は職務給(以下、ジョブ型)への移行を促進することでさらなる賃上げを目指しています。

日本企業で一般的と言える職能給では、特定の人材だけの給与を上げることは難しいでしょう。しかしジョブ型では、その職務に就く特定の人だけの給与を上げることが可能です。

岸田政権の目指す「構造的な賃上げ」では、日本企業がジョブ型に移行し、さらに人材がより転職しやすくなることで、スキルを持った人材の給与が高くなっていくことを狙っています。

単純にベースアップで賃上げするだけではなく、企業の人事制度そのものが変わっていくことを目指していますが、企業が自社の人事制度変更にどこまで踏み込めるかは未知数です。政府のジョブ型への移行支援については、2023年6月までに指針が発表されることとなっています。

企業単位で見ると、賃上げには「脱一律化」の動きが生まれていることが分かります。脱一律化とは、賃上げの対象を従業員全員とするのではなく、成果の有無等に応じて選別するというものです。

国内大手の電気通信企業では、成果の有無を基準とした賃上げを行い、成果を上げていない人の昇給はゼロとしました。併せて、2023年度からは幹部層にジョブ型を導入し、2024年度からは全従業員にジョブ型を拡大する方針です。

また大手電機メーカーはベースアップによる賃上げではなく、ジョブ型を導入することで、5%の賃上げを実施する予定です。年功序列の要素があった人事制度を刷新し、能力の高い若年層を積極的に登用できるようにします。

これらの例のように、一律ではない賃上げを行う企業もあり、今後脱一律と併せたジョブ型雇用制度導入の流れがどこまで進んでいくかが注目されます。
 

2023年、賃上げラッシュに焦らず自社にあった方法の検討を

賃上げには、定期昇給やベースアップ等の様々な方法があります。成果に応じた賃上げを実施する企業もあれば、ジョブ型を導入して、それを賃上げにつなげる企業も出てきました。

2023年は賃上げラッシュが予想されますが、賃上げを検討する際は他社の動向も参考にしつつ、自社の従業員にとって適切な賃金制度を慎重に検討することが大切です。

この記事を書いた人

ライター写真

井上 翔平(Inoue Shohei)

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年、調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年、Works Human Intelligence入社。様々な企業、業界を見てきた経験を活かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動を行っている。

本サイトは、快適にご覧いただくためCookieを使用しています。閲覧を続ける場合、Cookie使用に同意したものとします。 Cookieポリシーを表示