高年齢者雇用安定法の改正点を解説!70歳までの就業機会を活用する方法

高年齢者雇用安定法の改正点を解説!70歳までの就業機会を活用する方法

公開日 2020年11月18日
更新日 2022年7月19日
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2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正されました。
 
法律により高年齢者の雇用確保が促進される中で、これまでの労働経験や知見をいかに活用できるかは、各企業にとどまらず日本社会における大きな課題といえるでしょう。
 
その一方で、高年齢者雇用安定法ではいくつかの義務(努力義務)が求められており、改正内容への対応方法を検討している企業も多いかと思います。
 
本記事では、高年齢者雇用安定法の改正内容について整理したうえで、各企業が高年齢者の持つ力を戦略的に活用するためにいつから何ができるのか考察していきます。
 

目次

高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法の改正内容
高年齢者雇用安定法が存在する背景 
高年齢者雇用の現状や企業のリアルな事例は?
高年齢者雇用安定法を人事制度へ戦略的に活用する方法
高年齢者雇用安定法の改正を通じて目指すべき姿


高年齢者雇用安定法とは?

高年齢者雇用安定法とは、定年の引き上げや継続雇用制度の導入等によって、高年齢者の職業安定と、経済および社会への寄与を目的とした制度です。

1971年の制定以降、何度かの改正を経たのち、2021年4月に再び改正されました。
改正前は65歳までの雇用確保が義務付けられていましたが、改正によって70歳までの努力義務へと引き上げられています。

 

高年齢者雇用安定法の改正内容

では、上記の課題・背景を経て2021年4月に改正された高年齢者雇用安定法は具体的にどのような内容なのか、改正前との差異も踏まえながら見ていきましょう。

ポイントは、改正前の高年齢者雇用安定法第9条で定められた65歳までの雇用確保(義務)に加え、新たに70歳までの就業機会を確保するための措置が設けられたことです。

改正後は下記のいずれかを講ずる努力義務が求められており、①~③は改正前第9条における雇用確保措置の対象年齢が引き上げられています。さらに、④⑤の措置が新たに追加されました。

①定年制の廃止(変更なし)
②定年年齢を70歳まで引き上げ
③希望者全員を70歳までの継続雇用する制度の導入
 
(ただし、特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)

加えて下記2点を追加(※雇用以外の対応)

④高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に
 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 に従事できる制度の導入


いずれも努力義務ではありますが、これまでと異なり直接雇用にはこだわらず、何らかの形で社会と高年齢者を結びつける仕組みを是としていることが特長です。

企業側の負担を考慮するとともに、近年重視されつつある多様な働き方に対して考慮した内容と考えられます。

また、2025年3月31日までは現存する経過措置が適用されますが、2025年4月1日以降は現存する経過措置が撤廃される予定です。

経過措置の対象は、高年齢者雇用安定法第9条において65歳までの雇用確保措置が設けられる前(2013年4月1日以前)に、労使協定で継続雇用制度対象者の年齢制限を定めていた企業でした。

該当する企業は、対象年齢の引き上げを3年に1歳ずつと認めていましたが、経過措置の撤廃後はすべての企業で

    65歳までの雇用確保 = 義務
 70歳までの雇用確保 = 努力義務


として高年齢者雇用促進法へ対応する必要があります。

改正前と比べて高年齢者の活躍できる期間が伸びるため、さらなる継続雇用促進が期待できますが、そもそもなぜ高年齢者を働き手として活用するべきなのでしょうか。

改めて法律が存在する背景を整理しましょう。

 

高年齢者雇用安定法が存在する背景

高年齢者雇用安定法が存在する理由には次の3つの要因があげられます。

①少子化に伴う労働人口の減少=高年齢者の雇用維持による労働人口の確保 

言うまでもなく現在の日本は少子高齢化社会です。

下図のとおり、2010年以降で15~64歳人口が低下傾向にあることがわかり、今後もその傾向がより強くなると考えられます。これにより労働人口のうち若年層の減少が継続するため、高年齢層の労働力によって補完を要する状況です。
 

高年齢雇用1.png

(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-

 

また、厚生労働省では、「高年齢者等職業安定対策基本方針(平成24年11月9日厚生労働省告示第559号)」にて、若者・女性・高年齢者・障碍者など、働くことのできるすべての人の就労を促進することによって社会を支える「全員参加型社会」を目指しています。

その中で、高齢化=定年後も、健康でかつ労働意欲を持った高年齢層が働き続けることができる「生涯現役社会」を追及する必要があると定義づけています。

この社会を目指すために、高年齢者雇用安定法の改正を行い、雇用確保の対象年齢を引き上げることによって、労働力の確保を図っています。

②年金支給開始年齢の引き上げや支給額減少に伴う、高年齢者の生活維持サポート

また、高年齢者が増え続けることに伴い、年金支給の財源確保の問題も発生しています。これに対し、国が支給開始年齢の引き上げや支給額の減少といった対策を講じざるを得ない状況です。

2012年の高年齢者雇用安定法改正では、下図の「年金の支給開始年齢」の通り65歳までの雇用確保措置(高年齢者雇用安定法第9条)を用意しました。これは、平成25年度から公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられることによって生じる雇用と年金支給開始の空白をなくすことを目的としています。

高年齢者にとっても、年金だけに頼ることなく、雇用によって収入を維持できるしくみがの存在が望ましいでしょう。
 

高年齢者雇用安定法ガイドブック.png

<年金の支給開始年齢>

(出典)「高年齢者雇用安定法ガイドブック」厚生労働省 東京労働局 ハローワーク

③高年齢者が持つ高い労働意欲 

内閣府の調査によれば、下図の通り85%近い高年齢者が「65歳までは働きたい」と回答しています。

上記①②を踏まえると、多くの高齢者の労働意欲があるのであれば、労働力減少に対する解決方法のひとつとして、高年齢者の雇用を促進することは理にかなっているでしょう。

これは、各企業のみならず日本社会全体にとって重要な問題であるため、積極的に解決を図ることが社会貢献として評価できると考えられます。
 

高年齢雇用3.png

(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-

 

高年齢者雇用の現状や企業のリアルな事例は?

さて、上記を踏まえたうえで現在の高年齢者雇用の状況を確認してみましょう。

高年齢者雇用の現状

総務省統計局の調査によると、

・ここ10年で各年代とも就業率が向上しており、15歳~64歳の人口減少にもかかわらず労働者人口は増加している
・60歳以降の高年齢者の就業率は、2012年近辺を境に上昇傾向にあり、高年齢者雇用安定法の改正(現行制度)の効果が現れている

ことがわかります。
 

高年齢雇用4.png

(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-


続いて、派遣社員やアルバイト等、非正規雇用者の年齢別の割合推移を見てみましょう。
下図の通り、65歳以上を中心に55歳以上の年齢層における割合が上昇、高水準で推移しており、就業人口の確保が非正規雇用を中心として実現されていることがわかります。

 

高年齢雇用6.png

高年齢雇用7.png

(出典)令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-
 

では、独立行政法人労働政策研究・研修機構の2019年の調査を見てみましょう。

下図からわかる通り、60歳の定年退職以降は業務量自体を減らす、あるいは責任範囲や分量を縮小することが多い一方で、3分の1程の企業においてはそのまま継続する傾向にあります。

そして、高年齢者の継続雇用を行うにあたって注目したいのが、大手企業の半数近くが技能やノウハウの継承を挙げている点です。企業側にとって技能やノウハウの継承は課題であり、継続雇用者が定年退職する前に解決することが必要となるケースが多いのではないでしょうか。
 

▼図1:60代前半の継続雇用者の 定年前(60歳頃)と比べた仕事の内容や責任の変化(単位:%)

選択肢 従業員1000名以上 従業員300~1000名
定年前と全く同じ仕事 34.1 35.9
定年前と同じ仕事だが責任が軽くなる 44.3 48.1
定年前と同じ仕事だが責任が重くなる - 0.4

定年前と一部異なる仕事

8.4 6.9
定年前と全く異なる仕事 1.8 0.6



▼図2:60代前半の継続雇用者を配置する際に配慮している点(単位:%)

選択肢 従業員1000名以上 従業員300~1000名
慣れている仕事に継続して配置 67.7 73.2
本人の希望の配慮 67.1 65.9
技能やノウハウの継承が円滑に進むようにする 46.1 31.3

肉体的に負担の少ない仕事に配置

22.2 25.2
従業員が互いに気兼ねしないように配慮 10.8 10.5

※図1~2は出典:厚生労働省「高年齢者雇用の現状等について」より、独立行政法人労働政策研究・研修機構 「高年齢者の雇用に関する調査」 (企業調査)」(2019年) 【速報値】をベースとして作成
 

高年齢者雇用に関する事例

また、一般的に高年齢者の雇用事例として企業からは下記のメリットがあげられています。

    ・高年齢者が生き生きと働くことへの周囲への好影響がある(地域社会等への貢献)
 ・若手従業員に対しての見本となる
 ・シニア従業員はお客様への安心感がある
 ・技術をシニアが支えていて、無くてはならない存在である

確かにそういった面はあるかと思いますが、高年齢者雇用安定法の背景にある労働力人口の減少を補完する目的の実現には至っていないようにも感じられます。

そしてメリットばかりではなく、

   ・雇用は確保され、一定の給与はもらえるが、雇用の終わりが見えている中で周囲と同じモチベーショ        ンが保てない
   ・周囲の従業員から、パフォーマンスが出ていないのに自分と同等かそれ以上の給与をもらっている、        と不満が出てくる

といった、デメリットも想定されます。

各企業で高年齢者の雇用継続対応に向けた各種制度が整い、運用が始まっています。

しかしながら現時点で高年齢者の雇用は、派遣やアルバイト等の非正規雇用が中心となっているため、制度の活用は限定的である可能性が高いです。

その現状を踏まえたうえで、戦略的に高年齢者雇用安定法を活用する必要があるのではないでしょうか。
 

 

高年齢者雇用安定法を人事制度へ戦略的に活用する方法

本記事では、高年齢者雇用安定法を人事制度に活かす方法を下記の視点から考察します。

「60歳以降(再雇用後)だけではなく、もっと早いタイミングから、60歳以降のキャリアプラン(ライフプラン)を想定した人事制度設計とする必要があるのではないか 」

あらゆる観点で高年齢者の活用は待ったなしです。であれば、その活用時期から逆算したプランを用意するのは自然な流れだと考えます。

高年齢者雇用安定法を活用するための前提

まず下記の3点を前提におきます。
 

(1)すべての企業が高年齢者の雇用安定に取り組まなければならない
  →法律上にも社会構造上でも避けて通れない問題です。


(2)戦略的な実施は企業にとって、イメージ向上のメリットがある
  →高年齢者雇用の先進事例や活用事例、さらにはそのためのキャリアプランの準備と提示は、
   社会全体の課題への問題解決に取り組んでいるというプラスの評価に繋がります。


(3)海外からの労働力確保が困難であり、高年齢者(中高年層含む)の活用が最も現実的
  →コロナ禍によって海外からの労働者確保が現時点では困難であり、見通しが立たない状況です。​​​​​​

高年齢者雇用安定法の戦略的活用策

次に具体的な活用策について検討してみます。


活用策①:60歳以前から個人でパフォーマンスを出すことができるスキルを身に付けるキャリアプランを策定する

通常の制度設計では「管理職になる=年功序列型の職能給が最大化する」ことがほとんどです。そのため、50歳近辺までキャリアプランの中心が「管理職になるかどうか」となり、各個人のスキル向上やパフォーマンス向上に着眼したキャリアになりづらい傾向にあります。

職能資格制度において、管理職等級へのキャリアアップを否定することは、若手時代の「投資」※に報いることと相反するため、企業として手を打ちづらい点ではあります。
※将来的な昇給を前提として若手時代は比較的低賃金で働くこと

しかしながら、職能資格制度における能力評価や行動評価は、個人のスキルやパフォーマンスが定量的に評価されづらいため、特に技術系以外の従業員にとっては専門的なスキルや経験が身につきづらくなります。

その結果、定年近くに管理職から外れた際、個人として能力を発揮できるエリアや職務が少ない(ないしは明確でない)という傾向にあります。

仮に、モチベーションが上がらず「若手にとって見本とならない」元管理職が増えれば、会社としても彼らを再雇用してどう活用するか、扱いに困る結果につながりかねません。

それらの問題を解決するためには、すべての従業員が何らかの専門性を持つためのキャリアプランが必要です。しかし、そのプランを定年退職の間際になって各個人で考えても手遅れでしょう。

そのため、企業側が逆算したキャリアプランを準備し、それに紐づく教育や訓練が必要となります。

また、若手から見たときに「スキルを持った従業員が長期間活躍できるようなキャリアプランが不明確である」「満足感が得られるような処遇が得られず不満を抱えている」という印象を持たれることがあります。
若手自身も将来に向けて不安を覚える可能性があるため、キャリアプランの策定は必要になってくるのではないでしょうか。


活用策②:管理職⇔非管理職の行き来を前提としたキャリアの複線化

①を実現するためには、管理職と非管理職のキャリアの複線化が必須です。

今となっては制度として定着した感のあるキャリアの複線化ですが、管理職⇔非管理職の役割の行き来を可能としているケースは、どれだけあるでしょうか?

キャリアを複線化しても、「管理職至上主義」で賃金や処遇差が大きい場合、必然的に非管理職への転換をネガティブにとらえる従業員は少なくないでしょう。

まずは、「余人に代えがたい専門的なスキルを早くから保持すること」を高く評価し、それを処遇する制度の検討が必要です。

そのための手段の一つとして「ジョブ型制度」を検討してもよいかもしれません。

企業の目標を達成するために必要なジョブ(職務)と、実現するために必要なスキルを明確化し、それを極めると高く評価することを宣言しておけば、各従業員が専門性を生みだす源泉に繋がりやすいと考えられます。

※ここでは、必ずしも職務記述書の存在を前提とした本来的な「ジョブ型雇用」まで踏み込まずともよいと考えます。
コラム記事「ジョブ型雇用とは?誤解されやすいポイントと日本企業が導入する際に考えるべきこと」も合わせてご参照ください。

活用策③:副業の活用支援=「自分のスキルで稼ぐ」準備

もうひとつ、セットで考られる制度が副業制度です。

先日、厚生労働省からも副業・兼業の促進に関するガイドライン が発表されました。
これまで属した企業内のキャリアや経験に必ずしも頼ることなく、自分のスキルを再認識して不足を補い磨くという点で副業の活用は効果的であると考えられます。

副業で得た経験を本業側で生かしたり、企業へのフィードバックを行ったりすることも効果のひとつとなります。

 

高年齢者雇用安定法の改正を通じて目指すべき姿

高年齢雇用_まとめ.jpg

 

高年齢者雇用の対応策について様々な点で検討しました。
着手が困難な方針もあると考えますが、単に高年齢者の雇用を確保しておけばよいという状態に比べれば、メリットがあるのではないでしょうか。

最後に、高年齢者雇用安定法の改正に合わせて、制度を戦略的に活用するためのポイントをまとめます。
 

(1)早い段階で10年後、20年後のキャリアイメージを作っておくことが、若手従業員の安心にもつながる 

現時点で優秀な従業員が押し並べて転職や起業に積極的というエビデンスは見出しづらいです。そのため、少なくとも一般的な従業員にとってのファーストチョイスは、「長く今の企業で働き、その中で活躍・成長する」ことだといえます。

したがって、「多様なキャリアプランの準備」「モチベーションの低い中高年層の減少」は、若手社員の退職リスクや企業へのエンゲージメントを高める効果があるでしょう。
 

(2)スキルを持ったベテラン従業員が多いと、組織ひいては企業のパフォーマンスの向上につながる

プレイヤーとして優秀な従業員が、必ずしも管理職として高いパフォーマンスを発揮できるかどうかはわかりません。
本来、組織内の各メンバーのモチベーションを維持し、個々のパフォーマンスの成果を組織のパフォーマンスに消化する管理職としてのスキルや能力は、プレイヤーとしてのそれとは必ずしも一致しないためです。

より高い専門性が身につくことが確実なメンバーであれば、無理に管理職を目指させるのではなく、その方の適性に合ったキャリアプランの準備があるとよいと思われます。

また、そういった制度があることによって適切な人材が社内外から集まってくれば、結果として組織や会社のパフォーマンスの増大に繋がるのではないでしょうか。

とはいえ、乗り越えるべき課題も多くあります。
 

・どうしても定着してしまっているであろう「管理職至上主義」を脱却できるか

・ジョブやパフォーマンスに対する正当な処遇、報酬ができるか(誰がその価値を評価できるのか)

・すでにスキルアップが厳しくなっている(あるいはそう感じてしまっている)中高年層へのサポート、

 処遇、モチベーションの維持

高年齢者雇用安定法の改正への対応以上に大きなテーマではありますが、定年退職以降に働くことが当然となる社会は、いずれ多くの社会人が経験するであろう未来です。

会社の制度として考えるだけではなく、想像される自分自身の10年後、20年後の仕事や将来から逆算して、「こんな未来につながればいいな」という観点から検討がなされてもよいのではないでしょうか。
 

この記事を書いた人

ライター写真

伊藤 裕之(Ito Hiroyuki)

2002年にワークスアプリケーションズ入社後、九州エリアのコンサルタントとして人事システム導入および保守を担当。その後、関西エリアのユーザー担当責任者として複数の大手企業でBPRを実施。現在は、17年に渡り大手企業の人事業務設計・運用に携わった経験と、1100社を超えるユーザーから得られた事例・ノウハウを分析し、人事トピックに関する情報を発信している。

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