積立有給休暇とは?制度のメリットと多様な働き方を支援するための拡充方法

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最終更新日 2024年2月20日

積立有給休暇とは?制度のメリットと多様な働き方を支援するための拡充方法

働き方改革における「多様で柔軟な働き方の実現」を推進するために、企業では様々な制度や施策を検討、実施されていることと思います。

関連する法制度の改正も進んでおり、たとえば「育児・介護休業法」においては、直近の法改正で子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得を認めました。

しかしながら、法律で認められた制度を実際に従業員が活用できるかどうかは、企業にその制度を利用しやすい環境が整っているかどうかで異なるのではないでしょうか。

本記事では「積立有給休暇」に焦点を当て、その導入・拡充を通じた働き方改革推進のヒントをご紹介します。
 

目次

積立有給休暇とは
積立有給休暇の活用で期待できる従業員のメリットとは
積立有給休暇の導入状況
積立有給休暇の導入・拡充において考えるべきこと
積立有給休暇を活用して、より多様な働き方の実現と差別化を


積立有給休暇とは

積立有給休暇とは失効した年次有給休暇を積み立てて、病気の長期療養やけがの治療等が発生した際に引き続き利用できる制度に基づく休暇です。この制度は、失効年次有給休暇積立制度(失効年休積立制度)とも呼ばれます。

積立有給休暇制度は、法的な定めが特にないため実施は任意ですが、その性質上、有給扱いとして利用できます。

したがって、企業側は多様な働き方の支援に繋げるために、福利厚生として積立有給休暇を活用できる、という訳です。
 

積立有給休暇の活用で期待できる従業員のメリットとは

では、積立有給休暇の活用はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。育児・介護が必要な従業員を例に考えてみます。令和3年(西暦2021年)1月1日より、働き方改革の一環として「育児・介護休業法」の改正法が施行されました。

この改正により、改正前は全日または半日単位での取得しか認められていなかった子の看護休暇・介護休暇について、時間単位での取得も認められるようになりました。

 ※ この法律について全般的におさらいをしたい方は厚生労働省の動画をご覧ください
 「知っておきたい 育児・介護休業法」:https://www.youtube.com/watch?v=oke59MDP0kM


しかしながら、制度上、子の看護休暇・介護休暇は無給扱いでもよい休暇です。
法改正や在宅勤務/テレワークの普及等によって取得をしやすくなりましたが、減給の覚悟が必要な場合も多く、取得にブレーキがかかってしまうことも考えられます。

一方、前述のとおり積立有給休暇は有給扱いとして活用可能です。

一般的には私傷病(業務外で発生した傷病)の際に使われることの多い積立有給休暇ですが、育児や介護のための利用を企業が認めれば、従業員は減給の懸念なく休暇取得を選択できます。

つまり、積立有給休暇の利用事由の拡充が従業員の仕事と家庭の両立を支援し、結果的に働き方の多様性を高められる可能性があります。

積立有給休暇の導入状況

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ただし、積立有給休暇制度は任意の制度であるため、積立有給​​​​​​​休暇そのものの導入状況やその用途の制限については企業差があります。

人事院から発行されている「平成28年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」によると、500名以上規模の企業において従業員の積立有給休暇を導入している割合は54.6%でした。そのうち、看護や介護を理由として積立有給休暇制度を利用できる企業はさらに限られ、500名以上規模の企業の約1/4です。

この割合を多いと捉えるか少ないと捉えるかは意見がわかれるかと思いますが、日本の大手企業においても、働き方の多様性を高めるために積立有給​​​​​​​休暇を導入する余地はあると考えます。

積立有給休暇の導入・拡充において考えるべきこと

では、実際に積立有給休暇の導入や拡充を検討する際はどういった点を考慮せねばならないのでしょうか。この場合、代表的な以下の6点について決定し、就業規則上定義する必要があります。

①取得単位
②有効期限
③年間積立日数の上限
④総積立日数の上限
⑤利用事由の制限
⑥他の休暇との取得優先順位


それぞれ見ていきましょう。

①取得単位

積立有給休暇を取得できる単位を全日のみとするか、半日単位も認めるか、時間単位まで認めるか、を考える必要があります。

ポイントとしては、積立有給休暇は任意の制度であるため、必ずしも年次有給休暇の単位に合わせる必要はないということです。極論、年次有給休暇は時間単位は認めていないが積立有給休暇は時間単位を認めるということも可能ですが、どうあるべきかについては慎重な検討をおすすめします。

②有効期限

積立有給休暇の有効期限についても定めが必要です。無期限とすることも可能ですが、その場合には後述の総積立日数に上限を設けることが一般的です。

③年間積立日数の上限

失効した年次有給休暇のうち、1年間に何日分までの積み立てを認めるかを検討します。

上限を特に設けない形も可能ですし、年間の積立有給休暇日数の制限と前述の有効期限を設けることで間接的に総積立日数をコントロールすることも可能です。

④総積立日数の上限

毎年累積していく積立有給休暇の合計残日数に上限を設けるべきかも検討が必要です。

結果的に、無限に積み立てが可能な事例はほぼないと言ってもよいですが、総積立日数の上限を何日にするかは企業ごとに異なるようです。

もともと、この制度は長期で入院が必要な私傷病の治療にあてることを主目的として定義されています。

そのため、長期入院として考えうる一般的な日数(40日や60日など)が十分に収まる日数にしているところが多い印象です。
 

⑤利用事由の制限

年次有給休暇は利用事由を制限することができません。ですが、失効した年次有給休暇を継続して使えるようにするという制度の目的上、積立有給休暇はいくつかの事由に制限をする必要があるでしょう。

前述の通り、現状では私傷病のみとしている企業が最も多く、次いで介護や看護にまで広げる場合があり、一部では自己啓発のための取得資格や短期留学、ボランティアにも利用可能にしている企業もあるようです。

このように、利用事由の制限内容自体の自由度は高いですが、そもそも年次有給休暇に有効期限があることと矛盾が生じるため、無制限とする必要はありません。

⑥他の休暇との取得優先順位

年次有給休暇、特に法定の有給休暇と積立有給休暇についてはどちらを先に取るべきかという優先順位の定義ができるとよいですが、法律の制限はありません。

したがって、積立有給​​​​​​​休暇から先に取得させるようにすることも可能ですが、現在は働き方改革により年次有給休暇は年間5日の取得を従業員に徹底してもらう必要があります。そのため、まずは法定の有給休暇から優先的に取得してもらうようにするのがよいでしょう。

 

積立有給休暇を活用して、より多様な働き方の実現と差別化を

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今回は働き方改革の一環で法改正が行われた子の看護休暇・介護休暇について触れつつ、より先を行く制度設計の可能性の1つとして、積立有給休暇の導入やその拡充方法について取り上げました。

任意の制度に基づいているからこそ、積立有給休暇は企業ごとに工夫が可能な領域であり、福利厚生面での差別化にもなりえると考えます。

また、積立有給休暇は従業員にとってもメリットが大きいため、労働組合からの賛同も得やすいです。
すでに積立有給休暇を導入している企業は、就業規則の変更さえ行えば対応できるという手軽さもありますので、

・子の看護や介護を利用事由に追加する
・半日単位や時間単位での積立有給
​​​​​​​休暇取得を認める

といった対応もぜひご検討いただければと思います。

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